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大谷の国分寺のあとと、風のさやぎ — 柔らかな土に息づく想い

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月17日
  • 読了時間: 4分



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1. 国分寺跡との出会い

 大谷の小高い草原に足を踏み入れると、そこには静かに佇む国分寺の跡がある。 少年・陽太(はるた)は、学校の郷土学習でたまたまこの“国分寺跡”という名前を見つけた。教科書に載るほどの有名な史跡ではなく、周囲には住宅や畑が混ざり合うごく普通の風景が広がっている。それでも、陽太の心をどこかくすぐった。 放課後、自転車をこぎながら辿り着いた場所は、ほんの小さな礎石と案内板だけが残り、雑草が伸び放題の空き地のようだった。 「ここに…国分寺があったんだって。」 陽太は少し拍子抜けしながらつぶやく。ところが、ただの草むらに思えたその場所に立ってみると、なぜか胸の奥がふわりと温かくなる気がした。まるで土地そのものが囁きかけてくるようだ。

2. 少女との探検、老人の昔話

 翌日、陽太はクラスメイトの藍川 しずくに声をかけられた。しずくも歴史や古いものが好きで、この地区に“国分寺跡”があると聞き、興味を持っていたらしい。二人は土曜日を待ちわび、再びその草むらへ足を運んだ。 案内板を読み、残る礎石や土塁を探しながら、「本当にここに大きなお寺があったのかな……」と半信半疑でしゃがんでいると、一人の老人が近づいてきた。 「そこは昔、立派な伽藍があったと言われとるよ。わしの名前は渡辺。昔はもっと礎石があったが、いまは土の下に眠ってしまった」と穏やかに笑う。 「でも、人々がこの寺を建立して、祈りをささげた思いは、まだ消えとらんとわしは思うね。土や草木が、その思いを抱いてるんじゃないかな……」 しずくは「祈り…消えてない…」と呟き、陽太は胸が高鳴る。何か不思議な冒険が始まる予感がした。

3. クライマックス:夕暮れの風、過去の声

 ある夕方、陽太としずくは少し遅くまで国分寺跡に残っていた。空が茜色に染まり、日が傾くにつれ、辺りの草が赤金色に映える。 「そろそろ帰ろうか」と言いながらも、二人は雑草をかき分けながらもう一度礎石のあたりに近づく。まるで何かが呼んでいるような気がしてならないのだ。 すると、風が音もなく強まり、草がさらさらと波打ち始めた。どこか遠くから、お経なのか鐘の音なのか、低い響きが聞こえるような……そんな錯覚が二人の耳をかすめる。 「……聞こえた…? 今、何か声みたいなの…」 しずくがつぶやき、陽太は息をのむ。夕焼けの光に照らされた草むらが、まるで昔の僧侶たちが行き交う姿を重ね合わせるように揺れ、まばゆい一瞬が訪れた。ほんの一瞬、二人はかつての人々の祈りや行き交う姿を幻のように感じる。 すぐに風は静まり、草のざわめきもいつもの音に戻る。二人は恐れよりも、なぜか温かい安心感を抱いていた。「ここ、本当に昔の人の声が残ってるんだね」としずくが言い、陽太も「うん、確かにここに何かがあったって、今も言ってるみたい…」と胸を弾ませる。

4. 結末:朝焼けと穏やかな余韻

 その夜、ぽつりぽつりと小雨が降ったが、大きな嵐にはならなかった。翌朝は雲一つない青空が広がっていた。 しずくと陽太は、「もう一度だけ、朝の国分寺跡を見てみようか」と連れ立って出かける。朝日を受けた草むらは、雨粒を纏ってきらきらと宝石のように輝いている。 そこに、昨日の老人・渡辺がゆったり歩いてきた。「昨夜は雨で心配じゃったが、なんともなかったようじゃの。昔、この辺りで祈りが盛んに行われてたころも、こうやって朝を迎えてたんだろうなあ……」 老人は、草むらの中で小さな白い花が咲いているのを指差し、「ほら、こんなところに。もしや、過去の人々の気持ちが花になったのかもしれんね」と笑う。 しずくは目を見張り、陽太は微笑む。風がそっと吹き抜けて草をかすかに揺らし、まるでその花が何かを告げるようにも見えた。 こうして、大谷の国分寺跡は今も、静かに人々を受け入れる。昔の祈りといまの暮らしが、土と風を通じてつながっているような——そんなやさしい感覚を、二人は胸に抱きながら、また新しい一日を始めるのだ。かすかな風のさやぎとともに、柔らかな土に息づく想いが、いつまでも二人をあたたかく包んでいるかのようだった。

(了)

 
 
 

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