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緑走る台地 ~共鳴続く~

第七章 最後の朝

 翌朝、まだ薄暗い下宿の部屋。 幹夫は二つの風鈴をそっと撫で、鞄を取り上げた。衣類と雑多な荷物はすでにまとめ、古い風鈴は大切に包んでいる。東京で鳴り続けたもうひとつの風鈴は、そのまま窓辺に残していくことにした。 (いずれ必ず戻ってくる……いまは、静岡へ行くために手放さねばならないものがある) そんな思いを胸に抱いたまま、幹夫は部屋に一礼して戸を開けた。窓外には相変わらず鈍色の空が垂れ込め、昭和の町を静かに包んでいた。部屋を離れる足取りに迷いが混ざるが、風鈴の余韻が「行け」と背を押してくれるような気がした。

第八章 別れの印刷所

 汽車の出発時刻が近づくなか、幹夫は最後のあいさつをすべく印刷所へ向かう。門をくぐれば、すでに職人たちがいつも通り機械を回し始めていた。 遠目に見ると、堀内が塊になった紙束を抱えながら、こちらに気づいて微かに手を挙げる。幹夫が近寄ると、堀内はおどけた口調で言った。 「行くんだな、幹夫。最後に“顔だけ出し”してくれたってわけか。まったく、どこまで律儀なんだか……」 幹夫は笑おうとして、胸が詰まりかける。堀内もまた、つとめて明るい声をつくっているのがわかる。 「堀内さん、社長や皆さんに迷惑をかける形になって、すみません……」 「おまえ、まだそんなこと言うのか。逆だよ、俺たちがどれだけ助けられたか……最初に廃材の管理が厳しくなった頃、おまえが踏み止まってくれなければ、どれほど軍の言いなりになっていたか分からない」 堀内はそう言いつつ、幹夫の肩を叩く。そこへ何人かの職人が寄ってきて、口々に「おまえがいなきゃここまで持たなかった」「やっぱり帰るのか。身体に気をつけてな」と声をかけてくれた。

 思いがけない言葉に、幹夫の目が潤む。東京の地での苦闘は無駄ではなかったという安堵が込み上げてきた。

第九章 社長の手紙

 ふと、作業机の脇に置かれた紙袋に気づく。堀内が「ああ、これを渡してくれ」と差し出した。 「社長が昨夜遅くに書いて、預かったんだ。直接渡せないからってね」 袋の中には封筒が入っていて、開けてみると社長からの手紙があった。 「幹夫君へ。わたしが不在のあいだ、よく工場を守ってくれた。父上の体が回復に向かうのは何より嬉しい話だ。どうか静岡で大いに力を尽くしてほしい。 軍の視察は当面は乗り切れそうだが、これからも厳しい局面は続くだろう。堀内たちが頑張ってくれると信じているし、君が再び戻ってくる日を待っている。東京と静岡、二つの道を君は繋ぐ存在だと、わたしは思っている。」

 幹夫は読みながら胸が熱くなる。社長さえも自分を頼りにしてくれていたのだ。農具庫で働く父と、印刷機を守る社長――彼らを繋ぐものが自分の存在だとは、考えたこともなかった。

第十章 ホームでの出発

 その日の昼下がり、幹夫は汽車に乗るため、東京駅のホームに立っていた。荷物は最小限、風鈴の一つを鞄にしまい、東京の風鈴は下宿に置いてきたまま。 駅の雑踏には軍服の兵士がひっきりなしに行き交い、ちぐはぐな熱気と不安に満ちている。その光景に、胸が痛む。 (俺はこの街を捨てるわけじゃない。いずれ、またここに戻り、堀内や社長、井上や山岸の仲間たちに会う。だけど今は、父のもとへ……)

 「間もなく○○行きの列車が発車いたします」――場内放送が鳴り、幹夫は重い足取りで列車へ乗り込む。窓ガラスに揺れる自分の顔は、どこか覚悟と不安が混じった強張った表情だ。

