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雪の城壁と、雪だるまの髪飾り――チェコ・ココジーンスコ(Kokořínsko)冬の小さな旅

プラハを出た朝、空はガラスみたいに澄んでいた。街の屋根の赤茶が遠ざかるにつれて、窓の外の色は少しずつ淡くなり、畑の縁や林の肩に、白い粉砂糖のような雪が乗っていく。車内は暖房で眠気を誘うのに、外の世界は冴え冴えとしていて、冬の旅の“目”だけがずっと覚めている。

ココジーンスコの森に入ると、音が変わった。車の走行音が消え、代わりに自分の足だけが聞こえる。雪を踏むたびに、きゅっ、きゅっと乾いた小さな悲鳴。枝先は霜で白く縁取られ、葉の落ちた小枝が、空に細い字をびっしり書いているみたいだった。息は白く、吐くたびに胸の奥まで冷えていくのに、景色はどこか明るい。冬の森は、色を減らすことで光を増やすのだと思う。

道が少し開けたところで、突然、石の曲線が空を切り取った。岩の上に、城が立っている。ココジーン城(Kokořín)。丸い塔と、ぎざぎざとした胸壁が、青空にくっきりと浮かび上がる。雪をかぶった岩肌は白と灰の層になり、まるで城そのものが大地から押し上げられてきたみたいに見えた。

近づくほど、城壁の“時間”が分かる。石は一つひとつ形が違い、細かな穴や欠けが、そのまま風雨の記憶になっている。手袋越しに触れると、冷たさがまっすぐ指へ伝わった。何百年も前に積まれた石が、今日の私の体温を受け取る――その感覚が、旅の醍醐味だと思う。

右手の斜面には、雪の上に階段が刻まれていた。黒い手すりと白い雪のコントラストが、道の“そこ”を示している。息を整えて一段ずつ上がると、見上げた塔の丸みがさらに近づき、空はますます広くなった。冬の朝の光が城壁を斜めに照らし、石の陰影を深くする。写真にすれば勇ましいのに、実際に立つと静けさのほうが勝っている。城は威圧するというより、ただ黙ってそこにある。

ひとしきり城壁の周りを歩き、森へ戻る道で、私は小さな広場に出た。切り株が一つ、雪の中にどっしり座っている。まるで即席のテーブルのようだ。足元には折れた松の枝が散らばり、緑だけが冬の白さの中で鮮やかだった。

そこで、子どもみたいなことをしたくなった。私はリュックを下ろし、雪を手で丸め始める。最初はさらさらしてまとまらないのに、少し押し固めると、雪は意外と素直に形を変えた。丸、もう一つ丸。重ねる。体温で手袋が湿り、指先がじんじんするのに、なぜだか笑ってしまう。

顔は小石で目を二つ、口を一本。髪飾り代わりに松の枝を頭に乗せると、雪だるまが急に“誰か”になった。首元にも緑の枝を添えて、少しだけおしゃれをさせる。城壁のように何百年も残るものではない。たぶん今日か、明日には形が崩れる。けれど、その儚さがむしろ軽やかで、冬の旅に似合っている気がした。

城は、残るために作られた。雪だるまは、消える前提で作られた。でもどちらも、人が手を動かし、何かを“ここに置く”ことで生まれる。石を積んだ人の気配と、雪を丸めた自分の気配が、時間の遠近法の中でふと重なる瞬間がある。

帰り道、私は何度か振り返った。塔の丸いシルエットは、冬の空に最後までくっきり残っている。一方、森の広場の雪だるまは、もう木々の影に隠れて見えない。見えなくなるのは早い。でも、見えなくなったからこそ、ちゃんと記憶の中で形を持つ。

プラハへ戻るバスの窓に、頬の赤い自分が映っていた。冷えた指先と、城壁の石の手触りと、雪だるまの松の匂い。ココジーンスコの冬は、厳しいほど澄んでいて、遊び心までくっきり浮かび上がらせる。そんな一日だった。


 
 
 

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