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契約書の「別途協議」は富士山より高い

――山崎行政書士事務所事件簿

山崎行政書士事務所の朝は、いつも紙の音で始まる。

契約書をめくる音。申請書に付箋を貼る音。そして所長の山崎が、なぜか毎朝くしゃみをする音。

「へっくしょん」

「先生、またですか」

しょうこは赤ペンを持ったまま顔を上げた。

「契約書に“別途協議”が多いと、鼻がむずむずするんだよ」

「まだ読んでいませんよね」

「予感だ」

その予感は、珍しく当たった。

午前十時七分。

事務所の引き戸が、まるで時限爆弾のような勢いで開いた。

「助けてください! 納期が爆発します!」

飛び込んできたのは、地元制作会社「岳南ピクチャーズ」の若社長、望月透だった。

片手にはノートPC。もう片方の手には、赤い付箋だらけの業務委託契約書。

その後ろから、制作進行の青葉みのりが息を切らして入ってきた。

「社長、まず挨拶です」

「挨拶している場合じゃない! 富士山PR動画が明後日納品なのに、クライアントが“速やかに修正しろ”って五十七項目送ってきたんだ!」

山崎は湯飲みを置いた。

「五十七項目は、もはや修正ではなく登山だね」

しょうこは契約書を受け取った。

一ページ目で、赤ペンが止まった。

受託者は、委託者の指示に従い、必要に応じて成果物を修正する。

二ページ目。

納品後、委託者は速やかに検収を行う。

三ページ目。

追加作業の費用は別途協議する。

四ページ目。

著作権の帰属は別途協議する。

五ページ目。

秘密情報の管理方法は必要に応じて定める。

六ページ目。

クラウド保存先は速やかに共有する。

しょうこは無言で契約書を閉じた。

望月が青ざめた。

「だめですか」

しょうこは静かに言った。

「この契約書、富士山より高いです」

「え?」

「“別途協議”が積み上がりすぎています」

山崎は腕を組んだ。

「しかも“速やかに”が山道で走っている」

みのりが泣きそうな顔で言った。

「やっぱり、うちが悪いんでしょうか」

しょうこは首を振った。

「悪いかどうかを決める前に、契約書と事実を分けましょう。今回確認するのは六つです。検収期限、修正回数、追加費用、著作権、秘密保持、クラウド保存先」

「六つ……」

望月は椅子に沈んだ。

「富士山でいうと何合目ですか」

「まだ登山口です」

しょうこは即答した。

1 曖昧語たちの襲来

岳南ピクチャーズは、地元観光協会から富士山周辺PR動画の制作を受託していた。

動画は三分。納期は今週金曜。撮影、編集、テロップ、ナレーション、BGM、SNS用短尺版まで含む。

ところが、納品三日前になって観光協会から届いた修正依頼は、五十七項目。

「雲の動きをもっと希望に満ちた感じに」「富士山をもう少し堂々と」「ナレーションをやや親しみやすく、しかし格調高く」「全体的に、必要に応じて感動を増やす」「速やかに対応希望」「追加費用は別途協議」

