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第十八作「首埋(こうず)る地より還りし者――御門台、崩壊の果てに吠える怨嗟」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月26日
  • 読了時間: 8分



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序章 駅の封鎖、その後

 御門台駅が事実上の封鎖状態になってから、既に一か月が経過していた。 前作(第十七作)で起きた列車事故は、戦後最大規模といわれる死傷者を出し、駅周辺は一時、ゴーストタウンのように閑散としていた。杉道地区や首塚稲荷、そして血流川(ちりゅうがわ)にまつわる怨念話がメディアで大々的に報じられ、「この地は呪われている」とまで噂される始末。 鉄道会社は駅を閉鎖し、線路の復旧作業を急いでいるが、住民の多くは「もう御門台駅は再開しないほうがいい」と口にするほど絶望的な雰囲気に包まれていた。

 ――だが、その暗澹たる沈黙のなかで、新たな血の予感が再び兆していたのである。

第一章 杉道に潜む誰かの声

 夜、あれほど危険地帯と認識された杉道地区へ、警官隊が再度巡回に入る。首塚稲荷(くびづかいなり)の祠や血流川の土手には、今回も奇妙な物証が散乱しているかもしれない――そう考えての捜査だ。 懐中電灯を頼りに林道を進むうち、薄闇の中からかすかな囁き声が響いてきた。 「…ここ…埋める…首…」 息を呑みながら近づくと、藪の奥に人影が見える。赤っぽい着物のような服を着ている。それが子供なのか大人なのか判別しづらいが、どうやら何かを地面に埋めているらしい。 警官が「動くな!」と叫ぶと、人影は振り向くことなく、不自然なほど早い動きで林の奥へ駆け込んだ。追跡するも、どこにも見当たらない。そして地面には微妙に掘り返された跡があり、赤黒い血が染みたような土の塊が残されていた。 そこをさらに掘り返してみると、頭蓋骨に似た何かがちらりと覗く。だが、どうやら古い人形の頭部か、あるいは別の動物の頭骨なのか……正体は不明。ただ、生々しい血臭が漂っていた。

第二章 駅構内で再び流血

 深夜、封鎖中の御門台駅構内で非常警報が鳴る。立ち入り禁止のはずだが、誰かが駅の金網を破り侵入したというのだ。 警官隊が駆けつけると、ホームのコンクリートに赤い線がずうっと引かれ、改札口まで続いている。まるで血の道しるべ。そして線路上には真新しい首級人形が吊るされていた。 さらに改札近くで、負傷した男性がうずくまっている。腕を深く切られ、血を流しながら、「子供に襲われた……首が……逆さに吊られて……」と絶叫している。 ホームの隅で足音がし、懐中電灯を当てると、子供のような影がこちらを見ていた。顔は見えない。けれども、声にならない呻きが空気を伝わり、**「ここで死ね…首…血…」**と囁くように聞こえた。 警官が一斉にライトを向けるが、人影は一瞬にして消失。そこには暗い足跡だけが残っていた。

第三章 血に染まる“再開工事”

 鉄道会社は御門台駅の線路復旧を「最優先プロジェクト」として進めていた。市や地元商工関係者の一部は「駅の再開により少しでも経済を取り戻したい」と考え、工事を急がせている。 しかし、作業員からは「夜に工具が散乱する」「誰もいないはずの車両で人影を見た」「足場が勝手に崩れて怪我をした」といった報告が相次ぎ、工事は難航を極める。 ある作業員は、「赤い服の子が現れ、こちらを睨んだ瞬間、クレーンのロープが切れた」と証言。実際に重機が倒れかけ、数名が負傷している。 作業員たちは口々に「あそこは首が埋まっているんだ」「やめたほうがいい」と嘆き、次々と辞めていった。工事は暗礁に乗り上げ、地元はますます混乱を深める。

