化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(いわゆる「化審法」)の体系や規定内容を、示された各項目に沿った整理
- 山崎行政書士事務所
- 3月9日
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【法体系/担当課】
所管官庁・担当部署
経済産業省:製造・輸入・流通管理に主として関与
厚生労働省:人の健康影響に主として関与
環境省:環境影響に主として関与
化審法はこれら三省が共同で所管しており、それぞれ化学物質の審査や規制に関わる立場で連携しています。
規制内容早見表(概要)
化審法では、化学物質を大きく以下のように区分し、種類に応じた規制(届出・許可・使用制限・報告等)を行います。
新規化学物質
製造・輸入の際に事前の届出・審査が必要
既存化学物質
以下の区分ごとに規制の強度が異なる
第1種特定化学物質
第2種特定化学物質
監視化学物質
優先評価化学物質
一般化学物質
1.目的および定義
(1)目的
化学物質による人の健康または生活環境への被害を防止しつつ、化学物質の健全な利用や国際的な協調を図ることを目的としています。
(2)定義
化学物質:元素または化合物であって、天然物も含め、化審法で対象とするもの
新規化学物質:化審法施行以前から国内で流通実績のない化学物質(既存化学物質名簿に未収載のもの)
既存化学物質:既存化学物質名簿に収載されている化学物質
2.規制の概要
新規化学物質:人や環境へのリスク評価を行うために、製造・輸入の前に届出→審査→判定が必要。
既存化学物質:その有害性評価を踏まえ、リスクの高い物質を特定し、製造・輸入や使用に関して許可・届出・使用条件の制限等を行う。
規制の柱は、大きく「製造・輸入前の事前審査」「製造・使用・貯蔵などに関する規制」「リスクの高い物質の製造・使用制限や禁止」「情報伝達義務(SDS等)」などが挙げられる。
3.新規化学物質に関する規制
新規化学物質は、国内に既に存在しない物質として取り扱われ、事前審査が最も重要な手続です。
人の健康と環境への影響を調べるために、有害性試験データ等の提出を求められます。
一定の有害性や蓄積性などが認められる場合、製造・輸入を制限または禁止する制度となっています。
4.新規化学物質の製造・輸入の届出
事前届出が必要な場合
新規化学物質を年1トン以上製造・輸入する場合(原則)
届出様式・必要書類
経済産業省の所定様式に従い、物質の性状・構造式・製造量の予定・用途等と試験データを添付
届出先
経済産業省 産業技術環境局など(窓口は各地方局の場合もある)
共同届出
同一化学物質を複数社が製造・輸入する場合は共同で届出することも可能
5.新規化学物質の審査と届出資料
届出資料の基本
物理化学的性質(融点、沸点、水溶解度 など)
分解性や蓄積性に関する資料
毒性試験(急性毒性、反復投与毒性、遺伝毒性、生殖毒性 等)
魚など水生生物への影響試験
審査の流れ
書面審査:形式不備や不整合の確認
有害性評価:厚生労働省と環境省が人健康影響と環境影響の観点で評価
結果判定:製造・輸入の可否、必要があれば条件付き許可・使用制限
6.新規化学物質に係る試験・判定
試験項目
分解性、蓄積性、魚毒性試験、人に対する毒性試験など
判定基準
特定条件(高い蓄積性・長期毒性等)を満たすと規制強化
問題がない場合は一般化学物質として告示される
7.特定新規化学物質に係る試験・判定
特定新規化学物質とは
分解性が低く環境中に蓄積しやすい等、有害性が疑われる物質。
一般の新規物質より詳しい試験データが必要。
追加試験項目の例
反復投与毒性試験・繁殖毒性試験・発がん性試験など
8.新規高分子化合物に関する試験・判定
高分子化合物の特徴
一般に生体への取り込みが少ないと想定されるため、低分子化合物より規制強度が低い場合がある。
届出時の留意点
重量平均分子量、オリゴマー成分の割合、分解性など。
分子量が一定以上の“ポリマーオブロウコンセーン”かどうかで試験負荷が異なる。
9.少量新規化学物質の製造・輸入の許可
年間1トン未満で研究開発目的などに限り製造・輸入する場合、簡易な手続となることがある(いわゆる「少量新規」制度)。
申請者が少量である正当な理由(研究開発用など)を示し、必要最小限の試験データを提出。
10.新規化学物質の届出を要しない場合の確認手続
届出不要となる例
改正法以前に既に収載されている既存化学物質と判断される場合
含有率がごくわずかである場合
確認手続
化学物質が既存化学物質なのかを経済産業省に問い合わせる「照会制度」がある
ただし最終的には告示などを確認した上で慎重に判断
11.第1種特定化学物質の製造・輸入の許可
第1種特定化学物質とは