しょうこは画面を見て、目を細めた。

「“希望に満ちた雲”とは」

みのりが弱々しく答えた。

「私も確認しましたが、“見ればわかる”と言われました」

山崎がうなずいた。

「見てもわからないものを、見ればわかると言う。契約怪談だね」

その瞬間だった。

事務所の照明が、ふっと暗くなった。

机の上の契約書が、ぱらぱらと勝手にめくれた。

望月が叫んだ。

「出た!」

紙面から、もやのようなものが立ち上がった。

最初に現れたのは、背の高い紳士だった。山高帽をかぶり、手には会議用の分厚い資料を持っている。

胸には名札。

別途協議

「ほっほっほ。細かいことは、後で話しましょう」

次に現れたのは、短距離走者のような男だった。足元だけ異様に速く、顔はぼんやりしている。

名札には、

速やかに

「急げ! ただし何時までかは言わない!」

最後に出てきたのは、霧のような女だった。近づくと遠ざかり、遠ざかると耳元で囁く。

必要に応じて

「必要かどうかは、その時の気分で……」

みのりが悲鳴を上げた。

「契約書が擬人化した!」

山崎は真顔で言った。

「しょうこくん、ついに見えるようになったか」

しょうこは額を押さえた。

「いえ、これは望月さんたちの疲労と、先生の朝の濃いコーヒーが生んだ集団妄想です」

「でも、別途協議さんが私のバッグを開けています!」

みのりが叫んだ。

別途協議は、五十七項目の修正依頼書を抱えて笑っていた。

「追加費用? 納期延長? 著作権? まあまあ、別途協議で」

速やかには、ホワイトボードに大きく書いた。

本日中! できれば今! でも正式期限は未定!

必要に応じては、クラウド保存先の欄を霧で包んだ。

「どこに保存したかは、必要に応じて思い出しましょう」

しょうこは赤ペンを握った。

「いいでしょう。曖昧語退治です」

2 納期トラブルの火種

しょうこは、まず時系列を作った。

四月一日、業務委託契約締結。四月五日、構成案提出。四月九日、観光協会が了承。四月十五日、撮影。四月二十二日、初稿納品。四月二十四日、観光協会から一次修正二十一項目。四月二十六日、修正版納品。四月二十八日、二次修正十三項目。四月三十日、再修正版納品。五月一日、三次修正五十七項目。

しょうこは、五月一日の欄に大きく丸をつけた。

「問題は、修正回数と検収期限が決まっていないことです」

望月は肩を落とした。

「“必要に応じて修正”と書いてあります」

「それが危険です。“必要”の判断者が誰か、回数は何回か、軽微な修正か仕様変更か、追加費用が出る条件は何か。全部が霧です」

霧の女、必要に応じてが嬉しそうに踊った。

「霧です。私です」

しょうこは赤ペンで、契約書の条文を囲んだ。

「たとえば修正文案では、こうします」

委託者は、成果物受領後五営業日以内に検収結果を通知する。当該期間内に具体的な不適合の通知がない場合、成果物は検収に合格したものとみなす。

速やかにが、足をもつれさせた。

「五営業日……だと……? 私の曖昧な俊足が……」

しょうこは続けた。

無償修正は、契約仕様に適合しない箇所の修正に限り、二回までとする。仕様変更、構成変更、追加撮影、追加尺、別媒体用編集、ナレーション再収録は、別途見積りの対象とする。

別途協議が胸を押さえた。

「別途協議ではなく、別途見積り……! なんと具体的な攻撃……」

山崎が感心した。

「赤ペンが刀に見えるね」

みのりは少し笑った。

「しょうこさん、強い……」

望月はPCを開いた。

「でも、クライアントは“契約書には必要に応じて修正とある”と言っています」

しょうこは頷いた。

「だからこそ、今ある契約については、事実と相手方の修正内容を整理して、追加費用や納期延長の協議資料を作ります。私は交渉代理はしませんが、文案と論点整理はできます」

「次の契約では?」

「曖昧語を富士山の五合目で止めます」

山崎が言った。

「山頂まで行かせると遭難するからね」

3 消えたクラウドフォルダ

事件は、そこで終わらなかった。

みのりのスマートフォンが鳴った。

観光協会の担当者、古屋からだった。

「クラウドに上がっている最新版、壊れてます。昨日の夜、差し替えたんじゃないですか?」

みのりの顔が白くなった。

「差し替えてません。昨日の夜は誰も作業していません」

望月が叫んだ。

「最新版が壊れた?」

「はい。テロップが古い版に戻って、BGMも仮音源になっているそうです」

しょうこの目が鋭くなった。

「クラウド保存先の管理は契約書にありますか」

望月は首を振った。

「“速やかに共有する”だけです」

速やかにが得意げに胸を張った。

「共有したぞ! 誰が、どこに、いつまで、何を置くかは知らん!」

しょうこは、みのりに確認した。

「保存先はいくつありますか」

「制作会社側のクラウド、観光協会側の共有フォルダ、外部ナレーターさん用の転送サービス、あとBGM会社の素材フォルダです」

山崎が呟いた。

「クラウドが四つ。富士山どころか日本アルプスだね」

蓮斗がいればログを追っただろうが、この日は不在だった。しょうこは代わりに、みのりに画面共有してもらい、更新履歴とファイル名を見た。

fuji_PR_final.mp4fuji_PR_final2.mp4fuji_PR_final_本当.mp4fuji_PR_final_本当_差替.mp4fuji_PR_final_これでお願いします.mp4fuji_PR_final_これでお願いします_古屋確認用.mp4

