top of page

谷津山に隠された「隠し井戸」

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月18日
  • 読了時間: 6分



ree

第一章:山中の不思議な井戸

 静岡市の市街地から少し離れた谷津山(やつやま)は、緑に覆われた穏やかな丘陵で、地元の人々のハイキングコースとして親しまれている。 ある日、大学生の安藤 恵(あんどう めぐみ)は休日の散策中に、思いがけず獣道(けものみち)のような細い道に迷い込み、そこから更に奥へ足を進めた。すると、雑木林の中に苔(こけ)むした小さな石垣があり、そこに古い井戸らしきものが見えるではないか。 朽ちた井戸枠には何かの紋章のような彫刻があったが、泥と苔に覆われて読み取れなかった。 「こんな山の中に井戸が……?」 井戸の中は闇が深く、底は見えない。覗(のぞ)き込むと冷たい空気が吹き上がってきた気がした。 なんとも言えない不気味さに、恵は心がざわついてしまう。 翌日、恵は友人たちに井戸の話をしたが、誰もそんなものは知らないと言う。彼女自身も場所を正確に思い出せず、けれど確かに見た……。そんな微妙な不安を抱える。

第二章:奇妙な行方不明事件

 ほどなくして、谷津山で不可解な出来事が起こり始める。 山を訪れたハイカーや地元民が、突如姿を消すという行方不明の報告が相次ぎ、警察が捜索をするも成果は乏しい。 噂が広まるにつれ、「山の中に危険な場所があるらしい」「古井戸に落ちたのでは?」などの憶測が飛び交うが、井戸の所在すら正確には分かっていない。 気になった恵が再び山中を探すも、なぜかあの細い道が見当たらない。まるで一度見つけた井戸が幻だったかのように感じるほど。しかし、行方不明事件は現実に起きている。 そこで恵は、ある私立探偵・**久我 悟(くが さとる)**の力を借りようと決めた。地域でちょっとした怪事件を解決してきた彼なら、謎の井戸と失踪を繋ぐ手掛かりを見出せるかもしれない。

第三章:井戸の伝説と過去の歴史

 久我は先ず、谷津山にまつわる古い文献や民話を探した。するといくつかの興味深い逸話が浮かび上がる。 「昔、この山には修験者や隠れ里があった。地中に通じる井戸があり、それを通って出入りする者がいたと……」 さらに、江戸時代に**“谷津山の井戸”**に関する噂が記録されているという。井戸に落ちれば二度と戻ってこない、という怪談めいた話だ。 「もしこれが同じ井戸なら、近年に行方不明者が続出するのは、やはりそこに落ちている可能性があるのか?」久我は仮説を抱くが、一体どうやって探し当てるのか。恵も再度山へ行こうと申し出る。 地元の古老も、「あのあたりは昔、何人もが行方不明になったと聞いているが、警察が捜しても何も見つからなかった」という不気味な伝承を話す。

第四章:夜の山で聞こえる声

 久我と恵が、夜に山へ向かうことに決める。なぜ夜かというと、最近の行方不明者が夕暮れから夜にかけて消えることが多いからだ。 懐中電灯を持ち、林道を進んでいくと、風が吹き、枝が軋(きし)む音が妙に大きく感じられる。さらに遠くから、人が助けを求めるような声がかすかに聞こえた気がして、二人は走り出す。 やがて月光に照らされる小道を抜けると、恵が「あれだ……!」と呟(つぶや)く。そこに、前と同じ井戸が確かにあった。 井戸の周囲は苔むしているが、近づくと新しい足跡らしきものが残されている。誰かが最近ここへ来た……? さらに井戸を覗くと、底から湧き上がる冷気に混じり、うめき声のような音が微かに聞こえるようにも感じる。 久我はロープとヘッドライトを用意し、井戸に下りる決断をする。恵は危険を感じつつも「私も行きます」と頑固に譲らない。

第五章:井戸の底にある地下空間

 二人は慎重にロープを伝って井戸の壁を下りる。地上から少し下へ降りると、横に穴が空いているのを見つける。まるで洞窟のように続いている。 暗い通路を進むと、そこはどうやら地下の空洞に繋がっている。岩盤や土壁で形成された空間だが、一部は人為的に石を積んで補強しているようだ。 そして奥へ行くほどに、地面には靴の跡がある。どう見ても複数の人がここを通っているのだ。 やがて小さな部屋のようなスペースに出ると、そこには人間が動物の骨と一緒に放置されたかのような異様な光景が広がっていた。部屋の中央には木製の棚があり、そこに奇妙な仮面や縄の束が散らばる。 この地下空間は何なのか? 誰がこんな場所で何をしているのか? 二人は呆然としつつ、さらに内部を探索する。

第六章:失踪者の痕跡と謎の組織

 次に見つけた空間には、複数の人がかろうじて寝起きできるような雑多な寝具と生活用品が。まさかここに住み着いている者がいるのか? カバンや靴など、失踪者の所持品らしきものも見つかり、行方不明者が連れ込まれた可能性が濃厚になる。 すると背後から足音。黒いローブを纏(まと)う数名の男女が現れ、二人を取り囲む。「よくぞ来たな……この聖域に足を踏み入れた者は帰れぬぞ」 彼らは古の谷津山の呪術を継承しており、井戸を通じて“外界から生贄”を得ていたという。何とも狂気じみた説明をし、しかもこの地を守るために外部の者を排除すると断言する。 いわく、「谷津山に封じられし魂を満足させるために、我々は毎年何人かを地下へ連れてきた」とか。半ばカルトのような集団なのだろう。

第七章:絶体絶命、しかし救出の光

 桐野と恵は、抵抗するが多勢に無勢で、武器を持つローブたちに縄で縛られてしまう。彼らは儀式を行うという名目で、さらに奥へ二人を引きずり込む。 “もうこれで終わりか……”と思った矢先、**パーン!**という銃声が響く。なんと警察の特殊捜査班が突入したのだ。 実は恵が夜の館に入り口を見つけたときに、場所をこっそりGPSで友人に伝えていた。彼女が行方を絶った際、友人が警察に通報し、その位置情報をもとに救援がやってきた。 ローブたちとの激しい乱闘の末、数名は逃走し、何名かが逮捕される。捜索が進むと、失踪者たちが地下の別室で鎖に繋がれているのが発見され、多くは衰弱しているが生きていた。 こうして地下の闇が白日の下にさらされ、呪術めいた集団の実態が解明される。彼らは谷津山に古くから伝わる風習を狂信的に継承しており、秘密裡に人を誘拐しては儀式の生贄にしていたのだ……。

第八章:朝焼けの山に戻る平穏と余韻

 事件が解決し、地下空間は封鎖され、井戸も封じられることになる。ローブの一味も検挙され、実際には古い呪術を口実にした組織的犯罪であった。 恵や久我は安堵しながら山を下りる。朝日が谷津山を照らし、いつもの平和な風景が広がっている。 井戸にまつわる不穏な都市伝説は、やがて現代の町で語り草となり、多少の興味本位の噂とともに忘れられていくだろう。 しかし、余韻をひそかに残すなら、井戸は再び埋め戻されるが、そこに残る古代の怨念は本当に消えたのか。ある夜、月光の下で風が木々を揺らすとき、井戸の跡から微かな声が聞こえるかもしれない――。 こうして「谷津山に眠る隠し井戸」の事件は幕を下ろすが、闇を垣間見た者は、生涯この山を見上げるたびに、底知れぬ恐怖を思い出すだろう。

(了)

 
 
 

コメント


bottom of page