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届け出の忘れ物




第一幕:突然の営業停止

 ここは都心のはずれ、いつもはきらびやかなネオンが輝くキャバレー**「エトワール」。 ところが今夜、その煌めきがぱったり消え、人っ子ひとりいない。ドアには「営業停止命令」の張り紙がペタリ。普段なら陽気な音楽が流れ、お客が賑わうはずなのに、しんとした暗さが広がっている。 そんな異様な光景を見つめ、ぼう然としているのは、若きオーナーの藤岡克也(ふじおか・かつや)**。額には汗、目には涙……いや、実際涙がポロリとこぼれそうだ。

「ど、どうしてこんなことに……! 俺、ちゃんと営業許可取ったはずなのにぃ……」

 しかし、そこへ通りがかったタクシーの運転手に「今日は休みかい?」なんて冷やかされ、「違う、営業停止なんだ……」と涙声で返事する藤岡。 「このままじゃウチのキャストたちが路頭に迷う……!」 焦りに駆られてスマホを握りしめ、慌てて一人の行政書士に電話をかける。

第二幕:ドタバタ相談、行政書士事務所へ

 翌朝、**「仁科(にしな)行政書士事務所」にはまだ慌ただしさが残っていた。所長の仁科淳子(にしな・じゅんこ)**は大のコーヒー好きで、事務所のカウンターにはいつもコーヒーの香りが漂っている。 そこへ、ドタバタと駆け込んでくる藤岡。息も絶え絶えに状況を説明する。

「先生、大変なんです! ウチ、風俗営業許可は出てたはずなのに、昨日突然営業停止の命令が……。いったい何が抜けてるんでしょう!?」

 仁科はパソコンで藤岡の店の許可状況を検索し、書類を広げ始める。 「なるほど……。一通りの書類は揃ってそうですが、“あれ”は出してます? 改装した分の変更届とか……」 すると藤岡は「改装……あ! 思い出した! VIPルームを増設したけど、届け出してない!」と頭を抱える。 仁科は苦笑いを浮かべながら、「それだよ……。風営法絡みはこういう改装でもちゃんと提出しないと、営業停止を食らうんです」と告げる。

第三幕:キャバレーの個性派たち

 とにもかくにも書類を整える必要がある。仁科は藤岡とともに「エトワール」へ向かい、現状を確認しようとする。 ドアを開けると、中では従業員たちががっくり肩を落として待っている。そこには、妙にテンション高いMC担当のアキラ、ちょっとドジっ子のバーテンダーリョウコ、ベテランママ風のさくらなど、個性派ぞろい。 彼らは口々に「このままじゃ給料が入らないよ!」「客に笑顔を届けられないなんて、私の存在意義が……」「こんなときはジャズを歌うしかないわ!」などと大騒ぎ。 仁科は「まるで劇団かよ……」と心の中でツッコミながらも、冷静に店舗の図面やら改装箇所やらをチェックする。

「VIPルームができたのに届け出を出し忘れるなんて……なんで忘れたんですか?」「いや、なんとなく、どうせ大丈夫だろって……ははは」

 藤岡の言葉に、周囲のスタッフが揃って「ははは」じゃねえよ!と大声でツッコミを入れる。まるでコントのような光景。

第四幕:書類の“忘れ物”を探せ

 仁科は事務所に戻り、改装に関する書類や消防法関係、さらに警察への提出用の“変更届”の様式を整え始める。そこへ電話が入る。 「あ、もしもし、アキラです。店の図面、どこにしまってたか誰も分からなくなっちゃって……」 “図面がない!? まずいじゃないか!” 仁科が焦っていると、今度はバーテンダーのリョウコからメールが。

「店内写真が必要だって言われてますけど、気づいたら私のスマホ壊れて写真全部消えちゃいました……てへぺろ」

 どうしてこんなにケチがつくのか。まさしく“届け出の忘れ物”が次々とわんさか発覚。仁科は頭を抱えながらも、「もう、みんな落ち着いて!」とZoomで緊急会議を開く。

「図面がないなら再度描き起こしましょう! リョウコさんは別のカメラで店内写真撮ってください! 書類を集めるのが先決!」

 Zoom画面では、キャストたちが「あれはどこ」「これはこう」とバタバタする様子がまるで音楽番組のリハーサルのよう。仁科はその指示に追われつつも、内心「なんて愉快な人たちだ」と苦笑する。

第五幕:書類コンプリート大作戦

 数日後。ようやく図面や写真、消防法の点検証明など、膨大な書類が一式揃った。仁科はこれらをひとまとめにして「これで完璧……のはず!」と気合を入れる。 ところが提出当日、なぜか藤岡の姿が見えない。電話しても繋がらない。仕方なく仁科ひとりで警察の窓口へ向かい、書類を提出しようとするが、担当警官が不審そうに言う。

「あれ? オーナー本人いないんですか? 本日は本人と確認すべき事項があるんですが……」

 まさかの事態に仁科は顔面蒼白。ところが、そのとき警察の自動ドアが開き、ハァハァ息を切らせた藤岡が駆け込んできた。

「お、おはようございます! いや、実は従業員たちが『忘れ物』があったら怖いから、朝まで最終チェックしてて……寝坊しちゃって……」

 とにかくギリギリセーフでオーナーも到着。大荷物を抱えた藤岡の背中から伝わる「もう勘弁してくれ……」という疲労。仁科はもはや苦笑するしかない。

第六幕:最後の追い込みとハッピーエンド

 担当警官が書類を丁寧に確認し、「なるほど、改装部分の変更届はこれですね。写真もありますね。……はい、問題ないです」と頷いてくれる。 藤岡と仁科は手を握り合って小さくガッツポーズ。そこへ、話を聞きつけたキャバレーのスタッフたちが大挙押しかけ、事務所前で「やった〜!」と大騒ぎ。 警官も「ここ、公共機関なんですけど……」と困惑顔。だが彼らを見ていると、なんだかほっこり笑ってしまう。

 しばらくして、無事に再営業が認められる。店でさっそくお客が戻り、「やっぱり“エトワール”がないと夜が寂しかったよ!」という常連客が続々来店。スタッフも張り切ってサービスを再開し、そこには明るい笑顔があふれている。 オーナー藤岡は仁科に頭を下げ、「先生、本当にありがとうございました。次は忘れずに書類出しますから!」と笑う。仁科は「それだけは頼んますよ」と返し、二人で乾杯ならぬハイタッチを決める。

終章:夜の街に再びネオンが灯る

 その夜、キャバレー「エトワール」のネオンが復活し、街角には夜の香りが漂う。店の扉を開ければ、明るい音楽と従業員たちの元気な声がこぼれ出てくる。 カウンターでシャンパン片手に微笑む仁科。ステージではMCのアキラが“営業再開スペシャル”を盛り上げ、リョウコは鮮やかなカクテルを作り、ベテランママのさくらは笑顔で客におしぼりを手渡している。 「届け出の忘れ物」――そんな小さなミスが原因で一度は店が消えかけたが、仲間たちの協力と行政書士の粘り強いサポートで、みごと息を吹き返したのだ。 ――これからも、夜の街は人々を照らす灯りを絶やさない。 仁科はコーヒーではなく珍しくシャンパンを一口飲みながら、「あぁ、こういう仕事も悪くないな」と心の中でつぶやくのであった。

 おしまい。

 
 
 

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