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第二十九章 効いているのか


午前七時三十分。

文書保管室の机に置かれた資料には、これまでよりも短い題名が付いていた。

効果確認レビュー

怜子は、その四文字を見つめていた。

効果。

この言葉も、危険だ。

施策を実施した。研修をした。通知を送った。台帳を作った。AIを止めた。監査を始めた。支援窓口を開いた。紙資料を配った。月次確認表を作った。

それらはすべて、やったことだ。

しかし、効いているのか。

日下部澄江は、少しでも眠れるようになったのか。A市の保健師の負担は減ったのか。通報者は、裏切り者にされずに済んでいるのか。社員は、外部ツールへ安易に情報を入れなくなったのか。ミュトスは、判断者ではなく道具として扱われているのか。取締役会は、未了を見続けているのか。広報は、痛みを広告にしなくなったのか。

効果確認とは、会社が自分の努力を数えることではない。

努力が、誰かの負担を減らしたかを見ることだ。

山崎行政書士事務所の山崎が、オンラインで入った。

「今日は、少し嫌な会議になります」

高瀬瑛子は、すぐに聞いた。

「なぜですか」

山崎は、淡々と答えた。

「効いていない施策を見つける会議だからです」

会議室が静かになった。

山崎は続けた。

「再発防止策は、実施した瞬間に安心を生みます。研修をした、窓口を作った、台帳を整えた、監査を始めた。どれも必要です。ただ、必要であることと、効いていることは違います」

佐伯が、月次確認表に新しい列を追加した。

効果確認指標効果確認結果効いていない兆候追加対応

怜子は、その列を見ていた。

効いていない兆候。

そこを見る勇気があるか。

それが、今日の試験だった。

最初の項目は、住民向け支援窓口だった。

瀬尾が資料を出す。

「支援窓口の利用件数は、前月比で減少しています。初週は一日百件を超えていましたが、直近では一日二十件前後です」

宮内が言った。

「落ち着いてきた、という見方もできますね」

飯倉もうなずきかけた。

だが、高瀬は表情を変えなかった。

「問い合わせが減った理由は?」

瀬尾が少し詰まる。

「住民の不安が少し落ち着いた可能性があります」

山崎が静かに言った。

「可能性はあります。ただ、別の可能性もあります」

「別の可能性?」

佐伯が聞いた。

山崎は答えた。

「窓口にたどり着けていない。電話する気力がない。説明を読めない。諦めた。信用していない。家族に知られたくない。そういう理由でも、問い合わせは減ります」

文書保管室に、重い沈黙が落ちた。

高瀬は、瀬尾に聞いた。

「問い合わせが減ったことを、安心材料として扱う根拠はありますか」

瀬尾は、資料を見直した。

「ありません。件数だけです」

「では、効果確認としては不十分です」

山崎が言った。

「支援窓口の効果を見るなら、件数だけでなく、届いていない人を見ます。公開済み対象者、高齢者、施設入所者、家族同席希望者、戻り郵便の方、紙資料希望者。その人たちが必要な支援に接続できているか」

瀬尾は、すぐに表を修正した。

支援窓口件数減少:効果未判定追加確認:高リスク対象者への接続状況、A市保健師経由の相談状況、紙資料利用者からの問い合わせ有無

西森A市健康福祉部長もオンラインで入っていた。

『市の現場感覚では、問い合わせが減ったというより、相談できる人とできない人の差が出ています』

瀬尾は、顔を上げた。

「差?」

西森は言った。

『家族がいる人、インターネットを見られる人、電話できる人は相談しています。独居の方、認知機能に不安がある方、家族に知られたくない方は、こちらから接点を作らないと声が出ません』

