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呪われた「駿府城」の秘密

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月17日
  • 読了時間: 7分


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第一章:地下からの呻き声

 静岡市内の一角、駿府城の広々とした公園では、今日も観光客が行き交っていた。豊かな緑と堀、再現された城門など、穏やかな雰囲気が漂う場所である。 しかし、その裏手で進められている“発掘調査”の現場には、不気味な噂が流れ始めていた。 「夜になると、地下から呻き声のような音が聞こえる……」 ある作業員が怯(おび)えた調子でそう証言する。さらに、数日後、発掘作業に参加していた大学院生が突如、姿を消した。周囲には何の痕跡もなく、その晩も謎の声が誰かを呼ぶように響いたという。

第二章:探偵・名坂 圭介(なさか けいすけ)の出現

 事件の顛末(てんまつ)を耳にした警察は、一応捜索を始めるが成果は乏しい。そこで発掘を担当する研究団が民間の名探偵に協力を仰ぐことになった。 その名は名坂 圭介。 やや陰のある青年で、これまで奇妙な事件を幾つか解決しているという。駿府城の堀端(ほりばた)に現れた彼は、一見すると物静かだが、その眼差しは観察力に満ちている。 「城の地下から聞こえる声、消えた大学院生……これは単なる事故ではなさそうですね」 名坂は薄く微笑んで、発掘現場の責任者に言う。「まずは音の発生源を探りましょうか。地下に入り込める経路があるのかもしれません」

第三章:徳川家康の秘宝伝説

 駿府城はかつて徳川家康が隠居城として住んでいたことで知られ、その地にはさまざまな伝説が残っている。 その一つに、**「家康が天下の財宝を駿府城の地下に隠し、誰にも触れられぬよう呪いをかけた」**という噂があった。 昔、何度か城の地下を調べようとした者が不可解な死を遂げたというが、皆それを“家康の呪い”と恐れて口をつぐんだ、と古老たちが囁いている。 名坂は、その一連の怪談じみた逸話が本当に関連しているのか疑わしいと思いつつ、調査を継続する。なぜなら、発掘調査で偶然にも城の地下通路らしきものが露出しつつあり、そこが「地下迷宮」と繋がっている可能性があるからだ。

第四章:地下迷宮への入り口

 ある夕刻、名坂は発掘現場のリーダー・**朝倉 真知子(あさくら まちこ)**から呼び出される。 「作業員が堀の近くで不審な穴を見つけたの。試しに覗(のぞ)いたら、どうやら石造りの通路に繋がっているみたい」 それは間違いなく新発見であり、かつ危険な領域でもある。すでに大学院生が一人消えている状況で、この通路をどう扱うか検討が必要だ。 名坂は「夜中にここへ入り、人が消えた可能性が高い」と推理し、真知子に協力してもらい、夜間に二人で穴を下りてみることにする。 夜の駿府城は薄暗い照明があるだけ。虫の声と、遠くの車のざわめきが消えかけた頃、二人はロープを伝って地中へ入る。そこには冷たい空気が漂い、かすかな潮の香りすら感じる。

第五章:鐘の音と呪われた彫刻

 数メートルほどの地下を進むと、広めの空間が広がった。壁は石垣で組まれ、天井は低く、まるで江戸時代の地下貯蔵庫か隠し部屋のような様相だ。 突然、奥の方からカン……カン……という金属音が響く。まるで古い鐘が鈍く叩かれているようだ。その音色に寒気が走る。 懐中電灯を向けた先には何か彫刻のようなものが並び、一つは歪(ゆが)んだ獣の形をしているように見える。さらに、人形か仏像のようなものが腐りかけた形で立っている。 真知子は怯(おび)え、「これが呪いの根源なの?」と声を震わせるが、名坂は慎重にそれらを検分。 すると彫刻の表面に細かい文字が彫られているのを見つける。「宝ヲ狙ウ者、ココニ眠ルベシ」という警告文らしきもの……。これは明らかに誰かが“秘宝”を守るための呪詛(じゅそ)か?

