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タイムスリップ夫の逆襲!?〜坂口あやめの悲喜こもごも7:子育てスタート!? 未来からの育児アドバイザー!?〜

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月25日
  • 読了時間: 12分



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1.新婚旅行の後日談、そして…

 老舗出版社「米星社」の文芸編集者・坂口あやめ。 先日の新婚旅行では、まさかの「孫の嫁(=未来の遠縁)」がトレンチコート姿で乱入してきて、ビーチで大騒動を巻き起こす――という、もはや安定の(?)超常現象が発生。 とはいえ、結果としては“いい感じ”に落ち着き、後半はようやく二人きりでリゾートを満喫できた。

 日本に帰国してから数カ月。あやめは日々の仕事をこなしつつ、家に戻ればささやかな新婚生活を楽しんでいた。ネギはちゃんと冷蔵庫へしまい(忘れずにチェック)、Wi-Fiのパスワードは夫婦で話し合って定期的に決める。 未来からの干渉もずっとなく、本当に平穏。むしろあの頻繁だったタイムスリップ騒動が嘘のようだ――と、ほんの少し物足りなさを感じるくらいに。

 ところがある日、あやめの体調に異変が訪れる。頭痛や吐き気、めまいがあり、「仕事のしすぎ? それとも何か悪いものでも食べた?」と不安になっていたが、病院で診察を受けた結果……**「ご懐妊です」**のひと言が!

「えっ、私……赤ちゃん!?」

 驚きと喜びが同時に押し寄せて、あやめは診察室で思わず両手を頬に当てて固まる。数時間後、さっそく裕作に報告すると、彼は目を潤ませて大喜び。「うわああああ!! 本当か!? ありがとう、あやめ……!」 こうして二人の間に新たな命が宿った。それはきっと、「未来からあれこれ言われなくても、“今”を大切にしてきた成果のひとつ」なのだろう。あやめは静かにそう感じる。

2.高まる幸せ、不安も少し

 妊娠が判明してからというもの、あやめと裕作の生活は一気に“マタニティ仕様”になり始める。 あやめは仕事をセーブしつつ、社内でも「坂口さんは妊婦だから無理しないで」と優しい言葉をかけられ、少し気恥ずかしい。 自宅では、これまで放置気味だった「床掃除」とか「トイレ掃除」まで裕作が率先してやってくれて、ちょっと感動。Wi-Fiパスワード問題やネギ放置問題など、過去に比べると可愛く思えるほどのチョロさだ。

 しかし、安定期に入る前の妊娠初期。やはり体調は大きく変動し、あやめはつわりに悩まされたり、精神的にも不安定になったりする。 そんな中、ふと頭をよぎるのは**「未来では私たち、離婚危機に陥るんだよな……」**という過去の記憶。まさかこんな時にまたケンカが増えたりしたらどうしよう……ちょっとだけ不安が募る。 裕作は「大丈夫大丈夫、俺は誰よりもあやめを支えるから!」と太鼓判を押すが、これまでさんざん未来から奇妙な報告をされてきただけに、一抹の不安は消えないのも事実だ。

3.深夜のリビングに響く「コンコンコン…」

 そして、恐れていた(?)事態は忘れた頃にやってくる。 夜、あやめがソファで横になりながら文庫本をパラパラめくっていると、リビングの窓がコンコンと軽くノックされた。

「え、こんな時間に……? 風の音か何か?」 ドキリとしつつカーテンを少し開けると、そこには──トレンチコートの影

「出たああああっ!! また中年トレンチコート!?」と一瞬身構えたが、よく見ると「中年男」ではなく小柄なシルエット。しかも頭には何やらベビーバッグらしきものを背負っている!?

