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トンネル・ゼロ地点– 静岡鉄道区の闇

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月14日
  • 読了時間: 6分


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第一章:新幹線建設の遺構と噂

昭和中期。東海道新幹線が開通したころ、静岡市郊外の山裾(やますそ)に**「使われずに封鎖されたトンネル」**があるという噂(うわさ)が語られていた。建設当時、地質トラブルか何かで急遽(きゅうきょ)工事ルートが変更され、そのトンネルは放置されたままになっているらしい。**高村(たかむら)**は若いフリーのカメラマン。毎日新聞や雑誌に写真を売るかたわら、スクープを狙っては怪しげな噂を追っていた。彼が気になったのは「そのトンネルのゼロ地点に、徳川家康ゆかりの埋蔵物が隠されている」という地元伝説。そんなバカな話だと思いつつ、彼は“何か面白い絵(え)が撮れそうだ”という直感に導かれるまま、現地を探索しようと決意する。

第二章:封鎖されたトンネルへの侵入

ある初夏の夕暮れ、高村は地元の地形図(ちけいず)を頼りに、山裾の草むらをかき分けて進む。やがてコンクリートの入口が姿を現す。柵(さく)や錆(さび)た金網(かなあみ)で「立ち入り禁止」となっているが、明らかに人為的(じんいてき)に封鎖した跡があるだけで、厳重(げんじゅう)な警備はなかった。夕闇に紛(まぎ)れて、高村は軽い足取りで柵を乗り越え、暗いトンネルへ忍(しの)びこむ。ヘッドランプの光がコンクリート壁に伸び、彼の足音が冷たい反響(はんきょう)を返す。少し湿(しめ)った空気が頬(ほお)を撫(な)で、鼻腔(びくう)には土と錆(さび)の匂いが混ざる。「ここが“ゼロ地点”か……」彼はそう呟(つぶや)き、シャッターを切ってみるが、フラッシュの光が闇を一瞬照らすだけで、すぐに飲(の)みこまれてしまう。まるでトンネル全体が生き物のように息づき、侵入者を呑みこもうとしているかのような不気味さがあった。

第三章:武家の遺物? 朽(く)ちた木箱と刀の鍔

トンネルを進むほどに、足元に落ちているがれきや鉄屑(てつくず)の量が増えてきた。そろそろ行き止まりかと思ったころ、彼は朽(く)ちかけた木箱を発見する。泥と錆(さび)がこびりつき、中身はほとんど空のようだが、かすかに徳川の紋を連想させる金具が見える。さらに近くには、刀の鍔(つば)らしき金属片が散らばっているのに気づき、高村の興奮(こうふん)は一気に昂(たか)まる。“本当に武家の埋蔵品が眠っていたのか?”――彼の心は取材を超えた好奇心と発見の喜びに跳ね上がる。ところが、ライトがその鍔を照らした瞬間、低く唸(うな)るような音がトンネル内に響いた気がする。風の音か、それとも彼の神経が生み出した幻聴か。息をのむ高村のまわりに、トンネルの闇が一層濃密(のうみつ)に立ち込めるようだった。

第四章:地上を走る列車の轟音(ごうおん)と地下の孤独

トンネルの天井は、かつて新幹線建設のために掘削(くっさく)された場所。地上にはJRや静岡鉄道が今なお高速で列車を走らせ、モダンな都市化が進む。が、それとは対照的に、高村がいる地下空間は**“近代化の象徴たる鉄道”**の裏側として忘れられ、封印(ふういん)された場所である。時折地上を通る列車の振動(しんどう)が伝わり、コンクリ壁が微かな共鳴(きょうめい)を起こすたび、彼は肉体が揺れるのを感じる。「こんな深い闇のなかで、武家の刀が眠っていたなんて……」近代日本を築いた鉄道と、武家の影が交錯(こうさく)する不穏(ふおん)な空気に、彼の精神は深く揺さぶられる。この場所が物語るのは、単なる歴史のゴミ捨て場か、それとも封印された亡霊の舞台なのか――。