第十一章 車窓に映る回想

 列車がゴトゴトと動き出し、幹夫は進む景色をぼんやり眺めている。東京を離れてゆく実感が胸を締めつける中、風鈴の音が脳裏に浮かんだ。 井上が残した地図、山岸との廃材一掃、堀内との苦楽。まるで二つの風鈴が同時に鳴るように、いくつもの思い出が重なってくる。 「こっちに来たからこそ、俺は踏み止まる意味を知った。父さんが静岡の茶畑を取り戻すように、ここでは反戦の芽を失わないようにする。……いつか必ず二つは繋がるんだ」 静かに呟くと、隣席の客が怪訝そうにこちらを見たが、幹夫は構わずに目を閉じる。東京の街が遠ざかる車窓には、湿った曇り空が続いていた。

第十二章 ふとした出会い

 途中、乗り換え駅で時間ができ、待合室でぼんやりと過ごしていると、幹夫はどこかで見覚えのある顔をちらりと見た。軍服姿の青年……まさかと思い近づいてみるが、違ったようだ。 (もし井上や山岸の仲間なら、すぐにでも声をかけたのに……) そんな思いが胸をかすめるが、幹夫は結局その男には話しかけられずに終わる。頭の隅には、井上が東京のどこかでまだ活動を続けている可能性がこびりついている。 ふと、駅構内の売店で見かける新聞には「茶畑を改良し新兵器の実験場へ?」「静岡飛行場拡張さらに進むか?」という見出しが躍り、幹夫は唇を噛む。**(父さん、間に合わなければ……)**と不安が募る。

第十三章 帰郷のホーム

 やがて列車が静岡駅へ近づくアナウンスが流れ、幹夫は鞄を抱え直し、車内を出た。改札を抜けて昔と変わらぬ町並みを見渡すが、どことなく人通りが少なく感じられる。 「父さん……もう少しだ。俺は戻ってきたぞ」 鞄の中の古い風鈴をそっと確かめる。東京から離れた今、これをいつかまた鳴らせる日が来るのだろうか、そんなことを思うとやや胸が苦しくなる。 道すがら、幾人かが「おや、幹夫さんじゃないか。戻ったのかい?」と声をかけてくれるが、その表情には暗いものが伺える。飛行場拡張で町がざわついているのは当然かもしれない。 「ええ、父さんが呼んで……。また落ち着いたら話します」 いつか話をした溝口らしき姿も見当たらず、幹夫は一刻も早く父のもとへ向かうべく足を速めた。

第十四章 父との再会

 家の戸を開け、土間へ入ると、母が「あら幹夫、来てくれたのね」と笑顔で迎える。父・明義は布団に横になってはいるものの、前回よりもだいぶ顔色がよく、床の上に起き上がったところだ。 「幹夫……よく帰ってきた」 父がにこりと微笑むと、幹夫は安堵のあまり、肩の力が抜ける。 「東京のほうは大丈夫か? 何か手を煩わせてないか……」 「……まあ、大変でしたけど、仲間がまだ踏み止まってるから大丈夫。でも父さんこそ、体は本当に平気なの?」 明義は小さく頷き、「まだ回復しきってはいないが、皆が協力してくれている。町役場や地主にも賛同者が現れ、飛行場拡張を阻止すべく動き始めているんだ」と語る。

第十五章 陳情の準備

 翌日、幹夫は早朝から父に連れられて、町役場の一角へ足を向ける。そこには数名の農民や地主が集まっており、「陳情書」を作成中だという。 「これが拡張計画に対する正式な反対意見となり、県や軍に提出する形になる。……おまえにも加わってほしい」 父がそう言うと、周囲の人々も「東京で学んだ知識を貸してくれ」と声をかける。幹夫は印刷や文書の形式には多少なりとも慣れているが、軍を相手にした陳情となると話は別だ。 「一応、書類作成の手伝いはします。けど、軍に逆らうなんて……大丈夫でしょうか……」 すると父は力強く首を振る。「飛行場拡張がこのまま進めば、町はさらに苦しみ、茶畑は消え去る。どうにか意見を届けるには、この陳情が最後の頼みなんだ。おまえは、どこかでその道の厳しさを見てきただろうが、ここで立ち止まるわけにはいかない」

