港の静止 — NotPetyaの断層(長編フィクション)
- 山崎行政書士事務所
- 9月17日
- 読了時間: 6分

— 2017年「NotPetya(通称:Nyetya/ExPetr)—ウクライナの会計ソフト更新経由のサプライチェーン侵害→社内横展開(EternalBlue/EternalRomance+認証情報奪取)→MBR/MFT破壊による“身代金を装う破壊”→海運・物流・製造など世界的被害」を骨格にした創作
00|火曜 11:18 鳴りやまない「再起動」
蒼海(そうかい)ロジスティクス港湾ターミナル。夏芽は、TOS(ターミナル運用システム)の監視画面で作業キューが突然止まるのを見た。ゲートは開いている。岸壁クレーンは空を掴んだまま固まる。現場端末が一斉に再起動し、黒い画面に白い疑似CHKDSKが流れ始める。
“ファイルシステムの修復を実行中…”
修復は戻り道ではなかった。数分後、端末は沈黙した。
「山崎行政書士事務所、最短で。」
01|11:32 “止める/伝える/回す”
静岡・山崎行政書士事務所。ホワイトボードに**律斗(りつと)**が三行を書く。
止める/伝える/回す
止める:AD(ドメイン)とファイル共有のSMBを境界から遮断。東棟LANを物理分割し、ターミナル機器はオフライン島へ退避。電源は落とさず、証跡を一方向で保全。EternalBlue/EternalRomance系の横展開を壁で止める。
伝える:三文で港湾管理/船社/通関業者に同報。“確認された事実”(疑似CHKDSK→端末起動不能)と**“可能性(仮説)”(“身代金を装う破壊”の型**)を段落で分け、正時/17時の更新時刻を約束。「支払い先変更メールは無効」を一文目に。
回す:ゲート運用は紙の搬入票と無線で手動化。船腹計画はホワイトボードへ。遅いけど確実に回す。
りなが頷く。「72時間の法の時計も回します。“声は鍵”(折り返し+二名承認)を全窓口で。」
奏汰(そうた)は構成図に赤を走らせる。「M.E.Docの更新サーバを踏み台に帳票ソフトへ悪性更新を混ぜ、最初の一歩を作る。中では認証情報を吸い、SMBの古傷で走る。最後はMBR/MFTを壊す“身代金の仮面”。」
悠真(ゆうま)が短く足す。「鍵は最初から存在しない。支払いで戻る設計じゃない。」
ふみかは一次報の三文を置いた。
現状:港湾端末で疑似CHKDSK→起動不能を多数確認。SMB遮断/セグメント分割/証跡保全を実施。対応:ゲートは紙運用、クレーンは停止→安全化。正時に一次報、17時に更新。お願い:“支払い先変更”などメールのみの依頼は無効。必ず電話で二重確認を。
受付の**白い猫のマスコット(やまにゃん)**が光る。札には太い字。
「遅いけど確実。」
02|12:10 「戻らない」設計
ランサムノートに書かれた連絡先メールは既に死んでいた。“復号鍵”を渡す窓など、最初から用意されていない。夏芽はストレージの生の息を聴診器のように聞く。「消されていないのはログだけ。戻す道は自分たちで作るしかない。」
蓮斗(れんと)が四つの数字を書く。
MTTD(検知):14分(疑似CHKDSK→端末多数停止)
一次封じ込め:39分(SMB遮断/分割/退避)
稼働影響:ゲート通過 −80%/クレーン作業 −100%(停止)
紙運用立ち上げ:45分
律斗は短く言う。「勝ってはいない。**“間に合っている”**だけだ。」
03|13:25 “会計の島”が火口だった
東欧支社からのヒアリングで、“会計ソフトの更新が固まった朝”の話が出る。更新の直後、ログインが重く、しばらくして沈黙した。サプライチェーンが火口。炎は社内で酸素を得て走った。
奏汰は横展開の筋を断つ。
SMBv1の全域無効化
認証情報の強制失効とJIT特権(常時特権ゼロ)
ラテラル移動のふるまい検知を別の目(ETW/Sysmon)で常設
04|14:40 “港を紙で回す”
ゲート小屋に紙の山ができる。運転手は手書きの搬入票を差し出し、係員が無線でヤードに呼びかける。クレーンは安全停止。人が合図を取り戻す。遅い。だが、戻れる速さはここからしか生まれない。
やまにゃんの札が静かに光る。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
05|16:05 “残った一粒の種”
AD(ドメイン)が灰になり、復旧の基点が消えた。世界中の支社に連絡を飛ばす中、西アフリカの小さな拠点だけが停電で閉じていたと判明する。偶然が一つ、種を守った。現地へ技術者が飛び、救い出したディレクトリの写しが新しい森の根になった。
06|17:00 二次報
封じ込め:SMB遮断/セグメント分割/JIT特権化の維持。AD基点を遠隔拠点から再生、“新しい箱”に段階引っ越し。影響:ゲート紙運用継続(通過 −60%)、クレーンは夜間も停止。次:夜間に仮復旧(ゲート優先)、翌日にTOSの最小構成を再起動。72時間の線を維持。
蓮斗の数字。
