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プリンアラモードの約束

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月12日
  • 読了時間: 5分
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第一章:消えたカフェの味

 陽菜(ひな)にとって、プリンアラモードは特別な存在だった。幼い頃、母親と一緒に通っていた小さなカフェで、誕生日や学校行事の帰りなど、ちょっとした“おめでたい日”があると、必ず注文していたのだ。 そこで食べたプリンアラモードは、プリンの上に色とりどりのフルーツが盛られ、生クリームがふわりと乗っていて、スプーンを入れるたびに甘い幸せが口いっぱいに広がった。母親と笑顔を交わしながら食べるその時間が、幼い陽菜には何よりのごちそうだった。 しかし、そのカフェは突然閉店してしまい、母親も数年後に病で他界。いつからか、陽菜の中には、「あの時と同じプリンアラモードにはもう巡り合えないだろう」という諦めに似た思いが宿っていた。

第二章:新静岡セノバの出会い

 社会人になった陽菜は、新静岡セノバで働く友人とランチをするためにビルを訪れた。そこで、ふと目に留まったのが**「プリンアラモードが人気メニュー」とうたうカフェ**。 軽い気持ちで、久しぶりに食べてみようと思い立ち、注文してみる。すると、そのプリンアラモードをひとくち口にした瞬間、驚きと懐かしさが同時に襲ってきた。 「この味……あのカフェと同じだ!」 濃厚でありながら優しい甘さのプリン、その上を飾るフルーツや生クリームのバランス——まさに子どもの頃に食べた“思い出の味”そのものだった。まだ母と一緒にいた、あの日々の記憶が一気に胸を締め付けるように蘇った。

第三章:パティシエの正体

 思わず店員に「このプリン、どなたが作っているんですか?」と尋ねると、パティシエの江口さんだと教えられた。偶然にも、その本人が厨房から出てきてくれ、陽菜は言葉を選びながら事情を話す。 「あの……昔、母と通っていたカフェがあって。そのカフェのプリンアラモードとまったく同じ味で、とてもびっくりして……」 江口は少し照れくさそうに笑い、**「私、昔そのカフェで修行をしていたんです。そこでは、このプリンアラモードが看板メニューだったんですよ」**と教えてくれた。 カフェのオーナーは芸術肌のような人で、レシピは一子相伝。店が閉まったあとも、江口だけが味を受け継ぐように託されたという。「でも、それを懐かしんでくれる方がいて嬉しいです」と柔らかい笑みを浮かべた。

第四章:心に宿る温かい記憶

 それから陽菜は、休日にこのカフェを訪れるようになる。仕事で疲れた日も、このプリンアラモードを食べれば母との思い出がよみがえり、心の奥がほんのりと温かくなるのを感じた。 そのうち江口とも会話を交わすようになり、陽菜の母がよく通っていた頃のカフェの雰囲気や、当時のオーナーとのエピソードを聞かせてもらった。 「お母さまが、しょっちゅう女の子を連れてきていた……というか、その女の子が陽菜さんじゃありませんか?」 まさしく、あの懐かしい思い出と繋がる話だった。そうか、江口は同じ空間にいたのだと知り、陽菜は幸せなような、切ないような感情が込み上げる。

第五章:カフェに訪れる人々

 ある日、江口に頼まれて、陽菜はカフェの手伝いをすることになった。店が想像以上に忙しく、スタッフが足りないという。キッチンは任せられないが、ホールで接客するくらいなら彼女でも大丈夫だ。 そこで、陽菜はプリンアラモードを注文する人々の表情を目にする。仕事で疲れたサラリーマンがひとくち食べて「うまい」と笑顔をこぼしたり、子連れの母親が「昔食べた味に似ている」とつぶやいたり……。 同時に、彼らが抱える悩みや思い出にも、ささやかに触れる機会があり、**「このプリンアラモードは不思議と人の心を溶かしてくれるみたいだね」**と陽菜はしみじみ思う。まるで自分の母親との思い出が、少しずつ店を通じてほかの人々にも伝わっていくかのような感覚があった。

第六章:母との約束

 そんな日々を重ねるうち、陽菜は母との思い出の中に**「いつかあなたが大人になったら、一緒にあの味を作りましょう」という言葉があったことを思い出す。子どもの頃、ろくに料理もできなかったが、母は嬉しそうに笑っていた姿が鮮明だ。 しかし、母は早くに他界し、その約束は果たせなかった。陽菜はそのことをずっと胸の奥に引っかけたままだったのだ。 でも今、江口と一緒にこのプリンアラモードの工程を少しずつ学び、手伝う機会が増えるにつれ、「あの約束が少しだけ形を変えて叶いそう……」**と思えるようになる。母親はもういないが、その味を作り、誰かに届けることで、母との思い出が続いていくかもしれない。

第七章:新しい一歩

 ある日、江口が陽菜に言う。「あなた、プリンアラモードの仕上げ、もうやってみませんか? たまには、あなたが作ったその味をお客さんに出してみましょう。」 緊張しながらも陽菜は作業台に立ち、プリンの上にフルーツを飾り、生クリームを絞る。最後にチェリーを乗せる瞬間、母の笑顔や幼い自分の姿が重なり、不思議な涙がこぼれそうになる。 やがて完成したプリンアラモードをお客さんが喜んで食べてくれる様子を見て、陽菜の心は満たされる。**「母との約束を少しだけ果たした気がする。きっと母もこの瞬間を喜んでくれているはず」と感じた。 こうして、「プリンアラモードの約束」は陽菜の中で新たに生まれ変わった。母親が遺してくれた思い出は、何も終わりではなく、未来へと受け継がれていく。秋の柔らかな日差しがカフェの窓から差し込む中、店内の人々はみな、甘く優しいひと時を共有していた。 店を後にするとき、陽菜は再び母との日々を思い出し、そっと微笑む。「これからも私は、この味とともに生きるんだ」**と胸に誓いながら、新たな一歩を踏み出していくのだった。

 
 
 

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