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安倍川駅 河川敷に浮かぶ二人の足跡

序章:謎の足跡

安倍川駅の裏手から歩いて数分、堤防を下った河川敷には、朝もやの中に大小の足跡が残されていた。発見したのは早朝散歩をしていた老人で、川原に沿って延びる二人分の足跡が並んでいたのだが、なぜか途中でぷっつり途切れている。そして、その先に人の姿はどこにも見当たらなかった。

「一体いつ、誰がこんな足跡を……」

県警捜査一課の刑事・今井が現場に到着した頃には、川面を吹き抜ける冷たい風がさらに足跡を薄く削りつつあった。夜間の雨は降らなかったため足跡は比較的はっきり残っているが、川を渡った痕跡も、引き返したような足跡も認められない。地元住民も「夜中に人の声など聞かなかった」と口を揃える。まるで二人の“人影”だけが河川敷に降り立ち、そのまま消えてしまったようだ。

第一幕:被害者の失踪

その翌日、近隣住民から「夫が帰ってこない」という失踪届が出された。失踪したのは、安倍川駅近くに住む会社員・芹沢。夜勤帰りのはずが姿を現さず、携帯も繋がらない。最後に目撃されたのは深夜0時ごろ、安倍川駅の改札を出る姿だったという。「夜勤明けで疲れているはずなのに、なぜ河川敷へ寄ったのか?」今井は芹沢の足取りを徹底的に洗う。同僚の証言では、「いつも帰りはタクシーかバスを利用する。まして夜中に川辺を歩くなんて聞いたことがない」という。にもかかわらず、現場の足跡は確かに深夜〜早朝にかけて付いたと思われる状態だった。そして、もう一人の足跡は誰のものか。被害者は誘拐されたのか、それとも共犯関係にある人物がいたのか。

第二幕:川を渡らない足跡

足跡の謎を解明するため、鑑識が詳しく調べた結果、二人の足跡は片方が靴の裏に特徴的な磨耗があり、もう一方はサイズがやや小さい。一見すると並んで歩いているようだが、途中から足取りが不自然な間隔に変化しており、少し混乱の痕跡が見て取れた。さらに奇妙なのは、川岸ギリギリまで足跡が続いているのに、そこから先は何もない という点だ。足跡が急に消えているのに、水辺には人が入った形跡がない。川幅もそれなりにあり、増水しているわけでもないこの時期、泳いで渡るとも考えにくい。「ボートでも用意していたのか? しかし足跡や砂利の乱れが少ないし、車のタイヤ痕も見当たらない」今井の頭には、ある種の“空白”が浮かんでいた。

第三幕:鉄道高架が映す深夜の影

安倍川駅の近くには鉄道の橋梁がかかっている。東海道線の列車が安倍川を横断する際、高架下にも小さな桁(けた)橋があり、保線や点検用の通路が設置されているという。今井が駅員から話を聞くと、深夜帯に回送列車や貨物列車が通るタイミングがあることがわかった。「ひょっとすると、川の中を渡らずに橋桁を使って対岸へ抜けたのかもしれない。足跡がぷっつり切れるのはそのため……?」駅職員の証言では、深夜の見回りや保線作業の合間なら通路に人が入っても気づかれにくいとのこと。しかし、それには何かしらの合鍵や社内権限が必要になる可能性もある。今井はそのルートを確認すべく調査を進めると、芹沢の知人に鉄道関連会社に勤める人物がいるという情報が浮上した。「芹沢はその人物から“深夜に橋桁へ通じる簡易鍵”を借りていたかもしれない」という噂が広まり、芹沢自身が何らかの目的で川を渡ったのではないかと推測が強まった。

第四幕:消えた被害者の真意

だが、実際に足跡が示す状況はもう少し複雑だった。二人の足跡のうち、小さいほうは芹沢の妻・美咲のものかもしれないという話が出てきたのだ。美咲は失踪届を出した張本人だが、捜査を進めるうちに「夜、外出していた形跡がある」との近隣証言が出始める。夫を探しているはずの妻が、同じ夜中に河川敷をうろついていた? そして行方が分からないのは夫だけ。夫婦間で何か金銭トラブルや秘密があったのではないか――。今井が美咲を問いただすと、彼女は翌朝になって河川敷へ駆け付け、夫を探そうとしたのだと証言した。確かに二人は口論しており、美咲は「彼が深夜に川べりへ向かうかもしれない」と考えて後を追った。しかし到着したときには夫は既に姿を消しており、美咲も途方に暮れて駅へ戻るしかなかった。「川岸では夫の足跡を見つけたけど、川に落ちた形跡もないし、向こう岸へも行っていない。まるで消えたみたいで……怖くなって黙っていた」そう打ち明ける美咲の顔には怯えが混じっている。

結末:真犯人と足跡の謎

真相が明らかになったのは、橋桁の闇 を捜査した結果だった。芹沢は不正取引に手を染めていた鉄道関連会社の人物と密会し、深夜に橋桁通路を利用して「金品の受け渡し」を行う計画だった。だが、トラブルが発生し、芹沢は闇取引の相手に連れ去られてしまったのだ。川岸の足跡がぷっつり途切れていたのは、橋脚付近のフェンスが切断され、そこから高架へ登る簡易階段が設置されていたから。足跡は川を渡ったのではなく、上下の立体移動 によって消えた。一方、美咲が追いついた頃には既に芹沢は脅されて連行され、通路を伝って移動し姿を消していた。美咲の足跡も確かに残ったが、夫を探せぬまま途方に暮れて戻ったため、余計な疑いを招いたのだ。犯人グループは列車のダイヤを熟知し、貨物列車が通過しないわずかな時間帯を利用して芹沢を対岸へ連れ去り、そこから車で逃走。彼らの目的は不正取引の証拠を隠滅することにあった。結局、今井たちが行き先を割り出し、芹沢も保護されたが、彼は自分の犯罪行為が露呈するのを恐れ黙っていたという。

「結局、足跡が示す通り、川を渡らずに消えることは可能だった。夜の安倍川と鉄道橋桁が用意した、まさに立体的な逃走ルートだったわけか」河川敷には朝日が当たり、消えかけた足跡が最後の輪郭を見せている。今井はその光景を見つめながら、鉄道の正確なダイヤと地形の盲点が組み合わさった犯行の巧妙さに思いを馳せた。誰もが川を渡ったかと疑うなか、犯人は上へ逃げていた――それが二人分の足跡が行き先を示さず消えた理由。夜明け前の安倍川の冷気はまだ肌を刺すようだが、事件の霧はようやく晴れ、列車はいつも通りの時刻で安倍川駅を通過していくのだった。

 
 
 

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