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月光に染まるテーブル――ローマのファンシーレストラン物語

  • 山崎行政書士事務所
  • 2月3日
  • 読了時間: 4分

 古代ローマの遺跡が点在する街並みと、バロック様式の噴水や教会が織りなすローマの夜。観光客や地元民が行き交う広場から少し外れた石畳を歩いていくと、灯りを落とした洗練されたレストランが密やかに姿を現す。
 古代ローマの遺跡が点在する街並みと、バロック様式の噴水や教会が織りなすローマの夜。観光客や地元民が行き交う広場から少し外れた石畳を歩いていくと、灯りを落とした洗練されたレストランが密やかに姿を現す。

1. 隠れ家のようなファサード

 夜の闇に溶け込むように、控えめなネオンサインが輝く入口。そこには、鋳鉄の門扉とクラシックなドアノッカーがあり、いかにも特別な場所へ招き入れる雰囲気を醸し出している。店の名前はイタリア語で「夢」を意味する“Sogni(ソーニ)”。 門扉を押し開けると、若い男性スタッフが柔らかな笑顔で出迎えてくれる。石造りの外観からは想像もつかない、モダンでエレガントな内装が広がっている。壁には淡いクリーム色の塗り壁が施され、アンティークの額縁や照明がふわりとした光を放っていた。

2. 中庭とグリーンの演出

 案内される奥には、小さな中庭がある。床は古いタイルを組み合わせて几何学模様が描かれ、中央には木製のテーブルがひっそりと並ぶ。周囲にはオリーブやローズマリーの鉢植えが設置され、足元から微かな香りが漂ってくる。 頭上はローマの星空が広がり、温かい色味のフェアリーライトが枝に巻き付けられ、幻想的なムードを演出していた。まるで都心とは思えない静けさに包まれ、カップルや少人数のグループがゆったりと会話を楽しんでいる。

3. 料理長のプライド

 「ソーニ」の料理長はシチリア出身の女性・カタリーナ。彼女は郷土の味をベースにしながら、モダンイタリアンに新しいアレンジを加えることで評判を呼んでいる。地元の市場で仕入れる新鮮な素材を活かしつつ、フォアグラやキャビアなどの高級食材を絶妙に組み合わせるのが彼女の得意技だ。 「素材の持つ輝きを、そのまま一皿に映し出したい」と、カタリーナはいつも語る。キッチンでは軽快な包丁の音と、香ばしいオリーブオイルの香りが舞い、彼女のプライドが皿の上に具現化されていく。

4. コースメニューの舞台

 席に着くと、ウェイターがコースメニューについて丁寧に説明する。

  • 前菜:フレッシュトマトとバッファローモッツァレラのカプレーゼ、トリュフオイルをアクセントに

  • プリモ:自家製パスタ・タリオリーニにウニのクリームソースを絡め、レモンの皮で爽やかさを加える

  • セコンド:ローマ近郊の農家で育った子羊のロースト、バルサミコのソースと旬の野菜グリル

  • ドルチェ:ティラミスをベースに、パッションフルーツのムースと合わせたオリジナルスイーツ


     すべてが少しずつ遊び心と高級感が織り込まれ、さらにソムリエがワインペアリングを推奨してくれる。白ワインはラツィオ州産のすっきりとしたフラスカティ、赤ワインはトスカーナの高級銘柄など、好みに合わせた提案が嬉しい。

5. カタリーナの一皿

 メインディッシュが運ばれてくると、香りと共に目でも楽しめる盛り付けが登場する。子羊のローストには、香ばしい焦げ目としっとりした肉質が同居し、たっぷりの野菜グリルが色鮮やかに添えられている。バルサミコソースのコクが優しく、口に入れた瞬間に旨みと甘みが広がる。 舌の上で溶けていく食感に、自然と笑みがこぼれる。カタリーナの料理は、イタリアの伝統と現代の感性が高次元で融合しており、“ファンシーレストラン”という肩書きを誇示するだけの実力があることを実感させる。

6. ワインと会話のマリアージュ

 料理が進むにつれ、グラスには次々とワインが注がれ、オーナー兼ソムリエのパオロがテーブルを回りながら香りの特徴や合う料理について談笑してくれる。 「この赤ワインは、バニラとプラムの香りが特徴的で、子羊との相性は抜群です。どうぞ楽しんでくださいね。」 ゲストたちも心地よい酔いの中で、ワインの風味と料理の相乗効果を味わい、会話が弾む。石畳の街ローマにいて、こんなにモダンで上質なダイニングがあるのかと驚きながら、みな満ち足りた表情を浮かべている。

7. 夜のフィナーレ

 ドルチェが終わり、食後のコーヒーをゆっくり飲み終える頃、レストランの照明は少しだけトーンダウンしている。中庭の月明かりがテーブルを優しく照らし、オリーブの木々が夜風にそよそよと揺れる。 周囲を見渡すと、カップルや家族連れ、ビジネスパートナーらしきグループが、それぞれの幸せな時間を噛み締めている様子だ。最後にウェイターが笑顔で「Buonanotte(おやすみなさい)」と送り出してくれると、ゲストは一様に満ち足りた表情でドアを出ていく。

エピローグ

 ローマのファンシーレストラン「Sogni」は、表通りの喧騒から一歩奥へ足を踏み入れた人だけが味わえる特別な空間だ。月明かりの下、まるで魔法のように舌と心を満たしてくれる。 古代とバロックが混在する街ローマ。その歴史と遺跡の陰に、こうした洗練されたダイニングが人々の夢を支え、現代イタリアンの新境地を提案し続ける。 石畳を踏みしめて辿り着いた場所で、時代を超えた味わいとおもてなしに包まれる――それもまた、ローマが持つ底知れぬ魅力のひとつだ。

(了)


 
 
 

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