山崎が言った。

「支援窓口の効果確認に、“声が出ていない層”を入れましょう」

佐伯が入力する。

声が出ていない層の確認。

怜子は、その言葉を見た。

内部通報の章でも、同じだった。

正式な声だけを聞いてはいけない。

被害者支援でも、声が出ていない人を見なければならない。

午前八時三十五分。

次は、紙版資料だった。

飯倉が説明する。

「一枚版資料は、A市窓口、地域包括支援センター、保健センター、関係施設で配布されています。最新版への差替え確認率は八十七パーセントです」

高瀬が聞いた。

「読まれているかは?」

飯倉は答えに詰まった。

「配布数は把握していますが、読まれたかは確認できません」

山崎が言った。

「読まれたかを完全に確認することはできません。ただ、読める資料になっているかは確認できます」

A市の保健師が画面に入った。

『地域包括支援センターから、いくつか反応があります。文字が大きくなったのはよい。ただ、相談窓口の説明で、“支援窓口”と“問い合わせ窓口”の違いがまだ分かりにくいという声があります』

飯倉が、資料を見直した。

「同じ番号に統合できませんか」

瀬尾が答えた。

「一次窓口は統合できます。ただ、個別支援と一般問い合わせで内部処理を分ける必要があります」

山崎が言った。

「住民向けには一つに見せ、内部で分類する形がよいかもしれません。外向けの複雑さを減らし、内部で処理する」

怜子は、以前の山崎の言葉を思い出した。

専門家同士で通じる文は、住民には通じないことが多い。

飯倉は、すぐに修正案を作った。

まずは下記の窓口にご相談ください。内容に応じて、担当へおつなぎします。

高瀬が頷いた。

「よいです。住民に分類を背負わせない」

佐伯が、効果確認結果に入力した。

紙版資料:配布は進行。読解性に改善余地。相談窓口表現を統合方向で修正。

飯倉は、少しだけ悔しそうだった。

「配布率だけ見ていたら、緑にしていました」

山崎が答えた。

「配布率は作業指標です。読解性は効果指標です」

また一つ、言葉が分かれた。

午前九時二十分。

次は、内部通報制度だった。

人事部長が資料を出す。

「再設計後、相談件数は増えています。正式通報前の相談も記録されるようになりました。不利益取扱いの申告は、現時点でありません」

高瀬は、すぐに聞いた。

「相談件数が増えたことは、良いことですか」

人事部長は、少し考えた。

「声が出るようになったという意味では、良い可能性があります。ただ、問題が増えている可能性もあります」

山崎が頷いた。

「その通りです。通報制度の効果は、件数の増減だけでは測れません。早期に拾えているか、所管部門単独終了が減っているか、通報者が守られているか、未了事項につながっているかを見る必要があります」

佐伯が表を開く。

相談件数、増加。正式通報化件数、増加。所管部門単独終了、ゼロ。リスク所管連携、十二件。監査委員会報告、三件。不利益取扱い疑義、ゼロ。通報者希望確認、八件中六件完了。二件未了。

高瀬は、最後の欄を指した。

「二件未了です」

人事部長が答える。

「本人が返信していません」

「返信していない理由は?」

「未確認です」

「では、不利益取扱い疑義ゼロとは言い切れません」

人事部長の顔が硬くなった。

山崎が補足した。

「疑義申告ゼロ、ですね」

佐伯が修正する。

不利益取扱い申告:ゼロ不利益取扱い疑義の有無:未判定二件あり

高瀬は言った。

「申告がないことと、疑義がないことを分けます」

人事部長は、深く頷いた。

「はい」

通報制度の効果確認は、声が増えたことでは終わらない。

声が出ない人をどう見るか。

また、同じ問いに戻る。

午前十時。

住民向け定期更新の時間だった。

この日の更新には、支援窓口の表現修正が入った。

どの窓口に相談すればよいか分からない場合も、まず下記の番号へご連絡ください。内容に応じて、A市またはアステリオンの担当者へおつなぎします。お一人で判断する必要はありません。

