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プリンアラモードを忘れる日

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第一章:消えたメニュー

 祐介(ゆうすけ)は、会社帰りに新静岡セノバのカフェへ立ち寄るのが習慣だった。カラフルなスイーツが並ぶショーケースをちらりと眺め、店員にいつもの一言を告げる。 「プリンアラモード、お願いします」 甘いものが特別好きというわけでもないが、仕事で疲れてげっそりしているときに、そのプリンアラモードをスプーンですくうと、心がじわっとほどけるような気がするのだ。プリンの柔らかさとフルーツの酸味、そして生クリームの軽やかさが絶妙で、思わず眉間のシワが溶けていく感じがする。 ところが、ある日いつものように注文すると、店員は申し訳なさそうに首を傾げながら、こう答えた。 「申し訳ありません、そのメニューはもう廃止されました」 何気ない一言のはずなのに、祐介の胸にグサリと突き刺さる。あのプリンアラモードがなくなった? まるで、大事に育てていた鉢植えが急に枯れてしまったような、そんな喪失感に襲われた。

第二章:いつもと同じはずの場所

 「なくなっちゃったんですか……」と呆然とつぶやく祐介を見て、店員は苦笑しながら「すみません」と頭を下げる。代わりに、別のケーキを進められたが、正直言って興味がわかない。 なんとも言えない喪失感のまま、自宅へ帰る途中に見上げた駅ビルの灯りは、いつもと変わらないはずなのに、どこか冷たく感じられた。 家に帰って夕食を済ませても、心の片隅に**「プリンアラモードが消えたんだ」という事実がじわじわと広がる。翌朝、靴ひもを結ぶ動作さえ億劫に思えるほど沈み込んでいる自分に驚く。「あんな小さなメニューの消失ごときで、ここまで落ち込むなんて」**と、苦笑いするが、そう感じる自分も否定しきれない。

第三章:なぜ消えたのか

 仕事の休憩中、ネット検索で「プリンアラモード セノバ 廃止」などと打ち込むが、有益な情報は見つからない。そもそもメニューの廃止なんて大きなニュースにはならないだろう。 だが、「どうしてなくなったんだ?」という思いがなぜか引っかかる。まるで何か大切なものが突然奪われたような感覚だ。 翌日、意を決してもう一度あのカフェに行き、店長らしき男性に直接尋ねてみる。「どうして、プリンアラモードがなくなったんですか?」 店長は少し戸惑いながら、「経営上の理由、と言いますか……原材料費の高騰や、調理の手間などがありまして。人気も決して高いわけじゃありませんでしたし……」と、まるで機械的に説明する。**「また販売する予定はありませんか?」**と詰め寄る祐介に、店長は苦い顔をしながら首を横に振るだけだった。

第四章:カフェに隠された想い

 その姿がどうにも不自然に感じた祐介は、しばらくカフェの周辺をうろうろし、店員たちからさりげなく話を聞いて回った。すると意外なエピソードが浮かび上がる。 「あのプリンアラモードは、実は先代のオーナーのこだわりメニューだったんですよね。先代の奥様が好きで……。でも現オーナーはあまり乗り気じゃなくて」 どうやら先代オーナーが亡くなった後、今のオーナーが店を引き継ぐ際、「手間のかかる割に利益が薄い」メニューを減らしたという方針があり、その一つがプリンアラモードだったという。 しかし店の古参スタッフによれば、「先代オーナーは、プリンアラモードが人の心を解かす力があると、やたら大事にしてました。でももうあの時のレシピは……」としんみりつぶやく。祐介の中で、ますます「どうにか復活させたい」と思う気持ちが芽生える。

第五章:街の変遷と小さな約束

 カフェの常連客とも話しているうちに、祐介はこのセノバエリアができる前の静岡の街並みに触れるエピソードを幾つか聞く。再開発やリニューアルを経て、消えてしまった古い店や思い出の味がいくつもあったらしい。 「そういえば俺も、子どもの頃に連れて行かれた喫茶店の味が好きだったけど、いつの間にか店がなくなっちゃって……」 それぞれの人々が、時代の変化や商業施設の移り変わりの中で、好きだった味を失い、慣れ親しんだ風景が消えていく。プリンアラモードの廃止は、その象徴のようにも思えてきた。**「街が変わるたび、人は何かを忘れてしまうのかもしれない」**と、祐介は深く考え込む。

第六章:廃止された味を取り戻す

 いつしか祐介は、「どうにかこのプリンアラモードを復活させられないだろうか?」と行動を起こすようになる。店長と何度も話し合い、古参スタッフや先代オーナーの家族にも協力を願い、「再度あのレシピをメニューに乗せましょう」と直談判する。 もちろん簡単ではなく、「採算が合わない」「今さら古いメニューは受けない」などの抵抗もあったが、SNSで支持を募ったり、先代オーナーが残したノートを探し出したりするうちに、店長の心も少しずつ軟化していく。 最終的に、店長は「試験的に期間限定で復活してみましょうか」と折れてくれた。祐介は人知れずガッツポーズを取り、嬉しさで胸が熱くなった。

第七章:思い出を繋ぐ優しい味

 そして、ついに再販売の日。メニューに**「復刻・プリンアラモード」が載り、客席にはかつてファンだったらしい年配客や、噂を聞きつけた若者が集まる。祐介はそわそわしながら店を訪れ、そのプリンアラモードを目の前にする。 スプーンですくい、一口頬張った瞬間、あの懐かしい甘さが口中に広がる。ふんわりしたプリンの食感、フルーツやクリームの絶妙なハーモニー。思わず涙が滲むほどの感動だ。 店のスタッフも笑顔で、「こういう温かい雰囲気があったんですね。やっぱり無くさなくてよかったかも」と呟く。いくつかのテーブルでは昔話に花が咲き、「この味を子どもに教えたかったの」と言う親子の姿も見える。 祐介はそんな光景を見て、心がふわりと軽くなった。街や店の姿は時代とともに変わるが、「思い出の味」を守ることで誰かの心に灯る温かさがあるのだと確信した。 こうして、「プリンアラモードを忘れる日」はもう訪れないかもしれない。少なくとも、この店には、味が繋ぐ小さな奇跡があるのだから——。 最後に店を出るとき、ビルの夜景が少しだけ柔らかく見えた。祐介は小さく笑い、「また明日、食べに来ようかな」**と呟いて、静かな街のネオンを背に歩き出した。

 
 
 

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