top of page

第十六作「残照の剣(つるぎ)――御門台に沈む哀しみの終着」

更新日:2025年1月27日




序章 不穏なる警報音

 静清鉄道・御門台駅。 1908年に「有度学校前駅」として開業、1961年に御門台駅へ改称し、かつては急行停車駅でもあった。しかし近年、この駅を中心に数々の怪事件が相次ぎ、周辺住民を恐怖へ陥れている。 血塗られた踏切と、深夜に消える子供の影。駅の仮設トイレに残された謎の赤い手形、そして「有度(うど)の子」と呼ばれる亡霊の噂――。 駅そのものが“古い怨念”に取り憑かれているかのような暗い空気を醸し出し、利用客の間には不安が募るばかりだった。

第一章 ホームに揺れる剣(つるぎ)の刃

 ある晩、最終電車が出た後の御門台駅ホーム。巡回を終えた駅員が「金属を振り下ろすような音がする」と怯えた声で通報してきた。 チャン……チャン……。まるで刀同士を打ち合わせるような奇妙な響き。懐中電灯を照らしてみると、ホーム端に人影が立っている――小柄な子供のようだが、その手に長い剣のような物が握られているように見える。 しかし、駅員が一歩踏み出した瞬間、影はスッと消え、音も止んでしまった。床には何か液体が垂れたような跡があり、かすかに赤黒い染みが残っている。 「また、子供の亡霊なのか……」

 翌朝、その場所を確認すると、線路脇に半分焼け焦げた写真が落ちていた。そこには古い木造校舎と、剣を握る少年のようなシルエットが微かに写っている。――「有度学校前駅」時代の面影か。裏面には「御門台 血の踏切」という走り書きがあり、ぞっとするような不吉さを漂わせていた。

第二章 踏切が閉まらない

 続いて起こったのは、駅東側の踏切での異常。夜8時台の下り列車が来るはずなのに、踏切が一向に閉まらないというトラブルが発生した。 通常なら、列車接近とともに自動で警報機が鳴り、遮断機が下りる。しかし、この時は何らかのシステムエラーで警報機も沈黙し、踏切は上がりっぱなし。もし列車がそのまま通過すれば大惨事は必至だ。 運転士が異変に気づいて非常停止したため事故には至らなかったが、遮断機には赤い袴の切れ端のような布が絡まっていたという。その布には血痕らしいシミが残っており、まるで誰かが意図的に装置を妨害したかのようだった。

第三章 仮設トイレでの惨劇

 翌日の夜、今度は駅の仮設風トイレで壮絶な悲鳴が上がった。駆けつけた乗務員と利用客が目にしたのは、中年男性が腹部から大量の血を流して倒れている姿。 そばには短い刀身が転がっており、壁には子供のような小さな血痕の手形が幾つもついている。まるで子供が刃物で男性を刺し、手を血で染めながら逃げ出したかのような光景だった。 男性は意識不明の重体で救急搬送されるが、程なくして息を引き取った。その場にいた乗務員によれば、「仮設トイレから鈴の音が聞こえた」と証言するが、犯人らしき子供の姿は見当たらない。 とうとう御門台駅で現実の流血が大きく表面化し、警察は大々的な捜査を始める。駅は恐怖と混乱に包まれ、利用客が激減していった。

第四章 上原刑事の苦悩

 捜査を指揮するのは、これまで数々の“亡霊事件”を追ってきた**上原勝(うえはら まさる)**刑事。 連日の惨劇で精神的に追い詰められつつある上原は、頭を抱える。「やはり“有度の子”の亡霊なのか……。だが、こんな物理的な殺害は本当に霊がやっているのか?」 これまでも実体不明の子供の姿が事件の核心にあった。赤い衣装、刀や剣を思わせる凶器、昔の駅名「有度学校前」の記憶と重なる噂――。 だが、それが単なる怪奇現象では済まされないほど、現実に血が流れ始めている。もしかすると亡霊を装った“何者か”が犯行を繰り返しているのではないか――上原の脳裏には陰謀説が浮かぶが、決定的な証拠は何も得られない。

