「清水の音紋
- 山崎行政書士事務所
- 1月12日
- 読了時間: 5分

第一章:不気味な夜の音
夜の清水港では、時折、「不気味な音」が響くという。わざわざ夜釣りに来る人が怯えながら帰ってくるとか、港に近いアパートの住人が「耳鳴りがするのに誰もいない」と訴えるとか、そんな噂は昔から少なからずある。 しかし、誰も本気で調べようとはしなかった。音の正体が分からなくても、日常は回るし、被害もたいしたことないからだ。ところが、ある男はその音に魅せられ、「清水の音紋」と名付けて追いかけ始めた。 その名は修司。地元で細々と活動するミュージシャンだ。昼はバイトで弁当屋の配達をし、夜は自宅の機材で曲を作る。その彼が深夜の港で録音した奇妙な音が、思わぬ謎を解き明かす扉を開くことになる。
第二章:音紋の謎
修司は、弁当の配達ついでに耳にする海風の音がどうも気になっていた。深夜に港に行ってみると、実際にかすかな低音が波止場を伝わって響いていた。 「これはただの風のうなりではない……リズムがある。しかも不規則だけど、妙に一貫してる」 レコーダーを回して持ち帰った音源を解析してみると、確かに一定の周期のようなものが浮かび上がってきた。まるで、何かのメッセージのように思える。 「音のかたち……音紋、か」 そう呼ぶにはふさわしい“音の紋章”のようなパターンが見つかった。修司のワクワクが加速する。音楽家の直感が告げるのだ。「この不気味な音には、何か隠されている……」
第三章:過去との一致
音楽的なアプローチでリズムパターンを掘り下げるうち、修司は**「1999年」「2011年」「2023年」など、過去に清水港周辺が大きく揺れた地震の年と、この音紋に顕著なピークの出現が重なることに気づく。 「気のせいだろうか?」 そう思いながらも、さらに過去の地震年について同じようにデータを当てはめると、見事に時系列が合致してしまう。つまり、この音紋は過去の地震や災害に対応するようなリズム変化を含んでいるのだ。 真夜中にパソコンの前で目を丸くする修司。音楽の世界では“サンプリング”という手法があるが、まさか自然がそんなサンプリングをしているのか? 翌日、彼は友人の地質学者に話を持ちかけたが、「そりゃ面白い! でも証拠は?」と笑われて終わる。誰も信じてくれないとしても、修司は直感を捨てきれなかった。「この音紋が清水港に何かを伝えようとしている」としか思えない**。
第四章:謎の人物との接触
そんなとき、修司は港の倉庫街を歩いていて、謎めいた人物に声をかけられる。黒いジャケットに身を包んだ壮年男性が、笑みを浮かべながら「面白い音を見つけたね」と言うのだ。 初対面なのに、自分が音紋を解析していることを知っているらしい。戸惑う修司に、男は**「その音は、港を守るための“記憶の歌”なんだよ」とつぶやいて去ろうとする。 慌てて問い詰めても、詳しい説明はしてくれない。ただ男は小さなメモを修司に手渡し、そこには古い新聞記事の日付が書かれていた。「1950年、清水港での災害回避」――それだけ。 彼が去った後、修司は急いで図書館で該当の日付を調べる。すると、不思議なことが分かる。「大きな台風が直撃するはずが、なぜか進路が逸れた」という短い記事が見つかったのだ。台風の進路が何らかの気象要因で変わっただけ……かもしれない。しかし、そこに「港から奇妙な音が聞こえた」という証言**が付記されていたのだ。
第五章:音紋は記憶の歌
さらに検索を進めると、類似の事例が複数ある。「災害が回避された直後に、港で謎の音が聞こえた」という記録が繰り返し出てくる。どうやら音紋は過去の災害を記録し、それを防ぐための信号ではないかと修司は考えるようになった。 しかし音紋がどう作られているのか、誰が作ったのかは全くの謎。友人の地質学者に再度相談しても、「そもそもそんなことがあり得るのか?」と呆れられるばかり。 例の黒いジャケットの男が言った**「記憶の歌」**という表現が頭を離れない。もしかすると、この音紋が港の大地に刻まれ、歴史を通じて繰り返し鳴り響いているのかもしれない。ある種の自然界のシステムなのか、あるいは誰かの意図的な仕掛けか……。
第六章:音紋を鳴らす理由
再開発計画が進む中、港付近は大がかりな工事が始まろうとしていた。埋め立てや波止場の改築などで、もし音紋の源が海底や地中にあるなら、破壊される可能性が高い。 修司は「それはまずい」と感じ、役所に掛け合うが**「そんなオカルトじみた話、聞いていられない」と一蹴される。 悔しさのあまり、修司は記者会見のようにSNSで情報を公開し、「音紋が清水港を守ってきたかもしれない」という説をぶち上げる。一部の人は面白がるが、多くは半信半疑。しかし、町で小さな議論の火種が生まれる。「もし本当に音紋が港を守っているなら、壊すのは危険では?」**という声も出始めた。
第七章:再び鳴り響く音
そしてある夜、港の工事が進む中、天気は快晴なのに港には**「不気味な音」が響き渡る。SNSが大騒ぎし、テレビの生中継も入る。波止場に集まった人々の前で、音が「コン、コ…ン、コ……ン」という規則性を帯びて鳴る。 その様子を見て、修司はハッとする。音には明確なリズムがある。まるで「ここを壊すな」とドラムのビートのように訴えるかのごとく。例の黒いジャケットの男も群集の中で頷いているように見える。 すると突然、工事のクレーンが動かなくなり、作業員が事故を恐れて中断を宣言。結局、その晩の作業は中止となった。翌朝、町の議会で「この工事計画は練り直すべき」と強い意見が起こり、しばらく凍結される見通しとなった。 修司は安堵の息をつきながらも、心の奥底で何か“使命”のようなものを感じ取る。「清水港には、この音紋が持つ力を守る必要があるのかもしれない」**と。
そして数日後、港は普段通りの平穏を取り戻す。音紋も静かに息を潜めたようだ。修司は音源を使って曲を作ろうと、PCに向かっている。「港の記憶を音に刻む」——もしかすると、それが自分のやるべきことではないかと思いつつ、彼はヘッドホンをかける。**「清水港の警告、清水港の記憶……。僕はこの音紋を世界に知らしめるつもりだ」**と決意する。暗い海の底で育まれた不思議なメロディーが、未来へ希望の調べを運んでくれるかもしれない。
そう、**「清水の音紋」**は港と人を繋ぐための“記憶の歌”。それがどこで生まれ、誰が作ったのかは未だ謎のままだが、きっとこの地の人々が自ら選び、港を守ってゆくきっかけになる——修司はそう信じるのだった。





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