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フリーランスPGの法人化

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月30日
  • 読了時間: 7分

第一章:フリーランスからの出発

大学を卒業後、SIer企業でSEとして数年働いていた佐藤大輔(28歳)は、ITスキルに磨きをかけたいという思いと、「自分の力でどれだけ稼げるのか試してみたい」という好奇心から独立を決意。フリーランスとして個人事業主の開業届を提出し、雑居ビルにあるコワーキングスペースを拠点に活動を始めた。最初はWebシステム開発の下流工程(プログラミングやテスト)が主な仕事だったが、次第に要件定義や設計にも携わるようになり、案件ごとに収益は順調に伸びていった。

  • 開業届の提出

    • 税務署に「個人事業の開業・廃業届出書」を提出し、正式に個人事業主となる。

    • 同時に、青色申告承認申請書を提出し、青色申告(65万円控除)を利用できるようにする。

1年、2年と経つうちに、月の売上が安定して60万円~80万円ほどになり、年商も700~900万円台へ。個人事業のままでもそこそこやっていけるが、取引先から「法人じゃないんですか?」と問われることが増える。そんなとき、大輔の頭には「法人化」というキーワードがちらつきはじめた。

第二章:法人化を意識する理由

ある日、大輔は常駐先で仲が良いエンジニアからこう言われる。「法人にすると得意先の信用度が上がるし、節税面でメリットがあるケースも多いって聞くよ。経費計上できる範囲も広がるしね」

大輔もそれとなく調べ始めると、以下のような法人化のメリットが見えてきた。

  1. 信頼度の向上

    • 対外的に「株式会社」「合同会社」という形態の方が、“きちんとした組織”と見られ、企業からの発注が増えるケースがある。

    • 特に大手企業や官公庁案件では、個人よりも法人の方が選ばれやすい。

  2. 税制上のメリット

    • 個人事業主の場合、所得税の累進課税が高額になると最大55%(住民税を含む)に達するが、法人税率は中小企業であれば一定(年800万円以下の所得部分は軽減税率)で収まる。

    • ただし、法人住民税の均等割(赤字でも支払う固定税)があり、小規模法人でも年間7万円前後かかる(自治体により異なる)。

  3. 経費計上の幅

    • 役員給与(代表取締役報酬)を設定することで、所得分配をコントロールしやすくなる。

    • 社会保険加入が必須となるが、将来的な安定や信用にもつながる。

  4. 事業拡大への準備

    • 今後、自分以外のスタッフや外注先と提携していく場合に「法人」の方がスムーズ。

    • 銀行融資や投資家からの出資を受けやすくなる。

大輔は「そろそろ法人化するのも悪くないかもしれない」と考え始める。ただ、一方で社会保険料の負担や設立コストも存在するため、早計に動くのは避けたい。

第三章:タイプの選択―株式会社か合同会社か?

法人形態を考えるとき、多くのフリーランスPGが検討するのは「株式会社」か「合同会社(LLCに相当する日本版)」の2択だ。

  1. 株式会社

    • 設立時に「定款認証」が必要(公証役場で5~6万円程度)。

    • 登録免許税は「資本金の額 × 0.7%」で、最低15万円。

    • 社会的認知度が高く、信用を得やすい一方、書類手続きが多い。

  2. 合同会社(LLC)

    • 定款認証は不要(公証役場での認証が不要)。

    • 登録免許税は「資本金の額 × 0.7%」で、最低6万円。

    • 経営の自由度が高いが、株式会社と比べると「ブランド力が劣る」と言われがち(近年は差が薄れつつある)。

大輔は費用面や設立手続きの簡易さを考慮し、まずは合同会社でスタートすることを検討する。今後事業が拡大すれば、必要に応じて株式会社へ組織変更することも可能だからだ。

第四章:法人設立準備

合同会社を設立する場合、大きく以下のステップが必要となる。

  1. 定款(ていかん)の作成

    • 会社名(商号)、事業目的、本店所在地、資本金の額、社員(出資者)の出資割合などを記載。

    • 大輔は会社名を「合同会社D-SOFT」に決定。事業目的には「情報処理サービス業務」「システム開発」など、幅広く書いておく。

    • 定款は公証役場での認証が不要のため、Wordなどで自作し、電子定款として作成するか紙媒体で作成するだけでよい。

  2. 資本金の払い込み

    • 例えば資本金を50万円、100万円、300万円…など、開業時に用意できる範囲で設定。

    • 合同会社の場合は「1円」でも設立は可能だが、取引先の信用を考え、100万円程度を大輔は用意。

    • 自分の個人名義口座へ資本金相当額を振り込み、その通帳コピーを印刷しておく(会社設立時の証拠資料)。

  3. 法務局への登記申請

    • 管轄の法務局に、作成した定款、資本金の払込証明、登記申請書などを提出。

    • 登録免許税として、資本金の0.7%、最低6万円を支払う。

    • 提出から数日~1週間程度で法人登記が完了し、晴れて「合同会社D-SOFT」が誕生する。

大輔は専門家(行政書士や司法書士)に一部依頼することでスムーズに進めようと考えたが、費用を抑えるため自力でやるところはやると決めた。最終的に10万円ほどの費用で設立を完了できる見込みだ。

