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第十二作「上原駅に還る影――狐ヶ崎の刀と亡霊の子」

更新日:2025年1月27日

序章 駅名に潜む過去

 静岡清水線のほぼ中間に位置する狐ヶ崎駅。かつては「上原駅(うわはらえき)」として開業し、遊園地ができれば「遊園前駅」、さらには「狐ヶ崎ヤングランド前駅」へと幾度も改称を繰り返し、現在に至る。その複雑な歴史は、駅周辺地域が元々“上原(うわはら)”という地名だったことを物語っている。 駅の名前が“狐ヶ崎”に落ち着いたのは1980年代後半ごろ。だが、そもそも狐ヶ崎とは、昔「梶原景時とその一族が討たれた地である」「狐火が出る」など、様々な言い伝えの残る場所ともされてきた。 ――この駅には、かつて遊園地「狐ヶ崎ヤングランド」があり、華やかな時代を築いた。一方で、静清鉄道が旧時代に行った臨時列車の設定や、対向式ホームの跡地、そして商業施設イオン清水店(旧ジャスコ清水店)など、往時の面影を今も断片的に残している。 最近、そこへ妙な噂が広がっていた。「夜のホームに、上原駅時代の“亡霊”が戻ってくる」というのだ。

第一章 夜のホームに鳴る拍子木

 深夜の狐ヶ崎駅。すでに通常ダイヤは終了しており、ホームには消灯された灯りのほか非常灯がわずかに残る。駅員が巡回を行っていたところ、どこからかカチカチという拍子木のような音が聞こえてきた。 「誰かいるのか……?」 駅員が不審に思い懐中電灯を向けると、ホーム端の柵近くで、小さな子供の影が見える。さらにその横には、白っぽい衣装をまとった妙な姿が……まるで時代劇に出てくる剣士のようにも見えるが、暗闇で判然としない。 駅員が声をかけた瞬間、影はスッと消え、拍子木の音だけが遠のいていった。

 翌朝、ホームのコンクリート床には古い切符の半券らしき紙切れが落ちていた。そこには「上原駅」という文字がうっすらと読み取れる。 「こんなもの、どこから出てきた……?」 まるで大正時代から抜け出してきたかのような不思議な半券。駅員はただ茫然とするしかなかった。

第二章 幻の「上原駅」切符

 この不可解な出来事を受け、静岡県警捜査一課の**上原勝(うえはら まさる)**刑事が再び狐ヶ崎駅へ足を運ぶ。最近の連続事件――謎の子供(少年や少女)や“狐面”、焼け焦げた写真などが相次いで見つかり、多くの犠牲を出してきた流れを考えれば、今回も“清水家”の呪縛と関係があるのではないかと警戒していた。 駅員から見せられた古い切符には「上原駅」と確かに印字されている。それは明治か大正期に使われていた硬券の一部のようだ。表面の印字はかなりかすれて読めないが、「明治41年(1908年)頃のものではないか」という専門家の仮説も飛び出す。 「亡霊たちが『上原駅』時代のこの地へ戻ってきた――そんな馬鹿なことが……」 上原は苦い表情を浮かべながら、その切符をじっと見つめる。自らの名字も“上原”であり、何か因縁めいた響きを感じずにはいられない。

第三章 かつての遊園地

 狐ヶ崎駅といえば、かつて「狐ヶ崎ヤングランド前駅」と呼ばれ、遊園地「狐ヶ崎ヤングランド」の利用客で賑わった歴史がある。 1968年(昭和43年)頃に“ヤングランド”として再開したものの、1993年に閉園。今はイオン清水店(旧ジャスコ清水店)の商業施設に姿を変えているが、その3階には「狐ヶ崎ヤングランドボウル」というボウリング場が今なお営業している。 近頃、「あのボウリング場で夜になると子供が一人、レーン端でボールを投げずに見ている」という怪談めいた噂が報告されていた。職員が注意しようと近づくとスッと消える――まるで亡霊か幻のよう。 かつて遊園地があり、臨時列車まで運行されていた時代の記憶を引きずるこの場所。ここにもまた、“血塗られた鉄道サスペンス”の影が迫っているのだろうか。

