top of page

タイムスリップ夫の逆襲!? 〜坂口あやめの悲喜こもごも2:未来から来た最大の刺客!?〜



ree

 老舗出版社「米星社」の文芸編集者・坂口あやめ。 仕事一筋で活字まみれの日々を送りながらも、今は恋も順調……のはずだった。 そう、あの「中年トレンチコート」こと未来の楓井裕作が姿を消してから数カ月。あやめは現在の30歳の裕作と順調に愛を育み、社内では「え、まさかの社内婚?」と冷やかされながらも、なんとかしれっと仕事をこなしている。

 しかし、平穏だと思っていた日常は、またしてもあっけなく崩れ去る運命にあった。

1.未来の“子ども”がやって来た!?

 ある日の夜、あやめは猛烈に忙しかった。何しろ売れっ子作家の新作企画が大遅延しており、担当編集として事態を収拾すべく徹夜体勢に入っていたのだ。デスクの山盛り資料を片付けながら、「徹夜の相棒」にと手を伸ばしたコンビニのエナジードリンクをひっかける。

「ああぁ……限界……。あと三時間で著者から原稿が届いて、私はサバイバルできるんだろうか……」

 心身ともに疲れ果てたあやめがふと物憂げなまなざしでオフィスの窓の外を眺めていると、突如、窓ガラスがキランと光を反射した。 そして次の瞬間、バリリッ! というあり得ない音とともに窓が突然開き(いや割れた?)、謎の人影がシュタッと着地。

「きゃああああああああああああ!!」

 深夜のオフィスに響くあやめの絶叫。警備会社に通報されてもおかしくない事態だが、侵入者(?)の姿を見て、あやめは目を疑った。

 そこにいたのは……パジャマ姿の十歳くらいの女の子。頭には光るヘアピン、手には鞄ではなくなぜか三色団子。 あわてふためくあやめに、その少女は胸を張って宣言した。

「はじめまして! わたしは 楓井 心音(かえでい ここね)。未来から来た、あなたと裕作さんの娘です!」

 あやめはフリーズ。一拍おいて、またしても絶叫。

「ふ…未来から…娘ぁぁああ!?」

2.続々と現れる“未来の関係者”

 娘を名乗る少女・心音の出現であやめはテンパりまくり。だがこの日はそれだけで終わらない。なんと翌朝には、いま度肝を抜かれたばかりのあやめ宅を、さらなる“不審者”が訪れたのだ。

ピンポーン……「宅急便です! 大きめの荷物になります!」

 寝不足の頭を抱えつつ玄関を開けると、そこにはやけに慣れた手つきで“未来配送”と書かれた段ボールを運ぶ筋肉質な配達員……らしき男が。その男はサングラスを外し、深々と頭を下げた。そしておもむろに口走った。

「お届け物です、あやめさん。実は……未来から私もやってきました。名乗り遅れましたが、ぼくはカリブ・水島。あなたたち夫婦の“離婚カウンセラー”でして……ほら、10年後に泥沼離婚しかけたときにお世話しましたよね?」

「な、な、なんなのよ今日は!?」

 まだ“娘”の話すら頭が整理できていないのに、次は“離婚カウンセラー”! しかも未来ではなぜか筋肉配達員と兼業しているらしい。 あっけにとられるあやめをよそに、カリブは「いやー10年後は大変でしたよ。Wi-Fiパスワード問題とか、財産分与の腹の探り合いとか、そりゃもう……」と笑顔で回想をはじめる。

 ちょっと待った! と頭を抱えるあやめ。 「こんな短期間に、いったいどんだけ未来人が来るのよ!?」

3.混乱の中で再会する“あのトレンチコート”

 そこへタイミングを見計らったかのように、また別のチャイムが鳴る。 そしてドアを開けると、出た、トレンチコートの中年男・楓井裕作(未来Ver.) 再び!!

「やあ、あやめ。久しぶりだね……。まさかこんな形でまた会うことになるなんて。元気にしてた?」

「全部アンタのせいでしょーがあああ!!」

 失礼極まりない話だが、あやめはホッとした。“この未来の中年が来るなら仕方ない”という、謎の安心感さえある。だが、そもそもどうしてまた戻って来たのか。 問い詰めると、未来の裕作はまたしても含み笑いを浮かべる。

「いや、今度は結婚を阻止しに来たわけじゃない。かといってラブラブを応援しに来たわけでもない。むしろ“とんでもない事態”が起きていてね。君たちの娘の心音が、まさか独断で過去へタイムスリップしてしまうなんて……」

 思わずあやめが聞き返す。

「……じゃあ、彼女は本当に私とあんた(若いほう)との娘なの?」

「そうだよ。いろいろ育児に失敗……じゃない、試行錯誤があってね。まああやめそっくりで頑固だし、僕の悪いところもそっくりで手を焼いたし……とにかくイロイロあるんだ」

 ならばなぜ、彼女が過去へ来たのか。未来の裕作はため息まじりに続ける。

「どうやら、“両親の離婚を防ぐために、過去の父母がラブラブであるかちゃんと見届けに来た”らしい。しかも早すぎるよ、まだ君たちが結婚して間もない時期なんだから……」