西森から承認が来た。

『よいです。分類を住民に背負わせない表現になっています』

午前十時ちょうどに更新された。

その三十分後、A市保健師から連絡が来た。

『一枚版を見た日下部さんが、“ここに電話すればいいのね”と言っていました』

怜子は、その一文を読んで、静かに目を閉じた。

小さなことだ。

電話番号が一つに見えること。分類を住民に背負わせないこと。お一人で判断する必要はありません、と書くこと。

だが、それが効いている。

少なくとも、一人には届いた。

効果確認とは、こういうことなのかもしれない。

大きな数字ではなく、小さな届いた痕跡を見つけること。

午前十一時十五分。

次は、AIミュトスだった。

遠野が説明する。

「低リスク機能の条件付き運用開始後、禁止情報の検知はありません。人間確認者未記録は、前回六件から一件に減りました。出力採用理由未記録は十七件から四件に減りました」

宮内が言った。

「改善していますね」

高瀬は頷いたが、すぐに聞いた。

「未記録が減った理由は?」

遠野は資料を見た。

「利用画面に、人間確認者と採用理由を入力しないと保存できないようにしました」

「つまり、制度ではなくシステムで強制した」

「はい」

山崎が言った。

「よい改善です。ただし、入力欄があることで形式的な入力が増える可能性があります」

遠野は頷いた。

「採用理由の内容もサンプル監査します」

佐伯が、ログを一部表示した。

採用理由。

「問題なし」「確認済み」「規程通り」「一般条項のため」

高瀬が眉をひそめた。

「これは理由ですか」

遠野は、苦笑に近い顔をした。

「入力はされていますが、内容が薄いです」

山崎が言った。

「採用理由にも品質があります。理由欄を埋めることと、理由を残すことは違います」

怜子は、月次確認表に新しい項目を加えた。

理由記載品質。

高瀬は言った。

「AIだけではありません。該当なし理由、解除理由、完了根拠、全部に関係します」

山崎が頷いた。

「理由欄の監査が必要ですね」

佐伯が、半分笑いながら言った。

「理由の理由を見ますか」

山崎は真面目に答えた。

「はい。理由らしい理由かを見ます」

文書保管室に笑いが起きた。

だが、実際に必要なことだった。

午後零時三十分。

昼休み中、飯倉がぽつりと言った。

「効いているかを見るのは、つらいですね」

怜子は聞いた。

「なぜ?」

「やったことが、まだ届いていないと分かるからです。紙資料も、支援窓口も、広報チェックリストも。実施したときは、少し安心しました。でも、効果を見ると、まだ足りない」

山崎が答えた。

「効果確認は、安心を壊すためのものです」

飯倉は苦笑した。

「また厳しい」

「ですが、安心が壊れた場所に、次の改善があります」

高瀬は頷いた。

「安心を壊す会議。これも社内では使えそうです」

山崎は、すぐに言った。

「広報では使わないでください」

全員が笑った。

その笑いは、以前よりずっと自然だった。

午後一時四十五分。

次は、委託先監査だった。

遠野と怜子が共同で報告する。

ミナセ実地監査、実施済み。オルフェ、回答遅延。ネレイド、契約主体確認中。広報外部委託先、初回書面確認中。高リスク外部サービス、是正中。

高瀬は聞いた。

「委託先監査は効いていますか」

遠野は、少し考えた。

「ミナセについては、実地監査で追加の古いAPIキーが見つかりました。無効化しました。監査は効いています」

怜子が続けた。

「一方で、広報外部委託先の書面確認では、“AI利用なし”との回答が複数ありますが、根拠資料は未提出です。書面だけでは効果未確認です」

山崎が言った。

「監査の効果指標は、実施件数だけでなく、検出事項、是正事項、再発防止措置、次回監査予定です。何も見つからなかった監査もありますが、その場合も、なぜ何も見つからなかったのか、監査範囲が十分だったかを見ます」

