【クラウド法務】M365 ゼロトラスト導入でトラブルになりやすい3つのポイント― 「M365 ゼロトラスト 法務」を導入前に必ず整理しておきたい契約・責任分界 ―
- 山崎行政書士事務所
- 2025年12月11日
- 読了時間: 9分
導入:ゼロトラスト構成はできた。でも「法務的にOKか」は誰も答えられない
M365 環境のゼロトラスト構成は、ドキュメントも豊富で、技術的な情報は探せば一通り見つかります。条件付きアクセス、デバイス準拠、Intune、Entra ID のベストプラクティス… 技術ブログや MS Docs を追いかけていれば、構築自体はなんとか形になるはずです。
しかし、全国の情シス・IT部門の方から相談を受けていると、次のような声を非常によく耳にします。
「M365 のゼロトラスト構成はベンダーと組んだが、法務・契約リスクが整理できていない」「“ゼロトラストだから安全”と言って導入したのに、責任分界や利用ルールが曖昧なままリリースしてしまった」「監査・親会社・海外拠点から“このゼロトラスト構成で本当に大丈夫か”と聞かれても、社内で説明しきれない」
本記事では、「M365 ゼロトラスト 法務 × クラウド法務」 という視点から、全国の製造業・IT企業の案件で実際に見えてきた よくある落とし穴 と、実務で使える 整理のフレーム をご紹介します。
1. M365 ゼロトラスト導入時に、現場で実際に組まれている構成イメージ
まずは「技術構成の事実」を、ざっくりと言語化しておきます。多くの企業での M365 ゼロトラスト構成 は、次のような全体像になっています。
テナント・ID基盤
Entra ID を ID 基盤として利用(オンプレAD / 他IdP と連携)
テナントは日本本社に集約、海外拠点はアカウントだけ共通利用
アクセス制御・ゼロトラスト周り
条件付きアクセス(CA)で
MFA 強制
ロケーション / デバイス / リスクベース制御
Azure AD P1/P2(現 Entra ID P1/P2)で
Identity Protection
Privileged Identity Management(PIM)
エンドポイント / デバイス管理
Intune で社給PC・スマホを管理
一部 BYOD 端末はアプリ保護ポリシー(MAM)で対応
ログ・監査
M365 監査ログ/Entra ID サインインログ/セキュリティアラートをMicrosoft Purview / Defender / Sentinel / Log Analytics 等へ集約
保持期間はプラン依存+一部は長期保管用ストレージへアーカイブ
このあたりまでは、多くの企業で “技術構成図” として整理されていることがほとんどです。
一方で、次のような 「法務・契約・社内規程の図」 が存在しないケースが非常に多いのが実情です。
ゼロトラストによって取得・保存される ログ・利用履歴・位置情報 を「どの範囲まで・どの目的で・誰の責任で扱うか」
利用規程・就業規則・個人情報保護規程との整合性(特に BYOD・監視・私用利用の扱い)
クラウド事業者・ベンダー・自社の 責任分界 と、インシデント時に「誰が・どこまで対応するのか」
ここまでは“技術構成”として整理された図がある一方で、「契約上・規程上、どこからどこまで誰の責任か」 という図が存在しないケースがほとんどです。
ここから先が「M365 ゼロトラスト 法務」=クラウド法務の領域になります。
2. 全国の案件で見えてきた「クラウド法務上の落とし穴」3選
代表的なものを3つだけ挙げると、次のようなパターンです。
① 「ゼロトラスト=何でも監視してよい」と誤解している
技術的にはOK
詳細なログ・利用状況・端末情報を取得し、リスクベースでアクセス制御を実施
M365 監査ログ/Defender 情報をもとにユーザーの行動を細かく把握
法務・人事的にはNGになりうる点
就業規則・情報セキュリティ規程・プライバシーポリシーで、どこまでの監視を、何の目的で行うか が明確でない
