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ハンドバッグの選択

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月13日
  • 読了時間: 5分

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第一章:再訪の店先

ブランケットを買ったあの高級ブランドショップに、修平が半年ぶりに足を運んだ。静岡駅前のデパートのエントランスには、変わらず上品な照明と豪華なディスプレイが並び、訪れた客の心を浮き立たせる。

修平はプロポーズを成功させ、今や結婚準備の真っ最中。だが幸せな日々の中、婚約者の佳奈がこの度、仕事で昇進したと知り、ぜひ記念に何か特別な贈り物をしたいと考えた。その候補が「ブランドのアイコンバッグ」。デザイン、素材、歴史……どれをとっても象徴的な一品だという。

第二章:三人の店員、再び

店のドアが開くと、懐かしい笑顔が迎えてくれた。前回、ブランケット購入時にお世話になった三人の店員――三浦宮本、そして杉山――が、修平の姿に気づいて駆け寄ってくる。

三浦の視点

柔らかな笑顔の三浦は、丁寧な口調で挨拶しながら修平をソファに案内する。「お久しぶりです。あのブランケットは、その後もご満足いただけてますか?」「ええ、とても助かってます。今日は婚約者へのプレゼントで、ハンドバッグを考えていて……」三浦は、ほっとした笑みを浮かべてから、小声で「こちらへどうぞ」とショーケースを示す。「当ブランドのアイコンバッグは、創業当初からの哲学を引き継いだデザインなんです。伝統のパターンとステッチに、女性の自立を願う創始者の想いが込められていて……」クラシックな外観に宿る歴史とエピソードを語る三浦。その言葉には優しい温もりが滲んでいて、修平は静かに聞き入る。

宮本の視点

続いて、テキパキとした口調の宮本が割り込んでくる。「人気モデルですので、在庫がわずかです。実は、新しい限定色も出たばかりなんですよ。キャリアウーマンの方によく売れてまして、SNSでも話題になってます」宮本は資料を広げ、価格帯や売れ筋を示すグラフまで見せながら、「彼女の昇進にはステータスの高いバッグがふさわしいですよ」と自信たっぷりにアピールする。

杉山の視点

最後に、軽快な足取りでやってきた杉山は、コートハンガーから実物のバッグを取り出して「実際に持ってみましょう。重さやフィット感が重要ですから」と提案する。修平が肩にかけてみると、案外軽く感じるが、婚約者の普段の服装や使い勝手を想像すると、ちょっとイメージが決まらない。すると杉山は「佳奈さんは普段どういったスタイルでお仕事されてますか?」と踏み込んだ質問をしてきた。「えっと……わりとシンプルなモノトーンが多いですね。あまり派手じゃないというか……」「なるほど。じゃあ、このバッグなら差し色として映えますね。中の仕切りもしっかりしてるので、書類やタブレットが入れやすいですよ」実用性を重視した杉山のアドバイスに、修平は手応えを感じ始める。

第三章:アイコンバッグが秘める物語

いつものように三者三様のアプローチに心を動かされながらも、修平はどれを選ぶか決めきれない。そんな中、三浦が小さな声で言った。「実は、このアイコンバッグには特別な背景があるんです。創業者が、当時女性の社会進出が難しかった時代に“自立の象徴”としてデザインを起こしたと伝わっています。だからブランド的にも“女性の新たなステージ”をサポートするような意味合いがあるんです」歴史やブランドの理念、創設者の想いを大事にする三浦らしいストーリー。修平はそのロマンを気に入りつつも、宮本の提案する“限定色”も気になる。やはりブランド力や希少性は婚約者が持つステータスを高めるだろうか?一方で杉山は「実際に仕事で使うことを考えるなら、長く使えるシンプルな色合いを選んだほうがいいですよ。限定色は流行り廃りがあるかもしれませんから」と実践視点を挟む。スタッフ同士が微妙に意見をぶつけ合い、空気が張り詰めたような感覚がする。

第四幕:店員たちの葛藤と団結

修平は3人の店員がそれぞれ抱える想いに気づき始める。

  • 三浦: 「ブランドの哲学」を大切にし、クラシックなモデルを強く推すが、宮本のトレンド重視や杉山の実践的アプローチに押されて、自分のスタイルに自信が持てずにいる。

  • 宮本: 売上目標を背負い、最新トレンドと希少価値を軸に営業する。だが最近、「本当に顧客が求めるのは何か」を迷い始めている。

  • 杉山: 行動力があり、顧客のライフスタイルを第一に考える。けれど、自分の「実用重視」だけではブランドイメージを伝えきれないのでは、と悩んでいる。

3人が言い争いかけたとき、店長が呼び止め、「お客様の前で揉めないで。何度も言ってるでしょ」とたしなめる。3人は申し訳なさそうに頭を下げる。修平はそれを見て、むしろ店員たちの葛藤に胸が打たれる。「皆、それぞれのやり方で顧客に最善を提供しようとしてる……俺は逆に彼女たちの頑張りに応えたい」と思う。

第五幕:最後の選択

修平は悩んだ末、あえてクラシックモデルを選ぶことにした。上品で普遍的なデザインが婚約者の人生に長く寄り添うだろうという思いからだ。しかし、そのモデルの限定色にも心惹かれる。宮本の言うように婚約者が次のステージへ進む象徴にもなる。杉山は「きちんと日々使えるバッグにしたいんですよね?」と確認し、修平が頷くと「それなら、普遍的なカラーが最適だと思います。修理体制もしっかりしてるし、何十年でも使えますから」と微笑む。三浦は嬉しそうに「ブランド創設者が思い描いた“自立する女性”の姿は、まさに今回のお相手にぴったりですよ」と誇らしげだ。宮本も「いい選択だと思います。ステータスと機能を両立してますから」と納得する。

エピローグ:思いとバッグ

ハンドバッグを手にした修平は、店員たちに一礼してから店を出ようとする。そのとき杉山が駆け寄り、「婚約者さんがこのバッグを手に喜んでくださる姿を想像すると、私たちも本当に嬉しいですよ」と声を掛ける。宮本は黙っていたが、優しい目で「ありがとうございました」とつぶやく。三浦は目を潤ませて「どうか、末永いお幸せを」と微笑む。修平はあのブランケットのときのことを思い出す。あのときも三人は彼を支え、それぞれのスタイルで“より良い買い物”を導いてくれた。今回もそうだ――「商品は形が違えど、真に価値あるものを選びたいと願うお客と、それに応えたい店員たちの想いが繋がったのだ」と、改めて感じる。そうして、ハンドバッグの紙袋を抱え、修平は婚約者の待つ家へ向かう。そこには、彼女の新しいステージを応援する自分の気持ちと、店員たちの心が詰まっているように思えた。「ハンドバッグの選択」――それは大切な人と共に歩む未来を象徴する一歩でもあった。

(了)

 
 
 

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