バッグに宿る願い〜パリコレだって夢じゃない!? 新人スタッフ奮闘記〜
- 山崎行政書士事務所
- 1月20日
- 読了時間: 9分

プロローグ:世界があこがれる“クラシエール”
「クラシエールの接客は、ただ売るだけじゃない」いつもの決め台詞とともに優雅に登場するのは、フラッグシップストアのチーフマネージャー、村上。だが今日、彼女の声に耳を傾けるより先に、店内はどこか浮ついた空気に包まれていた。というのも、パリコレ(パリ・コレクション)のシーズンが近づいているからだ。世界的なファッションウィークに合わせ、あの有名デザイナーがクラシエールの新作を披露する予定……。その話題性に乗じて、限定アイテムを手に入れようとする顧客が急増中なのだ。
新人スタッフの鈴木は、ここ数日の活気に圧倒されつつも、ラグジュアリーブランドの最前線を肌で感じ、どこかワクワクしている。「パリコレ……あの華やかな舞台で、クラシエールのバッグが注目されるのかな……」そんな夢想に耽っていると、先輩スタッフの黒田が笑みを浮かべながら小声で言った。「鈴木さん、ぼーっとしてるとお客さんに声かけられちゃうよ。そろそろ限定バッグを探しに来る人が増える頃だからね」「は、はい! 頑張ります!」鈴木は背筋をピンと伸ばす。だが、次々現れる個性豊かな顧客たちは、予想を超える“多様な価値観”と“欲望”を持っていて……。
第一章:ファッションブロガーの焦燥
朝イチでやってきたのは、SNSで人気のファッションブロガー・相沢。「きゃあ、やっぱりクラシエールは最高! 私、今度パリコレに遊びに行くんだけど、現地で撮るインスタ写真がバズりそうなバッグが欲しいの!」とにかくテンションMAX、店内をスマホ片手にバシャバシャ撮影しようとするので、鈴木は慌てて制止する。「え、えっと、撮影はご遠慮いただいておりまして……!」「そ、そうなの? ごめんごめん、じゃあバッグだけちゃちゃっと見せて!」
鈴木が新作の限定バッグを何点か見せると、相沢は「これも可愛い! こっちも色がいい!」と大興奮。「私のフォロワーがきっと『いいね!』連打するはず……。ああ、でもどれが一番受けるんだろう? 迷う~!」だが、その悩み方は「本当に欲しい物がわからない」というより、「世間の評価を気にしている」ようにも見える。すると、奥から黒田がスマートに助け舟を出す。「相沢さん、写真映えも大事ですが、ご自分が心から好きになれるバッグが一番だと思いますよ」「自分が好きになれるバッグ……?」相沢がしばし考え込むと、やがてニッコリ微笑む。「あ、そうかも……。これ、私の肌の色と合うし、ここでしか買えない限定色って聞いたし……これにする!」勢い任せでもあったが、相沢は満足そうだ。鈴木は「よかった」と胸を撫で下ろす。
第二章:世界を旅する投資家の迷走
続いて姿を現したのは、投資家の財前。いつも高価なスーツに身を包み、額には常に汗がにじんでいる。「パリコレはファッションだけじゃなく、投資チャンスも多いらしい。だから、それに合わせて俺も現地に行くんだ。あと、どうせなら値上がりしそうな限定バッグを買っておきたい」そんな打算的な言葉に、鈴木は困惑する。「えっ……値上がり……? えっと……」「だって、最近はバッグも投資対象だろ? 期間限定とか数量限定ならさらにプレミアが付くし。で、おすすめは?」まるで証券会社に相談するかのような口ぶりに、鈴木はタジタジ。
