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冬の森で、雪だるまに髪をつける



冬休みの朝、街の音から少しだけ離れたくて、小さなリュックを背負い、雪の森へ入った。空は曇りきらず、光はあるのに温度がない。吐く息は白く、歩くたびに足元の雪がきゅっと鳴って、音はすぐ木々に吸い込まれていく。

枝という枝が雪をまとい、森全体が白いレースをかぶったみたいだった。積もった雪は重いはずなのに、景色は軽い。遠くの幹が黒く引き締まって見えるぶん、白さがいっそうやわらかく感じられる。

しばらく歩くと、少し開けた場所に出た。そこに切り株がひとつ、雪帽子をのせてどっしり座っている。テーブルみたいにちょうどいい高さで、私はその横にしゃがみ込み、手袋をはめ直した。ここで、今日の目的をひとつ叶えていこうと思う。

雪だるまを作る、と決めていた。

雪はさらさらで、握るとすぐ崩れる。けれど、何度も押し固めていくうちに、手の中で少しずつ丸が育っていく。下半身、胴体、最後に頭。形が整うにつれて、森の静けさの中に、私だけの小さな作業音が増えていくのが嬉しかった。誰にも急かされない時間の中で、手だけが働いて、心はゆっくり追いついてくる。

顔をつける段になると、雪だるまが急に「誰か」になる。小枝で口の線を引くと、思ったより優しい表情になった。目は小さな黒い粒——どこから拾ったのか自分でも曖昧だけれど、雪面に落ちていたものをそっと埋め込む。ボタン代わりに胸元にも二つ三つ並べると、雪だるまはもう立派な住人の顔をした。

最後に、森らしい飾りを足す。足元に落ちていた松の枝を拾い、頭のてっぺんにちょこんとのせる。雪の白に針葉の緑が混じった瞬間、景色に色が戻る。まるで雪だるまが冬の森の「しるし」になったみたいだった。さらに細い枝を首元に巻いて、マフラーみたいに垂らす。緑の房が揺れて、急におしゃれになった。

私はしゃがんだまま、できあがった雪だるまを両手で軽く押さえた。形を整えるというより、完成を確かめるための、最後の“抱擁”みたいな動作。冷たさが手袋越しに伝わってくるのに、不思議と心は温かい。雪だるまの横に切り株があるだけで、ここは小さな舞台になる。森は観客で、雪が照明だ。

ふと、子どもの頃の冬休みを思い出す。あの頃は雪だるまが目的というより、雪に触れている時間そのものが休日だった。大人になると、休日は「休む」か「どこかへ行く」か、二択になりがちだ。でも今日は違う。歩いて、しゃがんで、作って、笑っている。体を動かしているのに、ちゃんと休まっていく。これが、冬の“アクティブな余暇”なのだと思った。

帰る前に、雪だるまの顔をもう一度見た。森の白と黒の中で、緑の髪飾りが小さく主張している。たぶん、しばらくはここで、雪の降る音を聞きながら立っているのだろう。明日、また雪が積もれば少し丸くなって、晴れれば少し痩せていく。変わっていく姿ごと、冬の時間に預けてしまっていい。

立ち上がると、足元の自分の足跡が何本も重なっていた。森の白い床に、今日の私がちゃんと残っている。私はリュックを背負い直し、振り返らずに歩き出した。背中のほうで、雪だるまが静かに笑っている気がした。

冬休みは、遠くへ行かなくてもいい。雪の森にひとつ、手のひらで作った小さな友だちがいれば、それだけで旅になる。


 
 
 

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