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【クラウド法務】クラウドBCPと取引先SLAでトラブルになりやすい3つのポイント― Azure等で組んだクラウドBCPを「取引先SLA」とちゃんと結びつけるために ―


導入:クラウドで冗長化した。でも「取引先SLAと整合しているか」は誰も答えられない

クラウド環境での BCP/DR 対策は、Azure や AWS、各種SaaSのドキュメントが充実しており、冗長化・バックアップ・多リージョン構成など、技術的な情報 は探せば一通り見つかります。

しかし、全国の情シス・IT部門の方から相談を受けていると、次のような声を非常によく耳にします。

「クラウドBCPの構成はベンダーと決めたが、取引先SLAとちゃんと対応付けできていない」「“99.9%稼働です”“DR構成あります”と営業は説明しているが、実際のクラウド構成と契約が噛み合っているか不安」「障害や災害が起きたときに、取引先への賠償・報告義務・責任分界が社内で整理されていない

本記事では、「クラウドBCP × 取引先SLA × クラウド法務」 という視点から、全国の製造業・IT企業の案件で実際に見えてきた よくある落とし穴 と、実務で使える 整理のフレーム をご紹介します。

1. クラウドBCP構成と取引先SLA、現場で実際にどうなっているか(技術の“事実整理”)

まずは「技術としてどう組んでいるか」をざっくり言語化します。多くの企業での クラウドBCP構成+取引先SLA の実態は、次のようなイメージです。

  • インフラ構成(例:Azureベース)

    • 本番:Azure(Japan East)+可用性ゾーン

    • DR:Azure 別リージョン(Japan West / 海外リージョン)

    • 一部は IaaS(VM)、一部は PaaS/SaaS を利用

  • BCP/DR対策

    • Azure Backup や Site Recovery によるバックアップ・レプリケーション

    • ストレージ冗長(LRS / ZRS / GRS 等)の採用

    • 監視:Azure Monitor / Log Analytics / 外部監視サービス

  • 取引先向けのSLA・サービス仕様

    • パンフレットや提案書では「月間稼働率 99.9%」「障害時○時間以内に復旧」

    • 契約書には「サービスレベル」「賠償上限」「報告期限」等を記載

    • 営業資料は“キレイ”だが、その根拠となるクラウド構成図が情シス側にしかない、もしくは逆

つまり、「クラウドBCPの技術構成図」 と「取引先SLA・サービス仕様書」 が別々の世界線で存在している ケースが多いのです。

ここまでは“技術構成”としての BCP 図はあっても、「その構成で、どこまでを取引先に約束してよいか」 を整理した図がない——ここからがクラウド法務の出番になります。

2. 全国の案件で見えてきた「クラウドBCP×取引先SLA」の落とし穴3選

代表的なものを3つだけ挙げると、次のようなパターンです。

① クラウド事業者のSLA=自社の取引先SLAだと思い込んでいる

  • 技術的にはOK

    • Azure / SaaS ベンダーのSLA資料を読み、「99.9%ならだいたい月○分の停止」と概算

    • その値をそのまま(もしくは少し盛って)取引先SLAに採用

  • 法務・契約的にはNGになりうる点

    • クラウド事業者のSLAは “その事業者の責任範囲” に限られる

    • 自社アプリのバグ・運用ミス・回線トラブル・人為的ミスなど、自社側の要因はクラウドSLAの対象外

    • それにも関わらず、「クラウドのSLA=自社サービスのSLA」として説明・契約してしまうと、実態以上の責任を負うリスク がある

② BCP構成の“想定停止時間”と、契約上の賠償・免責の整理ができていない

  • 技術的にはOK

    • DR切替やバックアップ復旧を前提に、「だいたい○時間あれば復旧できるはず」と技術担当は感覚を持っている

  • 法務的にはNGになりうる点

    • 契約書側では「○時間を超える停止が続いた場合は損害賠償」など、明確なペナルティ条項が入っている が、その前提にある RTO(復旧目標時間)と ASR/Backup設計が噛み合っていない

    • 災害レベル・不可抗力についての扱い(免責条件)が曖昧

    • 実際に大規模障害が起きた際、「これは免責か?」「違約か?」を巡って取引先と揉めるリスク

③ 取引先への説明資料が「営業向けスライド」と「技術構成図」に分断されている

  • 技術的にはOK

    • 情シス・ベンダー間では、リージョン構成・バックアップ・DR 手順をかなり細かく設計済み

  • ガバナンス的にはNGになりうる点

    • 取引先に提示されているのは、「99.9%稼働」「DR構成あります」といった キャッチコピー中心の資料

    • それを裏付ける 技術構成・制約条件・前提(例:顧客の利用方法)が共有されていない

    • 結果として、取引先と社内の“BCPに対する期待値”がズレていき、障害時のクレーム・関係悪化に直結する

3. クラウドBCP × 取引先SLAで、まず押さえるべき3つの整理軸

技術構成を変える前に、最低限、次の3つを紙に落としておくと、その後のベンダー調整・社内説明・契約見直しが格段に楽になります。

① 「クラウドSLA」「自社サービスSLA」「取引先SLA」を分けて整理する

  • クラウド事業者SLA

    • Azure / SaaS がどこまでを保証しているか

    • 対象となるのは「そのプラットフォームの可用性」のみ

  • 自社サービスSLA

    • 自社アプリケーション・運用プロセスを含めた稼働率/復旧時間

    • 自社の設計と体制で実現できるレベルを冷静に見積もる

  • 取引先SLA(契約条項)

