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第14話 Azure DNS、名前を呼んでも振り向かない


静岡市葵区、青葉通りから少し入った山崎行政書士事務所では、その朝、陽翔が入口の前でしゃがみ込んでいた。

 靴ひもを結んでいるわけではない。 落としたペンを探しているわけでもない。 反対向きになったスリッパと対話しているわけでもない。

 事務所のドアに貼られた一枚の紙を、じっと見ていた。

「迷子の子犬を探しています」

 紙には、ふわふわした茶色の子犬の写真が載っていた。名前は「ぽんた」。特徴は「赤い首輪」「人なつっこい」「名前を呼ぶとたぶん来ます」とある。

「“たぶん来ます”って、かわいいですね」

 陽翔が言った。

「たぶん、は契約書でも運用でも危険な言葉です」

 悠真が通りすがりに静かに言った。

「子犬にも厳しい」

「厳しいのではなく、正確にしたいだけです」

 所長の山崎香澄は、湯呑みを持って微笑んだ。

「近所の方が貼っていったの。見かけたら連絡してほしいって」

 あやのが紙をのぞき込む。

「ぽんたくん、早く見つかるといいですね」

 奏汰はヘッドホンを首にかけたまま、ぽつりと言った。

「名前を呼んでも来ないときは、まず向かっている場所を確認する」

「子犬の話ですか?」

 陽翔が聞く。

「ネットワークの話でもあります」

「朝から不穏ですね」

 その瞬間、入口の鈴が、からん、と鳴った。

 入ってきたのは、三人だった。

 一人目は、地元向けのWeb予約サービスを運営する「駿河まちナビ」の代表、田辺。 二人目は、開発を担当したSIer「東海アプリワークス」の担当、笠井。 三人目は、運用保守会社「清水クラウドサポート」の担当、村瀬。

 三人とも、顔が疲れていた。

 しかも、疲れ方が同じではない。

 田辺は「サービスが止まってお客様から電話が来ている人」の疲れ。 笠井は「納品後なのに呼び戻された人」の疲れ。 村瀬は「保守範囲外と言いたいが言い切れない人」の疲れだった。

「山崎先生、助けてください」

 田辺が頭を下げた。

「うちのWebサービスがつながらないんです。アプリは動いていると言われるし、サーバーも落ちていないと言われるし、でもお客様はアクセスできない。原因がDNSなのか、ネットワークなのか、保守契約の範囲なのか、もう分からなくて」

