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丸き舞台(ラウンドテラス)――ミラノの空を見渡して


1. 見上げる尖塔

 ミラノの象徴であるドゥオーモ(大聖堂)を背に、街の中心へと伸びる石畳の道を進んでいくと、黒い鉄扉の上に「La Terrazza Rotonda(ラ・テラッツァ・ロトンダ)」という、渋い書体の看板が見えてくる。そこが、通称「ラウンドテラス」と呼ばれる屋上テラスへの入口だ。 元は古いオフィスビルの屋上だったというこの場所を、若き建築家ジュゼッペが数年前に改装し、一般公開できるカフェ&ラウンジとして甦(よみがえ)らせた。円形にせり出したテラスからは、ミラノの街並みが360度見渡せるとあって、地元の人々にも、観光客にも人気を博している。

2. 底光りする鉄の階段

 建物の一階には小さな受付と、黒い鉄製の螺旋(らせん)階段がある。階段の途中にはスリット状の窓があり、そこから差し込む陽光が、階段の手すりと磨き上げられた階段板を斜めに照らしている。 エレナという学生が、このラウンドテラスを初めて訪れたのは、大学の課題で「現代的なリノベーション建築」をレポートするためだった。友人から「いい眺めが楽しめるし、ドリンクも美味しい」と勧められ、早速やってきたのだ。

 「この螺旋階段、ものすごく絵になる……」 手すりをそっとなぞりながら階段を上っていくと、上層の方からかすかにカフェのガヤガヤした声や、グラスの触れ合う音が聞こえてきた。

3. 円形の空間と街の音

 螺旋階段を上りきると、開放的な円形のテラスが広がり、中央部分には小さなカフェカウンターやソファが置かれている。外縁にはガラスの欄干(らんかん)がめぐらされ、その向こうにミラノの建物や尖塔、ドゥオーモの一部などが見渡せる。 エレナは思わず息を呑んだ。ミラノの街並みは、古めかしい屋根と近代的なビル群が混じり合い、遠くにはドゥオーモの白い尖塔と、さらに向こうには山脈のかすかな稜線(りょうせん)がうっすらと浮かんでいる。 「これが360度見えるって、すごい……」 テラスを一周してみると、ドゥオーモ側だけでなく、ガッレリア・ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世のガラスドーム、スカラ座方面、さらには外環状線のビル群まで、あらゆる方向にミラノの顔があるのに気づく。

4. カフェ・モカの香り

 カフェカウンターのスタッフに声をかけると、笑顔で「Buongiorno!(ボンジョルノ)」と挨拶が返ってきた。おすすめはフレッシュハーブを使った自家製レモネードか、濃いめのカフェ・モカだという。 エレナは迷った末に、レモネードを注文する。透き通ったガラスのコップに、ハーブの小枝とレモンスライスが浮かび、爽やかな香りが鼻をくすぐる。 テラスの丸いテーブル席に腰掛けて、ドゥオーモ側を見やれば、遠くに小さくマドンニーナ(金色の聖母像)が輝いているのがわかる。赤い瓦屋根が続き、その間には鳩が飛び交い、風が心地よい音を運んでくる。

5. 建築家ジュゼッペとの出会い

 ひとしきり景色を堪能していると、隣のテーブルでスケッチブックを開いていた男性が話しかけてきた。 「今日は晴れてよかったね。遠くまでよく見える。」 エレナが軽く会釈すると、彼は「実はここの改装を手掛けた建築家なんだ」と名乗った。ジュゼッペ・ロッシという名で、まだ30代半ばだが、独創的なリノベーションを得意とする注目の建築家らしい。 「もともとこの建物は郵便局の事務所だったんだ。上層階はずっと放置されていてね。円形の屋根を見たとき、『ここをテラスにしたら、素晴らしい景色が一望できる』と思ってリノベーションに挑んだんだよ。」 その眼差しは、彼がこの場所に注いできた情熱を物語っていた。

6. 街の夕焼け

 日が傾くにつれ、空はオレンジや薄紫に変化しはじめる。テラスに出ていた人々も、思わず足を止めてスマートフォンやカメラを構え、夕焼けに染まるミラノを撮影する。 ガラスの欄干に映る光が揺らめき、ビルの谷間に沈む夕陽が、街全体をやわらかなシルエットへと変えていく。エレナはその様子を目を細めて見つめた。あっという間に訪れる「一瞬の魔法」を見逃さぬように、しっかりと瞼(まぶた)に焼きつける。

7. 夜景と音楽

 やがて昼と夜の境界が曖昧になる時間帯、テラスの照明がほんのりと点灯し、カフェにはジャズの音楽が小さな音量で流れ始める。夜風が心地よく、ミラノの街灯や建物のライトアップがきらめき出すと、テラスは昼間とは全く異なるロマンチックな空間へ変わる。 中心にあるラウンド型のソファでは、若いカップルがワインを傾けながら会話を弾ませている。遠くに見えるドゥオーモの尖塔もライトアップされ、まるで白いオルガンのパイプのように幽玄な輝きを放つ。

エピローグ

 ラウンドテラスの灯りが消える少し前、エレナはカフェを後にした。階段を下りながら、見上げるガラス屋根には星が瞬き、上階からはまだ賑わいの余韻が漏れてくる。 この場所は、ミラノの新旧が交差する舞台だと、彼女は思う。19世紀や20世紀に生まれた建物が、21世紀のデザインをまとって蘇り、そこから臨む街の光景は、過去と未来を同時に映し出している。 螺旋階段を地上まで降りてきたとき、外の路上ではネオンや車のヘッドライトが夜のミラノを彩っていた。エレナは一度だけ振り返り、ビルの屋上にほのかに見えるラウンドテラスを眺めて微笑む。 「また来よう。次は夜景から朝焼けまで眺めてみたいな。」 そんな期待を胸に、彼女は石畳を踏みしめて、ドゥオーモ広場へと歩き出す。ミラノの街は、深夜に向かうほどに活気を増す不思議な都市だから――このラウンドテラスも、きっと夜通し笑顔と音楽に包まれていることだろう。

(了)

 
 
 

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