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地中海の風と古い船――マルサシュロックマルタの物語

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月4日
  • 読了時間: 3分

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1. 静かに息づく漁村の朝

 地中海の碧(あお)い水面が、やわらかいオレンジ色の朝陽を受けて金の帯を描く頃、**マルサシュロック(Marsaxlokk)**の港はゆっくりと目覚める。そこには色鮮やかな漁船「ルッツ(Luzzu)」が波に揺れながら並び、船首の“オシリスの目”と呼ばれる飾りが、まるで時を見守るかのように静かに視線を放っている。

 一方、少し内陸にある**マルサ(Marsa)**の地区へと伸びる道路は、工業エリアや市内への物流ルートとして早朝からトラックや車が行き交う。しかし、マルサシュロックからのんびりと海沿いを北上すれば、海風と淡い太陽の光が旅人を優しく導いてくれるのだ。

2. 船と市場と人々の色合い

 マルサシュロックの港では、朝が白み始めると漁師たちが桟橋に魚を並べ始める。色とりどりの漁船が停泊し、その周囲をカモメが旋回している光景は、地中海漁村ならではの光と音に満ちている。 日曜になると、港の周辺で青空マーケットが開かれ、地元の魚や野菜、香辛料が賑やかに売り買いされる。小さなテーブルでは試食のオリーブオイルやタコのマリネが置かれ、買い物客がその新鮮な味を確かめながら会話を交わす姿があちこちで見られる。

3. マルタ地区への道と工業の風景

 海岸線を離れ、内陸部の**マルサ(Marsa)**へ近づくと、漁港の風情とはまた異なる、産業施設や倉庫群が見えてくる。輸出入の要所として機能する倉庫が立ち並び、列車の貨物ラインが敷かれ、あたりには積み荷のフォークリフト音がかすかに響いている。 そこここに巨匠的な古い倉庫もあり、半ば廃墟のようになっているものの壁面には、風雨に晒されながらも力強く残るヨーロッパと中東を繋ぐ貿易の痕跡がある。歴史と現代が混在する風景が、マルタという小国の奥深さを物語る。

4. 海と夕陽、そして漁師の帰還

 やがて夕暮れになると、マルサシュロックの港には一日の仕事を終えた漁師たちが戻ってくる。太陽が地平線に沈むと、海面が朱や金に染まり、ルッツの船首や桟橋を温かな光が包む。 その光景を眺める人々は、地元の子供や観光客、そして市場で働く商人たち。夕陽が消えゆくまでの短い時間、忙しない一日が嘘のように、すべてがゆったりとした動きに変わる。漁船を縫うようにゆらめく光は、まるで世界の端を優しく指し示す道しるべのようだ。

5. 夜の帳と港の灯り

 日が沈みきると、マルサシュロックの静かな漁村には夜のとばりがおり、家々やレストランにオレンジの灯りがともり始める。レストランのテラス席からは、新鮮な魚介を使ったグリル料理の香りが漂い、観光客が地元ワインやマルタビールを味わいながら歓談している姿が見える。 一方、マルサの側に目を向ければ、工場や倉庫の淡い照明が点在し、トラックや列車の移動が夜間も続く。港と工場が織りなす明かりは、闇に浮かぶ人工の星のようで、休むことのない産業の活気を物語る。

エピローグ

 マルサシュロックマルタ――この両極的な場所には、伝統的な漁港と工業地帯、マルタ特有の地中海文化が織り交ざる独特の風景が広がっている。 カラフルなルッツの船が並ぶ漁村の朝市、青空の下で弾むように交わされる会話、そして工業の息遣いが感じられる倉庫群と物流の街。それらがわずかな距離の中に共存しているのが、マルタという小さな島国の底力を示すかのようでもある。 もしこの地を訪れる機会があるなら、朝の漁港から夕暮れの倉庫街まで、歩きながらその変化を感じ取ってほしい。夕陽に染まる漁船と、夜にともる工業の明かりが、マルサシュロックマルタに流れる一日のリズムを、何にも代えがたい物語として刻み続けている。

(了)

 
 
 

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