登呂遺跡に眠る「古代の呪い」
- 山崎行政書士事務所
- 1月18日
- 読了時間: 7分

第一章:発掘現場の死
登呂遺跡(とろいせき)は、弥生時代の集落跡として知られ、静岡市の歴史的シンボルの一つである。 ある日、この遺跡で大規模な発掘調査が再開され、多くの研究者や大学生が現地で作業していた。ところが、突如として不可解な事件が起こる。 発掘に携わっていた考古学者・**羽柴 俊也(はしば としや)**が、作業中に倒れ込み、そのまま心臓発作で命を落としてしまったのだ。 しかし周囲の証言によれば、彼は死の直前、遺跡から掘り出された古い土器を興奮気味に抱え、「これは…とんでもない発見だ…!」とつぶやいていたらしい。そして叫び声を上げるや否や、苦しげに倒れた。 医師は“心不全”と診断したものの、同僚らは不審を抱く。俊也が健康診断で特に問題なしとされていたからだ。
第二章:探偵・桐生 朔(きりゅう さく)の登場
研究者たちは警察に通報しようとしたが、法的には事故死扱いで事件化されずに終わりそうだった。そこで、俊也の友人でもある桐生 朔という私立探偵が呼ばれる。 桐生はかつて俊也に世話になったことがあり、彼の死に疑念を拭えなかった。「健康な男が、古い土器を触った直後に死ぬなんて不可解だ」と。 桐生が遺跡の調査現場を訪ねると、俊也の同僚が複雑な表情で打ち明ける。「実は、彼の他にも土器に触れておかしくなった研究者がいる。 夜な夜なうなされ、翌朝、熱を出して倒れたんだ…」 桐生は興味を覚え、問題の土器を見せてもらう。そこには波状の模様だけでなく、奇妙な幾何学的線刻がある。“これが呪文のように見える”と誰かが言うが、にわかに信じがたい。しかし、この土器の模様に一種の不気味な迫力を感じるのは確かだ。
第三章:謎の土器と古代の儀式の痕跡
登呂遺跡は弥生時代の住居や水田跡で有名だが、少し離れた場所では縄文に近い文化層も見つかっているらしい。今回発見された土器がその混在期のものであるという説が浮上する。 桐生が資料を調べると、「弥生の集落とは別に、古くからここにいた土着民が祈祷や儀式を行っていたかもしれない」と記した古い研究ノートに行き当たる。 そこには“アメツチノカミ”なる神を祀(まつ)った形跡があるとされ、その神にささげる「呪術的な土器の存在」が推測されている。 ──もし、これこそが現代で言う“呪われた土器”なのか? 桐生は胸騒ぎを覚えつつ、事件との関連を探るが、遺跡の責任者は「土器など普通の出土品」と軽くあしらう。しかし、同じく土器に触れた複数の人たちが、少なくとも体調不良を起こしている事実は無視できない。
第四章:二人目の犠牲者と呪いの噂
調査が進む中、第二の犠牲者が出る。発掘プロジェクトの助手・北村 麻衣が、夜遅くまで土器の清掃作業を行っていたところ、翌朝研究室で倒れたまま死亡しているのを発見された。 傍らには例の土器の破片が散乱し、彼女の顔は恐怖に歪(ゆが)んでいたとのこと。 現場に駆けつけた桐生は、「これだけ連続でおかしな死が出ているのに、事故や病死として処理しようとするのはおかしい」と声を上げる。だが警察は状況証拠が乏しく、本気で事件扱いしようとしない。 しかし周囲では“呪い”の噂が爆発的に広まり、**“あの土器を持ったら死ぬ”**と恐れられる。研究はストップし、一部のスタッフは辞めてしまう事態に。 桐生は疑問に思う。“これは果たして本当に呪いか? あるいは誰かが土器を使い殺人を演出しているのではないか?”と。
第五章:土器に刻まれた古代文字
さらに詳しく土器の模様を解析しようとするが、専門家の間でも意見が割れる。文字という説もあれば、単なる装飾という説もある。 ただ、桐生は第三者から得たヒントで、**“緯線と経線”**を示すような線刻に注目する。地図状の線かもしれないという仮説だ。そして残された円形の模様は、場所を示すマークの可能性がある。 もしこれが場所を示す暗号なら、登呂遺跡の周辺に何か古代の祠(ほこら)や掩蔽(えんぺい)施設があるのかもしれない。 桐生は地元の地図を照合し、やがて“安倍川”付近に合致する場所が見つかる。そこはかつて湿地帯だった場所で、今は農地や住宅地が混在している。 「もしかして、ここに古代の儀式場が……?」という妄想が浮かぶが、それが事実なら、誰かがそこをめぐって人を殺し、土器を呪いの道具に見せかけているのか……?