 出た! まさかの“逆・阻止”派閥。娘は娘で、未来の離婚を防ぐために奔走していたのだ。

4.娘・心音の大暴走

 こうしてあやめの家には、娘・心音、そして筋肉配達員兼・離婚カウンセラーのカリブ、さらに中年トレンチコートの未来裕作が居座る事態になってしまった。もちろん現代の30歳の裕作も呼ばれ、「なんで急に未来の自分とか娘とか増殖してるの!?」と頭を抱えるハメに。

 そしてわかったのは、心音がとんでもなく行動派だということ。 ある朝、あやめと現在の裕作が出社しようと家を出ると、そこには“リアル夫婦スキャンダル暴露本”みたいなA4ペーパーを近所中に配り歩いている心音の姿が!

「パパとママは将来こんなケンカをして離婚危機に陥ります! でも私がんばって止めます! 署名にご協力ください!」

 あろうことか署名を集め始めている! 近隣住民からは「え、あなたたち未婚じゃなかった? しかも子どもがいるの?」と疑惑の目。 あわてて止めようとすると心音は目を潤ませ、

「だって、10年後にパパとママが別れたら、私どうなっちゃうの? だから今からみんなに協力してもらうの!」

 純真な瞳にキュンとするも、あやめと裕作は「いや、社会的に色々マズいよそれ!」とオロオロ。さらにそこへ中年の未来裕作とカリブが合流し、なぜか心音に“説教”を始める。

未来裕作:「心音! いくらなんでもやりすぎだ。僕たちの離婚危機は……まあ色々事情があって……」カリブ:「そうそう、俺の商売あがったりだしな。……って違うか!」

 せっかく平和に終わったはずの“離婚阻止計画”が、こんな形で再燃するなんて。あやめは頭を抱えた。

5.家族会議、そして……

 夜、あやめの部屋には5人が集結した。 娘の心音、未来の裕作、現在の裕作、離婚カウンセラー・カリブ、そしてあやめ本人。このメンバーが一堂に会する光景は、SNSにアップすれば即バズりそうだが、誰もそんな余裕はない。

 テーブルの真ん中には、いつか未来裕作が持ち込んだという「特製タイムマシン端末」が鎮座している。 どうやら心音はこれを勝手に操作し、過去へジャンプしてきたらしい。何でも、未来では「パパとママがケンカしてばかりだから、これはヤバいぞ!」と危機感を募らせての行動だったとか。

あやめ:「心音、あなたの気持ちはよくわかったわ。でも、過去を無理に変えようとするのは危険だって、前回学ばなかった? それに、今の私たちは仲良く過ごしているのよ」心音:「でも、10年後のママたちは仲良くないんだもん! 私がなんとかしなきゃ!」現在裕作:「そ、それは俺の努力不足ってことなのかな……?」

 微妙にシュンとする現在裕作。そんな彼の肩を、中年トレンチコートの未来裕作がポンと叩く。

未来裕作:「いや、君のせいじゃない。僕だってあやめを……当時は大好きだった。だけど仕事や家事やお互いへの不満が積み重なって、大ゲンカになってしまっただけなんだ。そういうのって、運命とか愛情とかじゃなく、コミュニケーションの問題かもしれない」カリブ:「そうそう、俺もカウンセラーとして二人を何とかしたかったんだけど、Wi-Fiパスワード事件の決定打が……」あやめ:「そっちの話はもういいから!」

 誰もが胸に手を当てて思い返す。「私たち、10年後にそんな大ゲンカしてたんだ……」。 すると心音が半泣きになりながら言う。

「わたし、今のパパとママは大好き。でも未来ではケンカばっかりで、パパは変なトレンチコート着るし、ママは家にカビの生えたネギ放置して追い出されるし……。そんなの嫌だよ!」

 衝撃のネギエピソードにあやめが赤面。「わ、私!? 未来でそんなダメ主婦になってるの?」 しかし、ここにいた全員が、未来や過去を行き来して無理に“運命”をいじろうとした結果、いつも余計にこじれていることを悟り始めた。

6.それぞれの選択、そして未来は……

 翌日。意を決したあやめと裕作(現代Ver.)は、有休を取って“親子旅行”を計画した。といっても、もちろん時空を超えるわけではない。ごくシンプルに温泉旅館だ。そこへ心音を連れ、しばし家族水入らずの時間を過ごしてみようと考えたのだ。

あやめ:「心音、あなたも未来に帰る前に、パパとママがどんなふうに楽しく暮らしているか、ちゃんと見ておいて。実際に今を体感するの」心音:「うん、わかった……!」

 未来裕作とカリブはどうするか。実は二人とも「ここまで来たら、おれたちも便乗して温泉行きたい」と意気込んだが、あやめに「アンタらはお留守番!!」と一喝される。 こうしてあやめ&現在裕作&心音は、ほんの1泊2日のミニ旅行へ出かけた。

 ——旅館に到着すると、浴衣姿の3人はまるで本当の家族のよう。温泉まんじゅうを食べて、囲炉裏端でのんびりして、せっかくなので卓球対決にも熱中。心音は大はしゃぎだ。

「ママ、パパ、うまい〜! でも負けないもん!」

 卓球台の周りを飛び回る心音の姿に、あやめと裕作はなんだか不思議な気持ちになる。 「ああ、これが私たちの“未来の家族”……」 もちろん、まだ結婚して間もないけれど、目の前で生き生きと笑う娘を見れば、愛おしさが増してくる。お互いへのコミュニケーションも、あらためて大事にしようと思える。

7.エピローグ:バイバイ、また来てね?

