アルプスの風に揺れる街――バイエルンの小さな街
- 山崎行政書士事務所
- 2月5日
- 読了時間: 3分

1, 木組みの家とオレンジの屋根
南ドイツの緑豊かな谷あいに、小さなバイエルンの街がある。石畳の細道を歩けば、両脇には木組み(ハーフティンバー)の家が軒を連ね、玄関先に置かれた花のプランターや、手作りの扉飾りが訪れる人を優しく迎えている。 窓辺には鮮やかなゼラニウムが揺れ、オレンジ色の瓦屋根が連なる姿は、まるで山あいに浮かぶ積み木のようだ。柔らかな朝の光を受けて、それぞれの家が少しずつ異なるシルエットを映し、通りをささやかに彩っている。
2. マーケット広場と教会の鐘
街の中心にはマーケット広場があり、日曜になると地元産のチーズやハム、焼きたてのパンが並ぶ小さな屋台が出る。人々はおしゃべりを楽しみながら買い物をし、子どもたちは噴水の周りを走り回って笑い声を上げている。 広場の横にはバロック様式の教会が聳(そび)え、玉ねぎ形の尖塔がバイエルンらしいシルエットを空に描く。鐘が正午を告げると、街中にややくぐもった低い鐘の音が響き、マーケットの賑わいが一瞬落ち着いて「お昼の合図」を受け取るのだ。
3. 風車と山あいの牧場
この街から少し歩けば、牧草地が緩やかに傾斜する丘陵地帯へと移り変わる。遠くに風車の羽根が見え、アルプスの稜線を背景に静かに回っている。夏にはそこに放牧された牛たちが草を食み、鈴の音がのどかなメロディを作り出す。 晴れた日には白い雲が山の上を流れ、光と影が谷をゆっくりと走り抜けていく。もしハイキングコースを進んでいけば、峠や高原へとつながり、そこからはさらに雄大なバイエルン・アルプスの景色を眺めることができる。
4. ビアホールと青白のパターン
夕方になると、街外れのビアホール(Bierhalle)やガストホフ(Gasthof)には地元の人々や観光客が集まり始める。伝統的なバイエルンの青と白のパターンが壁やテーブルクロスにあしらわれ、店内にはホップと麦芽の香りが漂う。 大きなジョッキに注がれたヴァイツェンビール(白ビール)やピルスナーを手に、プレッツェルやソーセージ、ザワークラウトをつまむ人々が笑い声を交わす。時には生演奏のポルカが流れて、ディアンドルやレーダーホーゼンを纏(まと)った人々が即席のダンスを始めることもあり、夜の熱気を醸し出している。
5. 夜の山あいと甘い風の余韻
やがて夜が更け、街の灯が消え始める頃には、山あいから冷たい風が降りてくる。窓が薄く明かりを漏らす家々を横目に、星が瞬く空に目をやると、どこか神秘的な青黒い夜空が谷を覆っている。 牛鈴と風の音だけが響き、ビールの余韻に包まれたまま、家々の中からは静かな笑い声や談笑が漏れている。高原から漂うかすかな花の香りが通りを撫で、バイエルンの街は深い眠りへと誘われていく。
エピローグ
バイエルンの街――木組みの家と玉ねぎ形の尖塔、遠くに連なるアルプスの峰、そしてビールと音楽がもたらす温かい人々の暮らし。 もしこの地を訪れるなら、朝の静けさから夜のビアホールまで、一日を通じて移ろう光と空気を体感してほしい。どの時間も、この地方の伝統と自然が生み出す優しさと豊かさに包まれ、まるでおとぎ話の世界の住人になったような気分になるに違いない。
(了)





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