歪んだ環境評価 ― 緑を守る戦い
- 山崎行政書士事務所
- 1月18日
- 読了時間: 7分

プロローグ:大規模工場建設計画の噂
日本の地方都市・鈴鹿市。かつては自然豊かな工業地帯として栄え、近年は環境保護にも力を入れていた。 そんな鈴鹿市に、化学メーカージェネシア・ケミカルが新たに大規模工場を建設するという話が持ち上がる。経済界は大歓迎し、地元メディアも新たな雇用や地域振興を期待していた。 しかし、「あの場所は湿地帯や小規模な沼地があり、生態系が貴重だ」と環境保護団体が反発している。開発には環境アセスメント(環境影響評価)が不可欠だが、結果がどうなるかで工場計画の行方が決まる。 このとき、**行政書士・三浦 真琴(みうら まこと)**にある依頼が届く。――「ジェネシア・ケミカルの環境アセスメント申請書類作成をサポートしてほしい」。 三浦は業界大手の仕事に期待を抱きつつも、「開発の是非が争われる案件で書類作成か……」と少し複雑な思いを抱く。
第一章:企業からの高額報酬と違和感
三浦がジェネシア・ケミカルの本社を訪ねると、担当部長・木下が歓迎し、「ぜひ当社の環境アセス申請をお願いします。予算面は潤沢にあるので、スムーズに通る書類を仕上げてほしい」と言う。 さらに「もし結果的にアセスでOKが出れば、三浦さんの事務所は優先的に法務案件もお願いしたい」と甘い言葉をかけてくる。 三浦は大きなビジネスチャンスだと感じつつ、一抹の疑念を抱く。「こんなに金を積んでアセス書類を作らせて何を隠しているのか?」 一方、木下はサンプルのデータを渡してくるが、それは環境測定結果がやけに“良好”だと強調されている。たとえば土壌汚染の数値がすべて基準以下、大気中の有害物質が「不検出」など、非現実的に整然とした数字だ。三浦は「きれいすぎる……」と不審を抱かざるを得ない。
第二章:市役所と企業の微妙な距離
工場建設を管轄するのは鈴鹿市の開発課と県の環境部門。そこで三浦は担当官にあいさつへ行く。 担当官・西村はにこやかに対応し、「ジェネシア・ケミカルは大手ですから、こちらとしても誘致を歓迎しています。環境アセスもスムーズに進むでしょう」と言う。 だが、その言い方は「すでに結果は出ているかのよう」なニュアンスがある。まるで企業から協力を求められて、データを都合よく扱う下準備をしているようだ。 三浦が何気なく「現地調査の資料は閲覧できますか」と尋ねると、西村は焦ったように「まだ公表できません。最終版がまとまったらでないと……」と回答を濁す。 明らかに**行政と企業の間で何らかの“取り決め”**が先に存在し、形だけのアセスを行う気配を感じる。
第三章:環境保護団体からの声
そんな中、三浦の元に環境保護団体**「青の大地」のリーダー・吉沢から連絡が入る。 「あなたがジェネシア・ケミカルのアセス書類を作ってる行政書士ですか? 実は私たち、あの開発計画に重大な疑念を抱いてます。もし可能なら内部情報を共有してほしい」と。 三浦は法令上、守秘義務があり、企業秘密をむやみに漏らせない。しかし、吉沢が示すいくつかの写真に、工場予定地に希少な動植物が生息する様子が映っている。 さらに、過去に同社が他県で行った工場建設でも、建設後に周辺の水質が著しく悪化**したが、表向きは隠蔽(いんぺい)されていたという過去事例があるらしい。 「もし今回も同じパターンなら、取り返しのつかない自然破壊が起きるかもしれない」と吉沢は訴える。
第四章:内輪でのデータ改竄の疑惑
三浦が担当として求める資料を再三要求しても、木下からは保留や「社外秘」の連発。 そこで三浦は社内のスタッフとこっそり連絡を取り、開発部署の下村が妙なことを漏らす。「実は上の方で、環境アセス用の測定データを編集しているらしい。もっと高い数値を削除し、全部安全なレベルにまとめているのではと……」 下村は自分の身を守るため匿名を条件に打ち明けるが、三浦はこれが確たる証拠なら、企業ぐるみの不正と理解する。 折しも、鈴鹿市の議会でこの開発計画が取り上げられる。そこに企業や行政幹部が出席し、「環境には十分配慮しています」などと口を揃える。しかし三浦は、その裏で行われている改竄を想像し、吐き気がするほどの嫌悪感を抱く。
