劇場の威厳と路面電車――ウィーン、ブルク劇場前のトラム物語
- 山崎行政書士事務所
- 2月6日
- 読了時間: 3分

1. 午後のリング通りと劇場の白壁
ウィーンの中心部を取り囲む**リング大通り(Ringstraße)沿いを歩いていると、ひときわ白亜のきらびやかな外観を持つ建物が見えてくる。そこがオーストリアを代表するブルク劇場(Burgtheater)**だ。 バロック様式を想わせる柱と、神々しいレリーフに飾られた正面玄関が、通りを行き交う人々の視線を引き寄せる。観光客や学生、そしておしゃれなウィーンっ子までもが足を止めてカメラを構え、コーヒー片手に白壁を眺めている姿が目立つ。
2. トラムが描く赤と白のライン
その劇場の前を、赤と白の塗装をまとったトラム(路面電車)が軽やかに走り抜けていく。ウィーン市のトラムは、細やかな歴史と現代の機能が混ざった乗り物で、電力を受け取るポールが空へ伸びる姿もどこか愛らしい。 線路の軌道を辿りながら、カーブではぎしりとわずかに金属音が響き、通りを急ぐ人々はトラムを見送ったり乗り込んだりしている。透き通る車窓からは、丸い屋根や塔を抱えたブルク劇場がチラリと映り込み、乗客たちが思わず振り向いて見上げることもしばしば。
3. チケット売り場とエスプレッソの香り
劇場前にはチケット売り場があり、その脇をトラムが通るたびに、並んでいる人々がわずかにトラムの振動を感じる。夕方の公演を目当てにチケットを求めるウィーン市民や観光客が、オペレッタなのか演劇なのか、何を観るかを話し合いながら列を進む。 近くのキオスクではエスプレッソやザッハトルテを売る屋台が出ていて、甘い香りに誘われた人々が休憩する姿も。モダンな広告が貼られたトラムが到着しては、降りる人々の笑い声や靴音が石畳に小さく響いている。
4. 光に染まる夕刻のファサード
日が傾くにつれ、ブルク劇場の白壁は夕陽を浴びてオレンジから淡い金色に変化する。トラムの車両にもその光が差し込み、車窓越しに見る劇場の彫刻がふわりと浮かび上がるように見える。 通りの反対側に立つと、トラムの軌道越しに見る劇場の姿がまた格別。乗客を降ろしたばかりのトラムがゆっくりと発車するとき、その後ろには中央のドームや外壁の装飾がまるで背景画のようにセットされ、ウィーンの息づかいを絵画の一コマのように切り取っている。
5. 夜の光と観客の列
夜になると、劇場の外壁にライトアップが施され、アーチや彫像が白銀の輝きを放つ。公演が始まる前の時間、ドレスアップした人々が劇場の正面に集い、トラムの走る道を挟んであちこちで挨拶や会話が交わされている。 トラムは淡い夜の街灯を映しながら路面を滑り、赤いテールランプを残して街の奥へと消えていく。劇場に入る人々も、外からその光景を見守る人々も、ウィーン特有の優雅と日常がひとつになる一瞬を共有しているかのようだ。
エピローグ
ブルク劇場(Burgtheater)の前をゆくトラム――古都ウィーンが誇る芸術と文化の殿堂と、実用と歴史の詰まった路面電車が同じ空間を織りなす風景は、まさにこの街の粋を体現している。 白亜の建物と赤い車体が、朝から夜まで絶えず移ろう光の下で交わる瞬間は、ウィーン独特の情緒と品位を醸し出す。もし訪れることがあれば、トラムに乗って劇場前を通り、窓の外に一瞬広がる優美な姿を眺めるのも悪くない。きっと“音楽と文化の街”を感じる、心豊かなひとときになるはずだ。
(了)





コメント