山崎は深く頷いた。

「人類は“final”に何度も敗北している」

しょうこは、更新者を見た。

最新版を差し替えたのは、観光協会の担当者ではない。

ユーザー名は、

guest-narration

みのりが目を見開いた。

「ナレーターさん用のゲストアカウントです。でも、その人は音声ファイルを上げるだけのはず」

しょうこはクラウドフォルダの権限一覧を見た。

ゲストアカウントに、編集権限が付いていた。

「原因はこれです。保存先、権限、命名ルール、版管理が契約でも運用でも決まっていない」

望月は頭を抱えた。

「ナレーターさんが壊したんですか」

「まだ断定しません」

しょうこは更新履歴をさらに見た。

差し替え時刻は、深夜一時十二分。ファイル名は、観光協会側の古いファイル名。アップロード元コメントには、こうあった。

必要に応じて最新版へ戻しました。

必要に応じてが、霧の中で笑った。

「私の出番です」

そのとき、みのりが小さく言った。

「この言い回し、古屋さんじゃないです」

「誰ですか」

「うちの元アルバイト、八代くんです。彼、いつも“必要に応じて戻します”って言っていました」

望月の顔色が変わった。

「八代? 先月辞めたはずだぞ」

しょうこは静かに言った。

「退職者のゲスト権限が残っている可能性があります」

山崎が天井を見た。

「最近、辞めた人のアカウントはよく夜に働くね」

4 別途協議の山頂

八代に電話をかけると、彼はすぐ出た。

「え、僕、何もしてませんよ。昨日の夜は寝てました」

「では、ゲストアカウントを使っていましたか」

「使ってないです。というか、まだ残ってるんですか?」

声は本当に驚いていた。

みのりが首を振った。

「嘘をついている感じはしません」

しょうこは更新履歴を見返した。

guest-narrationナレーター用。元アルバイトの口癖。観光協会側の古いファイル名。

三つが一人に重ならない。

「望月さん、外部ナレーターさんのお名前は?」

「八代まどかさんです」

会議室が止まった。

「元アルバイトの八代くんは?」

「八代拓です」

山崎が呟いた。

「八代が二人」

みのりがPCを操作した。

「まどかさんに送った招待メール、宛先を間違えています。八代拓くんの古いメールアドレスにも送っています」

「つまり?」

しょうこが確認する。

「ナレーターの八代まどかさん用に作ったゲスト権限が、元アルバイトの八代拓くんにも届いていた。でも、拓くんは使っていない」

山崎が首をかしげた。

「では、誰が深夜一時に」

みのりは、はっとした。

「自動同期です」

「自動同期?」

「八代拓くんが在籍中に使っていた古い編集PCが、会社の倉庫にあります。あれにクラウド同期アプリが残っていたかも」

望月は椅子から立ち上がった。

「倉庫!」

一同は岳南ピクチャーズへ向かった。

倉庫の奥。使われなくなった編集PCが、静かに光っていた。

モニターには、同期アプリの通知。

競合ファイルを必要に応じて復元しました。

必要に応じてが、霧の向こうで高笑いした。

「私ではなく、同期アプリでした」

山崎が言った。

「いや、君のせいでもある」

PC内には、古いPR動画ファイルが残っていた。同期アプリがクラウドの競合を誤認し、古い版を“最新版らしき名前”で戻していたのだ。

納期トラブルの犯人は、観光協会でも、ナレーターでも、元アルバイトでもなかった。

クラウド保存先と権限管理を曖昧にした契約と運用だった。

望月は小さく言った。

「うちの“必要に応じて”が、深夜に暴れたんですね」

しょうこは頷いた。

「はい。曖昧語は、契約書の中だけでなく、現場でも暴れます」

5 赤ペンの修正文案

山崎事務所に戻ると、しょうこは修正文案を作り始めた。

望月とみのりは、まるで登山者が避難小屋にたどり着いたような顔で待っていた。

しょうこはまず、検収条項を直した。

委託者は、成果物受領日から五営業日以内に、検収結果を電子メールで通知する。不合格とする場合、委託者は、契約仕様に適合しない箇所を具体的に示すものとする。期間内に通知がない場合、成果物は検収に合格したものとみなす。

