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第十七作「血流川に哭(な)く首塚――御門台駅、天皇行幸の影に沈む絶望」

更新日:1月27日



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序章 古の呼び声

 静清鉄道静岡清水線の御門台駅。 もともとは近くにある学校名から「有度学校前駅」と名乗っていたが、宅地開発とともに「御門台」へと改称された。だが実は、この駅名には遙か昔の伝説が宿るという。 ――2世紀頃、景行天皇が日本武尊(やまとたける)の征した地を行幸したという史料がある。その際、地元で“御門(みかど)の行幸を祀った台地”として崇められた一帯――それが今の御門台とも言われる。 静岡市清水区七ツ新屋に位置するこの駅の周辺には、杉道(すぎみち)地区というエリアがあり、そこには多くの“首”が埋まっているという恐ろしい噂が昔から囁かれてきた。 「杉道には無数の首級が眠り、そこを通ると頭を病む者が多い。首塚稲荷の祟りを侮るなかれ――」 まるで世にも奇怪なホラーのようだが、近年、御門台駅で相次ぐ怪事件は、そこに新たな暗い影を落とし始めていた。

第一章 血流川(ちながれがわ)の岸辺

 御門台駅から徒歩5分ほど南へ下ると、杉道地区に差しかかる。そこには有度第二小学校があり、その裏山には「首塚稲荷」と呼ばれる小さな祠が鎮座している。 祠の下を流れるのが、「血流川(ちりゅうがわ)」――見るからに普通の小川と変わらないが、古の合戦や処刑の場となり、血が流れ込んで赤く染まったという伝承を名に残している。 ある夜、上原刑事(静岡県警捜査一課)は、駅周辺でまた不可解な事件が起きたとの報告を受け、川沿いを捜索していた。そこは月明かりが届かないほど木々が生い茂り、鈍く湿った空気が漂う。 薄闇の中、川のせせらぎとともに、かすかに聞こえる子供のすすり泣きが聞こえた気がする――。だが、上原がライトを向けても何もいない。ただ川面がうねっているように見えるだけ。

 翌朝、川岸で片方の靴が発見される。血のような赤黒い汚れが付着しており、中には小さく「S.M.」というイニシャルが書かれていた。

第二章 踏切の警報が止まらない

 御門台駅では、夜遅い時間帯になると踏切の警報機が何もないのに鳴り始め、遮断機が勝手に下りてしまうというトラブルが頻発していた。列車が来るわけでもないのに、赤いランプが点滅し、警報音が鳴り止まない――。 駅員が機器を確認しても異常は見つからず、一種のポルターガイストではないかと噂する者さえいる。 「杉道の首塚から亡霊がやってきた」「血流川の呪いが線路を封じようとしている」――住民たちはますます恐怖を募らせる。 ある日、深夜の踏切が急に開いてしまい、逆に列車が接近するのにバーが下りないという危険な事態も発生。運転士が緊急ブレーキをかけ、辛うじて事故は回避されたが、もう何度目になるかわからないギリギリの危機が続いていた。

第三章 首塚稲荷と有度第二小学校の因縁

 捜査の過程で上原刑事は、有度第二小学校で不審者の目撃があったことを知る。夜の校庭に赤い衣装をまとった子供が現れ、校舎の裏山へ駆けていったという通報が複数寄せられていた。 裏山は首塚稲荷が鎮座する場所。かつて戦乱や処刑場となったとも言われ、江戸期には多くの首級が葬られた伝説が残る。その霊を鎮めるために建てられたのが首塚稲荷であり、そこから流れ出す小川が血流川(ちりゅうがわ)だという。 「まるで戦いで討ち取られた無数の首が、この地に怨霊を放っているかのようだ……」 上原は自分の思考に苛立つ。そんなオカルトじみた話、信じられるか――。しかし、御門台駅で繰り返される怪事件は、常軌を逸した惨劇ばかり。どうにも無視できない。

第四章 駅舎での狂乱

 ある晩、駅舎とホームを隔てる踏切の東側で悲鳴が上がった。駆けつけた駅員と乗務員が目撃したのは、血塗れで錯乱した女性――彼女は「首が……首が……いっぱい……」と呟きながら倒れていた。 周囲には首らしきものなど見当たらない。だが、よく見ると、床には人間の髪の毛が大量に散乱していた。まるでバラバラの首から抜け落ちたかのようにも見える……。 女性は精神的ショックで意味不明の言葉を繰り返し、そのまま救急搬送。後に精神科へ入院することになる。周囲の話では、「杉道地区で子供の声に誘われ、駅へ向かった」とうわ言のように言っていたらしい。

第五章 血流川に浮かぶ首

 さらに追い打ちをかけるように、血流川で信じられない通報が入る。 「川に大人の首が流れている……」 上原刑事が現場に急ぐと、警官が騒然とする中、水面には白髪交じりの生首がぷかりと浮かんでいた。周囲に血痕が散り、川辺には足跡と車輪の痕らしきものが残っている。 ただ、その首を確認すると、実際には作り物のようにも見える。しかし、精巧でリアルすぎる。鑑識が調べた結果、“人形の頭部”を改造したものと判明するも、内側に血液が塗り込められていた。 「誰かの悪質な演出か? あるいは呪術的な儀式か……」 現実に首が大量に埋まっているという杉道地区の伝承と妙に符号するこの出来事は、まるで暗示するかのようだ。**「首が復讐を始めた」と。

