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誓約のサイバーガード

第一章 風雲急を告げる案件

 都内にオフィスを構える中堅IT企業「コナンシステム」。社長室には、若きプロジェクトマネージャー・石神太郎が緊張の面持ちで座っていた。向かいには新社長の葛木芳郎。彼は就任早々、重要方針を打ち出した。

「石神くん、近々大手自動車メーカーとの取引を拡大することになった。しかし向こうは、ISMSPマークの両方を取得していることを条件に挙げてきたんだ。期限は半年。やれるか?」

 石神は息を呑む。ISMSもPマークも取得には相応の時間と労力がかかる。社内にはすでに、情報管理の基本ルールすら曖昧な部署がある。“やりましょう”と言うしかなかった。

「やります。必ずやり遂げてみせます」

第二章 プロジェクト始動

 早速、石神は社内の横断チームを組成し、情報セキュリティ委員会を発足させた。リーダー格は総務部の八代真紀。堅実かつ几帳面な彼女は、まず情報資産を洗い出す作業から着手した。

「ISMSは、全社的な情報資産を対象にしなければ意味がありません。各部署がどんなデータを扱っているのか、一つ一つ把握します」

 Excelシートに列挙されるデータ群。営業部の顧客リスト、開発部のソースコード、総務部の人事データ……。同時に、Pマーク向けには個人情報(個人名、住所、電話番号など)をどのように取得・利用・管理しているかを整理していく。

「ここが第一段階だ。とにかく可視化しないことにはリスク評価もできない。みんな、徹底的に調べてくれ」

 メンバーは終電近くまで社内を走り回った。データがバラバラに保管されている現実を突きつけられ、頭を抱える者もいた。

第三章 リスクアセスメントの荒波

 情報資産の洗い出しが終わるや否や、リスクアセスメントの作業が始まる。ISMSの取得には、どのような脅威・脆弱性があるかを評価し、どう対策するかを明確化する必要がある。具体的にはISO27001附属書Aに沿って、アクセス制御や物理的セキュリティなどの管理策を検討する。

 一方のPマークは、JIS Q 15001の要求事項に基づき、個人情報の取り扱いルールや責任者の明確化を要する。とりわけ八代が苦心したのは、従業員の意識改革だった。

「個人情報は社内規程だけ作ってもダメ。取り扱う社員一人ひとりが正しく理解していないと意味がないわ」

 そこで全社員を対象とした研修プログラムを実施。アクセス権限の見直しや、USBメモリ持ち出しの手順化なども同時に行った。最初は不満が噴出したが、

「俺たちはエンジニアだ。自由度が減って業務効率が落ちるんじゃないか?」

 石神は彼らに真摯に説いた。

「自由度は大切だ。でも、情報を守れなければ大口案件は得られないし、会社の信用も失うんだ。ここは踏ん張りどころだよ」

第四章 内部監査と是正措置

 数か月の準備を経て、いよいよ内部監査を実施する段階に入る。外部の監査前に社内で問題点を洗い出すのだ。情報セキュリティ委員会には、各部署から選出された監査員が動員される。

  • 書類の不足や矛盾はないか

  • 実際の運用手順が規程と食い違っていないか

  • 教育記録や同意書類など、Pマークの必須書類がそろっているか

「問題があれば、報告書にまとめて是正措置を検討しましょう」

 八代の厳しいチェックが功を奏し、幾つもの不備が判明したが、迅速に改善計画が練られた。その様子を陰から見守る石神も、胸に熱いものを感じていた。

「やっと、形になってきたな……」

第五章 外部審査と試練

 そして迎えた運命の審査日。ISMSの認証機関とPマークの審査機関、それぞれスケジュールが続く。外部審査員の鋭い眼光が、書類から実地確認にまで及ぶ。

「情報セキュリティ方針は経営トップの承認を得ていますか?証拠となる会議録を拝見できますか?」「個人情報の利用目的は具体的に定義されていますか?目的外利用を防ぐためのルールと記録は?」

 次々に飛んでくる質問攻め。石神と八代はチームメンバーを鼓舞しながら、一つずつ丁寧に答えていく。審査員の表情は容易に読めないが、チームが積み上げてきた努力は確かな自信になっていた。

第六章 勝利の報せ

 審査結果が届いたのは、それから数週間後。封を開けると、ISMS(ISO27001)認証取得と、Pマーク付与の決定が記された通知書があった。

「やった……!」

 石神は拳を握りしめた。八代やメンバー全員も、歓声を上げながら涙ぐむ者さえいる。葛木社長から電話が入り、

「石神くん、よくやったな。大手自動車メーカーとの契約も正式に決まりそうだ。君たちのおかげだよ」

 石神は電話越しに深く頭を下げた。自分だけの功績ではない、メンバー全員の総力戦だったのだ。

第七章 継続する挑戦

 しかし、これで終わりではない。ISMSもPマークも、継続的な運用と監査が求められる。ISMSは3年ごとの更新審査、Pマークは2年ごとの更新審査がある。石神は社内に向けてこう宣言した。

「取得してからが本当の勝負です。情報セキュリティの向上や個人情報保護は、私たちにとって永遠の課題。これを機に、さらに強い企業を目指しましょう!」

 拍手がわき起こるオフィスの片隅で、八代が小さく頷いた。

「PDCAサイクルを回しながら、いつか他の企業にも負けない“サイバーガード”を築いてみせましょう」

 会社が一丸となった瞬間、石神はある種の確信を抱いた。 これが、コナンシステムを変える大きな一歩になる――。

 
 
 

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