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旭日の断章

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月18日
  • 読了時間: 6分
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第一章:弾道ミサイルの朝

初夏の青空。東京の早朝。しかし、はじまったのは戦後最大の危機だった。中国、北朝鮮、ロシアが協調して日本本土へ侵攻を仕掛けてきた――まるで最悪の悪夢が醒めないように、世界情勢は一夜で激変した。首都・東京の空を切るように、弾道ミサイルが到達し、突如として閃光と爆音が複数の地区を襲う。ガラスが割れ、建物が崩れ、町が火の粉に包まれる。街中に響く防空警報と崩落音。それは人々の心をずたずたに切り裂き、大混乱が広がるばかり。

そんななか、高坂 修一は自宅マンションの非常階段に逃げ込んでいた。 彼は哲学者――大学で教鞭を取りながら、雑誌にエッセイを書く日々。 窓の割れた隙間から見る外の景色はまるで黙示録。「これが現実か……我々は今、“日本”という国の終わりに立ち会っているのか……」そう独りごちる声は震えていたが、その瞳には知への熱が灯る。**「国家とは何か。戦争の正義はどう在りうるか」**の問いが、空砲のように彼の頭で鳴り響く。

第二章:焼かれゆく都心

都心各所が火の手を上げ、国会議事堂付近や防衛省付近もミサイルの直撃でひどい惨状。政府首脳の安全は不明。SNSも電話も混線で、詳しい状況が伝わらない。混乱のビル街を歩く高坂は、何とか避難所を求めて人波に混ざるが、その中で若い自衛官・鳥居と出会う。彼は隊を失い、孤立したまま救援のめどもないという。「東京ごと叩き潰すつもりなのか……」鳥居は瞳を赤くしながら言葉を吐く。「俺は逃げるわけにはいかない。仲間を探し、国を守らねば」高坂は「国を守る、か……」と、まるで何かを思い出すように微笑んだ。 「君が守ろうとする‘国’とは、何なのだろう?」と問いかける。鳥居は返す言葉がないまま、うつむく。焼け焦げた焦土の匂いが、二人の心を重く沈める。

第三章:哲学者の視点と市民の逃避

高坂は、彷徨する市民たちの姿を目にする。 誰もが逃げ場所などないと知りつつ、右往左往している。泣き叫ぶ子供や、途方に暮れた老人……そこに苛烈な批判があるかのように、国家の指導力の欠如が露わだ。高坂は内心で自己対話を繰り返す。「国家はどこにある? 官邸はミサイルの直撃で機能不全。ならば国家という抽象は何処で息づいている?」彼は“人々の心”の中に国家が宿ると考えている。 しかし、この地獄のような混乱下で、人々は国家を背負う余裕を失い、ただ生を求めて逃げ惑うばかりだ。

第四章:共に進む自衛官たち

鳥居ら数名の自衛官が、臨時の防衛線を築いているとの情報が入り、高坂は彼らに同行する。そこには野戦病院のようなテントが張られ、負傷者が続々と運び込まれる。医療物資は尽きかけ、兵士も市民も血を流したまま横たわる。「敵が上陸するかも」という不穏な噂も。高坂は手伝いながら、痛ましい光景を見つめつつ、「もし敵が来たら、この人々はどうなる?」と唇を噛む。 そこに戦争の惨劇がありながら、それを“崇高な出来事”として描く奇怪的な視点が微かに漂う。鳥居は仲間に言う。「たとえ敵が来ても、ここで踏み止まって守るしかない。俺が死んでもいいから…。」高坂はその“死を前提にした発言”に驚愕し、心が震える。

第五章:侵略の足音と国家の崩壊

騒然とする情報の中で分かったのは、中国軍が西日本に上陸、ロシア軍が北海道方面から南下、北朝鮮もミサイルを撃ち込んでいるという悪夢の三面攻勢。 国は瓦解寸前だ。仮政府の通達によると「もはや首都機能も失われ、地方も制圧が進む。国連安保理も機能しない」という絶望的状況。人々がどんどん国外へ逃げようと空港を目指すが、その空港も機能停止状態だ。 高坂は「これが国家の最期なのか……」と感じ、瞳に涙を宿す。 しかし、哲学者である彼は、むしろここにこそ日本人の精神的復活の契機があるのではと一瞬考える。**“滅び”**が美を生む可能性を、どこかで期待しているのかもしれない。

第六章:戦場への旅

鳥居ら自衛官が「このまま東京で降伏するわけにはいかない。まだ防衛拠点が生き残っている沖縄へ行く」と決意するが、沖縄本島も大打撃を受けていることは周知の事実。 それでも彼らは行くという。「俺たちの『最後の戦い』があるかもしれない」高坂は「自分も同行させてくれ」と申し出る。「私は哲学者だが、この国の死を見届け、そこに何かを見いだしたい。行かせてほしい。」仲間は危険すぎると止めるが、高坂は苦笑しつつも態度を変えない。 「もし世界が滅ぶなら、俺はその滅びを内部から知りたい」——それは死生観を漂わせる言葉だった。

第七章:崇高なる死と復活の一瞬

沖縄に入った彼らは、廃墟のような那覇市を目にする。空港はクレーターだらけ、街には瓦礫が積まれ、炎がくすぶる。そこに敵兵の姿もないほど、まるで捨て置かれた亡国の地のようだ。しかし、防衛隊の残党が小さな拠点を築き、最後の“旭日の戦”を試みているという。 鳥居らも合流し、わずかな装備で**“最終防衛戦”を敢行。そこに大規模攻勢を仕掛ける中朝露の連合軍が到来。再びミサイルの嵐が、かわぐちかいじ作品さながらの激烈な描写で地上を砕く。高坂は塹壕に伏しながら、炸裂する砲撃に震える。だが同時に、その破局の中で一種の崇高さ**を感じ取り「ここが人間の、国家の最期かもしれない…」と瞳を濡らす。

爆発が近くで起き、兵士たちが散り散りに倒れ、鳥居も被弾して「先生…こんな形で…すみません…」と微笑んで息を引き取る。血が赤い大地を染める。高坂は自らの胸に死を覚悟する――だがまさにその時、意識の閾で陽光が差し込むような閃光を感じる。火薬の煙のなかで見た夕陽かもしれない。そこで彼は激しい感動に襲われ、「日本というものは、消えないんだ…人が命を賭す限り…」と心で叫ぶ。死の美学がそこに頂点を迎える。

結末:旭日の断章

最終的に守備は崩壊。敵が市街地を完全掌握する。人々は倒れ、戦場は無残な屍で埋め尽くされる。高坂は満身創痍のまま地面に崩れ、血で濡れた手を伸ばして宙を掴もうとする。 もう動けない。 その瞳に反射するのは夕陽か、あるいは朝日か――赤い光が最後に彼を包み、静かに微笑みながら息を止める。後に、残骸の中から高坂の書きかけの原稿が発見される。そこには**「旭日の断章」**と題が記され、国家とは何か、滅びゆく日本人の魂がどんな光を放ちうるか、哲学的に論じられていた。 だが途中で文章は途切れ、最後にこう走り書きがある。

「死にゆく姿こそ、命の極みを証す――それは日本の魂がもう一度燃える瞬間」

この断章が語るのは、滅びの中にこそある復活の光かもしれない。 だが既に遅く、国は燃え落ち、世界は冷たく潮が満ちるようにその死を覆い隠す。こうして、日本という国家の記憶は、壮絶な最期の詩とともに消え去った――。

—終幕—

 
 
 

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