第四章 旧ホームに棲む亡霊

 実は狐ヶ崎駅には、もうひとつ人目につかない区画がある。かつて臨時列車が発着していた対向式ホームの跡地で、今はレールが撤去され、駐輪場として使われているスペースだ。 そこは鉄道マニアにとっては有名なポイントだが、一般の乗客はほとんど立ち寄らない。最近、その廃ホーム跡地で「夜に灯りが浮かぶ」という報告が増えていた。 ある深夜、駅の警備員がそこを確認すると、コンクリートの隙間から小さな提灯のような光が揺れていた。近づいてみると、和装の影――? まさか誰かがここでイベントをしているのか……と声をかけようとすると、やはりすぐ消え去る。 さらに、その場にはまたしても焼け焦げた写真が落ちていた。そこには幼子らしき姿と、刀の拵(こしらえ)か何か長い形状のものが映っているようだが、はっきりしない。裏面には「狐ヶ崎の刀――」と書かれている。

第五章 狐ヶ崎の刀

 「狐ヶ崎の刀」という言葉に、上原は歴史資料で見た“吉川家に伝わる名刀”の名――「狐ヶ崎」と呼ばれる古青江の太刀――を思い出す。 この刀は鎌倉初期、梶原景時の一族を討つ際に振るわれ、その後、毛利分家旧岩国藩主・吉川氏の家宝として伝わっているという。現代においては岩国市の吉川史料館に所蔵され、国宝指定を受けるほどの貴重品だ。しかし、どういうわけか静岡にゆかりがあるらしい。 「まさか、その刀にまつわる亡霊が……? いや、馬鹿げているかもしれないが、清水家や梶原景時、上原(うわはら)という古い地名……何やら不気味な因縁が交錯している気がする」

 そこで上原は、昔の地元資料をさらに調べるうちに、“上原駅”周辺に伝わる以下のような逸話を発見する。

「鎌倉期の合戦にて流れ出た血が大地に染み付き、やがて鉄路(てつじ)を走る霊(れい)を呼ぶ――もし狐ヶ崎の刀に触れるならば、その者は呪いを解くことも、あるいは招くこともできる」

 呪術めいた伝承。これがほんの作り話なのか、本当に何かの暗示なのか、判断はつかない。

第六章 終電に忍び寄る足音

 狐ヶ崎駅での怪事件を防ぐため、警察は巡回を強化するが、何者かがホーム外から侵入し、深夜に怪しい動きを見せているらしい。とりわけ終電が近づく時間帯に、電車の下を潜り抜けるようにして走り去る姿を駅員が目撃したという。 上原は同僚刑事たちと一緒に夜間張り込みを開始。23時過ぎ、冷え込むホームにはごく少数の乗客。臨時ホーム跡地へ繋がる柵の影に注意を払いながら、過去の悲劇(亡霊列車の走行)を繰り返させまいと警戒を続ける。 ところが、終電が到着し、わずかな乗客が降り立つなか、ホーム端から金属が擦れるような音が響く。「カキン、カキン……」まるで刀身を打ち合わせているかのようだ。 「まさか、刀……?!」 上原が身構えた瞬間、駅構内に低く稲光が走り、照明が一瞬チカチカと点滅する。まるで雷鳴が落ちたかのよう。

第七章 廃ホーム跡地の惨劇

 一同がそちらへ駆けつけると、臨時ホーム跡地(駐輪場)で若い男性が倒れているのを発見。胸元から流血があり、意識朦朧の状態。周囲には刃物や血の付いた布切れなどは見当たらない。 しかし、彼の手元には写真が握られている。例によって焼け焦げた部分があり、そこには何と「狐ヶ崎の刀の拵」が大きく写り、“血しぶき”らしき跡がにじんでいるかのように見える。 「く……そいつ……コドモ……赤い……刀……」 男性はそれだけ呟き、意識を失った。子供が赤い刀を持っていたのか、それとも赤い衣装を着ていたのか?

 やがて救急車を呼ぶ中、警官の一人が柵の外で小柄な影を発見したという。急いで追跡したが、人影は細い路地へ消え、行方不明となった。 ――子供なのか、それとも別人なのか、謎は解けないまま、一人の重傷者を出す形となってしまった。