 陽翔が小声で言った。

「名前を呼んでも振り向かない案件ですね」

 香澄が三人を応接室へ案内した。

「まずは状況を整理しましょう。技術の話と契約の話が混ざっているようです」

 奏汰が静かにノートパソコンを開いた。

「ネットワーク構成を見ます」

 かなえは契約書ファイルを手に取った。

「保守契約を確認します」

 あやのは赤ペンを持った。

「不利な条項と曖昧な条項を見ます」

 陽翔は、迷子犬の貼り紙を見てから応接室を見た。

「今日は、子犬探しとDNS探しが同時進行ですね」

「子犬は探していいですが、話を混ぜすぎないでください」

 悠真が言った。

 応接室のホワイトボードには、りなが大きく三つの箱を書いた。

 技術原因。 契約範囲。 障害対応フロー。

「まず、いつからつながらないんですか?」

 りなが尋ねた。

 田辺が答える。

「昨日の夕方からです。お客様から“予約画面が開かない”と電話が来て、慌てて確認したら、会社の中からは一部見えるのに、外からだと見えない人がいるんです」

 奏汰が顔を上げた。

「見える人と見えない人がいる」

「はい」

「完全に落ちているわけではない」

「そう言われました」

「DNSの可能性があります」

 村瀬がすぐに言った。

「ただ、弊社の保守範囲はWebアプリケーションの稼働監視と一次切り分けで、ドメインやDNSの管理は含まれていない認識でして」

 笠井も続ける。

「弊社は構築時にAzure上の環境を作りました。納品時点ではアクセスできていました。DNSレコードの管理は、お客様側または保守会社側で行う前提だったかと」

 田辺が眉を寄せる。

「でも、うちはDNSなんて触れませんよ。ドメインも、前任者が取ったもので……」

 応接室の空気が、少し白くなりかけた。

 陽翔が小声で言う。

「安倍川もちの粉が出そうです」

「今回は出しません」

 香澄が言った。

 奏汰はネットワーク構成図を見つめた。

「現在の構成は、利用者が www のドメインへアクセスし、DNSで名前解決して、Azure Front Doorを経由し、App Serviceへ向かう形ですね」

 田辺は困った顔をした。

「すみません。“名前解決”の時点で迷子です」

 あやのが、ふと迷子犬の貼り紙を思い出したように言った。

「つまり……迷子札が間違ってる?」

 全員が止まった。

 奏汰が画面から目を上げた。

「かなり近いです」

 陽翔が震える声で言った。

「本日の名言、来ました」

 あやのは少し照れながら続けた。

「子犬に“ぽんた”って迷子札が付いていても、そこに書いてある住所や電話番号が古かったら、見つけた人が正しい場所に連絡できないですよね。DNSも、名前は合っているのに案内先が違うと、Webサービスが見つからないのかなって」

 奏汰はうなずいた。

「その説明でいいです。DNSは、名前を呼んだときに、どこへ行けばよいかを教える案内板です。案内板が古い場所を指していたり、そもそも誰が案内板を管理しているか分からなかったりすると、サービスは迷子になります」

 田辺が目を丸くした。

「Webサービスも迷子になるんですか」

「なります」

 蓮斗が構成図を見ながら言った。

「特に、Azure DNSゾーン、ドメイン登録事業者側のネームサーバー設定、Front Doorのカスタムドメイン、証明書、CNAMEレコードが絡むと、迷子札が何枚もある状態になります」

 陽翔が言った。

「首輪に迷子札が三枚ついていて、それぞれ違う住所を指している子犬ですね」

「それは保護する人が困ります」

 みおが言った。

 奏汰は実際の設定を確認していった。

「Azure DNSには、正しいCNAMEが登録されています。ただし、ドメイン登録側のネームサーバーが、まだ旧DNSサービスを向いています」

 笠井が顔をしかめる。

「旧DNS?」

 村瀬が資料をめくる。

「以前のレンタルサーバー時代のDNSが残っているかもしれません」

 田辺が額に手を当てた。

「つまり、Azureに正しい迷子札を作ったけど、世の中の人は古い迷子札を見に行っている?」

 奏汰が少しだけ口元をゆるめた。

「そうです」

 あやのが赤ペンでメモに丸をつけた。

「迷子札問題、確定ですね」

「正式には、ネームサーバー委任の不整合です」

 悠真が言った。

「正式名称が急に冷たい」

 陽翔が笑った。

 奏汰はさらに確認した。

「旧DNS側には、古いCNAMEが残っています。しかもTTLが長めです。変更しても、しばらく古い案内を覚えている利用者がいるかもしれません」

 田辺が首をかしげる。

「TTL?」

 奏汰が答える。

「案内板をどれくらいの時間覚えておくか、という設定です」

 陽翔がすかさず言う。

「子犬を見かけた人が、“昨日の住所をまだ信じている”みたいな」

「やや雑ですが、方向性は近いです」

 蓮斗が言った。

 技術原因の輪郭が見え始めると、次は契約の話だった。

 かなえが保守契約を開く。

「保守契約では、“Webアプリケーションの稼働監視、障害一次受付、原因切り分け、定型復旧作業”とあります。一方で、“ドメイン管理、DNSレコード管理、証明書更新、外部サービス設定変更は別途協議”と書かれています」

