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掌編小説|「青いポスターの朝」


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朝いちばんの事務所。ドアを開けると、壁一面の青に、私――ふみかの等身大ポスターが微笑んでいた。「おはよう、広報の星」受付からみおがひょいと顔を出す。「サイン会は何時から~?」「ないから」苦笑しつつも、胸の前でそっと手を重ねる仕草は、ポスターの中の私と同じ。

今日から“春の相談ウィーク”。りながタブレットで来客動線を示す。「受付→ヒアリング→必要書類。詰まりそうな箇所はここ」あやのはコーヒーを配りながら眼鏡をクイッ。「落ち着いて、ひとつずつね」ゆいは脚立を持ってきて、ポスターの水平を取ってくれる。微妙に右下がりになって、みんなで首をかしげた。「うーん、わたしの重心が右寄りなのかも~」とゆい。「じゃ、わたしが左から“春風”当てるね」さくらが扇子でぱたぱた。冗談半分に笑って、結局は水平器でピタリと決まった。

最初のお客さまは、クラウドサービスで契約形態を迷う小さな制作会社さん。「請負と準委任、どっちで進めるべきか…」私はカウンターの青を指先でなぞりながら、図を描く。「“成果が完成したらお金が動く”のが請負、“時間や作業でお金が動く”のが準委任。責任や変更の融通が変わります」横でりなが補足する。「検収の有無、損害賠償の範囲、知財の帰属もチェック」眉間に皺の寄っていた社長さんの表情が緩んだ。「整理できました。まずは準委任から始めます」

ひと息ついて受付へ戻ると、ポスターの前で中学生くらいの男の子がスマホを掲げていた。「これ、読み取っていいですか?」「もちろん。予約フォームにつながりますよ」ピッ――。男の子は画面を見て頷いた。「母が開業準備してて……このお姉さん、頼れそうって」“お姉さん”。その単語が、青い背景で少し照れる。「よかったら、今日の夕方も枠あります」「伝えます。ポスター、いいですね。落ち着く色」「ありがとう。迷った時に、青信号みたいに進めたら、って思って」

夕方、母子がふたたび来所した。「契約書の条文が難しくて」とお母さま。あやのがヒアリングを整え、りなが論点を骨組みにし、私は“言い換えカード”を一枚ずつ渡す。みおはお茶を、ゆいはほっこりするクッキーを、さくらは“今日のゴール”を青の付箋に書く。――「不安を“見える言葉”にする」。相談が終わる頃、ポスターの前で男の子が小さくガッツポーズをした。「明日から動けます。ありがとうございます」帰り際、私はポスターの角を指で整える。紙の中の私は、相変わらず少し緊張した笑み。でも、いい。この青は、誰かの背中をそっと押せる色だ。

閉店間際、ふみか宛ての予約通知が鳴る。件名はひとこと――「青を見て、来ました」。私は胸の前で手を重ね、ポスターの自分に小さくウインクした。

 
 
 

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