 恐る恐る窓を開けると、そこには未来から来た育児アドバイザーを名乗る謎の女性がたたずんでいたのだ。 彼女はニコリと笑い、敬礼みたいなポーズで言う。

「初めまして! 私、未来の“子育てサポート協会”から来ました四葉(よつば)ミサといいます! 坂口あやめさん、妊娠おめでとうございます! ちょっとだけお手伝いに来ました〜!」

 あやめは思わず頭を抱える。「……どうして、こうも未来から押しかけてくるのよ……。」 四葉ミサいわく、「あなたが妊娠してから数か月後、未来で“少子化を食い止めるため”に時空介入するプログラムがスタートしまして。過去の優秀な(!?)妊婦さんに助言をし、円滑な出産・育児をサポートしようという試みなんです!」 いやいや、他人の妊娠に勝手に介入しないで……とあやめはため息をつくが、いつものパターンで“強制退去”させるわけにもいかない。何しろお腹の赤ちゃんへの影響が心配だし、トラブルは避けたいところ。

4.突如始まる「未来式育児講座」

 翌朝。ソファで仮眠をとらせた四葉ミサと向かい合い、あやめと裕作は事態の説明を受ける。 四葉ミサはタブレット端末(どうやら未来技術が搭載された特注品)をピコピコ操作しながら、シャキッと胸を張る。

「こちらに集められたデータによれば、あなた方は……うーん、10年後くらいには相当険悪になったり、なぜかトレンチコートで過去に行ったりスパンコールコートの姑が登場したり……えらいことになるみたいですね。でもご安心を! 育児面を先回りして整えておけば、夫婦仲が良くなる可能性が高いって統計が出てるんですよ!」

 あやめと裕作は、顔を見合わせながら「また‘離婚危機’の話が来たか……」と少しゲンナリ。しかし、育児サポートの専門家がアドバイスしてくれるのは悪い話ではないようにも思える。 ミサは「さぁ、早速始めましょう! “夫婦で考える未来式育児プログラム”第一章、『パパとママの家事分担度チェック』です!」と乗り気。

 しかし、そのメニューの内容はかなり“未来式”かつ、“やり過ぎ”感満載だった。

  1. スマート家事アプリによる24時間監視:誰が何分間トイレ掃除をしたか、自動記録される!

  2. IoT哺乳瓶の導入:赤ちゃん誕生後、哺乳瓶に内蔵されたセンサーが「ママの授乳回数・パパのミルク作成回数・こぼしちゃった回数」まで記録して夫婦で比較する!

  3. バイオリズム連携家電:夫婦どちらかがストレス指数を高めると、自動で部屋の照明が「注意色」に変わり、「ケンカ予兆」があることを警告!

「ね、どうです? これなら“何が原因でケンカしているのか”を明確化できるでしょ?」とミサは得意満面。 あやめと裕作は、「ちょ、ちょっと待って、そんなに監視されたら落ち着かないし、逆にストレス溜まるんじゃ……?」とドン引き。

5.再会の予感? “筋肉”がやってくる!

 しかもあまりに怪しげな活動のため、早くも時空警察のアンテナが反応したらしい。数日後、あやめ宅のチャイムが鳴り、「こんにちは〜、宅配便です!」の声。 ドアを開けると、案の定、筋肉配達員・カリブが立っている。しかも同時に時空警察の制服まで着用し、首から保育士っぽいエプロンをかけている。もう何の職業なのかさっぱり分からない。

「いや〜、最近“少子化対策部署”でもアルバイトが始まって……。あ、出産前の不安を解消するセミナー資料、お届けにあがりました!」「ちょっと、またそんなマルチワークやってるの……」 あやめと裕作は呆れ顔。しかし、カリブは真面目な眼差しで言う。

「実は時空警察にも『四葉ミサなる人物が無許可で過去に長期滞在してる』という情報が入ってましてね。あちらは“少子化対策の公的許可証を持っている”と主張しているが、過去での活動内容が過度だと判定されたら、こちらも動かざるを得ないんですよ」

 なんだかすでにグレーなニオイがプンプンする。 あやめはため息をつきながら、カリブにしらっと囁く。「確かに彼女、かなり強引な育児アドバイスを押しつけてきて困ってるの……。時空違反とまでは言えないんだろうけど、私たちを実験台にしてるっぽくて……」 カリブはゴツい胸板を叩き、「わかった! ここはオレがうまく動いて、彼女の違法性がないか探ってみます。あやめさんたちは安静にしててください!」

6.未来式育児プログラム、裏の目的…?

