冬の白音――雪に覆われたザルツブルク物語
- 山崎行政書士事務所
- 2月6日
- 読了時間: 3分

1. 朝の静寂とホーエンザルツブルク城の白壁
ザルツァッハ川(Salzach)の流れがまだ眠っているかのような早朝、町の屋根から軒先までがふんわりとした雪の毛布で覆われている。**ホーエンザルツブルク城(Festung Hohensalzburg)**は、白く霞む空をバックにその塔を静かに突き立て、まるで冬の城郭画の中に入ったような光景を創り出している。 薄青い朝の光が城の石造りの壁を染め、雪を頂いた城郭が弱い反射を返す様子は、見ているだけで凛とした冷たさを感じる。やがて鐘の音が静寂を破り、街の目覚めを告げるように低く響きはじめる。
2. 石畳の旧市街と甘い香り
石畳の道を滑らないようにそろそろと歩けば、旧市街(Altstadt)のバロック建築や教会の尖塔が雪の帽子をかぶって並んでいる。時折、観光客が足を滑らせないよう手を取り合いながら笑い合う声が聞こえ、地元の人々は慣れた足取りで路地を行き交う。 やがて、甘い香りが鼻をくすぐると思いきや、カフェのドアが開いていた。ガラス越しに覗くと、ザルツブルガー・ノッケルン(Salzburger Nockerl)やアップフェルシュトゥルーデルが湯気を上げ、飲み物を温めるミルクの湯気までが白く立ちのぼっている。寒い朝には一瞬の至福を感じさせる光景だ。
3. 川面と雪のコントラスト
ザルツァッハ川の岸辺に出ると、川面には流れの速さゆえか雪が積もらず、対岸の家々が水面に逆さに映り込んでいる。白い街並みと青い川のコントラストが、絵ハガキのような美しさを見せる。 橋の上からはホーエンザルツブルク城を背景に、観光客が写真を撮る姿が目立つ。雪の空気をかき分けて吐き出される白い息が、一枚の写真に収まると、冬のザルツブルクを象徴するような絵になるのだろう。
4. 要塞へのケーブルカーと雪道
城へのケーブルカー(Festungsbahn)に乗ると、斜めに続く軌道をゆっくりと登りながら、街が一望できる景色が広がっていく。雪をかぶった尖塔や屋根、遠くの山並みまでが白銀の世界に統一され、まるでおとぎ話の国に迷い込んだようだ。 頂上まで行けば城の中庭は雪に包まれ、石垣の上には小さな雪だるまが作られていることもある。想像以上に寒い風が吹きつけるが、その分、広がるパノラマには誰もが息を呑む。ザルツブルクの街が雪の毛布に抱かれ、音を吸い込むように静かに佇んでいる姿を見る瞬間は、なかなか得難い感動だ。
5. 夜のライトアップと暖かな冬の灯
日が沈むと、ホーエンザルツブルク城や旧市街の建物にはライトアップが施され、雪に反射するオレンジの光が街全体を温かく照らす。路地の角にはグリューワイン(Glühwein)の屋台が立ち、甘いワインの湯気とともに人々がホッと息をつく姿が見られる。 音楽や笑い声が静寂の夜にほんのり溶け合い、雪に吸われるように消えていく。その気配を感じながら、白い灯りのなかで雪が静かに降る景色は、まるで静止した絵画を眺めているかのようだ。
エピローグ
ザルツブルクの雪景色――ホーエンザルツブルク城を頂く山と、旧市街の石畳を白く覆い尽くす冬の風情には、ウィーンとは異なるアルプスの息づかいが潜んでいる。 スイーツの甘い香りと、ロマンチックなライトアップ、雪を纏うバロックの教会や洋館が生み出す景観は、この街ならではの魅力だ。もし冬のザルツブルクを訪れるなら、ぜひ雪の道を踏みしめながら古都の静謐に浸ってほしい。そのかすかな物音さえ音楽に変えるような、モーツァルトの故郷らしい魔法が、きっとあなたを包み込んでくれるだろう。
(了)





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