第六章:夜の発掘場、三人目の犠牲者
連続死が2件あり、現場は不気味な空気に包まれる。桐生は発掘現場を夜間調査しようと決める。 真夜中、懐中電灯を携え、彼が現場のテントに忍び込むと、そこに地元ボランティアの木下という男性が先に来ていた。どうやら何かを盗もうとする素振りが見え、「お前は何をする?」桐生が問いただそうとした瞬間、木下が断末魔の叫びを上げて崩れ落ちた。 彼は胸に古代の模様の刻まれた石を握っていたが、既に息絶えている――まるで瞬時に心臓を止められたような不可解さ。 この場にいた桐生は警察に通報するも、「またもや呪いの犠牲者?」と大騒ぎになる。だが、桐生は見逃さなかった。木下の首元に極細の針で刺されたような痕がある。これは毒殺かもしれない。
第七章:古代儀式の正体と犯人像
3人もの犠牲者が出たことで警察も重い腰を上げる。桐生は自分の推理を主張する。「これは呪いなどではなく、土器にまつわる古代の秘密を守ろうとする者の犯行だ」 さらに彼は入手した古文書の抜粋から、「登呂の周辺には古代の集落が祭祀(さいし)に用いた秘密の場所がある。その場で生贄(いけにえ)の儀式が行われた証拠が遺されている」という記述を突き止める。 もしその場所が明るみに出れば、何か巨大な利権や目的を損なう者がいるのだろうか。あるいは個人的な怨恨を晴らすために殺人を行っているのか。 桐生が目を付けたのは、遺跡調査を支援する大企業の関係者だった。そこには文科省や地元有力者との癒着が囁かれており、遺跡を観光施設にする計画があるという。もし古代の忌まわしい儀式が公になると、その計画が破綻しかねない。つまり、口封じのためなら殺人も厭わないのか……?
第八章:クライマックス—地下埋納(まいのう)の洞窟
桐生は土器が指し示す地図的なヒントを頼りに、川辺の草むらを探ってついに隠し洞窟への入口を発見する。夜、そこに潜入してみると、洞窟の奥から微かな明かりが漏れる。 潜り込むと、そこには古代の呪術を思わせるような祭壇めいた構造があり、宝物のようなものが納められた箱が複数見える。まるで弥生期と続く縄文の“ミックス”された異形の文化跡地だ。 その場で桐生を待ち受けていた男こそ、遺跡を支援する大企業の幹部八木沢と、その部下たち。 「ここで殺した者たちは、土器の呪いに見せかけた。伝説を大きくするほど、他人は近づかなくなるからな……」八木沢は狂気を帯びた笑みを浮かべ、「この場所を我々が秘密裏に利用するには都合がいい」と語り出す。 桐生は薄々予想していたが、やはり“呪い”は彼らが演出していた。土器の古代文字を巧みに加工し、さらに猛毒で犠牲者を殺して呪いに見せかけていたのだ。
第九章:儀式の再現と決死の脱出
八木沢らは古代の儀式を再現し、ここを大掛かりな観光アトラクションに仕立てるか、あるいは秘めた財宝を私物化しようと企んでいたようだ。 犠牲者たちが邪魔になったのは、偶然にも土器や洞窟の存在に気づいたり、利益配分を巡るトラブルを抱えたりしたためだ。 桐生は捕らえられ、彼らが再び“生贄”を行おうとする寸前、機転を利かせて明かりを消し、混乱を誘い、複数の部下を殴り倒す。騒ぎに乗じて警察が踏み込み、八木沢らは包囲される。 こうして暗黒の計画は白日の下にさらされ、洞窟の秘宝も当局に押収されることに。土器の呪いなど存在しなかったが、古代の恐るべき儀式の残滓(ざんし)が現代の犯罪者に悪用されていた……。
エピローグ:桜吹雪のなかの遺跡
事件解決後、登呂遺跡の発掘は再開される。呪われた土器も学術的に分析され、特に猛毒や呪術の痕跡はないと判明。結果的に殺人者の手で偽造された仕掛けが施されていただけだった。 春、桐生が再び遺跡を訪れると、桜の花びらが風に揺れ、見学客たちが弥生式住居の復元を楽しんでいる風景が広がる。 「呪いの事件も、結局は人間の欲と悪意が織り成したものでしかなかったか……」 そう呟き、桐生は安堵と寂しさを同時に味わう。だが、余韻として、遺跡の片隅でふと土器の破片が光ったように見え、桐生は一瞬だけ背筋がぞくりとする。 「もし古代の怨念が本当にあるのなら、いつかまた別の形で表れるのかもしれない……」 そう心に浮かべながら、探偵は去っていく。遺跡の木々がざわめく音は、どこかしら人間の嘆きと喜びが混ざったように思われた。
(了)





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