第八章 上原駅時代への回帰

 その夜が明けきらぬうち、狐ヶ崎駅構内から大量のフライヤー(チラシ)が発見される。どうやら夜のうちにバラ撒かれたらしく、その表面には大きく「上原駅へ還(かえ)ろう!」という文字が。 子供の落書きのようでもあり、古風な筆文字のようでもある奇妙な文面。裏面には遊園地を彷彿とさせるイラストや「狐ヶ崎の刀」「北原白秋のちゃっきり節」といったキーワードが散りばめられている。 「駅名を“上原駅”に戻せ……という意味なのか? それとも当時の呪いを再現したいのか?」 上原は混乱しつつも、これが単なる悪戯で済まされないと直感する。連続する血の予兆、子供のような犯人像、そして“狐ヶ崎の刀”にまつわる伝説。すべてが歪んだ形でつながっている気がした。

第九章 最終の瞬間、呼び起こされる刀

 翌晩、警戒を強化したものの、事件は唐突に最悪の形で勃発する。今度は駅構内放送がハッキングされたらしく、終電後の夜更けに突如「まもなく上原駅行きの臨時列車が到着します。皆様、刀をお忘れなく……」という不可解なアナウンスが流れる。 駅員が慌ててシステムを止めようとするが操作不能。モニターにはかすれた映像が映り、ホーム端に赤い衣装をまとった子供が立っているように見える。そして手にしているのは、長い棒状のもの――まるで刀だ。 「本当に“狐ヶ崎の刀”を持っているのか……?!」

 上原たちが駆けつけると、ホームは異様なまでに静まり返っていた。まるで空間そのものが夜闇に呑まれたかのよう。 ホームの奥には人影が二つ――一人は小柄な子供、もう一人は倒れ込んでいる中年男性。子供は長い刃物らしき物を振りかざし、呪文のような言葉を呟いている……かに見える。 上原が拳銃を構え、「やめろ!」と叫んだ瞬間、子供は薄笑いを浮かべ、刀身を振り上げて男性の胸に突き立て――。

 惨劇は一瞬だった。血飛沫がホームの壁を染め、中年男性は絶命。上原が駆け寄ったとき、子供の姿はどこにも見当たらない。刀なども消え失せ、ただ赤黒い斑模様が床に散らばっているだけ。 「……幻なのか? それとも本物の凶行か……?」

終章 夢か現か、刀に導かれし亡霊

 こうして、狐ヶ崎駅に再び血の惨劇が訪れた。ホームに倒れた被害者は身元が判明したが、なぜ狙われたのか、犯人が何を企んだのか、一切不明。 駅の監視カメラには、わずかに赤い衣装を着た子供のような姿が映り込んでいるが、途中で映像は乱れ、決定的な証拠はない。 しかし、その夜明けにはまた焼け焦げた写真がホーム脇で見つかった。そこには、古い遊園地らしき風景、そして「狐ヶ崎ヤングランド 前駅」と記された標識が写っている。写真の片隅には子供と長い刀のシルエットが重なり、裏面にはかすれた筆文字でこう書かれていた。

「上原駅へ戻れ刀は血を求めるちゃっきり節が終わるとき呪いは再び蘇る」

 これが何を意味するのか、誰もわからない。 ――こうして、狐ヶ崎駅の歴史を巻き戻すかのような怨念が、またひとつ命を奪い、駅には深い闇を刻んだまま姿を消す。 1908年に“上原駅”として始まったこの地の鉄道史が、血と刀、そして子供の亡霊と入り乱れ、再び混沌を呼ぶ未来を暗示しているかのようだ。上原刑事は名を同じくする“上原”という因縁に苛まれながら、ホームの床に残る赤い跡を見つめるしかなかった。

 (第十二作・了)

あとがき

今回の物語「上原駅(うわはらえき)に還る影――狐ヶ崎の刀と亡霊の子」は、狐ヶ崎駅の複雑な改称・歴史背景を盛り込みつつ、前作まで続く血塗られたサスペンス世界をさらに拡張しました。1908年(明治41年)開業の「上原駅」、遊園地時代の「狐ヶ崎ヤングランド前駅」、そして現代の「狐ヶ崎駅」へと変化してきた数奇な来歴が、まるで“過去への回帰”を求める怨念を呼び寄せるかのように描かれています。“狐ヶ崎の刀”という歴史的国宝の名前や、ちゃっきり節のエピソードなど、実在する要素が交錯することで、いっそう不気味な亡霊の存在感が際立つ作品となりました。“上原”という駅名に呼応する形で苦悩を深める上原刑事が、果たしてこの連鎖を断ち切る日は来るのか――。シリーズはまだ終わりを知らず、静清鉄道の闇はますます濃くなっていくばかりです。

 
 
 

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