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コ・ンガイ島の浜


潮が足首を撫でるたび、砂は粉をふるうようにほどけていく。踏みしめてもすぐに形をなくす、やわらかな白砂――コ・ンガイ島の浜は、歩く者の体重を受けとめて、音もなく呑み込んでしまう。浅瀬にはロングテールボートが二そう、舳先を並べて腰を下ろし、波に合わせてわずかに首を振っている。砂に延びる係留ロープは一本の線となって、海へ向かう視線をすっと導く。

船体は日差しで乾き、木肌が蜜のように光っている。青い幌の下には座席が並び、ビニールの水桶や救命胴衣が雑然と置かれている。舳先には赤や桃色、橙の布が結わえられ、風が吹くたびに薄くはためく。旅の無事を願う小さな祈りが、鮮やかな色になって揺れている。片方の船からは小さなタイ国旗がのぞき、海の色と空の色の境目で、細い赤白青の帯が瞬いていた。

海はターコイズという言葉そのものだ。岸近くでは乳白色を含んだ薄い青、ひざ下ほどの深さで翡翠に変わり、沖に向かうほど濃くなって、遠景の群青へとゆっくり階段を降りていく。水の中には、もみ殻ほどの貝殻片がきらりと光り、波が引くたび砂粒が走るのが見える。耳に届くのは、ボートの舷に当たる軽い水音と、遠くで別のエンジンがかすかに唸る気配。鼻先には潮と油の匂いが薄く混ざり、南の太陽の熱が肩に積もる。

水平線の向こうには、岩の塊のような小島が黒々と浮かぶ。切り立った側面には緑が貼りつき、雲の影がゆっくり滑っていく。空は水彩の薄青。雲は刷毛で掃いたように広がり、ところどころに白い固まりがちぎれて漂う。光は強いが刺々しくなく、海面の皺だけを拾って柔らかく反射する。ここがトランの海だと、景色が静かに教えてくれる。

裸足で数歩、船に近づく。砂は熱いのに、水際に来ると急に冷たくなる。船べりに手を触れると、木は太陽で温められ、掌にぬくもりを返す。足もとでは小さなカニが横歩きで穴に消え、波がきて、その足跡もすぐにさらってしまう。時間の単位が、時計ではなく潮の満ち引きで測られているようだ。

ボートの影が少しずつ伸びる。潮が上がれば、船は砂から身を離し、細い尾のプロペラを水に沈めて、再び島々の間を縫ってゆくのだろう。旅人を隣の浜へ、珊瑚の浅瀬へ、夕焼けのポイントへ。コ・ンガイ島の一日は、そうして色を変える。朝は白砂、昼はターコイズ、夕方は蜜柑の皮のような橙。どの色も、波の縁で少しずつ混ざり合い、またほどけていく。

ここでは急ぐ理由がない。砂に腰を下ろし、ロープの先の二そうが同じリズムで揺れているのを眺める。遠くの島影は動かず、近くの水だけが絶えず形を変える。目を閉じれば、潮の匂いの奥に、木と布と油の気配が重なり合う。目を開ければ、世界はもう一段明るくなっている。コ・ンガイ、トラン。記憶に残るのは派手な出来事ではなく、この静けさの手触りだ。白い砂のやわらかさ、船の布の色、海の青の層。旅の中心は、いまこの浜にある。

 
 
 

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