 村瀬が少し安心したように言った。

「では、やはりDNSは範囲外で」

 かなえは眼鏡を一ミリ下げた。

「ただし、障害一次切り分けには、DNSが原因かどうかの確認が含まれるとも読めます」

 村瀬の顔が固まった。

 かなえは続けた。

「さらに、月次報告書には“ドメイン関連の期限確認”という項目があります。ただ、具体的に何を確認するのかは書かれていません」

 笠井が言った。

「構築契約では、DNS設定は初期構築時に一度行いました。納品後の変更や管理は、保守側に引き継ぐ想定でした」

「引継ぎ資料はありますか?」

 かなえが尋ねる。

 笠井は資料を探した。

「あります。ありますが……DNSのネームサーバー委任までは書いていないかもしれません」

 悠真が静かに言った。

「“誰が案内板を持っているか”が書かれていなかったわけですね」

 あやのがうなずく。

「迷子札を作った人、首輪につけた人、連絡を受ける人が、みんな別々だったんですね」

 田辺は深く息を吐いた。

「うちは、全部どこかで管理されていると思っていました」

「よくあります」

 香澄がやさしく言った。

「クラウドやDNSは、見えにくい分、“誰かがやってくれているはず”になりやすいんです」

 りなはホワイトボードに、役割表を書いた。

 ドメイン登録管理。 ネームサーバー設定。 Azure DNSゾーン管理。 DNSレコード変更。 証明書管理。 Front Door設定。 App Service稼働監視。 障害一次受付。 原因切り分け。 取引先・利用者への通知。

「この項目ごとに、主担当、確認担当、承認者を決めましょう」

 りなが言った。

「障害時には、技術原因の調査と、お客様への連絡が同時に必要になります。そこも分けます」

 田辺がうなずいた。

「今は全部、私に電話が来ます」

「社長が迷子センターになっていますね」

 陽翔が言った。

 田辺は苦笑した。

「本当にそうです」

 奏汰は画面を見ながら、暫定対応をまとめた。

「まず、正しいAzure DNSゾーンを確認します。次に、ドメイン登録事業者側のネームサーバーをAzure DNSのものへ変更します。ただし、反映には時間がかかります」

 蓮斗が補足する。

「旧DNS側にも暫定的に正しいレコードを入れて、利用者が旧案内板を見ても正しい場所へ向かえるようにします。TTLも今後の変更前には短くする運用を検討します」

 奏汰が続ける。

「Front Doorのカスタムドメインと証明書の状態も確認します。DNSだけ直しても、証明書やルーティングが合っていなければ、また別の場所で止まります」

 陽翔が言った。

「子犬を見つけても、首輪と家の鍵と連絡先が全部合ってないと帰れない感じですね」

「鍵は少し違います」

 悠真が言う。

「でも温かさはあります」

 みおが笑った。

 かなえは契約の修正ポイントを整理した。

「保守契約には、DNSを保守範囲に含めるかどうかを明記しましょう。含めるなら、確認対象、変更手順、緊急時対応、月次確認、費用を決める。含めないなら、誰が管理し、保守会社はどこまで切り分けるのかを書きます」

 あやのが赤ペンで追加する。

「障害時の通知義務も必要ですね。利用者へいつ、何を伝えるか。原因が確定していなくても、第一報を出すのか」

 香澄がうなずく。

「“現在、一部のお客様において接続しづらい状況を確認しています。原因を調査中です。次回案内は何時を予定しています”という形で、分かっていることと分かっていないことを分けて伝えましょう」