高瀬は言った。

「監査で何も見つからないことを、良い結果と即断しない」

佐伯が入力する。

監査結果ゼロ件の場合、監査範囲・質問設計・根拠資料確認の妥当性を点検する。

怜子は、最初の委託先書面確認を思い出した。

はい。なし。あります。

あの美しいチェックボックスが、どれほど危険だったか。

今度は、書面確認の「なし」を監査する。

午後三時。

支援費用の効果確認に移った。

宮内が資料を出す。

個別支援申請、二十三件。支払い処理完了、十八件。確認中、五件。平均処理日数、四・二日。簡易申告枠利用、十一件。追加説明希望、九件。

高瀬が聞いた。

「支援費用は、負担を減らしていますか」

宮内は、少し黙った。

「処理日数は短くなっています」

「それは会社側の処理指標です」

山崎が言った。

「支援を受けた方が、申請手続を負担に感じていないかを見る必要があります」

瀬尾が補足する。

「支援窓口の通話記録では、申請書が難しいという声が三件あります」

宮内は、すぐに資料を見直した。

「申請書を簡略化します」

高瀬が聞いた。

「どこが難しいのですか」

瀬尾が読み上げる。

「“本件との因果関係を記載してください”という欄です」

文書保管室が静かになった。

須堂が、少し苦い顔をした。

「法的には必要な場合がありますが、住民向け申請書としては重いですね」

山崎が言った。

「一次申請では、“どのようなご負担がありましたか”でよいと思います。因果関係の評価は、会社側で後から整理する」

宮内は、すぐに頷いた。

「修正します。因果関係という言葉を外します」

怜子は、支援申請書の改定欄に入力した。

住民向け申請書から“因果関係”表現を削除。負担内容を記載する形式へ変更。

高瀬は言った。

「支援費用の効果確認は、処理速度だけでなく、申請負担も見ます」

山崎が補足した。

「支援を受けるために、相手へ法的説明を強いると、支援の効果が下がります」

宮内は、静かに言った。

「財務の言葉を、相手に背負わせていました」

怜子は、宮内を見た。

また一つ、数字の言葉が人の言葉へ変わろうとしていた。

午後四時三十分。

A市との定例で、効果確認レビューの結果を共有した。

西森は、支援窓口の件数減少について言った。

『市側でも、声が出ていない層を見ます。地域包括支援センターと連携して、必要な方へ情報が届いているか確認します』

高瀬は答えた。

「ありがとうございます。アステリオン側も、窓口件数を安心材料として扱いません」

『それがよいです』

山崎が言った。

「A市様とアステリオン側で、効果確認指標を共有しましょう。件数、アクセス数、処理日数だけでなく、声が出ていない層、紙資料到達、説明の再要請、支援申請負担も含める」

西森が頷いた。

『市側にも必要な視点です』

効果確認は、企業だけのものではなくなっていた。

A市も、同じ表を見始めている。

山崎の表が、企業と行政の間をつないでいる。

それは地味だが、確かな信頼の形だった。

午後五時四十分。

攻撃者からメールが届いた。

件名。

Effect

本文。

Action is not effect.Effect is what remains in others.

行動は効果ではない。効果は、他者の中に残るものだ。

怜子は、その文を読んだ。

今日の会議を見ていたような言葉だった。

だが、いつものように、攻撃者に物語を渡さない。

記録する。

攻撃者より効果確認に関する示唆メールを受信。対応は攻撃者の評価ではなく、効果確認指標、声が出ていない層の確認、申請負担軽減、紙資料読解性確認、AI理由記載品質監査、委託先監査効果指標に基づき進める。

高瀬は、その記録を読んで言った。

「私たちの言葉では?」

怜子は少し考えた。

「実施したことではなく、相手の負担がどう変わったかを見る」

山崎が頷いた。

「よいです」

月次確認表の効果確認欄に、その一文が入った。

午後六時三十分。

終業前確認。

高瀬は、今日のレビューをまとめた。

「今日は、効果を見ました」

全員が月次確認表を見ている。

「問い合わせが減ったことは、安心の証拠ではありません。紙資料を配ったことは、読めたことではありません。研修を受けたことは、判断できることではありません。AIの理由欄が埋まったことは、理由があることではありません。監査を実施したことは、効いたことではありません。支援金を支払ったことは、負担が減ったことではありません」