第六章:姿を消した大学院生の痕跡

 さらに奥へ進むと、小さな扉があり、鍵がかかっていない。開けるとすぐの床に、人の靴が落ちていた。発掘スタッフの大学院生のものだという。 彼はきっとここに潜入し、何かに襲われたか、連れ去られたのか……と嫌な予感が走る。 奥には木箱が積まれたスペースがあり、**「家康公御宝」**と墨書きされた箱もある。一体何が?と二人が近づいた瞬間、背後で金属音が鳴り、扉が閉まった。 ――閉じ込められた! 慌てて開けようとするが鍵がかかっている。外から何者かが通路を塞いだのだ。さらに、じわじわと壁の隙間から水が滲み出してきている……ここは堀の下かもしれない。 「何とかここを破らないと、溺れてしまう!」真知子が青ざめる。名坂は周囲を照らし、緊急脱出の手段を必死に探す。幸い、先ほど見た獣の彫刻の裏に暗い裂け目がある。

第七章:迷路と暗殺者の影

 裂け目をくぐると、狭い通路が下に続く。二人は覚悟を決めて進むと、そこは本格的な地下迷路であった。 なぜこんなものが駿府城の下に? 戦国期か江戸期に作られた可能性があるが、文献には載っていない。家康が極秘に作らせたのか? ゆっくり進むと、石床に血のような痕(あと)がポツリと落ちていて、それが次の部屋へ続いている。行けば、そこに大学院生の男が倒れていた。まだ息がある! なんとか救出して外に連れ出そうとするが、足音が近づく。 青ざめた男が立ち塞がる――黒い頭巾をかぶり、短刀を構えている。彼は低い声で呟(つぶや)く。「秘宝に触れる者は皆殺しだ……」 名坂は相手と刃物をかわしながら格闘。一方、真知子は大学院生をかばう。暗闇の中でスリリングな殺陣が繰り広げられ、やがて名坂が相手の腕を捻(ひね)り上げるが、男はそのまま毒を飲んで自害する。 眼を見開いたまま息絶える男……何という狂信的行動。これは一体何を意味するのか?

第八章:徳川家康の“呪われた秘宝”

 その後、男の所持品を調べると、複数の文献が出てくる。そこには**「家康が晩年に集めた武具や黄金を城下の地下に隠し、呪術を施した」と書かれている。どうやら彼らはこの宝を守り抜く一族の末裔か、あるいは狂信者なのだろう。 迷路をさらに探索すると、古ぼけた部屋の奥に鎖で閉ざされた箱があった。開けると、中には朽ちかけた古文書と、大量の小判、家康が好んだとされる甲冑(かっちゅう)の一部が保管されている。 文書には「家康の霊的加護を得て、この宝が我が家を守る。外部の者が奪わんとするならば、血をもって呪いを成就せん」**と書かれている。 つまり、古来からこの宝を守る一族かグループがいて、発掘が進んで地下が露わになることを恐れ、青い霧(あるいは化学的な手段かもしれない)を使い、人々を怯(おび)えさせ、侵入者を殺すという狂った教義があったのだ……。

第九章:崩壊する迷宮、事件の終幕

 名坂は大学院生を抱え、真知子とともに急いで地上を目指す。だが、迷路の一部が崩れ始めた。外で警察が発掘機器を誤作動させたのだろうか、振動が走っているようだ。 辛くも別の出口を見つけ、桜の木の根元付近から地上に抜け出す。背後で崩壊の音が轟(とどろ)き、宝が埋まった部屋は土砂に埋まっていく。 そのまま宝もろとも永遠に闇の底へ沈むのかもしれない。 後に警察が再調査するが、既に崩落で満足に進入できず、犯人グループの仲間も行方が知れない。青い霧の正体も、地下の通路で作られた幻覚性ガスの類だったらしいが、その設備もろとも埋没したようだ。 町は一連の連続失踪・殺人事件に慄(おのの)きながらも、迷宮の崩壊とともに事件は終息。犯行の全容は未解明な部分を残すが、少なくとも破滅的な惨劇は回避された。

エピローグ:桜散る駿府城の朝

 数日後、駿府城の城址公園には朝陽が差し込み、桜が少しずつ散り始めている。 名坂は無傷ながらもぐったりして、ぼんやりと濠(ほり)を見つめる。彼の横に立つ真知子が、「あれほど恐ろしい地下迷路は二度と経験したくないですね」と苦笑いする。 青い霧はもう出ない。宝を巡る呪われた過去は、再び土の底へと沈んだ。そのすべてが闇に埋もれたことを安堵とする一方で、**徳川家康の“呪い”は本当だったのか、と二人は心中で思わずにはいられない。 薄紅の花びらが散る中、探偵は静かに立ち上がり、「人間の欲と怨念が形を成すとき、こんな悲劇が繰り返されるものだ。それでも、春の朝は来るんだな……」と呟(つぶや)く。 こうして「駿府城の呪い」**の事件は幕を下ろす。城の石垣は変わらずそこにあり、鳥の声が穏やかに響く。誰もが、これが最後の怪事件であってほしいと願う。 しかし、余韻としては、堀の水面に映る城の影がゆらりと揺れ、その向こうから未だ満たされぬ幽霊たちの声が微かに聞こえてくるかのような気配を残すのであった。

(了)

 
 
 

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