 後日、仕事から戻ったあやめが家に入ると、四葉ミサが勝手にテレビ会議システムを起動して誰かと話しているのが見えた。ちょうど通話が終わったところらしく、ミサは慌てて画面を閉じる。 あやめは怪しんで、「今の通話、何かのカウンセリング?」と尋ねると、ミサは「え? ああ、うん、ちょっと未来の協会と連絡してただけ! な〜んにも問題ないわよ!」と笑顔でごまかす。 しかし、その笑顔の裏にちらっと不穏な気配が……。まさか未来でやってる“研究”のために、あやめたち夫婦の生活をモルモット扱いしてるのでは? と嫌な予感がする。

 さらに翌朝、ミサが力説してきた「未来式育児プラン」には、こんな項目が追加された。

  • VR育児シミュレーター:子どもが夜泣きしたときの母体ストレスを仮想空間で再現。パパには一定時間“赤ちゃんの声”をエンドレスで聞かせ、どれだけ耐えられるかを数値化。

  • 産後ママ・パパ評価システム:SNS上に自動投稿され、他のユーザーから「いいね」を受け取れないと点数下がる。

「いやいや、そんなの絶対にケンカの元じゃない?」と裕作も呆れる。 どう見てもプライバシー侵害に等しく、「誰得?」の仕組みである。 あやめが「こんなの、絶対つかいたくない!」と拒否すると、ミサは意外なほどしつこく勧めてきた。「いいえ、これがあなたたちを離婚の危機から救う最善策なんですぅ! ぜひ試してみましょ〜!」 ……いや、やっぱり怪しい……。

7.カリブ捜査、そして衝撃の真実

 そんなある日、仕事を終えて帰宅したあやめを、カリブが玄関で待ち構えていた。どうやら残業帰りに急いで駆けつけたらしい。 「聞いてください、あやめさん! 実は四葉ミサさん、過去に何度も“ちょっとグレーな育児実験”をしては、未来で問題視されているんです! 彼女いわく ‘家庭崩壊寸前の夫婦を救う革命’だそうですが、そのモニターのほとんどが途中で嫌になって逃げ出してるとか……」

 カリブは手にしたタブレット(またしても時空警察システムか?)を見せながら続ける。

「しかもあの人、表向きは‘少子化対策協会の職員’として許可証を持ってるけど、裏で‘ハイパー育児商品を売りつける’ビジネスやってる疑惑があるんです。データと称して夫婦のプライバシーを収集して、未来で商売に使ってるらしい……」

 やっぱり……! あやめは愕然。「どうりで、やたら過剰な家電やらアプリやら勧めてくるわけね……。あれ、全部“商品テスト”だったのね……!」 「そういうことみたいっす。オレの上司の尾根崎警視も ‘グレーすぎて逮捕まではできないが、事情聴取は必須’ と言ってます。いずれ召喚状を出す予定だけど、とりあえずあやめさんたちは強く拒否する方向で」

 怒りとショックで、あやめは拳を握る。「まったく……いつもいつも、未来の人は勝手に来てくれるわよね……。でも今度こそ、はっきり言わせてもらうわ!」

8.“未来式サポート”をぶった斬れ!

 その晩、あやめはリビングで四葉ミサを待ち構える。横には裕作、そしてカリブ(筋肉警察・兼・保育士バイト)が控える。 ミサは軽い調子で入ってくると、いつものように「さて、今夜は産後の睡眠不足シミュレーションを……」と切り出した。 あやめは立ち上がり、はっきりと言う。

「もう結構です! 私たち、あなたの‘未来式育児プログラム’は使いません。そもそも、あなたが過去に来てまでやろうとしてる目的は‘実験&ビジネス’なんですよね?」 ぎくっと固まるミサ。さすがに動揺を隠せないが、口調はまだ強気だ。

「そ、それが悪いことだっていうの? もちろん商売も大事だけど、あなたたちが本当に離婚を回避できるかどうかデータを取って、世の夫婦を救いたいのよ。あたしは善意よ、善意!」