次に、修正回数。

無償修正は二回までとし、契約仕様に適合しない箇所の修正に限る。構成変更、尺の変更、追加撮影、追加素材制作、ナレーション再収録、SNS用別編集その他仕様変更に該当する作業は、有償の追加業務とする。

追加費用。

追加業務は、作業着手前に、作業内容、納期、費用を記載した見積書または注文書により合意する。

著作権。

成果物に関する著作権の帰属、利用許諾範囲、二次利用、改変、著作権法第二十七条および第二十八条に定める権利の取扱いは、別紙に定める。

秘密保持。

受領した非公開資料、撮影前情報、未公開映像、出演者情報、価格情報その他秘密として指定された情報を、目的外に使用してはならない。保存、共有、削除、返却の方法は、別紙情報管理表に定める。

クラウド保存先。

成果物、素材、修正指示、検収記録の保存先は、別紙クラウド管理表に定める。編集権限を付与する者、閲覧のみの者、ゲストアカウントの有効期限、退職者・契約終了者の権限削除、版管理ルールを明記する。

しょうこは最後に、短い別紙名を付けた。

別紙一 制作仕様書別紙二 検収・修正ルール別紙三 追加業務見積ルール別紙四 著作権・利用範囲表別紙五 秘密情報・クラウド管理表

別途協議は、真っ青になった。

「別紙に……分解された……」

速やかには、五営業日の欄を見て膝をついた。

「期限が……数字になった……」

必要に応じては、霧から人の形に戻り、少し寂しそうに笑った。

「私も、使いどころが決まれば悪者ではないのに」

しょうこは赤ペンを置いた。

「そうです。曖昧語は全部が悪ではありません。ただ、責任やお金や納期に関わるところで暴れると危険です」

山崎が穏やかに言った。

「富士山も、登山道があれば登れる。道がなければ遭難する」

望月は修正文案を見つめた。

「これなら、次の案件で揉めずに済みますか」

しょうこは正直に答えた。

「揉める可能性をゼロにはできません。ただ、どこで何を確認するかが見える契約になります」

みのりは、初めて大きく息を吐いた。

「見えるだけで、こんなに安心するんですね」

6 富士山は逃げない

翌日、岳南ピクチャーズは観光協会に、現在の契約で対応できる修正範囲と、追加費用が必要な範囲を整理した資料を送った。

山崎事務所は交渉代理はしない。ただ、しょうこが作った資料は、誰が見てもわかる形になっていた。

修正五十七項目のうち、契約仕様に含まれる軽微修正は十八項目。追加費用が必要な仕様変更は二十九項目。クライアント側素材待ちが六項目。確認不能または表現が曖昧なものが四項目。

観光協会の担当者、古屋は、最初は不機嫌だった。

しかし、資料を見て態度を変えた。

「すみません。こちらも“速やかに”で済ませすぎました」

古屋は電話口で言った。

「雲を希望に満ちた感じに、は、私も今読むと意味がわかりません」

望月は笑った。

「では、“夕焼けの明るさを少し上げる”で進めます」

「お願いします。追加費用が出る分は、協会内で承認を取ります」

納期は三営業日延長。SNS用短尺版の追加編集は別見積り。著作権の取扱いと二次利用範囲は、次回契約から別紙で明確化。クラウドの編集権限は岳南ピクチャーズ側に限定し、観光協会は閲覧とコメントのみ。