 田辺は、少し安心した顔になった。

「原因が分からないうちは黙っていたほうがいいと思っていました」

「黙っていると、利用者はもっと不安になります」

 悠真が言った。

「分からないことを正直に伝え、次の連絡時刻を示すことも、信頼を守る対応です」

 応接室が少し静かになった。

 外では、青葉通りの木々が風に揺れていた。

 そのとき、入口のほうから小さな声が聞こえた。

「すみません……」

 さくらが応対に出ると、近所の小学生が立っていた。手には、朝の貼り紙と同じ写真の紙を持っている。

「あの、ぽんたを見ませんでしたか?」

 応接室の全員が、思わず顔を上げた。

 陽翔が立ち上がる。

「迷子の子犬案件、本当に来ました」

「案件にしないで」

 香澄が言った。

 話を聞くと、ぽんたは近所の家の子犬で、朝の散歩中に首輪がゆるんで逃げてしまったらしい。青葉通りのベンチ付近で見かけたという情報があった。

 田辺が、ふっと笑った。

「うちのWebサービスも、ぽんたくんも、今日は迷子ですね」

 あやのが言った。

「どちらも、正しい場所に帰してあげたいですね」

 香澄は小学生にやさしく声をかけた。

「少し見かけたら連絡するね。気をつけて探してね」

 小学生が帰ったあと、応接室の空気は少しやわらかくなっていた。

 奏汰は作業を続けた。

「DNSの案内先を直します。少し時間はかかりますが、道筋は見えています」

 田辺が深く息を吐いた。

「道筋が見えるだけで、こんなに落ち着くんですね」

「迷子探しも、障害対応も同じかもしれません」

 みおが言った。

「どこで最後に見たか、誰が探しているか、どこへ連絡するか。それを決めると、少し前に進めます」

 陽翔が小さく拍手した。

「結論の妖精、DNSにも対応」

 悠真が言った。

「今日は、かなり適切です」

 午後になるころ、暫定対応の方向が決まった。

 正しいAzure DNSゾーンを確認する。 ドメイン登録側のネームサーバーを正しいAzure DNSへ委任する。 旧DNS側にも暫定的に正しいレコードを設定する。 CNAME、Aレコード、TXTレコード、証明書検証レコードを台帳化する。 Front Door、App Service、証明書の状態を確認する。 DNS変更時は、事前にTTLを短くし、変更予定、承認者、実施者、戻し手順を記録する。 障害時は、一次切り分け、DNS確認、アプリ確認、利用者通知を役割分担する。 保守契約では、DNS管理を含めるか、含めない場合の切り分け責任を明確にする。

 しょうこが要点を三行にまとめた。

「一、DNSはWebサービスの迷子札。 二、迷子札の管理者、変更手順、確認方法を決める。 三、障害時は、技術対応と利用者への説明を分けて進める」

 陽翔が感心したように言った。

「迷子札、正式要点に入りましたね」

 悠真が少しだけ考えてから言った。

「今日に限っては、分かりやすいです」

 あやのが嬉しそうに笑った。

「迷子札、採用です」

 田辺は頭を下げた。

「本当に助かりました。DNSなんて、正直、裏側の難しい設定だと思っていました。でも、お客様がサービスにたどり着くための大事な案内なんですね」

 奏汰がうなずいた。

「名前を呼んでも振り向かないとき、相手がいないとは限りません。案内が間違っていることがあります」

 香澄がやわらかく続けた。

「契約も同じです。誰が何を担当するかという案内が間違っていると、障害時に人も迷子になります」

 かなえは契約書を閉じた。

「責任分担は、責めるためではなく、迷わないためにあります」

 応接室の空気が、ようやく落ち着いた。

 田辺たちが帰るころには、Webサービスの接続も少しずつ回復し始めていた。すぐに全員が見られるわけではないが、古い案内板が新しい案内板へ切り替わる時間が必要なのだ。