第五章:登記後の手続き

無事に登記が完了したら、以下の諸手続きを行う。

  1. 印鑑登録

    • 法人実印、銀行印、角印などを作成し、法務局で印鑑カードを受領する。

    • 取引先との契約書や銀行手続きに使用。

  2. 法人銀行口座の開設

    • 登記が完了したら、信用力向上のため法人名義の銀行口座を作る。

    • 必要書類:登記簿謄本(履歴事項全部証明書)、印鑑証明、会社実印など。

    • 法人口座ができると、売上の入金先を法人に切り替えられる。

  3. 税務署等への届出

    • 法人設立届出書、青色申告の承認申請、給与支払事務所等の開設届出書などを提出。

    • 都道府県税事務所、市町村にも法人設立届出が必要。

    • 開業の際に個人事業で得た青色申告の承認とは別扱いになるため注意。

  4. 社会保険の加入

    • 法人の場合、代表者1名でも健康保険・厚生年金保険への加入が必須。

    • 年金事務所にて「新規適用届」「被保険者資格取得届」などを提出。

    • 社会保険料は代表者の給与額に応じて計算される。

  5. 名刺・ホームページなどの整備

    • 法人名義で名刺やウェブサイトを刷新。

    • 取引先への連絡や請求書のフォーマットを切り替える。

第六章:法人運営と実感するメリット・デメリット

大輔の「合同会社D-SOFT」は、法人化直後から従来のフリー案件を引き継ぎつつ、新規プロジェクトの提案にも積極的に挑んだ。以下のようにメリットとデメリットが見え始める。

メリット

  1. 信頼度の向上

    • 新規クライアントとの面談で「法人化している」というだけで信用が増し、単価交渉もしやすくなった。

    • 銀行やリース会社と話をするときもスムーズ。

  2. 節税効果の可能性

    • 大輔は年間売上が1,200万円に近づいてきており、個人事業時の所得税率が高くなる寸前だった。

    • 法人所得として利益を計上し、役員報酬を適切に設定することで、手取り額のコントロールがしやすくなった。

  3. 事業拡大がしやすい

    • クライアントから「社員を増やしてプロジェクトを大きくできないか」と相談を受けた際、法人の方が外部人材とチームを組みやすい。

    • 業務委託契約・雇用契約など、会社として形が整っていることでスムーズに提携できる。

デメリット

  1. 社会保険料などの固定負担

    • 月々の健康保険・厚生年金などが法人として必要になる。

    • 純粋な「手取り」が減る可能性があり、個人事業よりも資金繰りに注意が必要。

  2. 設立・維持コスト

    • 登記費用や税理士・司法書士費用(任意)、法人住民税の均等割など。

    • 赤字でも支払う税金や手数料が存在する。

  3. 会計処理の煩雑化

    • 法人になると決算書類作成の手間や税務申告が複雑化する。

    • 早めに税理士や会計ソフトを導入して、帳簿管理の体制を整える必要がある。

第七章:小さな一歩から拡がる未来

法人化して半年、売上や経費の管理、社会保険料の支払いといった面倒ごとも増えたが、大輔の「D-SOFT」は以前よりも安定した受注を得られるようになった。特に取引先の中には「法人しか取引しない」という方針の企業があり、そのルートから月額80万円以上のシステム開発案件を受注できた。結果、利益も上向き、さらなるビジネスチャンスが見込めるようになった。

大輔は思う。「フリーランスのままでもやっていけたかもしれないが、法人化することで視野が広がり、将来の選択肢も増えた」と。

  • 将来の展望

    • ゆくゆくは社員を1~2名雇い、チーム体制でWeb開発を受注する計画。

    • 資金調達を検討し、銀行や公的融資機関から融資を受け、オフィスを借りる構想もある。

    • 株式会社への組織変更(「組織変更登記」)や外注先とのパートナーシップ強化なども視野に入る。

大輔は、デスクに置いた法人印鑑を見つめながら決意を新たにする。「この会社を大きくするも、小さく堅実に回すのも、自分の采配次第。法人化はゴールではなく、あくまで次のステージへのスタートだ――」

 
 
 

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