 翌朝、チェックアウトを済ませた駐車場の片隅に、あのタイムマシン端末が光を放っていた。どうやら未来裕作とカリブがセッティングしてくれたらしい。心音はあやめと裕作に別れを告げようとするが、なかなか踏ん切りがつかない様子。

「ママ、パパ……わたしが勝手に過去に来て、迷惑かけちゃったけど……。でも、こうして一緒に過ごせて、ほんとに嬉しかった。ありがとう」

 抱きしめ合う3人。ちょっと涙ぐむあやめ。 心音が端末のボタンを押すと、眩い光とともに小さな身体がすうっと消え、湯けむりに溶けるように消えていった。

「……また、いつか会えるのかな?」

 ぼんやりと空を見上げるあやめの手を、裕作(現在Ver.)がしっかり握る。その瞳には決意が宿っていた。

「これから先、ケンカすることもあるだろうけど……絶対に、未来のあやめや心音を悲しませないように、俺、がんばるよ。トレンチコートを着て過去にタイムスリップしなくても済むようにさ!」

 あやめはクスッと笑いながら、同じように握り返す。

「そうね。私も、カビの生えたネギを放置しないくらいには気をつけなきゃ……。それに、Wi-Fiのパスワードでケンカしないように、お互い共有してちゃんと大切にしていこう」

 そのころ、遠くの空間で見守っていた未来裕作とカリブは、二人の変化を感じ取っていた。 「さてと。俺たちは俺たちで、未来で反省会だな」 「どうせなら離婚カウンセラーから“円満夫婦サポート”カウンセラーに転身かな?」

 そうつぶやいて、中年トレンチコート筋肉配達員はまたしてもどこかの時空のかなたへと消えていく。

あとがき

 結局、10年後の未来がどうなるのかは誰にもわからない。けれど、今のあやめと裕作は、こうして確かに“愛しい娘の姿”を見て、一歩前に進む勇気をもらった。 これで未来に待つ“家族崩壊”を回避できるかどうかは、二人の努力次第。だけどきっと、Wi-Fiパスワードがどうだとか、カビたネギがどうだとか、そんな日常の些細なトラブルさえも、笑いあって乗り越えるはずだ。

 あやめの頭の中には、消えていった心音の笑顔が焼き付いている。どこか近い将来、まるでデジャヴのように、同じ笑顔の女の子を抱きしめる日のために——今日も、あやめは一歩ずつ歩みを進めるのだった。

(了)

 
 
 

最新記事

すべて表示
【クラウド法務】Azure Site Recovery × ベンダー責任分界でトラブルになりやすい3つのポイント― 「Site Recovery ベンダー責任分界」を導入前に必ず整理しておきたい契約・責任範囲 ―

導入:Site Recoveryは入れた。でも「誰の責任で復旧するか」は曖昧なまま Azure 環境の BCP/DR 対策については、Azure Site Recovery(以下 ASR)のドキュメントや技術ブログが充実しており、レプリケーションポリシーやフェイルオーバーの手順といった “技術的な情報” は探せば一通り見つかります。 しかし、全国の情シス・IT部門の方から相談を受けていると、次のよ

 
 
 
【クラウド法務】Azure環境でのBCP対策でトラブルになりやすい3つのポイント― Azure BCP / DR を導入する前に絶対に整理しておきたい契約・責任分界 ―

導入:冗長構成はできた。でも「BCPとして大丈夫か」は誰も答えられない Azure 環境の構築・運用は、公式ドキュメントや技術ブログが充実しており、可用性ゾーン、冗長化、バックアップ、Site Recovery など、技術的な情報は探せば一通り揃います。 しかし、全国の情シス・IT部門の方から相談を受けていると、次のような声を非常によく耳にします。 「Azure 上で冗長構成は組んだが、 BCP/

 
 
 
【クラウド法務】M365 ゼロトラスト導入でトラブルになりやすい3つのポイント― 「M365 ゼロトラスト 法務」を導入前に必ず整理しておきたい契約・責任分界 ―

導入:ゼロトラスト構成はできた。でも「法務的にOKか」は誰も答えられない M365 環境のゼロトラスト構成は、ドキュメントも豊富で、技術的な情報は探せば一通り見つかります。条件付きアクセス、デバイス準拠、Intune、Entra ID のベストプラクティス… 技術ブログや MS Docs を追いかけていれば、構築自体はなんとか形になるはずです。 しかし、全国の情シス・IT部門の方から相談を受けてい

 
 
 

コメント


bottom of page