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富士山と龍の伝説

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月22日
  • 読了時間: 6分

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静岡市に住む少年・**和真(かずま)**は、ある晩不思議な夢を見ました。灰色の霧に包まれた山の頂で、大きな龍が寝息をたてながら眠っている。まばらに銀色の鱗を光らせるその姿は、どこか神聖で寂しげでもあり、少年を呼ぶようにうっすらと瞼を開けている――。

 翌朝、和真は胸の奥に残るその夢の余韻に落ち着かない気持ちを抱きつつ、窓から富士山を眺めました。いつもと変わらないはずなのに、その山頂が妙に神秘的な力を帯びて見える。「富士山に龍が眠る」という伝説を、昔、祖母が語っていたことを思いだし、まさかその龍が本当にいるのかと胸を高鳴らせます。

龍の伝説の手がかり

 和真は学校の図書室や地域の資料館で、「富士山と龍」に関する伝承を探し回りました。するとこんな一節を見つけます。

古い記録「富士の火山力を鎮めるため、遥か昔に龍が山中へ降り、長い眠りについた。もし人間の欲や破壊で山が苦しめば、龍は目覚め、炎と風をもって災いをもたらす。その牙を抑える鍵は、人と自然が結び合う心にあり――。」

 環境破壊や気候変動にさらされる富士山の現状を思うと、これがただの伝説とは思えない。和真は、その「龍の眠り」を維持するための“鍵”とは何なのか探りたいという衝動に駆られました。

富士山へ――龍の目覚めの予感

 しばらくして、和真は週末を利用して富士山麓へ向かうことにしました。目的は、山が抱える問題に少しでも触れたかったから。現地では、土砂崩れのリスクや外来植物の侵入、ゴミの不法投棄などが深刻化しているという話を耳にします。地元の人々も手を尽くしているが、根本的に変えなければならないことが多いようでした。

 その夜、和真は山麓の宿舎で眠りにつき、再び夢を見ます。今度は龍の瞼が少し開きかけ、赤い虹彩が揺れている。その周囲には黒い煙のようなものがまとわりつき、龍の顔が苦悶にゆがんでいるかのよう――。まるで「山が苦しんでいる」と訴えているようでした。

龍の声と山の精霊たち

 翌日、和真は山中を歩き、森林の奥深くで不思議な光を見つけます。光の中には山の精霊らしき存在が浮かび、薄青い姿がふわりと宙を舞うのです。精霊たちはまるで人間を警戒するように距離を保ちながらも、和真の探求心に反応したのか、かすかな声を放ってきました。

山の精霊(複数の声が重なる)「山は傷つき、龍は目覚めかけている……。このままでは炎と風が荒れ狂い、人も山も大きな痛手を負うだろう。だがまだ遅くはない。‘鍵’を見つけ、龍を再び深き眠りへ導け……。」

 和真は、その声が夢とつながっていると直感し、自分こそが何か行動を起こす必要があると思った。

“鍵”をめぐる探求

 やがて、和真は地元の自然保護団体や、富士山に長年関わってきた研究者などを訪ねてみました。山火事や土壌の浸食、外来種問題などを聞くと、いかに自然が悲鳴を上げているかを再認識させられます。

 同時に、「古代の人々は龍を畏れ敬い、富士山とともに生きる術を知っていた」という小さな文献にも行きあたりました。そこには、“人と山を結ぶ祈り”や、“植物や生き物を慈しむ姿勢”などが記され、「自然との調和こそ、龍の牙を収める真の力」と暗示していました。

和真「そうか……龍の怒りを鎮めるには、人間が山や自然と誠実につながる必要があるんだ。ただ祈るだけでなく、具体的に環境を守る行動を起こさなきゃ……。」

行動と仲間の輪

 和真は地元の有志たちや学校の友人と一緒に、富士山周辺の清掃活動や植林の手伝いを開始します。最初は少人数で、作業もささやかなものだったが、少しずつSNSで発信することで共感を集め、活動の輪が広がっていきました。森林保護の団体も協力し、川のゴミを取り除いたり、登山道の整備を進めたり――。

 また、観光客にもマナーや自然保護の大切さを伝えるパンフレットを作り配布する活動をし、少しずつ山や地域への意識が高まっていきました。

龍が覚醒する夜

 しかしある夜、突然富士山周辺に激しい雷雲が発生し、大粒の雨が降り出しました。山の斜面は土石流の危険が高まり、人々が避難を始める。和真は胸騒ぎを抑えられず、また龍の夢を見ます。今度は龍が完全に眼を開き、巨体をゆっくり起こそうとしている――。

龍(深い唸り声)「わたしの眠りを妨げるのは誰だ……。この山を痛めつける人間の所業、いつまで続く?いっそすべてを炎と風で洗い流すか……。」

 夢の中の和真は必死に叫ぶ。「待ってほしい! ぼくたちだって、変わろうとしているんだ!」だが、龍の怒りは強まるばかり。

最後の対話――眠りへ帰すために

 嵐の夜、和真は果敢に山に入り、龍の意識が最も強いとされる場所へ足を運びます。雨と風が激しく、雷鳴が轟く中、山の奥で再び山の精霊たちの光を感じました。

 そこに姿を現したのは、黒い雲を背にした巨大な龍の幻影。唸り声とともに、まるで火山の炎を思わせるような熱気が立ち込めます。

和真「龍よ……あなたをここで暴れさせたら、街も山もひどい被害を受ける。でも、ぼくたち人間が自然を傷つけてきたのも事実。それを変えるために、今ぼくらは動いてるんだ!どうか、それを見届けてほしい……。」

 龍は牙をむき出しながらも、和真の強い意志に気づくのか、炎の唸りが弱まっていく。

龍(低く)「……わたしは眠りに帰ろうとしている。もし人々が再び自然を踏みにじるなら、またこうして目覚めよう……。それがわたしの役目……。」

 その声とともに、龍の幻影は淡く消え、闇が晴れはじめる。雷雨も収まり、雨の音が静かにやむ。夜が明けるころ、富士山の稜線は澄んだ青空を纏っていた。

光射す朝、未来の展望

 翌朝、街には被害があったものの、大惨事には至らず済んだ様子。地元の人々やボランティアも力を合わせて復旧活動に取り組み始める。和真はほっとして山を下りる途中、山の精霊が微笑むような気配を感じた。

精霊の声(風の中)「ありがとう。あなたたち人間が、真に山と向き合うなら、龍は深い眠りを保つだろう。どうか、この地を守り続けて……。」

 こうして、富士山と静岡を脅かす大きな災厄は回避された。龍は再び眠りにつき、静かな山の轟きを遠くに響かせるのみ――。けれど、人々には「これからも自然を乱すような行為を続ければ、いつか龍は再び目を覚ますかもしれない」という警鐘が胸に刻まれた。

結び――眠る龍と守る心

 それから、和真の呼びかけや地元民の意識改革により、山麓の自然保護が進み、富士山周辺の環境も少しずつ改善の兆しを見せていく。龍の伝説を語り継ぐことで、多くの人が自然への畏敬を取り戻したのだ。

 もしあなたが静岡の街から富士山を見上げるとき、その雄大な姿の奥深くには、一匹の龍が静かに眠っているかもしれない。火や風の猛威を秘めながらも、山と人を守るために――。そして、自然への感謝の心が絶えない限り、龍は静かな息づかいを保ち、富士山は美しくそびえ続けるだろう。

 ――この地で紡がれてきた神話は、今日も山と街の間で生きている。龍が潜む山の眠りを守るのは、私たち自身の行動と心にほかならないのだから。

 
 
 

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