そこへ黒田がやんわり割り込む。「財前さん、クラシエールのバッグは“投資目的”で買うものではありませんよ。もちろん希少価値も高いですが、大切に使っていただくことが前提です」「うーん、でも使ったら汚れちゃうし……売るときに値打ち下がるじゃん?」「それは……そうですが……」黒田が困り顔になると、横で鈴木が思い切って口を開く。「でも、もし大切に長く使って、そのバッグに特別な思い出が付いたら、お金じゃ測れない価値になるかもしれませんよ?」「お金じゃ……測れない……?」財前の目が一瞬キョロキョロとうろたえるように動く。「そ、そうかもな。俺、パリコレ行くの初めてだし……もしかしたら楽しい思い出になるかもしれないし……」そう言いながら、財前は何やら真剣な表情でバッグを見つめ始めた。どうやら彼の中で何かが動き始めたようだ。「……いいバッグ、頼むよ」小声でつぶやくその姿に、鈴木は(きっと本当は、心のどこかで“思い入れ”を求めてるんだな)と感じた。
第三章:中東の石油王!? 不思議な顧客降臨
さらに来店したのは、派手な装いをした外国人らしき男性・アリ・ハサン。どこからどう見ても“大富豪”の香りを漂わせている。「ヨロシクオネガイイタシマース。パリコレ、トテモタノシミネ。ソノ前ニ、ココノバッグ、ゼンブミル」——どうやら日本語は片言のようだが、「ここのバッグを全部見せてほしい」と言っているらしい。鈴木は焦りつつも頑張って応対する。「え、えっと……すべては無理かもしれませんが、いくつかオススメを……」
アリ・ハサンは物凄い量のバッグを一度に買おうとする。「コレ、コレ、コレ……10コクダサイ!」「じゅ、10個!?」鈴木が思わず大声を上げると、黒田が目を丸くする。「いや、そんなに一気に買っても、使い切れないんじゃ……」「ワタシ、アチコチニオクヨ! ドバイ、パリ、ロンドン、ニューヨーク……」「そ、それは確かに……」金に糸目をつけない大富豪の思考回路はやはり違う。村上もあまりの派手さに少し驚いた表情を浮かべるが、そこはさすがチーフ。「ありがとうございます。世界中でクラシエールのバッグを使っていただけるなんて、光栄ですわ」
しかし、意外なことにアリ・ハサンの瞳にはどこか寂しげな色が混じっている。「ワタシ、イツモイロンナトコいくけど、イツモヒトリ……。モシレバ、カバンガワタシノトモダチ」その一言に、鈴木はハッとする。「鞄が……友達、ですか?」「ソウネ。パリデモ、ワタシハクラシエールノバッグトイッショニ、サミシクナイ」鈴木は思わず胸がいっぱいになる。大金持ちだって、寄り添うものを探しているのだ。
第四章:本当の願いを見つける鈴木の接客
立て続けにやってくる個性豊かな顧客たち。誰もが「パリコレ」という華やかな言葉に浮き足立ちながら、それぞれが微妙に異なる“願い”を抱いている。
相沢:SNS受けを狙っていたが、実は自分自身が満足できるモノを求めていた。
財前:投資目的だったが、心のどこかで“特別な体験”を欲していた。
アリ・ハサン:大富豪だが、友達が欲しいと思うほど孤独を感じていた。
そして鈴木は、その一人ひとりに寄り添うことで、彼らの本当の願いを少しずつ理解していく。「お客様の『欲しい』は、見栄やお金だけじゃない。きっとその奥に、何か温かいものがある……」
そんな彼女の姿を見て、黒田は感心したように微笑む。「鈴木さん、ちゃんと気づけたんだ。すごいね」「い、いえ……まだまだですけど……」「でもそれが、クラシエールの接客だよ。“ただ売るだけじゃない”ってね」
第五章:パリコレ当日、あふれる喜びの瞬間
いよいよやってきたパリコレ当日。といっても、ここは日本のフラッグシップストア。遠いパリの会場では新作ランウェイが繰り広げられている。そんな中、鈴木は店のモニターでライブ配信されるパリコレのステージをちらちら見ていた。すると、村上が横に立ち、少し神妙な面持ちで言う。「パリのショーに来ている世界中の人たちも、きっと私たちのバッグに興味を持ってくれるはず。でも大事なのは……」「その人たちが、どんな思いで使ってくれるか……ですよね?」鈴木の言葉に、村上は目を細めて微笑む。「そう。あなた、ちゃんとわかってきたみたいね」