高度に蓄積性があり、かつ人や環境に対して著しい毒性を持つと判定された物質。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)などが代表例。
規制内容
製造・輸入・使用は原則禁止。
ただし、学術研究等の特別な理由がある場合は許可制。
12.第1種特定化学物質使用製品の規制
第1種特定化学物質を含有する製品(PCBが入ったコンデンサ等)は、製造・輸入・販売が原則禁止。
使用済み製品の保管・処分方法については、PCB特別措置法等、関連法令とも連動した規制がある。
13.第1種特定化学物質の使用届出
禁止が原則のため、学術研究・分析試料等で例外的に使用する場合には使用許可・届出が必要。
許可取得後も定期的な報告や保管状況の検査、事故時の対応が求められる。
14.第1種特定化学物質営業許可業者の義務
許可業者:例外的に製造・取扱いを許可された者
義務内容
安全管理措置(設備基準の遵守、漏洩防止対策等)
作業環境測定や健康診断の実施
適正な廃棄処理と記録の保存
事故発生時の報告義務
15.第2種特定化学物質の製造・輸入数量等の届出
第2種特定化学物質とは
有害性や蓄積性が一定程度認められ、使用等に一定の監視や規制が必要なもの(例:特定の難燃剤、特定可塑剤など)。
規制内容
製造・輸入量の届出(年次報告)
これらを含む製品の用途、排出抑制措置に関する義務など
16.第2種特定化学物質等取扱事業者の義務
第2種特定化学物質を取り扱う事業者は、排出量抑制や管理指針に従った対応が必要。
適切なラベル表示やSDS(安全データシート)の提供、取り扱い施設の点検・管理など。
17.監視化学物質に関する規制
監視化学物質とは
分解性は高いが、長期毒性の疑いがあり、引き続き監視が必要な物質
一定以上の製造・輸入量の場合、事前届出や年次報告が必要
監視の目的
市場流通量や実際の人・環境へのリスクを継続的に把握し、必要に応じて特定化学物質へ指定する可能性を検討
18.優先評価化学物質に関する規制
優先評価化学物質とは
新規/既存問わず、有害性が疑われるがまだ評価が十分でない物質。
製造・輸入量の届け出や詳細な有害性データの提出が追加で求められる場合がある。
19.一般化学物質に関する規制
既存化学物質のうち特定化されていないもの、または「安全性が確認された」新規化学物質が該当。
年1トン以上製造・輸入する場合には、製造・輸入量の年次報告などが義務づけられる(いわゆる「届け出制度」)。
有害性の疑いが強まる場合は監視化学物質や優先評価化学物質へ指定される可能性もある。
20.雑則
化審法の適用免除・適用除外についての規定(例えば軍事目的や極めて微量の試薬など)
情報公開・秘密保持に関する規定(申請者の営業秘密と公衆への情報提供のバランス)
権限委任・関係行政機関の協力体制の整備
21.各種化学物質の通関手続
輸入通関時に、所定の化学物質の輸入許可・届出状況が確認できないと、輸入が認められないケースがある。
税関と経済産業省が連携し、輸入者に対して化審法上の許可証または届出受理証などの提示を求めることがある。
22.他法令との関係
労働安全衛生法(化学物質管理:SDS交付、表示義務など)
PRTR法(化学物質排出把握管理)
毒物及び劇物取締法(劇物等の所持・販売規制)
大気汚染防止法/水質汚濁防止法(排出基準)
PCB特別措置法などとの整合
化審法はこれら他法と相互に補完関係にあり、個別の化学物質については複数法規が適用されうる。
23.罰則
無届出・虚偽届出
新規化学物質を無届出で製造・輸入した場合などは罰則(罰金・懲役)の対象。
違反状態の是正命令に従わない場合
改善命令・使用停止命令を受けても是正しない場合、さらに厳格な刑事罰や行政処分が科される。
公表
違反事業者名の公表など社会的制裁も合わせて行われる場合がある。
まとめ
化審法は、化学物質を分類し、その有害性や蓄積性などの評価に基づいて多段階的に規制をかける枠組みです。特に新規化学物質の届出・審査が大きな特徴であり、既存化学物質についてもリスク評価や利用状況報告を義務づけることで、人の健康と環境保護を両立させようとするものです。
他法令(労働安全衛生法、PRTR法、毒劇法など)と併せて化学物質を総合管理するため、企業や研究機関は、化審法だけでなく関連法との整合性を踏まえたうえで、試験データの準備や適正な届出・使用管理、情報伝達(SDS交付など)を行う必要があります。
もし新規化学物質や特定化学物質を取り扱う場合には、**早い段階で関係省庁や専門家(行政書士・弁護士・化学物質管理コンサルタント等)**に相談し、必要書類の整備や手続きを確実に行うことが重要です。





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