労働法・プライバシーの観点から、「監視されていること自体」を従業員に適切に通知・同意させていない
「不正対策」「セキュリティ確保」が目的と言いつつ、実態としては 行動監視ツール のように使われてしまうリスク
② BYOD/在宅勤務まわりのルールが追いついていない
技術的にはOK
Intune MAM でアプリ単位での制御を実施し、個人端末にも M365 を安全に提供
条件付きアクセスで「準拠デバイスのみ」「準拠+MAM」のハイブリッド運用
法務的にはNGになりうる点
私物端末への強制力の範囲(ワイプ・ポリシー適用・アプリ制限)が就業規則・誓約書・BYODポリシーに落ちていない
情報漏えい時に「会社の責任」「従業員の責任」をどう分けるかが曖昧
在宅勤務での利用状況(家族との共有PCなど)に関するリスクとルールが具体的に設計されていない
③ ベンダーが決めたゼロトラスト構成を「そのまま受け入れて」しまう
技術的にはOK
ベンダー提供の「M365 ゼロトラスト標準テンプレート」で条件付きアクセスや Intune ポリシーを一括適用
最低限のログ・アラート設定もテンプレートに含まれている
法務・契約的にはNGになりうる点
テンプレートが 自社の契約・規程・業界ガイドラインに合っているか誰も精査していない
インシデント発生時に「このゼロトラスト構成で防げたはずの事故だったのか」といった責任論が出たとき、ベンダー・自社それぞれの責任範囲が曖昧
「ゼロトラストだから大丈夫」と社内に説明してしまい、期待値と実態のギャップ からトラブルになるリスク
「技術的には M365 ゼロトラスト構成はできているが、法務・人事・契約の整理が追いついていない」——多くの企業で、このギャップが生じています。
3. M365 ゼロトラスト 法務で、まず押さえるべき3つの整理軸
技術構成をいじる前に、最低限、次の3つを紙に落としておくと、その後のベンダー調整・社内説明が格段に楽になります。
① 誰がどのレイヤーを担保するか(責任分界表)
クラウド事業者(Microsoft)
M365 / Entra ID / Intune / Defender 等サービスの提供・SLA
データセンター・基盤側のセキュリティ
構築ベンダー / 運用ベンダー
ゼロトラストポリシー(CA・Intune 等)の設計・実装
運用監視・一次対応・技術検証の範囲
自社(情シス / セキュリティ・基盤チーム)
ベンダーの提案を受けた上での 最終意思決定
規程・就業規則・誓約書との整合確認
経営層・監査・従業員への説明責任
人事・総務・コンプライアンス部門
監視・ログ取得と就業管理の線引き
懲戒・不正対策としての利用ルール
この責任分界表を、PowerPoint 1枚や Excel 1シートで見える形にすることが、「ゼロトラスト構成の是非」を議論するうえでの前提になります。
② どのログを、どの用途で、どの期間、誰の責任で扱うか
対象ログ
M365 監査ログ(Exchange / SharePoint / Teams 等)
Entra ID サインインログ・監査ログ
Intune / Defender / Endpoint 関連ログ
用途と目的
インシデント対応
不正アクセス・内部不正の検知
労務管理との線引きをどこに置くか
保持期間・保管場所
ライセンスで自動的に決まる範囲+拡張オプション
長期保管用ストレージ・アーカイブ
責任の所在
ログ設計・保存設定をミスした場合の責任
ログが不足していて原因究明できなかった場合に、どこまでを「会社の責任」「ベンダーの責任」とするか
ここを 「M365 ログ・監視ポリシー」として文書化 しておくと、監査・社内問い合わせ・トラブル時の説明が一気にスムーズになります。
③ 従業員・海外拠点をまたぐときの「ルールと契約」の整合性
従業員向け(国内)
情報セキュリティ規程・BYOD ポリシー・在宅勤務規程との整合
監視の範囲・ログの利用目的・保管期間の明示
海外拠点・グループ会社向け
欧州等でのプライバシー規制(GDPR 等)を踏まえたログの扱い・アクセス権限・マスキング方針