MTTD:14分 → 7分(“CHKDSKパターン”検知を常設)
一次封じ込め:39分 → 25分
常時特権:ゼロ(JIT化完了)
例外期限遵守率:98%
07|二日目 08:10 “世界の同時多発”
ニュースはウクライナの税務から海運・製造・医薬へ延焼を伝える。英国政府や米政府が**“ロシア軍による攻撃”だと帰属を発表し、技術共同体はM.E.Docの接続や暗号学的破壊を図解する。帰属はわたしたちが言わない**。公的発表に歩調を合わせる。わたしたちは**“何が起き、何を止め、どう戻すか”だけを時刻**で言う。
08|三日目 11:40 “72時間”の線
所管への報告が二段落で確定する。
確認された事実:疑似CHKDSK→端末停止、SMB遮断/分割/JIT特権、AD基点の遠隔再生、ゲート紙運用、TOS最小復帰。
未確定(継続調査):第三者提供の有無・範囲、初期侵入(サプライチェーン)の確証線、外部機関連携の結果。
講堂に三つの時計が並ぶ。
現場の時間(ゲート・岸壁・通関)
規制の時間(72時間)
経営の時間(信頼・費用・再発防止)
りなは三行で締める。
言い切る(事実と可能性を混ぜない)期限を付ける(例外は48時間で自動失効)二重に確かめる(自動の前後に**“人の10分”**)
09|一か月後 港は動く
TOSは新しい箱で最低限から戻り、クレーンは歌を取り戻した。紙と無線の余白は、手順として残した。NotPetyaが教えたのは、**“身代金に見せかけた破壊”と、“戻れる速さは事前の分離と紙の道”**だ。
やまにゃんの札は変わらない。
「速さは、戻れるときだけ味方。」
—— 完
参考リンク(URLべた張り/事実ベース・一次情報/主要公的通達・技術解説・報道)
※物語はフィクションですが、骨格(M.E.Doc 経由のサプライチェーン、EternalBlue/EternalRomance 等での横展開、“身代金を装う破壊”、世界的被害と海運への影響、英米政府の帰属表明、復旧の実相)は下記で確認できます。
https://www.cisa.gov/news-events/alerts/2017/06/27/petya-ransomwarehttps://blog.talosintelligence.com/2017/07/the-medoc-connection/https://www.wired.com/story/notpetya-cyberattack-ukraine-russia-code-crashed-the-world/https://www.microsoft.com/security/blog/2017/06/27/new-petya-ransomware/https://securelist.com/exPetr-analysis/79251/https://www.eset.com/int/about/newsroom/blog/research/analysis-of-winning-setup-of-2017s-notpetya/https://www.ncsc.gov.uk/news/statement-uk-government-attributes-notpetya-cyber-attack-russian-militaryhttps://trumpwhitehouse.archives.gov/briefings-statements/statement-press-secretary-attribute-notpetya-cyber-attack-russian-military/https://www.justice.gov/opa/pr/six-russian-gru-officers-charged-connection-worldwide-deployment-destructive-malware-andhttps://blog.fox-it.com/2017/07/04/peering-through-the-smoke-tentative-connections-to-the-ukraine/https://www.ncsc.gov.uk/guidance/assessing-cyber-attacks-on-uk-organisation-from-ukraine-2017https://www.bbc.com/news/technology-40416611
主要点:CISA/US‑CERT の注意喚起、Talos による M.E.Doc 接続の技術分析、Microsoft/Kaspersky/ESET の挙動解析と**“復号不能=破壊”の指摘、UK NCSC/米ホワイトハウスの帰属表明**、DOJ 2020 Sandworm起訴、およびWired/BBC などの被害の実相・時系列報道。





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