 すると裕作も静かに声を上げる。「確かにあなたは善意だって言うかもしれない。でも、今までも何度も経験してきたけど、夫婦の未来を‘外部’が強引にコントロールしようとするほど、歪みが生じるんだ。僕たちは僕たちのやり方で、ケンカもするし、仲直りもするし、成長していきたいんです」

 横でカリブが腕を組んでうなずく。「坂口さんたちは、この数年で色んな未来人を相手にしてきたんですよ。今さら小手先のテクニックに頼らなくてもやっていけます。……なので四葉ミサさん、あなたには速やかに未来へ帰ってもらいます。こちらも‘不適切な過去干渉’として一部通報する手続きを進めますから」

 ミサはさすがに観念し、悔しそうに眉をひそめる。「くっ……せっかく稼げるビッグチャンスだったのに……。まぁいいわ、こんな夫婦でも、うまく子育てできるかどうか見ものね! どのみち私は協会に戻って次のステップを考えるわ!」 そう毒づきながら、トレンチコートを翻して窓辺へと向かうミサ。どうやらこの場でタイムマシンを起動して帰る気らしい。

「ふん、残り少ない未来人チャンスを無駄にしちゃったわ。じゃあごきげんよう! 可愛い赤ちゃん産んでちょうだいね〜!」

 パチンと指を鳴らすと、デバイスが起動し、ミサの体が白い光に包まれて消えていく。 部屋に残されたのはあやめ、裕作、カリブの三人。ほっと安堵の息をつきながら、あやめは今にも泣きだしそうに笑う。

「ほんと、私っていつまで未来人に振り回されるのかしら……。でも、ありがとう、カリブさん。あなたがいなかったら、もっとややこしいことになってたかも」 カリブは謙遜しながら、「まぁこれも仕事っすから!」と胸を張る。

9.新しい“家族”への思い

 四葉ミサが去った翌日からは、不思議なくらい静かな日常に戻った。 あやめのお腹はまだ大きくなり始めたところだが、確かに赤ちゃんが宿っている。その存在を感じるたび、未来のいろんな騒動を思い返しながら、あやめは「私たち、ちゃんと親になれるかな……」と不安半分・期待半分で微笑む。 「やってみるしかないよね。未来がどう言おうが、私たちの“今”が大切だもの」

 裕作も「俺、今の仕事はフリーライターだけど、子どもが生まれたらもっと稼ぎを安定させないとな……。頑張らないと!」と鼻息荒く意気込む。

 ——きっと、これからは妊娠・出産にまつわる想定外のことが山ほど起きるだろう。でもそれは、普通の夫婦が経験する“当たり前”の波乱なのかもしれない。

 かつて未来の親戚や姑、娘、孫の嫁(!?)から“離婚危機の予言”をさんざん聞かされた二人だったが、気付けばその予言に押しつぶされるより、“この小さくて大きな命”の尊さに背中を押されている。 ケンカもするし、疲れるし、夜泣きに追われるかもしれないけれど、夫婦が協力して子どもを育てていく……それこそが一番の愛の形なのだろう。

エピローグ:またいつか、時空の彼方で

 深夜、あやめはリビングの照明を落として、窓の外の夜景をぼんやり見つめる。 スパンコールコートの姑、トレンチコートの未来夫、筋肉配達員兼・警察官カリブ、孫の嫁、そして今回の育児アドバイザー四葉ミサ……この数年の出来事を思えば、我が家の窓から誰かが侵入してきてももう驚かない。

「でも、これからはできるだけ静かにしてちょうだいね、未来のみなさん……。うちにはもうすぐ赤ちゃんが来るんだから……」

 そう呟いて、あやめはそっとお腹を撫でる。 あの時空の彼方でうろうろしている未来人たちも、この新しい命の誕生に、いつか嬉しそうな顔で会いに来るかもしれない。あるいはまた余計なお世話を焼きにくるかもしれない。 でも、その時が来るまでは、しばらく二人とお腹の子で静かに過ごしたい——それがあやめの心からの願いだった。

 未来人の襲来を予感させるトレンチコートの衣擦れの音も、今は聞こえない。夜の静寂が優しく包み込む中、あやめは微睡みながら、穏やかな笑みを浮かべていた。

(了)

 
 
 

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