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富士山に宿る「雪と火の精霊」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月22日
  • 読了時間: 6分


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静岡市から仰ぎ見る富士山は、冬になれば真っ白に雪化粧し、夏にはその火山の力を内に秘めている――まるで「雪」と「火」という相反する性質を併せ持つ不思議な山のようでした。人々はこの山を畏敬の念で見上げながら、古くからの伝承を守り続けています。

雪と火、二つの精霊

 富士山の奥深くには、**「雪の精霊」「火の精霊」**が宿っているという伝承がありました。雪の精霊は山頂の雪と冷気を司り、しんとした静けさを生み出す力を持つ。一方、火の精霊は火山のマグマと熱を司り、炎のような情熱と破壊力を内に秘めています。

 本来、二つの精霊は互いにバランスを取り合い、富士山を安定させてきました。雪の冷気は火の熱を和らげ、火の力は雪を溶かしすぎないように調整して。どちらが欠けても、山はその威容を保てない――。

環境破壊と火の暴走

 ところが近年、人間の活動が自然を乱し、富士山周辺でも環境破壊が進んでいます。過度な観光開発や森林伐採、排出ガスによる大気汚染などが重なり、山のバランスが崩れはじめました。それによって火の精霊が刺激を受け、怒りを増しているらしく、あちこちで小規模な地震や噴気が観測されるようになりました。

火の精霊(怒りの声)「このままでは、わたしの熱は高まる一方だ!雪の力が足りず、山は溶け、人間の街も飲み込むかもしれない……。」

 雪の精霊は必死に火の精霊を鎮めようとするのですが、その力も弱まりつつあり、山頂の積雪も年々減り、季節によってはまばらにしか雪が見られなくなっています。

静岡の少年と山の呼び声

 匠(たくみ)という名の少年が、静岡市に暮らしていました。遠くに見える富士山を子どものころから愛し、いつか山に登ってみたいと夢見ていましたが、最近は「山が危ない」というニュースや噂話に心を痛めていました。

 ある夜、匠は不思議な夢を見ます。白い羽を持つ氷のような女性――雪の精霊が彼に語りかけるのです。

雪の精霊「人の手による環境破壊が、火の精霊を暴走させようとしている……。どうか、わたしと火の精霊を仲直りさせてほしい。あなたが純粋に山を想う心なら、それがきっと力になるの……。」

 目覚めた匠は、夢の出来事を不思議に思いながらも、「何かできることはないだろうか」と落ち着かない気持ちで学校へ向かいました。

山へと向かう決断

 やがて匠は決心します。地元の人々が「山が危ない」と騒ぎ立てる一方で、誰も具体的に行動していない現実に、彼は「僕が行ってみよう」と思い立ったのです。親に相談すると猛反対されましたが、富士山麓に詳しい祖父が「行ってみなさい」と背中を押してくれたため、匠は山へ向かう道を選びました。

 山麓の森を分け入ると、急に気温が低くなり、白い靄(もや)が流れています。やがて落ち葉が積もった道を進むうち、どこからか冷たい風が吹き、その中にかすかな声が混ざっているのを感じました。

雪の精霊(風に乗って)「この奥深く、火の精霊が眠る。もしあなたが真に人間と自然の調和を望むなら、火の精霊を説得し、わたしとの和解を叶えて……。」

火の精霊の怒り

 匠がたどり着いた火口のような場所には、かすかな硫黄の臭いが漂い、地面から蒸気が立ち上っています。そこに炎のような姿をした火の精霊が顕現し、燐光を放ちながら吠えました。

火の精霊「また人間か。お前たちはいつも山を傷つけ、木を切り、大気を汚し、水を濁し……。わたしの熱は止まらない!いっそすべてを溶かし尽くしてしまう方がよいのではないか……!」

