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揺れるシグネチャ




第一章:華やぐアジア展開と微かな不安

初秋の夕刻、仁科エリカは成田空港のロビーを再び歩いていた。今度はパリ行きではない。これから韓国・ソウルへ飛び、現地での「Micheline Y.」ポップアップストア計画を打ち合わせるのだ。「フランスと日本での問題は一段落。次はアジア全域に広げる――忙しいけど、なんだかワクワクする」エリカは胸を高鳴らせる。だが一方で、頭の隅に引っかかるのは、先日届いたブランドアンバサダー契約に関するメール。どうやら、ソウルで予定している人気K-POPアーティストとのコラボが、法務部的に“条件不十分”と言われているらしい。

第二章:ポップアップストアと新契約の波紋

ソウルの都心部。ロッテ百貨店近くの一角で、「Micheline Y.」のポップアップストアが数日後にオープンすることになっていた。エリカは現地代理店のコーディネーターと細かい打ち合わせを進めていたが、看板に使うロゴのフォントや宣伝素材に問題があると告げられる。「韓国国内で商標登録済みかどうか確認してほしいと、法務のほうからリクエストが来てます。あと、ブランドアンバサダーの肖像権とSNS投稿の権利範囲もきちんと契約書に盛り込みたいと」エリカは苦笑する。「日本であれだけ大変だったのに、また商標……か。韓国でも先行して似た名前が使われてる可能性があるのね」「そうですね。韓国は“K-ブランド”が国内市場で優先されやすい面もあり、外資ファッションが商標でトラブルになりがち。しかも今度は著名人とのコラボですから、万一、肖像権問題がこじれたらメディアが騒ぐでしょう」エリカの背筋に緊張が走る。「また法務部に連絡しないと……」

第三章:ブランドアンバサダー契約の落とし穴

ソウルのホテルに着くと、エリカは日本の法務担当・長門法子にビデオ通話を繋いだ。「ブランドアンバサダーの件ですが、契約書を韓国側が持参してきました。出演料やSNS投稿回数はいいとして、彼らが『Micheline Y.』のロゴやデザインを使った独自商品を販売できる権利を要求していて……」長門が即座に反応する。「それは危険ね。もし第三者が勝手に“コラボアイテム”を作り、うちのブランドロゴを使って販売するなら、品質管理やデザイン管理が行き届かず、コピー品増殖や品質クレームに繋がるリスクがある。絶対に慎重に条項を見直さないと」「やっぱりそうですよね……。でも、現地では“K-POPアーティストの要望を飲まないならコラボ無し”と厳しい態度です」

二人はしばし沈黙する。美しさとスピードが求められるファッション業界で、時間のかかる法務手続きは敬遠されがちだ。だが、そのリスクを甘く見ればブランドの命取りになる。「一度、英語・韓国語・日本語の三か国語版で契約書を用意し、ロゴ使用範囲を限定すべきだと思う。私からもフランス本社と連携して交渉ポイントを整理するわ」「お願いします。今度こそトラブル無く進めたい……」

第四章:浮上する“シグネチャーデザイン”問題

ソウルのポップアップストア準備が進む中、現地スタッフがまた新たな懸念を持ち込む。「Micheline Y.」が過去のコレクションで使っていた**“シグネチャーデザイン”**――例えば特定のレース模様や刺繍パターン――が、別の韓国企業に商標登録されているかもしれないという。「デザインやパターンを商標扱いで登録している企業があるんです。これが重なると、使用を差止められる可能性があるかと……」エリカは顔をこわばらせる。日本でのコピー品騒動が落ち着いた矢先、今度は韓国で商標権の紛争か?「フランス本社は、そのレースは“長年のブランドシグネチャー”と主張するでしょうけど、もし韓国側に先に登録されたら厄介ですね……」

第五章:マレーシアからの急なオファー

その矢先、エリカのスマホが鳴る。マレーシアの大手モールから「『Micheline Y.』をアジア店舗に導入したい」というオファーが舞い込んだのだ。“パリコレブランドがアジアで一気にブレイク”――華やかなチャンスに心が躍る。しかし同時に、「また新たな国で法務手続きか」とエリカは頭を抱える。「韓国の問題もまだ片付いていないのに……。でもチャンスは逃せない。どうする?」孤独な決断を迫られるエリカ。「いっそアジア本部を作って、広域的に商標・著作権を包括管理できるようにすれば……。でもそれには大きな投資が必要だし、本社がどこまで動いてくれるか……」その夜、エリカは眠れぬまま、部屋の窓から見えるソウルの街明かりを眺めていた。

第六章:交渉の果て――契約の行方

翌週、アーティスト事務所との契約交渉が山場を迎える。エリカと法務の長門が遠隔で韓国の弁護士も交え、「ブランドロゴの使用範囲」「コラボ商品の品質管理」「肖像権とSNS投稿の回数」「売上ロイヤリティ率」など、濃密な条項を一つずつ詰めていく。相手側はK-POPアーティストの影響力を強みに強硬姿勢を取るが、エリカたちは日本法人の成功事例やフランス本社のブランド価値を根拠に粘り、最終的にロゴ使用を事前許諾制とし、デザインにもMicheline Y.側の検証権を保つことで合意に至る。「よかった……これでめちゃくちゃなコラボ商品が出回るリスクは抑えられる」エリカは安堵するが、同時に思う。「ファッションと法務の調和は本当に難しい。でも、これもブランドを守るためだ……」

最終章:さらなる光へ

ソウルのポップアップストアは盛況のうちに終了し、韓国メディアで大々的に報道された。K-POPアーティストとのコラボ発表も注目を集め、SNSで「#MichelineY」タグが連日トレンド入りしている。エリカは帰国前日に現地スタッフからこんな言葉を聞く。「やっぱりブランドイメージがしっかり守られているのが大きいですよ。いろんな規制や法務の対応って面倒かもしれないけど、それが信用につながるんですね」微笑むエリカ。「うちの法務担当や上司にも伝えたいな。大変だけど、やってよかった」

成田空港に戻ったエリカを、水島長門が出迎える。「お疲れさま。マレーシアからも問い合わせが来てるよ。アジア全域展開も本気で考えなきゃね」「また商標・デザイン権とか、やることいっぱいだけど?」エリカは覚悟を決めて笑う。「うん、でも大丈夫。パリコレで生まれたこのブランドを、アジアでも世界でも輝かせる。そのための法務対応は、もう覚悟できています――私たちには長門さんがいるしね」長門も苦笑いしつつ、「まあ、また書類の山が増えるわね。でも立ち向かいましょう、ブランドを守るために」と静かに頷いた。夜空には飛行機の航跡が浮かび上がる。そこにあるのは、更なる市場新たな挑戦。――こうして、「Micheline Y.」はグローバルの舞台へと羽ばたき続ける。きらめくファッションの裏には、複雑な法の網を越えるたゆまぬ努力があった。それがまた、彼らのランウェイを一段と美しく照らしているのだ。

 
 
 

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