    • 顧客との合意としてどこまで約束するか

    • 違約時のペナルティ・上限・免責条件

この3層を 同じ表の中に並べて可視化する だけでも、「どこまでなら安心して約束できるか」が見えやすくなります。

② BCP構成と RTO/RPO を、業務と契約の言葉に翻訳する

  • システムごとに

    • RTO(何時間以内に復旧)

    • RPO(どこまでデータを戻せるか)を技術的に定義したうえで、

  • 業務と契約のレベルに落とす

    • 「受発注が止まると、どれくらいの売上・信用リスクがあるのか」

    • 「何時間までなら取引先に“許容いただける前提”なのか」

    • 「それを超えた場合の損害賠償・サービスクレジット・報告義務をどう設計するか」

技術側のRTO/RPO と契約側のSLA・賠償枠 を一体として考えることが重要です。

③ 取引先への説明資料を「技術 × 契約 × BCP」の三点セットにする

  • 営業資料(表側)

    • 稼働率・復旧時間・DR構成をわかりやすく整理

  • 技術資料(裏側)

    • 実際のクラウド構成図・バックアップ/DR 手順・運用体制

  • 法務・BCP資料

    • 免責条件・責任分界・取引先への報告フロー

    • 災害時のコミュニケーション計画

これらを 社内で一元管理 し、「営業が約束したこと」と「技術が実現していること」と「契約が書いていること」を揃えていくことが、クラウドBCP時代のクラウド法務では必須になります。

4. ケーススタディ:SaaS提供企業A社(売上150億円、取引先約500社)の場合

実際に当事務所でご相談を受けた事例の一つをご紹介します(業種等は匿名化しています)。

  • 業種:BtoB SaaS(業務系クラウドサービス)

  • 売上規模:約150億円

  • 取引先:製造・流通・金融など約500社

  • テーマ:クラウドBCP構成と取引先SLA/契約条項の見直し

課題の整理

  • 数年前に Azure ベースで BCP/DR 構成を導入済み→ 技術構成はそれなりにしっかりしているが、契約・SLAが後追い

  • 営業資料では「月間稼働率99.9%」「障害時4時間以内に復旧」と説明しているが、実際の ASR・Backup 設定・運用体制と 本当に噛み合っているか誰も検証していない

  • 取引先から「SLAの根拠」「DR構成の詳細」「賠償上限の妥当性」について質問を受けることが増え、社内調整に時間がかかっていた

当事務所の支援内容(抜粋)

  • クラウド構成図と既存SLA/契約書のクロスチェック

    • Azure のリージョン構成・冗長化・Backup/ASR 設定を整理

    • 現行SLA・個別契約・約款と並べて比較

  • 「クラウドSLA/自社SLA/取引先SLA」の三層整理

    • Microsoft側のSLAを踏まえたうえで、自社として現実的に出せるサービスレベルを再定義

    • それを前提に、標準SLA・個別交渉の方針を整理

  • 契約条項・説明資料のアップデート

    • 稼働率・復旧時間・免責事項・賠償上限などの条項案をブラッシュアップ

    • 営業向け「SLAの説明用スライド」と、情シス向け「技術的裏付け資料」を作成

  • BCP・インシデント対応フローの文書化

    • 障害/災害時の取引先への報告タイミング・内容・窓口を整理

    • 監査・大口顧客向けの説明フォーマットを統一

結果として

  • クラウドBCP構成と取引先SLAの関係を、技術・法務・営業が共通の図で議論できるようになった

  • 大口取引先とのSLA交渉で、「どこまでなら約束できる/ここから先は追加費用が必要」と線引き ができるようになった

  • インシデント発生時の報告・説明も、事前に決めたストーリーに沿って行えるようになり、「言うことが都度変わる」状態から脱却できた……といった声をいただいています。

5. クラウドBCP × 取引先SLAを見直すときのチェックリスト

自社で検討を進める際のチェックリストとして、次の項目を挙げておきます。

  • □ Azure 等の クラウド事業者SLA と、  自社サービスの 取引先SLA を 明確に分けて 説明できる

  • □ 各システムの RTO/RPO と BCP構成 が、  取引先との契約・SLAの内容と 矛盾していない

  • □ 障害・災害発生時の  報告義務・報告期限・賠償条件・免責条件 を、契約書上で整理できている

  • □ 営業資料・技術資料・契約書の間で、  「約束していること」と「実際にできること」が揃っている

  • □ ベンダー任せのクラウドBCP構成から脱却し、  「自社として、こういうレベルでBCPを約束する」という方針 を説明できる

「すべて自信を持って YES と言える企業」は、全国的に見てもまだ多くありません。

6. 全国からのご相談について

山崎行政書士事務所では、Microsoft Azure / M365 等のクラウド技術構成と、BCP/DR/SLA/契約・約款・監査対応をセットで整理する「クラウド法務支援」 を行っています。

  • クラウドBCP構成と 取引先SLA・賠償条項 の整合を取りたい

  • 営業資料・技術構成・契約書がバラバラで、監査や大口顧客からの質問に詰まりがち になっている

  • これからクラウド前提のサービスを立ち上げるにあたり、最初から法務・技術・営業が噛み合ったSLA設計をしたい

といったお悩みがあれば、オンライン(全国対応) にて初回のご相談を承っております。

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