 田辺は帰り際、迷子犬の貼り紙を見た。

「ぽんたくんも、早く見つかるといいですね」

 陽翔が言った。

「DNSは直りそうです。次はぽんたくんです」

 その言葉の直後だった。

 青葉通りのほうから、子どもの声が聞こえた。

「ぽんた!」

 事務所の窓の外を見ると、茶色の小さな子犬が、ベンチの下から顔を出していた。赤い首輪をつけ、しっぽを振っている。

 小学生が駆け寄る。 ぽんたは一瞬だけ迷ったように周囲を見て、それから名前を呼ばれた方へ、とことこと歩き出した。

「あ、振り向いた」

 あやのが言った。

 陽翔が胸を押さえる。

「今日のタイトルが回収されました」

「タイトルではありません」

 悠真が言ったが、声は少しやわらかかった。

 香澄は窓の外を見ながら微笑んだ。

「よかったですね」

 ぽんたは無事に抱き上げられ、小学生の腕の中で安心したように丸くなった。

 その姿を見て、田辺がぽつりと言った。

「うちのサービスも、ちゃんと名前を呼んだら戻ってくるようにしないといけませんね」

「はい」

 奏汰が言った。

「そのために、正しい迷子札と、正しい道案内が必要です」

 夕方、三人が帰ったあと、事務所にはいつもの穏やかな空気が戻った。

 りなはホワイトボードを消しながら言った。

「DNSって、難しいと思っていましたけど、今日の迷子札の話で少し分かりました」

 蓮斗がうなずく。

「DNS設計は、目立たないですが重要です。名前、向き先、管理者、変更手順。どれかが曖昧だと、利用者が迷います」

 かなえは契約書をファイルに戻した。

「保守契約も同じですね。DNSが範囲内なのか、範囲外でも切り分けは誰がするのか。曖昧だと、障害時に人が迷子になります」

 あやのは赤ペンを片づけながら言った。

「未来の喧嘩を減らすだけじゃなくて、未来の迷子も減らす仕事ですね」

 陽翔がすかさずメモを取った。

「湯呑み候補です」

「迷子札に書いたらどうですか」

 さくらが冗談で言う。

 悠真が言った。

「子犬の迷子札には不要です」

「では、DNS台帳の表紙に」

 奏汰がぼそっと言った。

「それは少しありです」

 陽翔が目を輝かせた。

「奏汰くんが許可した!」

「少しです」

 香澄はお茶を淹れながら、窓の外を見た。

 青葉通りの木々が、夕方の光に揺れている。 ベンチの下には、もうぽんたの姿はない。 けれど、そこには小さな温かさが残っているようだった。

 名前を呼ぶ。 返事がない。 どこにいるか分からない。 そんなとき、人は不安になる。

 Webサービスも、契約の責任も、人の役割も同じだ。

 正しい名前。 正しい向き先。 正しい連絡先。 困ったときに誰が探すのか。 見つかったら誰に知らせるのか。

 それを決めておくことは、冷たい管理ではない。 迷子になったものを、ちゃんと帰してあげるための優しさなのだ。

 その夜、共有フォルダに、陽翔が新しいファイルを作った。

「AzureDNS_名前を呼んでも振り向かない_迷子札版.xlsx」

 翌朝、悠真はそれを見て、静かに眉を上げた。

「正式資料ではありませんね」

 陽翔はすでに胸を張っていた。

「思い出フォルダ用です。技術要点あり。子犬情報なし。個人情報なし」

 奏汰が横から言った。

「迷子札版は、少し分かりやすい」

 かなえも頷いた。

「契約の責任分担にも使える比喩ですね」

 あやのは笑った。

「つまり、採用ですね」

 悠真は少し黙ったあと、ため息をついた。

「思い出フォルダなら」

 陽翔は小さくガッツポーズをした。

 そのとき、事務所の入口に、昨日の小学生がやってきた。

「ぽんた、見つかりました。ありがとうございました」

 小学生は、ぽんたの写真に「見つかりました」と大きく書いた紙を見せてくれた。

 ぽんたは写真の中で、少し得意げにしっぽを振っていた。

 香澄は笑顔で言った。

「よかったですね」

 小学生が帰ったあと、陽翔がぽつりと言った。

「DNSにも、“見つかりました”って貼りたいですね」

 奏汰がヘッドホンをつけながら言った。

「復旧報告書に書けます」

 悠真が静かに言った。

「原因、対応、再発防止も添えてください」

 全員が笑った。

 青葉通りの契約書は、今日も笑う。 迷子の子犬と、迷子になりかけたWebサービスが、正しい場所へ帰っていくのを見守りながら。

 
 
 

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