第十六章 東京と静岡の狭間

 陳情書作成の手伝いをする中で、幹夫は東京での経験が自然と役に立つのを感じていた。文書のレイアウトや表現方法、軍や警察が嫌がる文言の回避――いろいろなことが染みついている。 (東京の印刷所で学んだこと……堀内さんたちが軍の目をかいくぐってきた苦労……あれがここで活かせるなんて) とはいえ、幹夫の心の奥には東京の印刷所が今も引っかかる。最後の抜き打ち視察こそ乗り切れたが、いつまた軍の締めつけが強まり、堀内たちが危機に陥るか分からない。 「大丈夫だろうか……」 声に出しかけて止める。母がやってきて「大丈夫かい?」と尋ねると、幹夫はかすかに笑って、「ええ、ただ少し眠くて」とごまかした。

第十七章 風鈴の響き

 夜、母が「夜風を入れて涼もう」と言い、家の土間から縁側へ風鈴を吊るした。幹夫は思わず胸を熱くする。 「これ、昔うちにあったんだよ。東京のとは少し違う音だったような……」 幹夫は錆びた古い風鈴を手のひらでそっと支え、くすんだ金属を揺らす。すると**チリン……**という短い音が響き、家の中まで涼しげな気配が広がった。 「東京の下宿で鳴ってた風鈴と、今ここで鳴る鈴……同じように響くのかな……」 そう呟くと、父が縁側から声をかける。「何を言ってるんだ、幹夫?」 幹夫は笑みを浮かべ、首を振る。「ううん、何でもないよ。まだ少しやることがあるから、先に休んでて……」

第十八章 夜の陳情書づくり

 父が床に就いた後も、幹夫は居間の灯火を頼りに、陳情書の最終稿をまとめていた。明日の会合で提出すれば、町役場の有志が軍へのパイプを使って上層部へ差し出してくれるという。 意気込んで書き進めるうちに、いつしか明け方が近づく。ペンを止めて机を見渡すと、静岡の古びた風鈴が机端で揺れ、かすかな音を立てた。 「東京での経験がなければ、こんな陳情書も書けなかった……。俺はやはり、二つの場所を繋ぐために生まれたのかもしれない」 そんな誇らしさが芽生えながらも、やはり東京の仲間が気がかりだ。堀内たちが軍に押し潰されないよう、いつかまた自分が戻って力にならねばならないと強く思う。 「この陳情が成功し、父さんたちが飛行場拡張を止められれば、俺は東京へ戻ろう。そうすれば、二つの風鈴は同時に高らかに響く日が来るかもしれない……」

第十九章 茶畑への出発

 翌日の昼下がり、町役場の会合で陳情書を提出し、担当者に話を通した。幹夫は父とともに安堵のため息をつく。まだ受理されただけで、軍がこれをどう扱うか分からないが、一筋の光がさしこむ気がした。 父が微笑んで言う。「ありがとう、幹夫。おまえの文面が生きたよ。東京で培った知恵が、ここでも役立ったんだな……」 幹夫は照れながら頷く。「あとは俺たちにできることをやりきって、また様子を見て東京に戻るよ。長くはここにいられないから……」 父は苦笑しつつ、「わかってる。じゃあ最後に、おまえがいまどうしても見ておくべき景色があるはずだ」と言い、二人してかつての茶畑へ向かう準備を始めた。 飛行場拡張で荒れ果てた一角と、その端に残された小さな緑。それをこの目に焼き付けておかねばならないのだ。

第二十章 朽ちかけた緑

 町外れの山道を抜け、牧之原台地の一端へと足を運ぶ幹夫と父。視界に入ってきたのは、軍の飛行場と無残に削られた茶畑の跡だ。雑草が生い茂り、茶の木はところどころ枯れ果てた姿をさらしている。 「ここが……かつては一面の緑だったなんて……」 幹夫は思わず声を失う。父は悔しそうに唇を噛む。 「でも、ほら――あそこを見ろ」 指さした先には、まだ茶の木が何とか生き延びている区画がある。数名の農民がそこを耕しており、見ると声をかけ合って鍬を振るう姿が見えた。 「あの人たちが協力してくれている。町の役場や地主とも連携し、なんとか飛行場の拡張を阻もうと必死なんだ。おまえがここで書類を仕上げてくれたから、あいつらも希望を持ってるんだよ」 父の言葉に幹夫は胸が熱くなる。東京で学び、堀内たちと踏み止まった経験が、遠い静岡の仲間を救い始めている――その実感が沸き起こった。

