潮風に包まれる味――イギリスのフィッシュ・アンド・チップス
- 山崎行政書士事務所
- 2月5日
- 読了時間: 3分

1. 港町の古い桟橋
イギリスの海辺にある古い港町。木造の桟橋の板はどこかしっとりしていて、潮の香りが鼻孔をくすぐる。釣り人が海に糸を垂れている横を、家族連れや観光客が通り過ぎていく。 青空の下、鳥たちが低く舞い降りていく視線を追えば、その先には赤と白のフィッシュ・アンド・チップスの看板がひっそりとぶら下がっている。そこは、古い灯台のそばに建つ小さな店で、煙突からは揚げ物の香ばしい匂いが漂ってくる。
2. 油の音と白紙の包み
店の扉を押し開けると、まず耳に飛び込んでくるのは、高温の油で魚が揚げられるジュワッという音。黒いフライヤーの中には白身魚がカラリと揚がっていき、横では分厚いポテトを揚げる香りが食欲をかきたてる。 店の奥から店主が笑顔で現れ、「どれにする? コッド(タラ)かハドック(タラの一種)かい?」と尋ねてくる。注文を終えると、揚げたてのフィッシュとチップスを白い紙で大きく包んで手渡してくれるのだ。紙袋の隙間から立ち上る蒸気に、ほんのり香るビネガーの酸味が混ざるのを嗅ぐ瞬間がたまらない。
3. 外はサクサク、中はふっくらの白身
店を出て、桟橋に据えられた長い木製のベンチに腰掛ける。包みを開くときのワクワク感――紙をめくると、中からチップスの金色と、衣がサクッとした白身魚が現れる。 一口かじれば、外はカリッと香ばしく、中の魚はふんわりと柔らかい。下味はシンプルで、塩や胡椒がほんのり効いている。チップスは太めにカットされていて、ジャガイモのホクホク感が活きている。ピクッとした海の塩気を感じつつ、モルタルビネガーを軽くふりかければ、酸味がより食欲を増進させる。
4. ビネガーやタルタル、こだわりのカスタマイズ
店によっては、タルタルソースやカレーソース、マッシュピーズ(エンドウ豆をつぶしたもの)などの付け合わせを追加する人もいる。ソースを絡めたチップスを頬張り、香ばしい衣の魚と混ぜ合わせると、味わいの変化を楽しめる。 カリカリの衣にジュっとソースが染み込む感じがたまらなくおいしい。イギリス人の友人は、「これこそイギリスのソウルフードだ」と誇らしげに言う。その笑顔からは、子どもの頃から食べてきた思い出の味がしみじみと感じられる。
5. 潮風の夕暮れと満足感
やがて日が傾き、桟橋の先がオレンジ色に染まる頃、紙包みの中のチップスも残り少なくなる。気づけば、あたりには同じようにフィッシュ・アンド・チップスの紙袋を手にした人々が散らばり、誰もが満足そうな顔で海を眺めていた。 潮風がやや冷たく感じられるその瞬間、ホクホクの食べ物が身体を温め、胃から幸福感がじんわりと広がる。波の音とかすかな鳥の鳴き声がBGMとなり、イギリスの港町の黄昏をより味わい深く仕上げているようだ。
エピローグ
イギリスのフィッシュ・アンド・チップス――昔ながらの紙包みに詰まった金色の衣とホクホクのポテト、それにビネガーの酸味がアクセントとなる素朴な逸品。 海岸の桟橋でも、街角のベンチでも、パブのカウンターでも、一口食べればどこにいても“イギリスの味”を感じることができる。もしこの国を訪れたなら、ぜひ素朴な紙に包まれた幸せを頬張りつつ、潮風と街の風景を余すところなく味わってみてほしい。きっと何にも代えがたい“英国の午後”があなたを迎えてくれるはずだから。
(了)





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