第四章 景行天皇伝説の真実

 捜査を続ける上原刑事は、ある古文書を手に入れる。それは鎌倉期に書かれたという写本で、「景行天皇が日本武尊(やまとたける)の足跡を追う行幸」の道程を記したものらしい。 その中には、御門台周辺と思しき記述があった。

「ミカドの台(御門台)にて首級を埋め、国土を鎮めし。然れど、血の川を断たず。かの地には怨嗟続くやもしれぬ……」

 つまり古代から、この地には“戦いで討ち取られた首級”を葬ることで秩序を保つという信仰があったのだろうか。杉道地区に無数の首が埋まっているという伝説も、ここに繋がるのかもしれない。 「ミカド(御門)の行幸がこの土地を守るはずだった――が、今やその封印が解けて、首塚と血流川の呪いが暴走しているようだ……」 上原は背筋が寒くなる。まるで何者かが意図的に“首級の封印”を破り、駅や鉄道を血まみれの破滅へ導いているかのように思えてならない。

第五章 子供の生贄

 ある日の夕方、またもや子供の失踪事件が発生する。今回は有度第二小学校の低学年児童で、学校からの帰宅途中に御門台駅付近で姿を消したらしい。 これまでも子供が巻き込まれる事件は多々あったが、今回は駅周辺に血塗れのランドセルが落ちており、中には首塚稲荷の札のようなものが入れられていた。札には赤い文字で「生贄」と書かれている。 そんな嫌なタイミングで、杉道地区の山中から子供の悲鳴が聞こえたという通報が入り、警官が探索するも、手がかりは何も掴めず。「白い仮面を被った子供らしき影を見た」との証言だけが残る。

第六章 御門台駅の闇市(あんいち)

 駅が封鎖されているにもかかわらず、深夜になるとホームに人影が集まり、まるで秘密の闇市のような取引が行われている――そんな噂が立ち始める。 ある捜査員がこっそり偵察したところ、どうやら「首塚稲荷」の信者や、怪しげな呪術者らしき人物が集合し、首を象った人形や血染めの布を売買しているらしい。子供の遺留品や、血流川で拾った骨などまで売買対象だというから背筋が凍る。 捜査員が踏み込もうとすると、闇市の参加者は一斉に逃散。駅の暗闇に紛れて姿を消す。いったい誰がこの集会を仕切っているのか――まさに闇の底なし沼へと沈んでいくような気配だ。

第七章 「ミカドの子」降臨

 そんなある夜、駅封鎖エリアから不気味な放送が流れる。 > 「まもなくミカドの子が御門台駅に降臨します……首を供えよ……血を流せ……」 システムが完全にダウンしているはずなのに、いつの間にか電源が入れられ、スピーカーが勝手に作動している。映し出されるモニターには、赤い衣装の子供らしき姿が写り、画面には「ミカドの子」と大きく表示されている。 警官隊が駆けつけると、ホームには黒いローブをまとった何人もの人間がいて、まるで儀式をしているかのように跪いていた。その中心で、赤い服の子供が小さな刀のようなものを振りかざし、転がった何かに切りつけている――。 駆け寄ると、それは失踪していた児童の姿だった。既に息絶えている。腹部からは血が流れ、床が真っ赤に染まっている。子供が子供を殺したのか、それとも大人が扮しているのか――すべてが悪夢だ。 ローブの人々は一斉に逃げ散り、刀を握った子供は「イケニエ……ミカドが呼ぶ……」と呟いて闇へ消える。警官たちが追うも、誰一人捕らえられない。

第八章 崩壊

 この凄惨極まりない事件が一挙にメディアへ流れ、全国が震撼する中、鉄道会社は御門台駅を事実上の廃止方向で検討に入り始める。駅再開どころか、完全撤去も選択肢に上がるほど社会的インパクトは大きい。 近隣住民も「もうこの土地は終わりだ」「あの杉道地区と血流川を封鎖するしかない」と口々に言うが、誰にも解決策がわからない。首塚稲荷の祭祀は混乱を極め、地元政治家や有力者も巻き込んだ“街の崩壊”状態へ突き進む。 上原刑事は頭を抱えながら、なす術もなく流血事件の後処理に奔走する。夜になるとどこかで“ミカドの子”がまた儀式を行い、新たな犠牲者を生むかもしれない――そんな絶望に苛まれながら。