宮内が静かに言った。

「厳しいですね」

高瀬は頷いた。

「はい。でも、ここを見なければ、また緑が増えます」

山崎が言った。

「効果確認は、施策を責めるためではありません。施策を生かすためです」

飯倉が言った。

「安心を壊すためでもあり、次の改善を見つけるためでもある」

「そうです」

高瀬は言った。

「明日は、改善後の再確認日を見ます。改善したと言って終わらせない」

佐伯は、もう驚かなかった。

「再確認日の確認ですね」

山崎が、真面目に頷いた。

「必要です」

午後八時十分。

日下部澄江の娘から、A市経由でメッセージが届いた。

支援窓口の書類が少し簡単になると聞きました。難しい言葉があると、母は自分が悪いことをしたように感じます。会社の言葉を、母に背負わせないでください。

怜子は、その文を読んで、胸が詰まった。

会社の言葉を、母に背負わせないでください。

因果関係。対象者。該当。解除。完了。自己申告。証明。合理的理由。

それらの言葉は、会社には便利だ。だが、相手には重い。

山崎が言った。

「住民向け文書の用語監査を入れましょう」

飯倉が答えた。

「入れます。専門用語、法務用語、財務用語、行政用語を洗い出します」

怜子は、支援申請書の改定方針に追記した。

会社側の評価用語を、住民に記入させない。

高瀬が頷いた。

「これも効果確認です。文書が相手を萎縮させていないか」

また一つ、効果の見方が増えた。

午後九時三十分。

月次確認表の効果確認欄が、正式に改定された。

効果確認指標は、三種類に分けられた。

一、会社側処理指標。件数、処理日数、実施率、登録率、研修受講率。

二、相手側到達指標。読解性、問い合わせしやすさ、再説明要否、紙資料到達、A市現場確認、本人希望反映。

三、リスク低減指標。同種誤入力減少、外部サービス事前申請増加、通報の所管単独終了ゼロ、AI理由記載品質改善、監査での是正完了、未了放置減少。

山崎が言った。

「この三分類があると、会社側の処理だけで効果を語りにくくなります」

高瀬は頷いた。

「よいです。取締役会にも出します」

怜子は、月次確認表の表紙に新しい一文を入れた。

効果は、会社側の処理ではなく、相手側の到達とリスク低減で確認する。

午後十一時。

攻撃者から、その日最後のメールが届いた。

件名。

Burden

本文。

If your remedy burdens the harmed, it is another wound.

救済が被害者の負担になるなら、それは別の傷だ。

怜子は、その文を読んだ。

今日の支援申請書の問題と同じだった。

因果関係を書かせる。証明させる。難しい用語を読ませる。どの窓口か判断させる。支援を受けるために、また苦痛を説明させる。

救済が、別の傷になる。

それは、絶対に避けなければならない。

怜子は記録した。

攻撃者より支援施策の負担に関する示唆メールを受信。対応は攻撃者の評価ではなく、支援申請書改定、会社側評価用語削除、相手側到達指標、声が出ていない層確認、A市現場確認に基づき進める。

そして、支援施策の効果確認欄に一文を入れた。

支援が相手の追加負担になっていないかを確認する。

山崎が言った。

「必要な一文です」

午前零時。

文書保管室の灯りを消す前に、怜子は今日の資料を保存した。

効果確認レビュー_第一回

保存ログ。資料番号。住民向け文書改定。支援申請書改定。AI理由記載品質監査。紙資料読解性確認。通報者保護の声が出ていない層。委託先監査効果指標。A市共有版。取締役会報告予定。

佐伯が確認した。

「完了根拠、あります。ただし、効果確認は継続です」

怜子は笑った。

「その言い方、いいですね」

「山崎式です」

山崎は、もう否定しなかった。

高瀬は、最後に言った。

「明日は、改善後の再確認日です。改善しました、で終わらせない」

文書保管室の灯りが消えた。

暗闇の中で、壁の言葉は見えない。

しかし、月次確認表には新しい分類が残っている。

会社側処理指標。相手側到達指標。リスク低減指標。

会社は、ようやく自分の努力ではなく、相手に残ったものを見始めていた。

それが効果確認なら、まだ道は長い。

だが、長い道こそ、平時の道だった。

 
 
 

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