第五章:幻か? 人影の囁(ささや)き

闇を進む高村は、さらに奥から微かな光を感じ取る。ヘッドランプを消し、闇に目を慣らしてみると、そこには小さな隙間から差し込む月光が水滴(すいてき)とともに落ちてきているらしい。その光の周辺に、人影のような揺らめきが見え、男の声か女の声か、囁き(ささやき)がする――。「殺された武士(もののふ)の亡霊」だろうかと馬鹿げた妄想(もうそう)を抱きつつ、心臓が跳(は)ね上がるほどの恐怖(きょうふ)と興味を抑えられない。彼は意を決して近づくが、そこには誰もいない。代わりに腰掛けのように積まれた石と、何かの紋が彫(ほ)られた破片(はへん)が散らばる。再び風のような唸(うな)り声が通り抜け、彼の身体は身震い(みぶる)する。**「ここは精神の迷宮(めいきゅう)なのか?」**と脳裏をかすめる。

第六章:刀を手にする“儀式”

夜が更け、トンネルの奥底に進んだ高村は、さらに深い部屋のような空間を見つける。そこには古い鉄扉(てつと)が錆(さび)ついて閉ざされていたが、力づくでこじ開けると、狭い空間に朽(く)ちた金属箱が幾つも置かれていた。そのうちの一つを開けた瞬間、鋭い光を放つ刀身(とうしん)が出てくる――先ほどの鍔(つば)とは合わさるだろうか。彼は興奮で手が震えながら、その刀をそっと取り上げてみる。 錆の斑点(はんてん)があるものの、まだ充分に切れ味を残していそうな刃。「これが徳川家康ゆかりの遺品なのか……」。同時に頭痛(ずつう)がし、視界がにじむ。刀を握る手は、もう自分の意識を逸脱(いつだつ)したような感覚に陥(おちい)り、まるでこの刀こそが主(あるじ)で、彼が従(したが)う者とでもなったかのよう。現実の境目が崩壊し始める。

第七章:最終的な破滅―“儀式の刃(やいば)”

しんとした暗闇の中、高村の耳には何重もの声が響く。**「この刀に血を与えよ……」という喉(のど)の奥からの指令のように。彼はうっすらと自分のカメラを見つめ、スクープなどもうどうでもよくなり、ただ刀の輝きに捉(とら)えられている。やがて、崩れかけた石の床で彼は膝をつき、刀を構えるとまるで“切腹(せっぷく)”**に臨む武士のごとき姿勢をとる。ゴォっと遠くで列車が通る振動が響き、トンネル全体が振動し、地響きに似た音を立てる中、彼の精神は高揚(こうよう)の絶頂(ぜっちょう)を迎える。「この刀とともに滅(ほろ)びるなら、俺は至高(しこう)の美を得られる――!」そう思った瞬間に、彼は刀を自身の身体へ深く当てようとする。血糊(ちのり)が飛び散ったのか、暗くてわからない。視界が揺れ、彼は何かの幻影を見ながら、トンネルの瓦礫(がれき)に崩れ落ちる。そして完全な闇が訪れる。

エピローグ:断章(だんしょう)としての静寂

翌朝、警察や工事関係者が“不法侵入”の形跡があるとの通報でトンネルを確認するが、そこに人影はなく、かつ荒らされた跡が散見されるだけ。古い箱と刀らしきものもなくなっている。近くに無造作に放られたカメラが見つかったが、フィルム(当時の設定なら)は一部が光を漏らし、ほとんど映像を残していないらしい。結局、誰が何をしようとしたのか、謎(なぞ)は闇の中。だが、地元民の一部では、「例の封印(ふういん)されたトンネルからまた亡霊が出たかもしれない」と囁(ささや)かれる。地上では、線路を走る列車が轟音(ごうおん)を立てて近代日本の象徴を続ける一方、地下の暗闇には**武家の亡骸(なきがら)と現代人の魂が絡み合う“闇と美”**が同居しているのだろう――そんな余韻(よいん)を読み手に与える幕切れである。

 
 
 

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