 火口周辺が揺れ、マグマのような赤い光が地面を走ります。匠は恐怖を感じつつも、一歩踏み出して必死に訴えました。

「確かに、僕たち人間は自然を傷つけている……。でもそれを変えたいと思う人もいる。山を愛し、雪の精霊の存在を感じている人も……!どうか、全部を破壊する前に、もう一度話し合いをしてほしい……。」

雪と火、二つの力の融合

 すると、冷たい風が急に吹きあげ、雪の精霊が姿を見せました。その形はかすかに白銀に輝き、火の精霊との間に立ちはだかるようにします。

雪の精霊「火よ、わたしたちが共に山を支えてきたことを思い出して……。わたしが冷やし、あなたが温めることで、富士山は神秘を保ち、周囲の人々を恵みで包んできた。今は人間の行いでバランスが崩れているけれど、それをすべて憎しみに変えてしまっては、山はただの灼熱の地獄になってしまう……!」

 火の精霊は苦悶の表情を浮かべ、炎が揺れ動きます。

火の精霊「ならばどうしろと言うのだ……。わたしの力は暴走をはじめており、雪の冷たさでは支えきれないほど人間が環境を壊している……。」

 雪の精霊と火の精霊、ふたつの力がぶつかりあい、山中に激しい風が巻き起こりました。匠は吹き飛ばされそうになりながら、「もう一度、手を取り合ってよ……!」と叫びます。

人間の心がつなぐ調和

 そこへ、匠は祖父から託された古い護符を取り出しました。そこには富士山と草薙剣を示すような図が描かれており、「人が自然を愛するとき、火と雪は一つの息となる」という古い文が記されていたのです。

「雪と火が力を合わせれば、山はまた元気になるはず。ぼくたち人間は悪い面ばかりじゃない。この山を守るために動き出してる人もいる。どうか……もう一度信用してほしい……。」

 その瞬間、護符が緑がかった光を放ち、火の精霊と雪の精霊の体がかすかに溶けあうように変化しはじめました。まるで、ふたつの相反する力が踊るように旋回し、やがてやわらかなピンク色の光を放ちます。霧が晴れ、山腹に綺麗な粉雪がちらちら降り、火口からの噴気は落ち着きを取り戻したかのよう。

火の精霊「……まだ人間を許したわけではない。だが、あなたの思いが本物なら、わたしも破壊ではなく共存の道を模索しよう。」

再び息づく富士の地

 こうして火の精霊と雪の精霊は、その場で和解の兆しを見せると、静かに消えていきました。翌朝、山にはうっすら雪が積もり、火山活動の危険度も下がったという情報が飛びこんできます。

 匠は街に戻り、SNSや地元の集まりで体験を語り、人間の行いが自然を傷つけてもまだ手遅れじゃないと訴えました。少しずつ共感する人が増え、山林保護やゴミ削減、環境教育に力を入れる声が高まっていきます。

 雪と火――二つの力は相反するようでいて、富士山を守るために必要不可欠なもの。人々も、その相反する力の中にこそ、自分たちが生きていく知恵があることを学びはじめました。

新たな一歩

 季節がめぐり、春が来ると、富士山の雪は緩やかに溶け、火山としての姿も落ち着きを取り戻しつつありました。匠は山の麓から富士山を見上げ、あの日の光景を思い返して胸を撫でおろします。

「雪の精霊と火の精霊……。ふたつが共存してこその富士山なんだ。ぼくも、自然を考えて行動できる大人になりたいな……。」

 青空に連なる白い峰、それを下から支える豊かな緑――かつて火と雪が争った痕跡など、遠くからはうかがえません。けれど、いまも山の奥深くには、ふたつの精霊が互いの力を認め合いながら、この地を守っているに違いありません。

 もしあなたが富士山の麓を訪れたなら、ひょっとしたら深い森の片隅で、かすかな雪の結晶や暖かな火のぬくもりに触れるかもしれません。それは、雪と火――相容れない力が生みだす調和の証し。静岡の空と大地に宿る、神秘的な物語の名残なのでしょう。

 
 
 

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