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富士山を越えて見える「もう一つの世界」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月22日
  • 読了時間: 6分


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静岡市に暮らす少年・**拓郎(たくろう)**は、ある日不思議な噂を耳にしました。「富士山の向こうには、かつての自然が完全に残された楽園が広がっている」という。山を境に、もう一つの世界が存在しているというのです。多くの人はその話を「単なる夢物語」と笑うだけでしたが、好奇心旺盛な拓郎には胸を騒がす話でした。

噂との出会い

 それは町外れの古い茶屋で聞いた話です。店主のおばあさんが、子どものころに祖父母から「富士山を超えた先には、まだ荒らされていない美しい自然界が続いている」と聞かされたという。もっとも、その噂を裏付ける確かな証拠はなく、誰も実際に行ったことはないらしい。

おばあさん「本当かどうかはわからないさ。でも、もしそんな場所があるなら見てみたいよね……。きっと、豊かな森やきれいな川、動物たちが暮らす素敵な世界があるんじゃないかい。」

 その言葉が、拓郎の心に深く刻まれました。

旅を決意

 近年は開発や観光で富士山周辺も賑わい、その姿はだんだん変わりつつあります。森林が切り開かれ、自然が傷んでいる様子を見ると、拓郎は「もしもう一つの世界があるなら、見てみたい。そこに行ければ、今の世界をどうすればいいか分かるかも」と思うようになりました。

 意を決した拓郎は地図や少しの用意を整え、週末に富士山の裏側へ回る道を探ってみることに。友だちにも「富士山の向こう側探検」と話してみたが、みな「そんなのないよ」「危ないことはやめろ」と止めようとする。けれど興味を持ってついてきてくれる仲間も数人いた。

仲間の一人・彩花(あやか)「あたしも自然が大好きだから、そんな世界があるなら見てみたい。でも、本当に行けるのかな……?」

山を超える試練

 一行は山道を登り始めた。普段の登山道とは離れたルートで、草深い道なき道を進む。道中、自然が徐々に荒れている場所を目にし、心が痛む。ゴミが散乱したり、森が枯れたりしているエリアもあり、「やっぱり、このままだと世界が壊れちゃうのかな……」という不安を抱く。

 そんなとき、ふと薄い霧が立ちこめ、周囲の景色が白く煙る。その霧が晴れると、突然まったく別の山景が広がっていた。まるで瞬間移動したような感覚に、拓郎たちは驚きの声を上げる。

彩花「これ……さっきまで見た富士山の景色じゃないよ……!まさか、これが“もう一つの世界”……?」

もう一つの世界との邂逅

 霧の向こうに広がるのは、びっくりするほど鮮やかな緑の森。大小の生き物がさえずり、キラキラ光る川が流れ、花々が足元を彩っている。誰も荒らしていない原始の自然そのまま――、そんな光景だ。

 奥へ進むと、不思議な気配をまとった人々がいるのを見つけた。和服のような衣装を着て、落ち着いた瞳でこちらを見つめる住民のような人たち。彼らはこの世界で自然と共に生きているらしい。

住民(長老)「あなたたちは外の世界から来たのですね。ここは富士山がつなぐ、もう一つの世界。我々は長くこの場所を守り、自然と共存する道を歩んできたのです。」

楽園のようであっても

 この世界では、人間が自然を傷つけないように厳しい掟があるという。狩りは最低限しか行わず、森を耕すときも土を傷めすぎないように配慮する。彼らは「自然と人が互いを活かし合う」暮らしを長い歴史の中で培ってきた。

 しかし、長老はため息をつく。

長老「近ごろ、山の一部が揺らいでいる。どうやら外の世界の影響がこの世界にまで及び始めたらしい。もし富士山全体が傷つけば、この世界も消えてしまう運命だ……。」

 拓郎は「なんとかできないんですか?」と問いかけるが、長老は首を振る。「外の世界で自然が守られなければ、いくらここを大事にしても、根本的に解決しない」とのこと。

戻るべき世界

 拓郎たちはこの世界にしばらく滞在し、驚くほど豊かな自然とやさしい住民たちの暮らしを体験する。心地いい風に包まれ、体も心もリフレッシュするが、同時に「ここでずっと暮らせたらいいのに……」とささやく仲間の声も。

 だが、拓郎の胸には「ぼくたちにはやるべきことがある」という思いが芽生えていた。

拓郎「この世界はたしかに素晴らしい。でも、ぼくらが逃げるように住むんじゃなくて、自分たちの世界をなんとか守るべきじゃないかな。もし何も変えなければ、ここと外の世界のつながりが壊れてしまうかもしれない。」

 長老はその決意を認め、山を超えて元の世界に戻る道を示す。別れ際、長老と住民たちは「またいつか会いましょう。あなたたちが自然を愛し続ける限り、道は開かれるでしょう」と微笑んだ。

ふたたび霧を超えて

 戻り道でも再び白い霧が漂い、視界が真っ白に閉ざされたと思うと、いつの間にか登山道に戻っていた。ほんの一瞬に感じたのに、時計を見ると数時間が経過している。まるで夢だったのかも……けれども心に残る感覚はリアルで、不思議。

 その後、下山した拓郎たちは、見たこと経験したことを人々に伝えるべく動き始める。「こんな素晴らしい自然が、もしかしたら別の世界で今も愛されているんだ」と語るうちに、「富士山や静岡の自然を大事にしよう」という意識を広げる活動にも参加するようになった。

拓郎「ぼくたちの世界だって、諦めなければ、ああいう豊かな自然を取り戻せるかもしれない。それが“もう一つの世界”が教えてくれたことなんだ。」

新しい決意――二つの世界をつなぐために

 こうして拓郎や仲間たちは、それぞれの場所で環境保護や自然再生に尽力するようになる。まるで、霧の世界の住民から託された使命を果たすかのよう。ときどき「実は自分も霧の中で不思議な道を見た」と語る人も現れ、少しずつ「もう一つの世界」の噂が広まっていく。

 富士山の稜線を仰いで見るとき、拓郎はあの日感じた温かな空気や、豊かな森、やさしい住人たちの笑顔を思い出し、「必ず守らなきゃ」と思うのだ。

拓郎「いつか、ぼくらの世界がもっと自然に満ちあふれたら、あの世界と自由に往き来できるようになるかもしれない……。そうしたら本当に、“二つの世界”がつながるんだね。」

結び――山の向こうにあるもの

 こうして、富士山を越えた先の“もう一つの世界”は、現実と幻の境界線に存在し、自然を敬う心を持つ者にはその道が開けるのかもしれない。たとえ多くの人には信じがたい話でも、拓郎が見た光景は確かに彼の人生を変えた。そしてその体験が、生まれ育った静岡の街をも少しずつ変えていく。

 もしあなたが富士山に登り、濃い霧に包まれたなら、足元に未知の道が現れることがあるかもしれない。その先には、かつての美しい自然が完全に残るもうひとつの世界が広がっている――。そんな物語を胸に抱きながら、あなたはきっと、霧の中の静かで神秘的な呼吸を感じるだろう。そこで大切なのは、「自然を愛する心」――それこそが、二つの世界を結ぶ扉の鍵なのだから。

 
 
 

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