第二十一章 去来する東京の記憶

 茶畑をひとしきり眺め、農民たちと挨拶を交わしてから、父と幹夫は道端で休憩をとる。幹夫は疲れた足を伸ばしながら、遠くに見える飛行場の高い柵や軍用の建物を見つめた。 (東京でも、あの軍靴の響きに耐えていた。ここでも同じだ。いや、場所は違えど、苦しみは同じように人々を縛りつける。ならば自分はどう動けばいいのか――) ふと、父が言う。「東京の仲間も、同じように苦しんでるのか?」 幹夫は驚く。自分からはあまり話さなかったはずだが、父は察しているようだ。 「……そうだね。みんな軍に追われながら、紙を使った抵抗をしていたり、印刷所で苦渋の仕事をしながら踏み止まったり……」 父は頷き、遠い目をする。「東京と静岡、地続きのようでいて遠い。でも、心は通じ合えるはずだろう? おまえが戻ったら、またあの下宿の風鈴を鳴らしてやれよ……」

第二十二章 二つの風鈴を想う

 夕暮れ前、父と家に戻る道すがら、幹夫は鞄の中の古い風鈴に触れていた。もうひとつの風鈴は東京の下宿に残してきた。まるで「東京と静岡の音を分け合う」ような形だ。 「いつか、あの二つが同じ場所で響き合う日を見たいんだ。父さん……そのときは飛行場の拡張が止まり、東京の仲間たちも自由に発言できる昭和が訪れているんだろうか」 父は弱った身体でありながらも確かな力で幹夫の肩を叩き、「そうあってほしいな」と答える。 家の玄関へ戻る頃、母が出迎え、「明日はもう東京へ発つのかい?」と尋ねる。幹夫はうなずく。「陳情は町の皆さんに任せる。俺はまた東京で、やらねばならないことがあるから」

第二十三章 新たな出発

 翌朝、幹夫は再び鞄をまとめて家を出る。両親に頭を下げ、母から握られた小さな包みを受け取ると、何やら茶葉が入っているらしい。 「おまえが東京の仲間と飲むように、少しだけど良い茶を用意したよ。あの畑が戻ったら、いくらでも送るからね」 母の言葉に幹夫は笑みを浮かべ、「ありがとう。必ず皆で飲むよ」と返す。父は身体を押して縁側に出てきて、「必ず成功させるから、おまえは東京で“踏み止まり”を続けてくれ。二つの風鈴が同時に鳴る日まで、俺たちは諦めない……」と声をかける。 幹夫は静かに涙をこぼしそうになるのをこらえ、ふかぶかと頭を下げた。「行ってきます」

第二十四章 帰りの汽車

 再び汽車に揺られ、東京へ戻る道。車内には軍用列車に乗り換える兵士や、疎開先から戻る子供連れが同乗し、混沌とした空気が漂っている。 鞄の中の茶葉の包みを握りしめながら、幹夫は「またあの印刷所へ戻るんだ」と自らを鼓舞する。軍の抜き打ち視察は一応収まったが、これからも監視は続くだろう。堀内や職人たちを放ってはおけない。 (それでも、父さんがこっちを守ってくれるなら、俺はあっちで踏み止まる。いつか二つの場所が笑顔で繋がる時代を迎えるまで……) 思わず鞄の中の錆びた風鈴にも触れる。すると、窓の外で一瞬だけ陽光が射し、車内が明るくなる。まるで鈴が光を反射するかのような錯覚に、幹夫は力強い意志を取り戻した。

第二十五章 東京へ帰還

 列車が東京駅へ滑り込み、幹夫は再びあの喧騒と軍の熱気が混ざる大ホームへ降り立った。 「帰ってきた……。また、この街でやるべきことがある」 さっそく印刷所へ向かおうと足早に歩き出すと、構内には軍服を着た若者たちが隊をなして移動している。「これから満洲へ向かうのかもしれない」と思うと、胸が苦しくなるが、目をそらさずに通り過ぎる。 「俺には俺の戦いがある。東京で踏み止まることが、いつか父さんの茶畑にも通じるはずだ……」

