第5章：地域社会への貢献

公共事業と行政書士

早朝、薄霧に包まれた田舎の駅前に、小さな行政書士事務所が佇んでいた。そのドアを叩いたのは、地元自治体の職員だった。

「田中先生、地域活性化のためのNPO法人設立について相談があります。」

職員は、過疎化が進む町で地域住民のつながりを取り戻すためのプロジェクトを計画していた。そのためには、法人設立が必要だという。

「まずは定款を作成し、目的や活動内容を明確にする必要があります。」

颯太は机の上に資料を広げ、必要な手続きを説明した。

「資本金は不要ですが、役員構成や活動計画がしっかりしていないと認可が下りません。次に、事業計画書を具体的に作成します。」

計画書には、地域住民の意見を反映させる必要があった。颯太は役場や住民会議に出向き、直接意見を聞き取った。その中で、住民たちが持つ不安や希望を知り、それを計画書に落とし込んでいった。

数ヶ月後、NPO法人の設立が認可された。町の掲示板にその報告が貼り出された日、住民たちが集まり、小さな拍手が起こった。

颯太は静かにそれを見届けながら、地域の未来に一つの希望が灯ったことを感じていた。

高齢者支援と成年後見制度

梅雨の合間、颯太の事務所を訪れたのは、認知症を患う母親を抱える中年男性だった。

「母の財産管理が難しくて……。詐欺に巻き込まれそうになったこともあります。」

男性の話を聞き、颯太は成年後見制度の利用を提案した。

「成年後見制度を利用すれば、お母様の財産を守りつつ、必要な支援が可能になります。まずは申立書を家庭裁判所に提出しましょう。」

行政書士としての対応

颯太は成年後見人選任のための書類作成を進めた。

• 申立書の準備：家庭裁判所に提出する申立書を作成。

• 財産目録の作成：不動産や金融資産を整理し、リスト化。

• 親族関係図の作成：家族構成を明確にするための図を作成。

しかし、手続きが進む中で、家族間の意見の相違が浮き彫りになった。

「財産管理を誰が担当するのかで意見が割れていまして……。」

颯太は冷静に状況を整理し、必要に応じて司法書士や弁護士を紹介することで、家庭裁判所での審理がスムーズに進むよう調整した。

数ヶ月後、家庭裁判所から後見人選任の通知が届いた。男性は涙ぐみながら感謝の言葉を口にした。

「母もこれで安心して暮らせます。先生、本当にありがとうございました。」

颯太は、地域の中で高齢者が抱える課題の重さを改めて感じた。

防災活動への協力

真夏の暑い日、颯太は地域防災会議に参加していた。地震や台風といった自然災害が頻発する中、地域住民の防災意識を高めることが求められていた。

「災害時の避難計画に関する書類を整備する必要があります。また、被災者支援のための書類作成も重要です。」

颯太は会議後、地域住民に向けた防災マニュアルを作成した。その中には、避難所で必要となる支援物資の申請方法や、保険請求に必要な書類リストも含まれていた。

ある日、大型台風が地域を直撃した。住民たちは事前に準備していた避難計画に従い、迅速に避難を開始した。

災害後、颯太の事務所には、被災した住民たちが次々と相談に訪れた。

「家が浸水してしまって……。」 「保険金を請求するにはどうすればいいですか？」

彼は一人ひとりの話を聞き、必要な書類作成を手伝った。そして、自治体や保険会社との調整にも奔走した。

数週間後、住民たちが日常を取り戻しつつある様子を見て、颯太は小さく息をついた。どこまでも青い夏空が広がる中、彼は新たな依頼に向けてペンを握り直した。

地域社会の中で、行政書士としてできることは限られている。それでも、誰かの生活に希望をもたらすために、颯太は今日もまた歩み続ける。