第六章 おぞましき列車事故

 やがて最悪の事態が訪れる。夕刻、御門台駅を発車した下り列車が、踏切で謎の障害物に乗り上げ、急ブレーキをかけた末に脱線。複数の乗客が負傷する大惨事となったのだ。 障害物は土嚢のようなものだが、血で汚れており、首らしきフェイクオブジェが一緒に積まれていた。誰が置いたのかは不明。列車の運転士は「子供の姿が見えた」と証言し、線路脇で赤い影が駆け去るのを目撃したという。 死者こそ出なかったものの、大怪我を負った人もおり、駅のイメージは更に地に落ちる。地元住民や利用客は口々に「首塚の祟りだ」「血流川の呪いだ」と騒ぎ立てる。

第七章 捨てられた“勅令”

 捜査本部は一層厳戒態勢を敷くなか、踏切近くの草むらから古文書らしきものが見つかる。和紙に書かれた文字は虫食いだらけだが、「景行天皇 勅令」「御門(みかど)の台 守るべし」「首級」といった断片が読み取れる。 文意は判然としないが、「この地には何らかの重い使命があり、首級を葬ることで霊を封じ込めてきた」というような内容を示唆している。 上原は頭を抱える。2世紀の行幸伝説に端を発し、首級を埋めて守った土地が御門台――その封印がいま解け、次々と血を呼び寄せているのか。まるで古代の呪術そのものだ。

第八章 首塚稲荷の深夜巡礼

 夜半、首塚稲荷がある裏山で、複数の懐中電灯がうごめいているとの通報が入る。警官隊が駆けつけると、そこには何人もの人間が集まり、祠(ほこら)の前で何かの儀式じみた行為をしていた。 「血流川に流された首を奉じ、景行天皇の御威光を復活させる……」と呟く謎の老人たち。彼らは「首塚稲荷を信仰する一派」だと名乗るが、その中に赤い服を着た子供の姿はない。老人たちは警官を見ると逃げ散り、夜闇へ溶け込む。わずかに残されたのは、血まみれの刀の一部と、人形の頭部らしきもの。 「あの子供は彼らが操っているのか? それとも、さらに別の存在が……?」 上原は混乱する。首塚稲荷の狂信者たちによる陰謀だとしても、説明のつかない部分が多すぎる。

第九章 終焉の夜

 そして事件は決定的な惨劇を迎える。深夜、御門台駅へ不審人物が侵入し、駅舎内の機器を操作。遠隔で留置車両を起動させ、先ほどまでの儀式と連動するかのように、「血流川行き」と表示させた列車をホームへ滑り込ませた。 ホームにいた駅員が制止しようとするが、赤い服の子供が現れて警備員を刺し、倒れ込ませる。上原が駆けつけると、既にホームには複数の死傷者が倒れ、子供の姿は見当たらない。 列車は血の匂いを漂わせるように発進し、ポイントを切り替えて闇へ消える。走行先に踏切があるが、遮断機は下りていない。やがて、悲鳴と衝撃音――正面衝突か、脱線か……。その後の緊急連絡は途絶えている。

 残されたホームには、血まみれの赤い袴と、首塚稲荷の狐面が転がっていた。まるで最後の断末魔のように、無数の首が叫んでいる幻が見える――上原の脳裏が絶望で染まる。

終章 闇に溶ける血流

 惨劇の翌朝、御門台駅から数キロ先の線路上で破損した列車が発見される。車体は横転し、一部は血流川付近へ転落。多数の犠牲者を出したものの、子供と思しき遺体は見当たらない。 血流川は深く濁り、杉道地区では“首がいくつも漂っている”との誤報が飛び交う。実際、真相は人形の首や動物の骸が混じっているだけかもしれないが、現場は混乱の極みに陥っていた。 最終的に数十人規模の死傷者が発生し、御門台駅は一時封鎖。地元メディアは「首塚稲荷の祟り」「血流川の呪い」と煽り立て、鉄道会社と警察を非難する報道合戦が巻き起こる。 ――こうして、御門台駅を巡る血塗られた因縁は、ついに最悪の大惨事を招き、恐怖と悲しみのドン底へ沈んだ。

 人々はこの惨状を「御門台駅の終焉」と呼ぶようになり、駅の改修やダイヤの再編まで計画されるが、それでも消えない闇がある。杉道地区に埋まる無数の首、首塚稲荷から流れ出す血流川、そして2世紀の行幸伝説――あらゆる要素が絡み合い、まるで封印が解かれたように惨劇を重ねてきたのだ。 上原刑事は血にまみれたホームを見下ろしながら、茫然と立ち尽くす。ここにはもう、亡霊の子供の姿も、儀式を行う者たちの痕跡もない。ただ、むせ返るような死の臭いと、夜明け前の薄暗い空気が漂うばかりだった。まるで、この地に刻まれた呪いを象徴するかのように――。 (第十七作・了)

あとがき

「血流川に哭(な)く首塚――御門台駅、天皇行幸の影に沈む絶望」は、御門台駅の由来(宅地開発、2世紀の景行天皇行幸伝説)と、杉道地区に埋まる“無数の首”、首塚稲荷や血流川といった凄惨な伝承をフルに盛り込み、これまでのシリーズ以上に恐怖と悲しみを極限まで追求したサスペンス作品です。本来は地元の人々にとって神聖な歴史や伝説が、現代における謎の組織や亡霊の子供によって“封印を解かれる”形となり、御門台駅で大規模な流血と列車事故を引き起こすに至りました。シリーズの主人公・上原刑事ですら、最後は大惨事の中で何も防げず、深い虚無だけを抱える結末です。こうして駅は事実上の“終焉”を迎え、読者を恐怖と悲しみのドン底へと誘う形となっています。もし次回作があるなら、御門台駅は再建されるのか、血流川や首塚稲荷の呪いはさらに拡大するのか――いずれにせよ、この血塗られた因縁が完全に断ち切られる日はまだ遠いのかもしれません。

 
 
 

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