第五章 児童失踪

 そんな中、御門台駅近くの清水有度第一小学校に通う児童が一人、行方不明になるという事件が発生した。下校時間を過ぎても家へ帰らず、学校でも確認できないという。 本人は普段から電車好きで、御門台駅周辺をうろついていたらしい。親によれば「夜にこっそり踏切を見に行くこともあった」とのこと。 しかも、クラスメイトの証言によれば、「亡霊の子に会いに行くんだ」と言っていたという。 「まずい……踏切や仮設トイレで殺傷事件が起きる中で、子供が行方不明……最悪の結果にならなければいいが……」 上原の胸は焦燥感でいっぱいになる。夜を迎えるごとに“有度の子”の悪夢が加速しているかのようだ。

第六章 “有度学校前駅 行き”の表示

 そして決定的な異変が起きる。夜のダイヤで運行中の車両の行先表示が、何者かのハッキングによって突然書き換わった。 「有度学校前駅 行き」 本来なら存在しないはずの駅名がモニターに表示され、しかも車内アナウンスまで狂い始める。 > 「まもなく有度学校前駅です。血の欠片をお忘れなく……」

 乗客はパニックに陥り、運転士も理由がわからないままシステムをリセットできず、やむなく列車を緊急停車させる。幸い脱線や衝突は免れたが、乗客の中にはけが人や体調不良を訴える者も出た。 駅員が車内を点検すると、車両の隅に古い名札が落ちており、「○○(名前不明)有度学校」と読める部分だけが残されていた。その周囲には、小さな赤い足跡が幾つも散らばっていたという。

第七章 子供の惨声

 やがて、御門台駅構内で「子供の叫び声が聞こえた」という緊急通報が入る。上原たち警官がホームへ急行すると、遠く踏切のほうで甲高い声が上がる。「痛い……助けて……」 夜の闇に目を凝らしながら線路沿いを走ると、そこには行方不明になっていた児童が倒れ込んでいる。腕から血を流し、泣きじゃくる少年。 「大丈夫か!」 上原が駆け寄ると、少年は震えながらこう言う。 「赤い服の子が、ぼくをここに連れてきて……ぼく、逃げようとしたら……剣を振り下ろされた……」 少年の腕には浅いが鋭い切り傷があり、周囲には大人の足跡らしきものが混じっている。どうやら一人の子供の仕業とは思えない。何者かが“子供の亡霊”を演出しているのでは――? しかし、少年が「赤い服の子が仮設トイレへ向かった」と指差した方向には、誰の姿も見えない。血痕すら消えかけている。

第八章 有度第一小学校に灯る怪火

 夜10時半、御門台駅から200メートルほど離れた有度第一小学校にて、不審火の通報が入る。校庭に赤い火の塊が揺れているのを警備員が目撃し、駆け寄ろうとすると消えたという。 火元付近には何かの刀身の破片が落ちていた。鍔(つば)こそないが、研ぎ澄まされた刃の一部のようで、刃先には血らしき赤黒い汚れがこびり付いている。 「やはり、駅周辺と学校が繋がっている……?」 上原の嫌な予感は的中するかのように、警官たちが現場を調べ始めたその瞬間、御門台駅から非常警報が発動。留置車両が動き出したと報告が入ったのだ。

第九章 壮絶な最期

 無人の留置車両は、何者かの遠隔操作によって深夜ダイヤの路線上へ滑り込む。ポイントが切り替わり、どうやら下り線を逆走する形になりそうだ。もし他の運行車両と鉢合わせすれば正面衝突――大惨事必至だ。 上原が急行すると、ホームには赤い袴をまとった子供が立っていた。手には長い刃物。子供は目を伏せたまま、無言で線路を見つめている。 「やめろ! 危ないんだ!」 上原が拳銃を向けるが、子供はにやりと笑い、まるで踏切へ誘うように走り出す。そこには下り線を逆走する車両が迫ってくる――。 子供は間合いを計るように刃物を振り上げ、上原に突進しかける。上原は咄嗟に引き金を引こうとするが、ためらいが生じる。――もし本当に“子供”なら撃てない。 「やめるんだ!」 その刹那、子供の足元が線路の溝にはまり、バランスを崩す。迫る車両のライトが眩しく照らし――次の瞬間、子供の身体は車両に跳ね飛ばされ、凄まじい衝撃音と共に夜空を舞うように消えた。