第五章:内部告発と企業の圧力
下村が更に資料のコピーを三浦に渡す。そのファイルには明確に**「本来の測定結果」と「改竄後の数字」**が対照的に表示された表が含まれていた。 もしこれが本物なら動かぬ証拠になる。 一方、企業側は敏感に察知し、三浦が行動を始めたと知ってか、彼女に「書類作成は迅速にやってほしい。余計なことを調べるな」と圧力をかけてくる。さらに複数の関係者が彼女を遠ざけるような動きを見せる。 三浦は自己保身と良心の間で苦しむ。仮に黙って従えば高額報酬で事務所も安泰。でもそれでは法を犯す不正を助長することになる。環境破壊も目に見える……。
第六章:化学汚染の兆候と市民の反発
現場近くの河川で魚の死骸が相次いで見つかるというニュースが流れる。まだ建設は始まっていないはずなのに、何らかの汚染がすでに始まっているのか? 環境保護団体「青の大地」は抗議デモを計画し、市民の不安を煽(あお)るが、企業広報は「工場建設はまだ着工していない。魚の死骸と当社は無関係」とコメント。 しかし、下村の話では、もう地下で一部工事が進んでいる可能性があるという。要するに、正式なアセスを経ずに先行して掘削などを始め、化学物質が漏れている恐れがある。 事態は加速し、三浦はついにNGOの吉沢らと協力し、「社内の改竄ファイル」を基にマスコミへリークする計画を進める。
第七章:リーク直前の攻防
しかし、マスコミに先行してデータを渡そうとすると、三浦の自宅や事務所に謎の人物が出入りし、ファイルを探して荒らす。パソコンにハッキングの形跡も……。 企業か行政のどこかにスパイがいて、この動きを察知しているのだ。上司も「どうして問題に首を突っ込むんだ! 取引停止になれば事務所が潰れるぞ」と激怒。三浦は孤立を深める。 その時、三浦の携帯に脅迫電話が入る――「もし報道すればどうなるか、家族を守れるのか?」。背筋が凍りつくが、もはや引き返せない。 彼女は最後の手段として議員や国外の環境NGOにも一斉に資料を送信し、一気に世論を巻き込む体制を整える。狙いは企業と行政の癒着を一度に暴くことだ。
第八章:告発と大きな衝撃
結果、SNSや海外メディアが先にこのリークを取り上げ、瞬く間に国内の大手テレビ局なども追随報道を開始。**「アセスメント改竄か?」**と一面に躍る。 企業や行政は「虚偽」「フェイクニュース」と反論しようとするが、次々と内部告発者が追随。 下村も勇気を出して記者会見に匿名で参加し、改竄の過程を語る。 騒動は国会でも取り上げられ、環境省が調査委員会を立ち上げる。結果、企業によるデータ改竄と行政の黙認があったことが明確になり、鈴鹿市の担当者や県の幹部、企業幹部らが責任を問われる。 これにより工場建設計画は中止され、地域住民からは安堵の声が上がる一方、地域経済に落胆も生まれ、町は混乱する。しかし環境を守るためには避けて通れない決断だった。
エピローグ:変革への一歩
事件後、グリーンアーク社(仮の企業名だったか…本筋と合致させるため変更: 「ジェネシア・ケミカル社」)は経営陣が総辞職し、巨額の賠償を余儀なくされる。 多くの政治家や官僚が汚職の疑いで取り調べを受け、司法が動く。 三浦は告発者として称賛される半面、企業や行政側からの圧力や非難も浴び、事務所が経済的に厳しい状況に陥る。しかし、彼女は後悔していない。 最後、彼女が失意のまま町の小さな沼を訪れると、そこに守られた生態系の小さな息吹を感じる。**「これが守れたなら、私はやった意味があった」**と小声で呟(つぶや)く。 やがて太陽が雲間から差し込み、沼のほとりを明るく照らす。まるで新しい未来を象徴するかのように。こうして環境法規制を巡る国と企業の攻防は、ひとまずの決着を見せるが、制度の根本的な改革はまだ道半ば――そんな余韻を残し、物語は幕を閉じる。
(了)





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