第九章 地底からの狂気

 やがて最悪のクライマックスが訪れる。 深夜、杉道地区の地盤が突如崩落し、地底から無数の人骨が噴き出す大災害が発生。首塚稲荷の祠も半壊し、血流川の水が赤黒く泡立つように激流化。地底の空洞には、何百もの人形や骨片、血染めの衣装が押し込められていた痕跡がある。 御門台駅も震度に近い揺れを感じ、駅舎の一部が崩落。封鎖エリアの柵も倒れ、再び闇市の集団や謎のローブ集団が押し寄せてくる。逃げまどう作業員や警官たちの悲鳴がこだまする。 そこに現れたのは赤い衣装の子供。いや、もはや子供かどうかもわからない。顔は鬼面のように歪み、手には骨でできた刀のようなものを携えている。地底から吹き出す怨念の塊を背に、血まみれのホームで咆哮する――。 「ミカドの血を絶やすな……首を供えよ……」

 大混乱の中、列車は運行を完全に停止。地盤崩落で一部線路が寸断されたという報告も入り、もう誰も助けに来られない。まるで地獄絵図だ。

終章 沈む絶望の底

 翌朝、救助隊や報道ヘリが上空から伝えたのは、無惨に破壊された御門台駅の姿だった。駅舎はほぼ崩壊し、ホームには血の跡が多数点々と残っている。杉道地区や血流川も地盤崩落で地形が変わり、混乱の中で多数の行方不明者が出ている。 肝心の“赤い子供”の行方はわからない。ローブ集団もいつの間にか姿を消し、首塚稲荷は土砂に呑まれて祠ごと行方不明。人々はただ呆然と立ち尽くす。 こうして、御門台駅は完全に崩壊し、周辺地域も壊滅的な打撃を受けた。もはや駅を復旧するなど夢のまた夢。血に飢えた亡霊たちがそのまま地底へと帰っていったのか、それともまだどこかに潜んでいるのか――何もわからない。 ――こうして“ミカドの台”を名乗る駅は、血塗られた終焉を迎えた。 数十年、あるいは数百年後に再びこの地を開拓する者がいるとすれば、きっと地中で眠る首や骨や人形と邂逅し、同じ惨劇を繰り返すのかもしれない。まさに恐怖と悲しみのどん底へ沈んだ土地――もう誰も、そこに近づこうとしないだろう。

 (第十八作・了)

あとがき

「首埋(こうず)る地より還りし者――御門台、崩壊の果てに吠える怨嗟」は、御門台駅周辺を最終的に“完全崩壊”へ追い込む形で、シリーズの破局的クライマックスを描いた作品です。2世紀の景行天皇行幸から始まる“ミカドの台”の呪縛が、杉道地区の首塚稲荷や血流川と結びつき、地底に埋まる無数の首・人形・怨霊を呼び起こす――それによって駅が再び血の海と化す恐怖と悲しみの連鎖は、前作以上に壮絶な結末に行き着きました。御門台駅そのものが物理的に崩壊し、都市機能も喪失、地元は廃墟同然になってしまうという、通常のサスペンスを超えた“救いなき終焉”となっています。もしなおこの世界で続編が生まれるとすれば、遥か未来に廃墟と化した地で、新たな開拓者が“首の怨霊”を掘り起こし、さらなる惨劇を呼ぶのか――あるいは誰かが時代を超えて封印を試みるのか……。いずれにせよ、ここに至った御門台駅の惨状は、もはや“恐怖と悲しみのどん底”以外の何ものでもありません。

 
 
 

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