第ニ十六章 再会の印刷所

 門をくぐれば、工場は騒がしく機械を回している。幹夫が奥へ行くと、堀内が「ああ、戻ったのか。早かったな……」と眉を上げる。 「父さんが町役場と組んで陳情を進めるから、俺がいるよりも向こうはうまくいきそうだ。こっちはまだ状況変わらずですか?」 幹夫の問いに、堀内は苦笑いを浮かべる。「そうだな。相変わらず軍は注文を増やし、いつ何かが起きてもおかしくない。職人もどんどん減っていくし……」 けれど堀内の目には、一筋の強い光が見える。「おまえが戻ってくれたなら、まだしばらく踏み止まれるってもんだ。社長もおまえを信用してるしな」 幹夫も笑って、「俺もこっちでまた頑張るよ。いつか父さんの茶葉を飲ませますから」と返す。

第ニ十七章 風鈴と茶葉

 その晩、久しぶりの下宿に落ち着いた幹夫は、鞄から静岡の母がくれた茶葉を取り出した。早速、夜の灯火の下で湯を沸かし、一人湯呑みに注いでみる。 鼻孔をくすぐる柔らかな香り――かつての静岡の茶畑が生み出した味を思い起こさせる。 「堀内さんや職人たちに振る舞ってやろうか……みんな、疲れてるし……」 そう思って微笑む。隣を見ると、東京の風鈴と錆びた風鈴が二つ並んでいる。静岡で磨いた錆びた鈴は、まだくすんでいるが音の出方が変わった。 幹夫は茶を飲み干した後、風鈴を軽く揺らす。すると**チリン……**と短い音が重なり、まるで二つが同じリズムで合唱したような響きを生む。 「ああ……いつか、本当に同じ調べを高らかに鳴らすときが来るかもしれない。父さんの町と、この東京が平和を取り戻す日……」 口には出さず、心で呟く。こんな小さな音でも、人は繋がることができると教えてくれる――それが幹夫にとって、東京と静岡を結ぶ紐帯だった。

第ニ十八章 夜明けへの願い

 夜が更け、窓を開け放すと生暖かい風が入り込み、二つの風鈴がかすかに擦れ合う。かすかな鈴音が闇に溶けるが、その一瞬こそ幹夫には長く響き渡るかのように感じられた。 父は静岡で陳情を進めている。ここでは軍の視察を乗り切り、職人たちがなんとか作業を続けている。井上や山岸の仲間が潜んでいるかもしれない倉庫街も、いつか再び訪れてみよう――そんな誓いが彼の胸に湧き上がる。 「そう遠くないうちに、俺は再び静岡へ帰るだろう。東京の仲間も、静岡の父さんたちも……同じ音を目指している。」 幹夫は布団に潜り込み、眠りに落ちる前に微笑む。二つの鈴が同時に響きあう日が来るのを、夢見ずにはいられなかった。

エピローグ

 翌朝、曇天の東京。いつものように印刷所へ出かける幹夫の足取りは、どこか軽やかだった。父が町で奮闘し、堀内が工場を支えてくれる今、彼は二つの土地を結ぶ役割を自覚し始めている。 「どちらの町も苦しくても、踏み止まっている人たちがいる。その姿を繋ぐのが、俺の生き方かもしれない……」 窓辺で見送る二つの風鈴は、まだ黙して語らず。ただ、その金属の光が朝日にわずかに照らされ、二つの影が重なり合ったように見えた。 幹夫は振り向かずにドアを閉め、軍のポスターが溢れる路地へ歩み出す。昭和の深い夜はまだ続いているが、風鈴の音があれば――どんな道でも、いつか光に通じるはずだ。 東京と静岡、二つの緑と二つの鈴。その物語は、今まさに形を整えながら、激動の時代を突き進む。幹夫はその渦中にいながら、誰よりも確かな音色を探し求めているのかもしれない。

 ——ここから先、彼らがどんな軌跡を辿るのか。父の茶畑は再び緑を取り戻し、印刷所は軍の魔手から逃れられるのか。二つの風鈴は、昭和の大いなる試練を前に、それでも小さな音を響かせ続ける――。

 
 
 

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