そこへ、ふと顔を出したのは黒田だ。「それにしても、今日はいろんな人から『ショーを見た!』って問い合わせが殺到してますよ。鈴木さん、準備はいい?」「は、はい! どんな方が来ても、ちゃんと寄り添えるように頑張ります!」
ちょうどその時、勢いよく自動ドアが開き、アリ・ハサンが再登場。さらに続いて財前、相沢と見知った顔ぶれも次々に店を訪れた。「やっぱりこのバッグ最高! パリコレの配信で見たら尚更欲しくなった!」(相沢)「実際に使ってみたら愛着が湧いちゃって、追加でもう一つ買おうかと思うんだけど……」(財前)「パリノショー、トテモカッコイイ。ミテタラ、マタホカノバッグモホシクナッタヨ」(アリ・ハサン)店内は一気に賑わい、てんやわんやの大騒ぎに。
鈴木は対応しながらも不思議と充実感を覚えていた。(みんな、それぞれの理由があって、それでもこのバッグを大事に思ってくれてるんだ……)
エピローグ:バッグに宿る願い
夕方になり、店が落ち着きを取り戻す頃。鈴木は小さく息をつき、店頭ディスプレイに並ぶ限定バッグをじっと眺めた。「一見同じように見えるけど、お客様が持つと、その人だけの物語が宿るんだな……」そんなふうに考えると、ただのバッグがいとおしく見える。
後ろから黒田が声をかける。「鈴木さん、今日もお疲れ様。ずいぶん板についてきたね」「黒田さん……ありがとうございます。私、まだまだ失敗もしますけど、少しだけ分かった気がします。お客様一人ひとりに、本当の願いがあって、バッグってそのきっかけになるんだなって」黒田は優しくうなずき、村上の口癖をもじって笑う。「“ただ売るだけじゃない”って、そういうことかもね」
店の外では、相沢が新しいバッグを撮影しつつ生配信していたり、財前が「投資」と言いながらも大事そうにバッグを抱えていたり、アリ・ハサンが満面の笑みで帰路についたり——どれもが、自分だけの喜びをかみしめているようだ。
パリコレの華やかさも、ここ日本のフラッグシップストアで重ねられていく日々のドラマも、形は違えど“自分らしさを求める”点では同じなのかもしれない。「バッグに宿る願い」は人それぞれ。その多様性こそが、クラシエールの真のラグジュアリーなのだ。
そう感じながら、鈴木は明日の営業に向けてディスプレイを掃除し始める。あのランウェイで輝いた新作が、今度はどんな“願い”を持つ人の手に渡っていくのだろうか——ワクワクと少しの疲れを抱えながら、新人スタッフの一日はこうして幕を下ろすのであった。
—完—
あとがき
ラグジュアリーの意味と価値観の多様性パリコレという世界的舞台を背景に、それぞれの顧客が異なる動機・価値観で限定バッグを求める姿を描きました。金銭的、SNS映え、投資目的、孤独を紛らわせたい——いずれも“本当の願い”を抱えています。
欲望と満足の形顧客は最初、華やかなイメージだけで動きますが、結局は自分の内面や人生観をバッグに投影していることに気づきます。そこに“満足”が生まれるのです。
顧客に寄り添う心の大切さ新人・鈴木が一人ひとりの想いに気づき、その背景を尊重することで顧客自身も本当の欲望や願いを見つけ出す。これは“ただ売るだけじゃない”クラシエールの精神を体現するエピソードです。
パリコレのきらびやかな雰囲気と、フラッグシップストアで繰り広げられる日常の接客ドラマを対比させながら、コメディの要素(ドタバタなやりとりや個性豊かな顧客のやや誇張されたキャラクター)を盛り込んでみました。最後までお読みいただき、ありがとうございました。





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