ベンダー・委託先との契約
ゼロトラスト構成に関連する設計責任・インシデント対応責任
ログへのアクセス権限(ベンダーがどこまで見られるのか)
技術構成だけでなく、「人・契約・規程」を含めた全体像 を揃えることが、M365 ゼロトラスト 法務としての最低ラインになります。
4. ケーススタディ:製造業A社(売上800億円、拠点10カ国)の場合
実際に当事務所でご相談を受けた事例の一つをご紹介します(業種等は匿名化しています)。
業種:製造業(BtoB)
売上規模:約800億円
拠点:日本本社+欧州3カ国+アジア6カ国
テーマ:M365 ゼロトラスト構成の導入と、それに伴う規程・契約の整理
課題の整理
ベンダー主導で ゼロトラスト構成(条件付きアクセス/Intune/MFA) を実装→ 技術構成図は存在するが、法務・人事的な整理がない
在宅勤務・BYOD が急拡大し、「どこまで監視してよいのか」「私物端末の責任はどこまでか」 を巡って社内で議論が紛糾
監査部門・親会社から、「ゼロトラスト構成のリスク・効果を、契約・規程ベースで説明してほしい」と要望されていた
当事務所の支援内容(抜粋)
技術構成と社内規程・契約のクロスチェック
M365 / Entra ID / Intune の構成図を整理
現行の就業規則・情報セキュリティ規程・誓約書・委託契約と突き合わせ
責任分界マトリクスの作成
クラウド事業者・ベンダー・日本本社・海外拠点・従業員それぞれについて「平常時」「インシデント時」「不正発覚時」の責任を整理
M365 ログ・監視ポリシーのドラフト作成
どのログを・どの目的で・どの期間・誰の権限で閲覧・利用するかを文書化
労務管理に直接使う/使わないの線引きを明確化
BYOD / 在宅勤務ポリシーの見直し支援
Intune MAM・アプリ保護ポリシー・ワイプ等を前提にしたルール案を作成
従業員への説明資料(FAQ形式)の作成もサポート
結果として
技術構成だけでなく、規程・契約・責任分界までを一体として説明できる状態 になった
在宅勤務・BYOD に対する「なんとなく不安」が、具体的なルールと文書に置き換わり、社内の合意形成が進んだ
ベンダーとの責任分界も明確になり、「ゼロトラストだから大丈夫」といった曖昧な説明から脱却できた……といった声をいただいています。
5. M365 ゼロトラスト導入済み企業が、今すぐ確認しておきたいチェックポイント
自社で検討を進める際のチェックリストとして、次の項目を挙げておきます。
□ クラウド事業者・ベンダー・自社・従業員・海外拠点の責任分界図が1枚で説明できる
□ M365 ゼロトラスト構成で取得している ログ・利用履歴・端末情報 について、 目的・保持期間・閲覧権限を文書化できている
□ 在宅勤務・BYOD を含めた 端末・場所のパターンごとのルール が、 就業規則・情報セキュリティ規程・誓約書と整合している
□ インシデント・内部不正・規程違反が起きたときの 「誰が・どこまで・いつまでに・何をするか」 が文章化されている
□ ベンダー任せのゼロトラスト構成から脱却し、 「自社としての M365 ゼロトラスト方針」 を説明できる
「すべて自信を持って YES と言える企業」は、全国的に見てもまだ多くありません。
6. 全国からのご相談について
山崎行政書士事務所では、Microsoft 365 / Entra ID / Intune / Defender 等の技術構成と、契約・規程・監査対応をセットで整理する「クラウド法務支援」 を行っています。
ベンダーとの 責任分界 を、M365 ゼロトラスト構成前提で整理したい
在宅勤務・BYOD を含めた M365 利用ルール・規程 を整えたい
監査・親会社・海外拠点・従業員からの質問に、一貫したストーリーで答えられるようにしたい
といったお悩みがあれば、オンライン(全国対応) にて初回のご相談を承っております。
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