深夜に暴れた古い編集PCは、みのりが神妙な顔で電源を落とした。

「成仏してください」

山崎が横で手を合わせた。

「曖昧語の霊も一緒にね」

しょうこは冷静に言った。

「電源を落とすだけではなく、同期設定の解除とアカウント削除記録を残してください」

「はい」

みのりはすぐメモを取った。

7 別途協議さんの就職先

一週間後、岳南ピクチャーズのPR動画は無事に公開された。

富士山は堂々としていた。雲は、必要以上に希望に満ちてはいなかった。ナレーションは親しみやすく、格調もほどほどだった。

山崎事務所に、望月とみのりが菓子折りを持ってやって来た。

「ありがとうございました。契約書の見直し、社内の標準ひな形にします」

しょうこは微笑んだ。

「ひな形は、使うたびに案件に合わせて確認してください。ひな形を信じすぎると、また別途協議さんが育ちます」

望月は苦笑した。

「実は、社内で曖昧語禁止ポスターを作りました」

みのりがポスターを広げた。

そこには、山高帽の紳士、短距離走者、霧の女が描かれていた。

別途協議は、別紙へ。速やかには、期限へ。必要に応じては、条件へ。

山崎は拍手した。

「いい標語だね」

しょうこは少し笑った。

「別途協議さんも、完全追放ではありません。将来本当に話し合う必要がある事項には使えます。ただし、何を協議するのか、いつまでに協議するのか、協議がまとまらない場合どうするのかを書くことです」

その瞬間、事務所の隅に、あの山高帽の紳士が一瞬だけ現れた気がした。

別途協議は、帽子を取って礼をした。

「わたくし、今後は別紙五号室で暮らします」

速やかには腕時計をつけていた。

「私は、三営業日以内に転職しました」

必要に応じては、霧ではなく、薄い半透明の付箋になっていた。

「条件があると、私も落ち着きます」

みのりが目をこすった。

「今、見えました?」

山崎は湯飲みを持ち上げた。

「契約書を整えると、曖昧語も成仏するんだよ」

しょうこは赤ペンを閉じた。

「成仏ではなく、定義です」

事務所に笑いが広がった。

富士山は、今日も窓の遠くに見えていた。

高く、白く、動かない。

けれど、契約書の中の「別途協議」は、放っておくと富士山より高くなる。

「速やかに」は、期限がなければ夜中まで走り続ける。「必要に応じて」は、条件がなければ霧になって責任を隠す。「著作権は別途協議」は、公開後に山崩れを起こす。「クラウド保存先は共有する」は、誰が消したかわからない谷を作る。

しょうこは、完成した修正文案の表紙に一行を書いた。

曖昧な言葉を責めるのではなく、数字と条件と別紙で居場所を与える。

山崎はそれを見て、しみじみと言った。

「契約書も、人間関係も、曖昧なままでは高く積み上がる。だけど、言葉にすれば登れる山になる」

しょうこはうなずいた。

「はい。登山道のある契約書にしましょう」

その日から山崎行政書士事務所では、曖昧な契約書を見るたび、誰かが必ずこう言うようになった。

「その“別途協議”、富士山より高くなっていませんか」

そして、赤ペンが入る。

山頂まで行く前に。

作中の実務背景

著作権の譲渡については、著作権法61条2項が、同法27条・28条の権利について「特掲されていないとき」は譲渡した者に留保されたものと推定する旨を定めています。そのため、動画・デザイン・Web制作などの契約では、著作権の帰属だけでなく、二次利用、改変、27条・28条の扱いを具体化することが重要です。2026年5月13日にe-Gov法令検索で確認しました。

秘密保持については、経済産業省が「秘密情報の保護ハンドブック」を公開しており、2024年2月改訂版として情報漏えい対策や各種契約書等の参考例が示されています。作中の「秘密情報・クラウド管理表」は、秘密情報を指定し、保存・共有・返却・削除の方法を明確にする発想を物語化したものです。

クラウド保存先については、IPAの「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」2026年3月27日公表版で、クラウドサービス選定時の確認ポイントとして「何に使うか、どんな情報を扱うか」「誰が使うのか、どう管理するか」「データ保存先は何処の地域か」などが挙げられています。作中のクラウド管理表は、保存先、権限、ゲストアカウント、有効期限、版管理を契約・運用に落とし込むための工夫です。


 
 
 

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