税の消える街
- 山崎行政書士事務所
- 1月18日
- 読了時間: 6分

序章:夜の帳と不穏なズレ
静岡市役所・財務課。深夜の事務室にほの暗い蛍光灯が落ちるなか、鈴木 志穂(すずき しほ)はひとりパソコン画面を眺めていた。決算期が近づくこの時期、残業は日常茶飯事。しかし、きょうの志穂はいつにも増して瞳を見開いている。画面に映る財務データの数字が、昨週までと微妙にずれているのを見つけたからだ。「なんで…?」税収の一部が削られたかのような形跡。金額は大きくはないが、何かおかしい。月明かりが差す窓からは、暗い静岡の街並みがかすかに覗き、志穂の胸がざわついた。「まさか、ただの計算ミス?」 けれど直感が警鐘を鳴らす。「これは、単なる誤差じゃない…」
第一章:税の消失と鈴木の違和感
翌朝、財務課は慌ただしい。近年の税収減少が深刻化し、職員の誰もが「今期はどこを削ればいいのか」と頭を抱える空気。一方、志穂が見つけた“数十万円規模の謎の抜け落ち”はあまり話題にならない。上司の伊藤 課長に報告しても「まあ、何かのシステム不具合じゃない? しばらく様子を見よう」と軽く流される。しかし、志穂がさらにデータを精査すると、似たようなズレが複数回起きていることを突き止める。「こんな形で税が自然に消えるなんて…? それに、時期がちょうど“空き家活用補助金”や“福祉助成金”などの予算執行と重なっていた。不自然な符合に志穂の胸がドキドキする。「誰かが補助金を利用して、裏で何かしている?」
第二章:地元有力者とのつながり
ある日、銀行から聞いた噂として、「地元の大物政治家がいくつもの空き家案件に投資し、補助金をうまく活用している」という情報が耳に入る。市民のためと思われた空き家活用補助金制度だが、実際には地元権力者が所有する物件ばかりが対象になり、改修費用は税金で補われている――という話。志穂はNPOの知人を通じて、実際にその物件を見て回る。そこは**“空き家をリノベ”**するという名目にしては進捗がなく、がらんどうのまま。 しかし補助金はしっかりと支出済みになっている。「これって、補助金を受け取るだけで、活用しない…? まるで裏金にするためのスキームじゃないの…?」志穂は愕然とする。
第三章:福祉助成金の闇
さらに、高齢者向け福祉助成金においても、不可解な点が浮上。表向きは「介護が必要な高齢者の居場所づくり」をうたう助成だが、申請者リストを見ると、同じ名前の業者が複数の事業を受け、しかも事実上存在しない施設まで抱えている可能性がある。「こんな虚偽申請が通るなんて…?」志穂は同僚の笠井と一緒に、それらしい住所を訪ねてみるが、そこは閉まったままの店舗で「介護施設なんてない」と近所の住人が首をかしげる。一方、書類上では“営業”していることになっており、助成金も支払われている形だ。「この仕組み、完全に不正流用じゃないか…」 志穂はノートにメモを取りながら背筋を寒くさせる。
第四章:市幹部との衝突、圧力の始まり
志穂は自分が把握した不正の匂いを上司の伊藤課長に相談するが、課長は顔をこわばらせる。「このことを公にしたら、市の大失態になる。もっと高いレベルの話かもしれないぞ…」そして暗に「下手に動くな」と警告をする。 その裏には**地元の有力者(政治家や大企業のオーナー)が関わるという噂があり、課長自身も処分を恐れている様子だ。しかし志穂は腹を決める。「こんなの放置してたら、本当に税金が闇に消えていくじゃないですか。どれだけ市民が苦しい思いをしているか、誰か言わなきゃ…」数日後、職場で謎の脅迫メモが志穂の机に置かれていた。「調子に乗るな。家族が大事なら黙れ」**と。背筋が凍えるが、彼女の決意は揺るがない。
第五章:不正スキームの全容を追う
助成金や補助金が、裏で集約され不正に流用されている。資金が特定の企業や政治家を経由し、時には他県の口座にも移っているらしい。この一連の流れを突き止めようと、志穂は深夜残業で会計システムの履歴を調べるが、パスワードがかかったフォルダがいくつも。 同僚の笠井がITに詳しく、少しずつデータを解析すると、**莫大な金額が“行方不明”**になっていることが判明する。志穂は震えながらも興奮を感じる。「やっぱり…税収の減少がこんなに急だったのは、不正が絡んでたのか。全ての補助金が正常に使われていたわけじゃない!」
第六章:告発か、沈黙かの葛藤
志穂がこの不正をどうにか公表しようと決意する中、市内で一部のジャーナリストが何かを嗅ぎつけたという噂が流れる。 しかし、その記者は急に取材をやめた。圧力がかかったのだろう…職場の上司からも「落ち度があれば君の責任になる。よく考えろ」と脅しを受ける。 同時に自宅には無言電話が多発し、家族が不安がる。しかし、公務員として、これを黙っていいのか? 「こんな巨額が闇に消えて、高齢者や子育て支援に使われるはずの金が奪われている…。どれほどの市民が困っているか!」志穂は自分の信念と家族の安全との狭間で、悩みに悩む。
第七章:真実の灯をともす決断
最終的に、志穂は同僚笠井や信頼できる先輩職員の協力を得て、入手したデータをまとめる。補助金詐欺の具体的な手口、企業名、政治家の関与らしき証拠が揃いつつある。後はどう世に出すか。市役所内に告発しても揉み消される恐れが高い。 一方、マスコミに直接リークすれば、誰が漏らしたか容易に特定されるかもしれない。だが、そこへ救いの手が。地元紙の記者が水面下で動いているとの情報を得て、志穂は密かに接触。 その記者も既に多くの住民の声を聴いて疑いを深めているという。「私も命がけですが、一緒に戦いましょう」とその記者は言う。 志穂の心に燃えるような決意が再び宿る。
第八章:クライマックス―暴かれる腐敗と結末
リークから数日後、新聞が一斉に報じる。「静岡市の税の消失、補助金不正流用か?」 大々的にスクープが駆け巡り、県民・市民が騒然となる。市長や幹部は「事実無根」と会見を開くが、次々と証拠が出てきて追い詰められる。警察や検察も捜査に着手。地元有力者らが逮捕される見通しという報道まで出始める。志穂は内部告発者として上層部に責められるが、世論の後押しでクビにはならず、むしろ多くの市民が「あなたのおかげで税金が守られた」と感謝の声を寄せる。最終的に、不正流用が止まり、福祉や空き家関連の予算再編が進む方向へ。市内ではこの騒動による混乱が続くが、社会の風通しが改善されるきっかけともなる。
エピローグ:新たな朝の光
騒動が収まったある朝、志穂はいつもの出勤路を歩きながら、多少の後ろめたさを感じつつも「私がやったことは間違ってなかったよね」と自問。周囲の街並みを見ると、まだ高齢者に優しい環境とは言いがたいが、変化の兆しが見えている。市長や幹部が総入れ替えになるかもしれない。“税の消える街”と揶揄された故郷が、今度は**“税を取り戻す街”として再生の道を歩むかもしれない。微かに差し込む朝日が志穂の背中を照らす。一呼吸し、彼女は「これから本当の仕事が始まる。私が守りたかったのは、市民の暮らしなんだ」**と思い、新しい一日へと足を踏み出す。こうして物語は、静かな決意を抱く主人公の姿を映し出して幕を下ろす。
(了)





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