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広場に響くひづめの調べ――馬車が彩るヨーロッパの街角

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月3日
  • 読了時間: 3分

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 ヨーロッパの古都や観光名所を訪れると、石畳の広場でひと際目を引くのが、**馬車(フォースキャリッジ)**の存在だ。ガタンゴトンと蹄(ひづめ)の音を響かせながら、観光客や街の人々を乗せ、歴史ある建物の間をすり抜けていく。その光景はどこかクラシカルで、まるで絵本の中に入ってしまったかのような感覚を呼び起こす。以下は、そんな「広場の馬車」が描き出す風景をイメージした短い物語である。

1. 朝日差し込む石畳の広場

 まだ早朝、街の目抜き通りは静寂に包まれている。広場の中心には噴水があり、やわらかな光が水面をちらちらと揺らす。古い鐘楼や市庁舎が向かい合うように建ち、歴史的なファサードが朝日に照らされてオレンジ色に輝きはじめる。 そんな中、カランコロンと音を立てて一台の馬車がゆっくりと登場する。御者(ぎょしゃ)が手綱をさばきながら馬を導き、馬はまだ眠そうな吐息を漏らしつつ、コツコツと石畳を踏みしめる。その足音が噴水の水音に溶け込み、広場全体にゆったりとしたリズムをもたらす。

2. 優雅に始まる一日

 やがて観光客がホテルを出てきて、広場に姿を見せるころには、馬車は定位置に停まり、黒と金の飾りの付いた車体を朝の光に反射させている。 「おはようございます、今日は馬車のツアーはいかがでしょう?」 御者は礼儀正しく声をかけ、観光客は思わず乗ってみようと足を進める。ベルギーやオーストリア、チェコなど、国や街が違えど、こうした光景はヨーロッパ各地の歴史ある広場でよく見られるものだ。

3. 歴史と今をつなぐ道

 乗り込んだ客を乗せ、馬車は動き始める。低く鳴る蹄の音と、木製車輪が石畳をこする振動に、現代を生きる私たちはまるでタイムスリップしたような気持ちになる。 街並みを巡るうちに、ゴシック様式の教会やバロックの宮殿が次々と現れ、屋根には鳩が舞い降り、窓辺には花が咲き誇っている。御者が指し示す先には、何百年も前に作られた壁のレリーフや、かつての貴族の邸宅など、観光バスでは見逃してしまいそうなディテールが隠されている。

4. 広場に戻りて再会す

 一巡りしてまた広場へ戻ってくると、最初の静寂が嘘のように人の波が広がり始めている。土産物屋のカラフルな看板、カフェのテラスに座って朝食を楽しむ人々、そして他の馬車仲間も加わって、いっそう賑わう光景が広がる。 乗客が馬車を降りるとき、御者は笑顔で一言、「よい旅を!」と声をかける。感謝と満足を胸に、観光客は馬車をあとにする。すると、待っていた次のお客がまた乗り込んでいく。

5. 夜の帳の下、馬の吐息

 日が暮れ、街灯がともるころ、広場の姿は大きく変わる。石畳は淡いオレンジの照明に照らされ、噴水の水面は昼間とは違う神秘的な輝きを帯びている。そんな中、最後の客を下ろした馬車がゆっくりと姿を消す。 馬の吐息が白く漂い、御者は帽子を取って軽く一礼し、厩舎(きゅうしゃ)へと帰る道を進む。しんとした夜の広場には、夜風だけが吹き抜け、石畳に残る馬車のわずかな痕跡だけが、その優雅な姿を思い起こさせる。

エピローグ

 こうして、ヨーロッパの歴史ある広場の馬車は、日々観光客や街の人々を乗せ、中世から近現代に至るまでの時間を繋ぎ止めている。何気ない移動手段にも見えるが、その蹄の音や車輪の振動は、広場の石畳に刻まれた無数の物語をそっと呼び覚ましてくれる。 もし訪れる機会があったなら、一度は馬車に揺られ、街角から街角へと巡ってみてほしい。きっと、目には見えない過去と今が重なり合った風景が、あなたをやさしく包み込んでくれるだろう。

(了)

 
 
 

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