 車両は非常ブレーキをかけつつ脱線しかけるも、運転士の必死の操作で何とか停止。周囲は金属音と悲鳴に包まれる。 駆け寄る上原は、子供の亡骸を探すが、全く見当たらない。あるのは血染めの赤い袴の切れ端と、鋭利な刃物の折れた破片だけ。 「本当に子供だったのか……? それとも何者かが……」 線路上には残酷な赤い足跡が点々と続き、闇夜へ消えている。まるで“亡霊”が散り散りに散っていくようだ。

終章 残照に沈む御門台駅

 こうして、御門台駅を巡る連続怪事件は、最後に無人車両の暴走と子供らしき“亡霊”の衝突という形で幕を閉じた。 多くの死傷者を出し、駅は修羅場となったが、皮肉にも**“子供”の本当の正体**や背後関係は解明されず。仮設トイレで男性を刺した凶器すらも判然としないままだ。 後日、線路脇から刃物の一部や赤袴の布が回収されるが、DNA鑑定でも「小柄な子供」に結びつくかは不明。誰かが演出したのか、あるいは本当に昭和初期から迷い込んだ亡霊なのか――事件の糸口は完全に闇へ消えた。

 ――残照に沈む夕暮れの御門台駅ホーム。 静寂の中、まるで何事もなかったかのように列車が行き来する。だが、利用客は減り続け、踏切を渡る人々は皆一様に早足で通り過ぎる。夜になると駅員は怯えたように周囲を見回す――いつまた、亡霊の子が戻ってくるか分からないからだ。 上原刑事は、そっと線路脇に落ちていた**「有度学校前駅」と印字された古い切符**を拾い上げ、苦い思いに沈む。もう何度同じ悲劇を繰り返せばいいのか――答えはない。 また一人、また一つ、血の惨劇が鉄路を赤く染める。次の犠牲者を呼ぶのは誰なのか……。御門台駅の闇は、さらに深く、その身を沈めているように見えた。

 (第十六作・了)

あとがき

「残照の剣――御門台に沈む哀しみの終着」は、御門台駅(旧・有度学校前駅)を舞台にした連続怪事件を、これまでの亡霊サスペンスの流れを継ぎながらより壮絶かつ悲劇的に展開した作品です。前作で登場してきた“子供の亡霊”や“血塗られた駅”“刀や剣のモチーフ”が、ついに大規模な流血事件を引き起こし、最後には駅構内での衝突事故にまで発展。まさに西村京太郎風の鉄道サスペンスとしてのクライマックスを迎えました。しかし、結局のところ「子供」の正体や“演出した犯人”の存在は謎のまま。御門台駅には重苦しい空気だけが残り、またいつ同じような惨劇が起きてもおかしくない――という不穏な余韻を残しています。もし次回作があるとすれば、上原刑事がこの連鎖の核心に迫り、“亡霊”の正体や“有度学校前駅”の呪いを解く手がかりを掴むのか、それとも更なる惨劇を呼び寄せるのか……。いずれにせよ、静清鉄道を巡る血塗られた物語はまだ終わりを迎えず、深く昏いレールの底へ沈み続けることでしょう。

 
 
 

コメント


Instagram​​

Microsoft、Azure、Microsoft 365、Entra は米国 Microsoft Corporation の商標または登録商標です。
本ページは一般的な情報提供を目的とし、個別案件は状況に応じて整理手順が異なります。

※本ページに登場するイラストはイメージです。
Microsoft および Azure 公式キャラクターではありません。

Microsoft, Azure, and Microsoft 365 are trademarks of Microsoft Corporation.
We are an independent service provider.

​所在地:静岡市

©2024 山崎行政書士事務所。Wix.com で作成されました。

bottom of page