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久能山の金色の石段 — 海と山が紡ぐ調べ


1. 石段を登る日常と不思議な気配

 少年・久佐は、久能山のふもとにある小さな町で暮らしていた。学校の遠足や家族の参拝で何度か訪れた久能山東照宮の石段――その1159段の長大さと、そこから見下ろす駿河湾の美しさに、ひそかな憧れを抱いていた。 ある日、クラスメイトの芽衣が「久能山って、そんなにすごい場所なの?」と興味を示したことをきっかけに、放課後の時間に二人で登ってみることに。慣れない急な石段を汗をにじませながら登っていくと、鳥居や朱塗りの社殿、周囲の森の姿が少しずつ眼下の町や海を隠していくように感じられた。 「なんか、空気が変わるんだよね。この石段を一段ずつ上がるたびに…」 久佐は嬉しそうに言い、芽衣はきらきらした目であたりを見回した。「確かに、普通の道とは違う空気を感じる…不思議」

2. 神職との出会い、家康公のエピソード

 道半ば、二人は息を整えようと休憩していると、神職の青年が穏やかに声をかけてきた。 「この山、きついでしょう? 久能山東照宮に来る人たちは、まずこの石段で鍛えられるんですよ」 神職は微笑みながら、二人を見やる。そして、久能山や徳川家康公がこの地を大切に想っていたことを教えてくれた。「家康公は、この駿河の海をひどく愛したそうです。山の上から海を眺めるとき、まるで金色に光る海が彼を励ましてくれるように感じたんじゃないかと。ここの風も、もしかしたら家康公の思いを運んでいるのかもしれないね」 その言葉を聞いて、久佐と芽衣は「金色の海なんて、見てみたい」と胸をときめかせる。

3. クライマックス:宵闇の境内、風の囁き

 いつもの放課後とは違い、この日は学校行事の手伝いで遅くなり、久能山を訪れるころにはもう日が傾いていた。夕陽が駿河湾を淡く染めるなか、二人は急ぎ足で石段を駆け上がる。 なんとか東照宮の境内にたどり着くと、朱塗りの社殿がオレンジや紅に溶け込み、夕闇と交じりあっている。頬に当たる風が少し強くなり、森の木々がざわめきはじめた。 さっきまでの静寂が、ある瞬間、鮮やかな音に変わる。風が社殿の彫刻や柱を撫で、二人の周りを渦巻くように吹き抜ける。 ――まるで誰かがささやいているかのようだ。 「家康公が、この地を護りたいと思った気持ちは、まだこの山に宿っている……」 一瞬、朱塗りの社殿が金色に光り、遠く下方に広がる駿河湾までもが夜の光を帯びて金色の海へと変わった――ように二人は感じた。でも、目をこすって見返すと、ふつうの夕闇に溶け込む海岸線があるだけ。 芽衣と久佐ははっと息をのみ、怖いのに不思議な温かさを感じ取る。

4. 結末:翌朝の光とほのかな余韻

 空が完全に暗くなる前に、二人は石段を下りはじめた。吹き抜ける夜風が背中を押すように感じられ、どこか後ろ髪を引かれる気分で山を後にする。 翌朝、久佐は「あれは夢だったのかな…」と思いながらも、胸がどこか弾むのを感じる。学校で芽衣と目が合うと、「うん」と頷き合い、会釈だけで通じるものがある。 いつもの時間に、いつもの坂道を歩きながら、二人は心のなかで昨日の光景を鮮明に思い返す。徳川家康がこの久能山を愛した理由――それは、海や山の風が届ける金色の光に励まされる想いだったのかもしれない。 そうして二人は、ふと遠くに見える山頂の神社を仰ぎ見る。朝の光が社殿を染めて、まばゆいばかりに輝いているようだ。あのときに感じた風の囁きは、今もどこかで「大丈夫だよ」とやさしく語りかけている……そんな気がした。 久能山の金色の石段は今日も静かに佇み、海と山を結ぶ穏やかな場所となっている。人々がそこへ足を運ぶたび、春の風と歴史の想いがささやかな奇跡を見せてくれるのかもしれない――。

(了)

 
 
 

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