プリンアラモードの味がする街
- 山崎行政書士事務所
- 1月12日
- 読了時間: 5分

第一章:プリンアラモードの不思議な味
新静岡セノバのカフェにふらりと立ち寄ったとき、真琴はさして期待もせずに「プリンアラモード」を注文した。お腹が空いていたわけでもなく、ただ甘いものが欲しかったのだ。 ところが、一口すくって口に運んだ瞬間、言いようのない懐かしさが胸を締めつけた。ソフトなプリンの甘み、カラメルのほろ苦さ、彩り豊かなフルーツに生クリームの調和。味わいはもちろん美味しかったが、それ以上に——まるで遠い昔に一度だけ味わったことがあるような錯覚に襲われた。 「……こんな味、どこかで……」 それは現実と少し違う景色が、一瞬だけ目の奥に映りこんだような感覚。軽い眩暈を覚えながら真琴はスプーンを握りしめる。あまりに鮮烈な思い出のようで、でも思い出せない。まるで夢と現実の境目にいるようだった。
第二章:街に漂う気配
プリンアラモードを食べた帰り道、真琴は静岡駅の前を歩いていると、ふと見慣れない景色が視界の片隅に浮かび上がった。 それは、高層ビルがなく、路面電車が走るレトロな街並み。人力車まではいかないが、古い商店が立ち並んでいるように見える。瞬きすると、それはすぐに消えて、いつもの駅前に戻った。 「いまのは……空想? それとも幻覚?」 不思議に思いながらも、真琴はどこか懐かしいと思っている自分に気づく。まるで祖母が語っていた**「昔の静岡」**を瞬間的に体験したような気がして、胸がざわめいた。
第三章:祖母が語った失われた街並み
子どもの頃、真琴は祖母から静岡の昔話を聞かされていた。戦後の復興期や、駅前の再開発が進む前の、賑わいと温かみのある商店街の話だ。 しかし祖母の語った場所は既に姿を消し、詳しい場所や詳細は曖昧だったため、真琴も大人になるにつれ忘れかけていた。 けれども、今、頭に甦るのは**「祖母が懐かしそうに話していた商店街や路地の風景」**。それと同じようなイメージをあのプリンアラモードの味が呼び覚ましたのではないか。 「いったい何が起きているの……?」 そう感じながらも、どこか心が軽く躍り始めていた。まるで、祖母の思い出の中を歩いていけそうな期待——そんな淡い胸騒ぎが止まらない。
第四章:街を彷徨う幻の景色
次の日も真琴は同じカフェを訪れ、同じプリンアラモードを頼んだ。店員が笑顔で「このプリン、人気ですよ」と勧めてくれるが、真琴は「これを食べるとまたあの景色に出会えるかもしれない」と心のどこかで思っている。 実際、二度目のひと口を味わったあと、カフェの窓から外を見ると、ふっとビルの向こうに古い瓦屋根が見えた気がした。瞬きするとそれは消えてしまう。 その後、街を歩くたびに、真琴はほんの一瞬だけ**「昭和の静岡」らしき光景を目にするようになる。アーケードの商店がラジオ放送を流していたり、今はない路面電車が大通りを走っていたり……。一種のタイムスリップ**のようでありながら、儚くすぐ消えゆく幻影。そのたびに胸が締め付けられる。 「なぜプリンアラモードがトリガーになるの?」と首を傾げつつも、真琴はこの不思議な体験を受け入れる自分がいる。
第五章:パティシエの秘密
同じカフェに通い続けるうち、真琴はパティシエの有馬と親しくなり、思い切って尋ねてみる。**「このプリンアラモード、なぜか昔の景色を思い出すみたいで……」と告白すると、有馬は苦笑しながら、「そう言う人が時々いるんですよ」と返す。 聞けば、有馬が昔修行した店では“懐かしさ”**を大切にする師匠がいて、レシピの中に秘訣を仕込んでいたらしい。「実はこの味はね、昔この町にあった喫茶店のレシピを引き継いでいるんです。そこのオーナーも、昭和時代の街をこよなく愛していたとか……」 ふと、真琴は祖母の話を思い出す。もしかして、祖母も同じ店に通っていたかもしれない。だからこの味が、祖母が記憶していた失われた街並みを呼び起こしているのだろうか……。
第六章:記憶を繋ぐファンタジー
さらに街を歩き、真琴は**「祖母が通っていた店の建物は新しいビルに変わってしまったが、地中に基礎が残っている」などの情報を耳にする。まるで、かつての街並みが地中に眠っているかのようだ。 プリンアラモードを食べるたびに薄れた記憶が蘇るように、町のどこかに祖母が愛した風景の断片が埋もれている。まるでその欠片が真琴を呼んでいるよう。 ある夕方、再び幻が見えた。商店街のアーケードで人々が笑い合っている。その中に、祖母と同じ髪型をした若い女性の姿が一瞬だけ映った。驚いて声をかけようとするが、現実の街並みへスッと溶けて消える。 涙が浮かびそうになるほど切ない幸福感に包まれ、真琴はこう思う。「街は変わっても、記憶は消えていない。プリンアラモードの甘さが私の心と過去の街を繋いでくれている……」**と。
第七章:未来へ向かう味
最終的に、真琴は祖母がどんな思いでこの街を語っていたのか、少し理解できた気がした。街と家族の歴史は、たとえ外観が変わっても、人の心の中で生き続ける。 それを呼び起こすのが、今やこのプリンアラモードなのかもしれない。 ある日、有馬が言う。「このレシピ、もしよかったら一部教えましょうか。あなたも大切な誰かにこの味を伝えたくないですか?」 真琴はどこか胸が熱くなる。いつか自分が子供を授けたとき、この味を一緒に食べるかもしれない。祖母がそうしてくれたように。**「この街と同じように、私の家族の記憶もきっと続いていくんだ」と思うと、幸せな気持ちが込み上げる。 こうして、「プリンアラモードの味がする街」**という不思議な出来事は、真琴にとって大切な“再会”と“再発見”をもたらした。街の音と色が、昔と今を繋ぐように柔らかく響き合う中、真琴は明日もまた少し胸を弾ませながら、プリンアラモードを味わうだろう。 「家族の記憶も、街並みの記憶も、私たちの心にずっと残っている。甘くて優しい、この一皿とともに」——そう感じながら、街は夕闇に包まれ、柔らかな夜が訪れるのだった。





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